はじめに
本資料の目的
本資料は、懲戒解雇と欠勤の関係を分かりやすく整理した入門書です。正当な理由のない欠勤や無断欠勤が一定の程度に達した場合、就業規則に基づいて懲戒解雇の対象になり得る点を中心に解説します。
読者対象
- 会社の人事・管理部門の方
- 労働者やその家族で欠勤や懲戒に不安がある方
- 労働問題について基本を知りたい方
本資料で扱う内容と読み方
以下の章で順に説明します。
– 懲戒解雇と欠勤の基本
– 無断欠勤がどの程度で問題になるかの目安
– 懲戒解雇が有効とされやすいケース
– 普通解雇やその他の対応との違い
– 相談・対応のポイント
各章は具体例を交えて、分かりやすく説明します。就業規則の記載や個別の事情で判断が変わることがあるため、実際の対応では専門家に相談することをおすすめします。
注意事項
ここでの説明は一般的な考え方に基づきます。個別の事案では事実関係や証拠、就業規則の内容で結論が変わるため、冷静に状況を整理してください。
懲戒解雇と欠勤の基本
懲戒解雇とは
懲戒解雇は、企業秩序を著しく乱す行為に対する最も重い処分です。即時に解雇する点が特徴で、普通解雇や諭旨解雇と区別されます。最終手段と考え、慎重な判断が必要です。
就業規則の重要性
就業規則に「無断欠勤○日以上」や「正当な理由なく欠勤を繰り返したとき」といった規定があることが前提です。規則が明確でないと懲戒解雇を正当化しにくくなります。職場は規則に基づいて一貫した対応を取る必要があります。
正当な欠勤と無断欠勤の違い
病気やケガ、家族の事情など理由がある欠勤は正当と評価されます。連絡も説明もない無断欠勤は法的評価が大きく変わります。特に長期間や繰り返しの無断欠勤は懲戒解雇事由とされやすいです。
企業側の手続きと配慮
企業は欠勤の事実確認、本人からの事情聴取、必要なら医師の診断書の提出を求めます。処分に至る前に注意・警告を行い、改善の機会を与えることが望ましいです。手続きが不十分だと不当と判断される危険があります。
具体例
・急な発熱で連絡し遅れたが、後に診断書を出した場合:正当な欠勤と認められやすい。
・数週間無断欠勤し連絡も説明もない場合:重大な規律違反として懲戒解雇が検討される可能性が高い。
無断欠勤がどの程度で問題か
概要
無断欠勤が懲戒や解雇の対象になるかは、単に日数だけで決まりません。実務では「連続でおよそ2週間(14日)以上」の無断欠勤を一つの目安とすることが多く、就業規則に「14日以上の無断欠勤を懲戒事由とする」と明記する例もあります。
実務上の目安と理由(具体例を含む)
- 目安:連続14日程度で解雇(解雇予告手当免除の判断にも影響)。
- 具体例:社長が連絡の取れない状態で14日間出勤せず、業務に支障が出た場合、懲戒解雇を検討されやすいです。
裁判例の傾向
数日の無断欠勤を理由に即時懲戒解雇した事案では、不当解雇と判断された例があります。短期間でも業務に重大な影響があれば認められる場合がある一方、日数が短く事情説明や指導の機会がないと裁判で不利になることが多いです。
判断に影響する主なポイント(チェックリスト)
- 欠勤の日数と連続性
- 業務や取引先への影響の大きさ
- 過去の注意・指導・始末書などの履歴
- 欠勤の理由(病気や緊急事態の有無)
- 就業規則や雇用契約の明確さ
雇用主・従業員の実務対応(簡潔に)
- 雇用主:まず連絡を試み、書面で確認・警告を出す。就業規則に基づき段階的に対応します。解雇は最後の手段です。
- 従業員:速やかに連絡し、病気なら診断書を提出するなど事情を説明してください。無断が続くと不利になります。
以上を踏まえ、日数は目安であり、個別の事情を総合的に判断します。
懲戒解雇が有効とされやすいケース
- はじめに
無断欠勤で懲戒解雇が認められやすいのは、会社側のルールと手続きが整っていて、欠勤が業務に重大な影響を与えている場合です。以下に具体的なケースを分かりやすく説明します。
1) 就業規則に懲戒事由が明記されている
就業規則に「無断欠勤」「正当な理由のない欠勤の反復」を懲戒事由として明記している場合、懲戒処分の根拠になります。例:就業規則に「無断欠勤が3回続けば懲戒解雇の対象」と明示しているケース。ただし、明記があっても個別の事情は裁量で判断されます。
2) 会社が注意・指導・出勤命令・弁明機会などの手順を踏んでいる
口頭注意や書面での警告、面談、出勤命令、本人からの弁明機会の付与といった段階を踏んでいることが重要です。たとえば、欠勤が続く社員に対して書面で出勤を促し、出勤しない理由を確認して記録を残している場合、懲戒処分が正当化されやすくなります。
3) 長期間の無断欠勤で業務や職場秩序に重大な支障が出ている
長期の無断欠勤が原因で業務が停滞したり、他の社員への負担が増え、顧客対応ができなくなるなど明らかな被害が出ている場合、懲戒解雇が認められる可能性が高まります。例:重要なプロジェクト担当が長期間無断欠勤し、納期遅延や取引先との信頼失墜が生じたケース。
(注意点)
単発の無断欠勤だけでは通常、懲戒解雇は重すぎると判断されやすいです。会社は記録を残し、個別事情を丁寧に確認することが求められます。
普通解雇・その他の対応との違い
概要
欠勤が多い場合でも、まずは懲戒ではなく普通解雇(能力不足や勤怠不良を理由にする解雇)として扱われることが多いです。いきなり解雇するより、段階的な対応が望まれます。
普通解雇と懲戒解雇の違い
普通解雇は能力や業務遂行の問題を理由にする解雇です。懲戒解雇は規律違反や重大な背信行為に対する処分で、より重い措置です。たとえば無断欠勤が続いて業務に支障が出た場合は普通解雇を検討しますが、給与の詐取などの悪質な行為があれば懲戒解雇の対象になり得ます。
取るべき手順
口頭での注意→書面での注意→勤務実態の確認(出勤記録や業務提出物のチェック)→医師の診断書提出の要請→軽い懲戒処分(戒告・けん責・出勤停止)→普通解雇の検討、という流れが一般に適切です。段階を踏むことで紛争リスクを下げられます。
解雇以外の対応例
配置転換、業務量の見直し、休職制度の利用、労働基準上の休暇や病気休暇の案内など、解雇以外の選択肢も検討します。具体的には勤務時間を減らす、別部署へ移す、産業医や外部専門家に相談する等があります。
争いになりやすい点
手続きの不備や事実確認不足、合理的な説明がないまま解雇すると無効とされることが多いです。対応では記録を残し、説明責任を果たすことが重要です。
相談・対応のポイント
労働者としての対応
体調不良や家庭の事情などやむを得ない理由があるときは、できる限り早く会社に連絡してください。連絡は電話で要点を伝え、可能な場合はメールや文書でも残すと安全です。病院を受診したら診断書を取得し、欠勤の理由を具体的に示しましょう。再発や長期化が予想される場合は、復職見込みや治療計画を伝えると会社との調整が進みやすくなります。
会社に対する要請(労働者側)
欠勤理由の確認や診断書の提出など求められたときは協力してください。ただし、個人情報やプライバシーに配慮して対応を求める権利もあります。費用負担や適切な配慮について疑問があるときは、労働相談窓口や弁護士に相談しましょう。
会社としての対応
就業規則で欠勤の取り扱いを明確にし、周知してください。欠勤や指導の記録は日付・時間・内容を正確に残し、客観的な証拠を整えます。解雇を検討する場合は、弁明の機会を与え、改善の指導や猶予を行った記録があることが重要です。処分の前に労務担当や法務に相談し、社会的相当性を検討してください。
証拠の保存と相談窓口
診断書、メールの送受信、タイムカード、指導記録は保存してください。労働基準監督署や総合労働相談コーナー、弁護士への相談で具体的な助言が得られます。早めに相談すると解決の幅が広がります。
実務的な流れ(簡潔に)
- まず会社へ連絡、可能なら文書で理由を残す
- 医療機関で診断書を取得
- 会社の求めに応じ証拠を提出
- 指導・改善の記録を双方で確認
- 解雇等の重大処分は外部相談を検討
注意点:感情的にならず、記録と対話を重視してください。


コメント