はじめに
本記事の目的
本記事は、民法627条1項が定める「期間の定めのない雇用契約(無期雇用)」における解約の申入れ期間と方法を、実務的にわかりやすく解説することを目的とします。特に、労働者が退職を申し出てから2週間で契約が終了する取り扱いや、就業規則の退職申出期間との関係、会社の承諾の要否、労働基準法との関係に焦点を当てます。
対象読者
法律系ブログの読者、人事担当者、弁護士、退職を検討している労働者など、退職や解雇のルールを実務的に知りたい方を想定しています。専門用語は必要最小限に抑え、具体例で補足します。
本シリーズの構成(全5章)
第1章 はじめに(本章)
第2章 民法627条1項の条文と基本的な意味
第3章 「期間の定めのない雇用」とは何か
第4章 退職の2週間ルール:労働者側から見た民法627条1項
第5章 民法627条が存在する理由:退職の自由と人身拘束の防止
続く章で条文の解釈や実務上の注意点を具体例を交えて丁寧に説明します。
2. 民法627条1項の条文と基本的な意味
条文(要旨)
民法627条1項は次のように定めます。
「期間の定めのない雇用は、当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。解約の申入れは、その意思表示が相手方に到達した時から二週間を経過した時に、その効力を生ずる。」
基本的な意味
この規定は、無期雇用(期間の定めがない勤務)について、当事者が自由に契約をやめる手続を定めています。ここでの当事者は労働者と使用者の双方を指しますが、実務では特に労働者の「退職の意思表示」を裏付ける根拠として使われます。
具体例を挙げると、従業員が「退職します」と書面や口頭で伝えた日が相手に届けば、原則としてその日から二週間後に雇用契約は終了します。使用者側が即時に契約を終わらせたい場合には別の法的根拠や手続が必要になる点に注意してください。
条文は短いですが、労働者の退職の自由を保護する重要な役割を果たします。
3. 「期間の定めのない雇用」とは何か
定義
期間の定めのない雇用とは、雇用契約で終期(例えば1年や半年)が定められていない無期の雇用です。契約上に「いつまで働くか」が明記されておらず、継続して働くことを前提にしています。民法627条1項がこの無期雇用を念頭に置いて退職のルールを定めています。
典型例と具体例
- 正社員や正規の公務員は代表的な無期雇用です。
- アルバイトや派遣でも、契約に期間が明示されていなければ無期扱いになることがあります。
有期雇用との違い
有期雇用は「1年」や「6か月」など期間が明示された契約です。有期契約の途中で辞める場合は原則として別の規定(民法628条など)が関係します。
判定のポイント
雇用の形式だけでなく、契約書の文言、更新の有無、実際の働き方を総合して判断します。雇用開始時に期間が書かれていないかがまず重要です。
退職ルールへの影響(簡単な注意)
無期雇用であれば、退職の際に民法627条1項のルールが基礎になります。逆に期間が定められた契約では適用されない点に注意してください。
4. 退職の2週間ルール:労働者側から見た民法627条1項
概要
民法627条1項は、期間の定めのない雇用契約を終わらせる手続きについて定めています。労働者が退職の意思表示(口頭や退職届)をしたとき、原則としてその意思表示から2週間が経てば会社の承諾がなくても契約は終了します。退職理由は問われません。
具体的な手続きの例
- 退職の意思表示は口頭でも有効ですが、後のトラブルを避けるため書面(退職届やメール)で行うと良いです。
- 例えば1月1日に退職届を出せば、1月15日以降に契約は終了します。会社が残るよう求めても法的には効力に影響しません。
実務上の注意点
- 引継ぎや業務の都合でトラブルになりやすいです。職場との円満な調整は重要です。
- 業務に重大な損害が出る場合、会社が損害賠償を主張する可能性があります。極端に短い期間で辞めると問題になりやすい点に注意してください。
- 記録を残す(提出した文書の控え、やり取りの記録)と後で説明しやすくなります。
実務的な対応法
- 退職日を意思表示から2週間以降の日に設定し、書面で伝えます。
- 引継ぎの計画を簡潔に示し、できる範囲で協力する姿勢を示すと不必要な対立を避けられます。
- 会社が無理に引き止める、あるいは不当な扱いを受けた場合は、労働相談窓口や労働組合、弁護士に相談してください。
5. 民法627条が存在する理由:退職の自由と人身拘束の防止
背景と目的
民法627条は、期間の定めのない雇用について、労働者も使用者も一定の手続で契約を終了できることを定めます。目的は主に二つです。一つは、経営側が従業員を不当に縛ることを防ぐこと。もう一つは、契約関係の安定を図り、互いに予見可能な退職のルールを示すことです。
憲法上の位置づけと強行法規性
この規定は、労働者の職業選択の自由(憲法22条)を支える重要な仕組みと解されています。労働者の退職自由を制限する合意は、公序良俗や強行法規の趣旨に反するとして無効と判断されやすいです。
裁判例・学説の考え方
裁判例や学説は、労働者が労働契約から脱する自由を実効的に保護する必要性を指摘します。例えば、雇用契約で退職を一切認めない条項や過度に長い拘束条項は無効とされる傾向があります。
身近な例
退職の意思表示を事実上封じるために、極端に長い退職予告期間や違約金を設ける契約を想像してください。こうした取り決めは実質的に人身拘束に近く、民法627条の趣旨に反します。
結論
民法627条は、労働者の自由を守りつつ雇用関係の秩序を保つために存在します。使用者と労働者が互いに尊重し合える関係を支える規定です。


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