はじめに
この文書は、労働基準法と病気休暇の関係を分かりやすく整理するために作成しました。日常の病気やけがで仕事を休んだとき、会社がどのような対応を取るべきか、また労働者は何を期待できるのかを丁寧に説明します。
本書の目的
- 労働基準法に病気休暇の規定があるかどうかを明確にする
- 病欠時の給与支払いや有給休暇との違いを具体的に示す
- 民間企業の制度設計や公務員との違いを分かりやすく紹介する
想定する読者
- 会社の人事や経営者、現場の管理者
- 自身の病欠時の扱いを知りたい労働者
- 就業規則や休暇制度を見直そうとする担当者
進め方のポイント
本文は具体例を交え、専門用語は最小限に抑えます。章ごとに疑問に対する答えを示し、実務で使える考え方を紹介します。読みやすさを重視して短めに段落を区切っていますので、必要な箇所だけ読んでも理解できるよう配慮しました。
病気休暇は労働基準法に書いていない?基本の整理
結論
民間企業でいう「病気休暇」は、労働基準法に規定された制度ではありません。年次有給休暇や産前産後休業などは法で定められますが、「病気休暇」という名称の法定休暇は存在しません。企業が任意で導入する法定外休暇です。
何が法で決まっているか
労働基準法で明確に定められているのは年次有給休暇など一部の休暇です。病気で休む場合の扱いは、法律よりも就業規則や雇用契約書の記載が優先します。
会社が決めること(具体例)
- 病気休暇を設けるかどうか
- 年間何日与えるか(例:年5日)
- 有給にするか無給にするか
これらは就業規則に明記して従業員に周知する必要があります。明文化がないと運用でトラブルになりやすいです。
実務上のポイント
- 診断書の提出や報告方法を規定すると運用が安定します。
- 風邪で数日の欠勤と長期入院では対応が異なるため、別枠の扱い(短期/長期)を検討してください。
- 有給休暇を優先的に使う運用にする企業も多いです。これは従業員にとって予測しやすい仕組みになります。
公務員との違い
公務員は法律や人事院規則に基づく病気休暇があり、民間とは制度の位置づけが大きく異なります。民間ではまず就業規則の整備が出発点です。
病欠したとき給料はどうなる?ノーワーク・ノーペイの原則
ノーワーク・ノーペイの原則とは
民間企業では、働かなかった日の賃金を支払う法的義務は基本的にありません。これを「ノーワーク・ノーペイ(働かない=給料なし)」の原則と呼びます。病気で休んだ日も原則として欠勤扱いで無給になります。
例外と対応方法
- 年次有給休暇として処理する場合:有給を使えば賃金は支払われます。事前の申請や事後の届出が必要です。
- 会社独自の病気休暇制度:企業が有給の病気休暇や一部給与補償を設けている場合、就業規則に従って支払われます。制度の有無と条件を確認してください。
- 健康保険の傷病手当金:健康保険の被保険者で、病気のため働けず給与が支払われない期間があるとき、一定の条件を満たせば傷病手当金が支給されます。通常、連続する待期日(3日程度)の後に支給が始まり、金額は標準報酬日額の約2/3が目安です。医師の証明や手続きが必要です。
実務上の注意点
病欠時は、就業規則や雇用契約、健康保険の制度を早めに確認してください。会社が給与を一部負担する場合や、傷病手当金の申請が必要な場合があります。医師の診断書や申請書類は速やかに準備しましょう。
年次有給休暇と病気休暇・病欠の関係
年次有給休暇の基本
年次有給休暇(年休)は労働者の権利で、入社後6か月間の出勤率が80%以上であれば最低10日が付与されます。以後、勤続年数に応じて日数が増えます。会社は労基法第39条に基づき年休を管理します。
病気で休むときの年休利用
病気で働けない場合、年休を使って休むことができます。例えば、急な発熱で出勤できないときに「年休を使いたい」と申し出れば、通常は有給扱いになります。年休は給与の保障と休養の確保を兼ねます。
会社が一方的に有給扱いにすることはできない
会社が本人の同意なく病欠を勝手に有給扱いにすることは認められません。年休の取得時期を決める権利は労働者にあります。会社が一方的に消化すると、労働者の権利を侵すことになり得ます。
実務上の注意点
・休むときは事前に連絡し、可能なら書面やメールで申請しておくと後のトラブルを避けられます。
・長期の病気や会社側との認識が異なる場合は医師の診断書を用意してください。
・就業規則に年休の取り扱いや申請方法が定められているので確認してください。
具体例:風邪で3日休む場合、本人が年休を使うと申請すれば有給で消化されます。会社が勝手に有給にせず、まず本人の意思を確認することが重要です。
民間企業が病気休暇制度を設ける場合のポイント
概要
民間企業の病気休暇は法定外の福利厚生です。就業規則で目的や対象を明確にすると運用が安定します。
就業規則の書き方(例文)
「私的な負傷又は疾病のため療養する必要があり、その勤務しないことがやむを得ない場合に病気休暇を年〇日与える。」
具体的に有給か無給か、連続取得の上限、診断書の要否を記載します。
対象・日数・有給無給の決め方
対象は私傷病を基本とします。日数は例:年5日〜20日が多いです。有給にするかは会社裁量です。パート社員への適用範囲も明示してください。
診断書・連続取得の扱い
短期は診断書不要、長期や連続取得は診断書を求める運用が一般的です。連続取得の上限を設けることで業務調整がしやすくなります。
感染症への対応
インフルエンザなどは社内感染防止のため長めの休暇や在宅勤務の併用を検討します。職場全体の安全を優先してください。
運用上の注意点
- 連絡方法と証明書類、給与処理の流れを明示する
- 差別的扱いをしないことを周知する
- 記録を残し、復職支援(段階的復帰、業務軽減)を用意する
適切に文書化し、周知と一貫した運用を行えば従業員の安心と職場の安定につながります。
公務員の病気休暇と労働基準法の違い
概要
公務員の病気休暇は法律や規則で明確に定められています。民間の「労働基準法」に直接書かれない点と制度の扱いが違います。
国家公務員の扱い
国家公務員は「勤務時間、休暇等に関する法律」などで病気休暇を取得できます。負傷や疾病で療養が必要なとき、連続で最長90日まで取得可能です。
給与の扱い
病気休暇の最初の90日間は原則として給与が全額支給されます。90日を超えると支給が半額になる場合があります。各規定や人事院規則で細かく定められています。
地方公務員の扱い
多くの自治体は条例で同様の制度を設けています。具体的な日数や給与の扱いは自治体ごとに違うため、勤務先の条例や職員規程を確認してください。
病気休職との関係
病気休暇を使い切っても療養が必要な場合は「病気休職」に移行できます。休職は最長で3年程度認められることが多く、その間の給与扱いは休暇と異なります。
実務上の注意点
医師の診断書や休暇の申請手続きが必要です。復職時は職場の調整や医師の意見書が求められることがあります。制度の詳細は所属する機関の人事担当に確認してください。


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