はじめに
賞与(ボーナス)とは
賞与は毎月の給与とは別に支給される賃金です。会社が任意に支給する性質を持ちますが、就業規則や労働契約に明確に定めると法的な支払義務になります。つまり、「支給する」と書けば約束になり、「支給しない」と書けば不支給も可能です。
本書の目的
本書は就業規則における賞与の位置づけ、支給の有無や金額・基準の決め方をわかりやすく解説します。実務でよく迷う点やトラブルを防ぐための書き方を具体例を交えて示します。
読み方のポイント
- 賞与の有無:明記の有無で法的扱いが変わります。
- 支給基準:金額や計算方法、対象期間を具体的に書くと誤解が減ります。
- 対象者とタイミング:誰にいつ支払うかを示します(例:年2回、6月・12月)。
次章では、賞与に関する基本的な考え方を丁寧に説明します。
賞与の基本的な考え方
賞与とは
賞与は労働基準法で「賃金」に含まれる扱いです。ただし、法律で必ず支給しなければならないとは定められていません。会社が任意に支給する臨時の支払だと考えてください。
法的な位置づけと実務上の扱い
就業規則や雇用契約に「支給する」と明記すれば、そのルールに従って支給義務が生じます。したがって「年2回、基本給の1か月分」など具体的に書けば会社は守らなければなりません。
支給基準の具体例
・固定額で支給する(例:賞与10万円)
・基本給の何か月分で決める(例:基本給×0.5か月)
・業績や評価に応じて変動させる(例:売上達成度で差をつける)
具体例を就業規則に示すと、誤解や争いを防げます。
留意点
支給日や支給対象、算定方法を明確にしてください。欠勤や休職時の扱いも決めると運用が安定します。
就業規則に書くべき主なポイント
支給対象者
- 対象を具体的に記載します(例:正社員、契約社員、パート等)。
- 基準日や在籍要件を明示します(例:支給日に在籍していること、あるいは算定期間末日に在籍していること)。
- 休職・育児・介護等の扱いも例示すると運用が安定します。
支給時期
- 年回数とおおよその支給月を明記します(例:年2回、6月と12月頃)。
- 日付を固定するか「翌月第○営業日」など基準を決めます。
算定期間
- 賞与の対象となる期間を具体的に示します(例:4月1日〜9月30日分を12月に支給)。
- 入社・退職がある場合の按分方法を記載します。
金額の決定方法
- 計算式を明示します(例:基本給の1.5か月分、または定額)。
- 個人評価や会社業績による増減の仕組みを示します(例:評価Aは100%、Bは80%、業績連動で±20%)。
- 評価の担当者や評価項目を簡単に記します。
不支給・減額事由
- 会社業績や経営上の理由で支給しない場合がある旨を明記します。例として「業績不振時は支給しない、または支給額を減額できる」と記載するとよいです。
運用上の注意
- 明確な算定方法と運用ルールを示して公平性を保ちます。従業員への周知方法も記載するとトラブルを防げます。
記載例のよくあるパターン
基本的な文例
よく使われる定型文の例を示します。
– 「賞与は会社の業績および従業員の勤務成績等を勘案して支給することがある。」
– 「賞与の支給時期・算定期間・支給対象者は別に定める基準による。」
支給時期・算定期間の例
- 支給時期:年2回(6月・12月)など。業績により変更する旨を明記します。
- 算定期間:例)4月1日〜翌年3月31日。どの期間の給与を基準に算定するかを示します。
支給対象・条件の例
- 支給対象:正社員、契約社員など対象範囲を明示します。
- 条件例:入社後6か月以上在籍、当該支給基準日現在で欠勤が一定日数以下、など具体例を添えます。
減額・不支給の例
- 「会社の業績が著しく低下した場合には、賞与を減額し、又は支給しないことがある。」
- 懲戒処分や長期欠勤がある場合の不支給条件も記載します。
書き方のポイント
- 算定方法や対象をあいまいにせず、別に基準を置く場合はその場所を明確に記載します。
- 具体例を就業規則と別に運用細則で示すと、柔軟に対応できます。
実務上の注意点
支給文言は柔軟に
「必ず支給」「毎年○か月分」と断定的に書くと、業績悪化時や事情変化での減額・不支給が難しくなります。実務では「業績および会社の状況により支給額を決定する」「支給月数は毎期見直す」など柔らかい表現を使うと運用しやすくなります。
退職予定者・長期休職者の扱い
退職予定者や長期休職者を除外する場合は、基準を明確にします。例:支給日現在で在籍していること、所定労働日数の基準を満たすこと。また、産休・育休や病気休職など法的保護がある休職との扱いを分ける必要があります。
正社員と非正規の差の合理性
待遇差を設ける際は、職務内容・責任・労働時間の違いと整合性をとってください。たとえば同じ業務で差が大きいと不合理な待遇差と判断されるリスクがあります。評価項目や算定方法を明文化すると説明責任を果たしやすくなります。
運用の手続きと記録
支給・不支給の判断基準、承認者、通知方法を決めて書面で残します。実際の減額や不支給が発生した場合は、理由を書面で通知し、説明できる根拠(業績データ、評価記録)を保存してください。
実務のチェックポイント(例)
- 文言:断定表現を避ける
- 対象:在籍基準・労働日数を明記
- 差額:職務や責任との整合性を確認
- 手続き:判断フローと記録を整備
これらを整えることで、トラブルの予防と運用の透明性が高まります。必要なら具体的な条文案も作成しますのでお知らせください。


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