はじめに
本書の目的
本ドキュメントは、検索キーワード「就業規則 有給規定」に基づく実務向けの解説です。就業規則にどのような有給休暇の規定を盛り込むべきか、実務でよくある疑問点や注意点を分かりやすく示します。労働基準法に基づく基本事項を押さえつつ、就業規則の書き方や運用上のポイントに重点を置いています。
対象読者
人事担当者、経営者、総務担当者、就業規則を作成・改定する担当者を想定しています。中小企業の実務レベルを念頭に、法律用語は必要最小限に抑え、具体例で補足します。
本書の構成と使い方
全7章で、付与条件・日数、取得手続き、時季指定義務、時季変更権、年5日の取得義務などを順に解説します。各章は独立して読めるようにし、就業規則の条文案や運用例も紹介します。まずはこの「はじめに」を読み、必要な章から順に参照してください。
就業規則に有給休暇を定める必要性
法的背景
有給休暇(年次有給休暇)は労働基準法第39条に基づき、企業が就業規則で定めることが求められます。具体的には「誰に、いつ、何日付与するか」を明確に記載する必要があります。例:入社6か月後に10日付与など。
2019年の改正点(年5日取得義務)
2019年の制度改正で、使用者は年5日以上の有給休暇を確実に取得させる義務(時季指定義務)が強化されました。就業規則の記載や運用を見直し、取得管理の方法を決める必要があります。
見直しが必要な理由
有給休暇の規定がない、あるいは古いままでは、労働基準監督署からの指導や労使トラブル、罰則のリスクが生じます。パートタイムや短時間勤務者の扱いが未整備だと、実務上の混乱も起きます。
企業が取るべき対応
就業規則に付与条件・日数・取得手続き・時季指定の方針を明記し、運用方法(申請方法、管理者の対応、記録保存)を定めて周知します。具体例として、「年次有給休暇は、入社6か月経過後に労働日数に応じて付与する。取得は所定の申請書で行う」などを挙げられます。
有給休暇の基本的な付与条件と日数
付与条件
労働基準法第39条第1項に基づき、有給休暇の付与には次の2点が必要です。
- 雇入れの日から6か月間、継続して勤務していること
- その6か月間の全労働日の8割以上出勤していること
この2つの条件を満たした労働者には、原則として10日の年次有給休暇を付与します。
付与日数の仕組みと具体例
初回の付与は「6か月経過時」に10日が基本です。その後は勤続年数に応じて付与日数が段階的に増え、最終的に20日が上限になります。増え方は会社の就業規則や法定の基準に沿って決められますが、イメージは次のとおりです。
例:
– 雇用から6か月経過→10日付与
– その後1年ごとに所定出勤日数の8割以上で継続している場合→勤続年数に応じて日数が増加(数年で11日、12日と増え、最終的に20日まで)
具体的な年数ごとの細かい日数配列は会社ごとに定められますので、就業規則で明示してください。
就業規則に記載する際の注意点
- 「6か月」「出勤率8割」といった付与条件はそのまま明記してください。具体的な判定方法(欠勤の扱い、休職期間の扱い等)も書くと運用がブレません。
- 付与日数は勤続年数ごとの表や例を入れると従業員に分かりやすく伝わります。
- 法定の最低基準(初回10日、上限20日)を下回ることはできません。
以上を就業規則に盛り込み、従業員が自分の権利を確認できるようにしてください。
就業規則に記載すべきポイント①:付与条件と日数
基本ルールを明確にする
誰に、いつ、何日付与するかを明確に書きます。一般的には「採用日から6か月継続勤務かつ所定労働日の8割以上出勤した従業員に対して10日付与する」と記載します。以後は勤続年数に応じて付与日数を増やす旨を定めます。
条文化の例(分かりやすく)
例:第〇条(年次有給休暇の付与)
1. 採用日から6か月間継続勤務し、当該期間の所定労働日の80%以上出勤した者に10日の年次有給休暇を付与する。
2. その後、1年ごとの継続勤務に対し、所定労働日の80%以上出勤した者に対し、勤続年数に応じた日数を付与する。
短時間勤務者・パートの扱い
週の所定労働時間が短い、または週の所定労働日数が少ない労働者(例:週4日以下、年間216日以下)の場合は、別表で付与日数を定めることが多いです。具体例として、労働日数に応じて比例按分する表を就業規則に添付します。
実務上の注意点
・付与基準(起算日、出勤率の計算方法)を具体的に書くと運用で迷いません。
・モデル就業規則や労働局の例を参考に条番号や文言を揃えると説明がしやすいです。
・雇用契約書や入社時説明と整合させ、従業員に周知してください。
就業規則に記載すべきポイント②:取得手続きと時季指定権
概要
年次有給休暇は、労働者が取得したい時季を指定する権利(時季指定権)があります。従業員が「〇月〇日〜〇日まで休みます」と請求した場合、会社は原則としてその時季に与える義務があります。就業規則には取得手続きと時季指定権の扱いを明確に記載してください。
就業規則に記載する文例(簡潔)
- 従業員は、取得したい時季を指定して年次有給休暇を請求できる。
- 会社は、原則としてその時季に年次有給休暇を与えるものとする。
必要に応じて、申請方法や期限、届出の形式を補足します。
申請手続きの具体例
- 申請方法:書面、電子申請(例:社内システムやメール)のいずれかを選べると実務が楽です。
- 申請期限:原則として〇日前までに申請する旨を定めても構いません。例)3日前までに申請。
- 承認者:上長または人事担当者が承認する流れを明記します。
- 部分取得や半日単位の申請方法も例示すると分かりやすくなります。
会社の対応(注意点)
- 会社は原則として従業員の指定どおり与えます。業務に重大な支障がある場合は、時季変更の説明や代替日を提示する必要があります。詳細な要件や手続きは次章で扱います。
実務上のポイント
- 申請履歴を残す(電子記録や書面保存)とトラブルを防げます。
- 突発的な申請(急病など)への対応ルールをあらかじめ決めておくと安心です。
- 就業規則では過度に厳しい申請要件を設けないように注意してください。従業員の権利を不当に制限すると問題になります。
就業規則に記載すべきポイント③:時季変更権
概要
時季変更権は、労働者が希望する時期に有給休暇を与えると事業の正常な運営が著しく妨げられる場合に、会社が別の時季に変更できる権利です。典型例は繁忙期に多数が同時に休む場合です。
行使要件(ポイント)
- 事業の正常な運営が「著しく」妨げられることを客観的に判断する必要があります。
- 例:生産ラインが止まる、緊急対応ができなくなる、代替要員が確保できない等。
- 労働者の生活事情(育児・病気等)も考慮する義務があります。
手続きの流れ(例)
- 影響を確認し、変更の必要性を判断する。2. 労働者と相談して代替時季を提示する。3. 書面やメールで理由と代替日を通知し、記録を残す。
就業規則への記載例
「会社は、事業の正常な運営を妨げるおそれがある場合に限り、従業員の希望する時季を変更することができる。時季を変更する場合は、従業員と相談のうえ、代替の時季を指定するものとする。」
運用上の注意点
- 行使理由は具体的に記録して説明できるようにする。透明性を保つことでトラブルを防げます。
- 一方的な変更や相手の事情を無視した対応は争いになります。代替案を示し、丁寧に相談することが重要です。
年5日の有給休暇取得義務(時季指定義務)
2019年の改正で、年10日以上の有給休暇が付く労働者に対して、会社が毎年5日を確実に取得させる義務が生じました。これを「年5日の取得義務」または「時季指定義務」といいます。
-
対象者:年10日以上の有給が付与されるすべての労働者(正社員・有期契約社員・パート・アルバイトを含む)
-
会社の手順(簡潔な流れ):
- 年次付与の基準日を起点に1年以内に、労働者が自主的に取得した日数を確認します。
- 自主取得が5日に満たない場合、労働者の意見を聴取します(希望日など)。
- 希望に沿いつつ業務に支障がない時季を会社が指定して有給休暇を与えます。
例:基準日が4月1日の場合、翌年3月31日までに5日を確保します。自主取得が3日なら、会社は残り2日を指定します。
就業規則に記載する際のポイント:対象範囲を明確にする文言を入れてください。たとえば「本規則は、年次有給休暇が10日以上与えられるすべての労働者に適用する」と記載します。
参考の文例:
「当社は、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対し、基準日から1年以内に5日間の有給休暇を確実に取得させます。労働者の自主的取得が5日に満たない場合、当社は意見を聴取した上で、希望に沿った時季を指定して取得させます。」
運用上の注意:年ごとに取得状況を記録しておき、対象者を漏れなく確認してください。


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