はじめに
本書の目的
この文書は、就業規則について基本的なルールをわかりやすくまとめた入門書です。就業規則の役割や法律上の最低限の義務、必ず盛り込むべき項目、会社ごとに決めるべきルール、そして実務で役立つ作り方のポイントを丁寧に解説します。
誰に向けているか
人事担当者や経営者、管理職、これから就業規則を見直す小規模事業者、ルールを初めて作る担当者向けです。労務の専門家でない方でも理解できるよう、具体例を挙げて説明します。
本書の使い方
まず第2章で就業規則の役割を理解してください。次に法律上の義務(第3章)で最低ラインを確認し、第4章で必須項目をチェックします。第5章では会社独自の運用ルールの例を挙げます。最後に第6章で実務的な作り方や注意点を紹介します。
注意点
ここで紹介する内容は一般的な解説です。法律的な判断や個別の対応が必要な場合は、専門家に相談することをおすすめします。
就業規則の基本的な役割
就業規則とは何か
就業規則は、労働時間、休日・休暇、賃金、退職・解雇、安全衛生など、職場の共通ルールをまとめた社内の規則集です。個々の雇用契約とは別に、会社全体に一律に適用される基準を示します。誰にとっても分かりやすい共通の約束事を作ることが目的です。
何のために必要か
主な役割は次のとおりです。
– トラブル予防:判断基準が明確になり、誤解や争いを減らせます。例えば残業の取り扱いや休暇の申請方法が書かれていれば、混乱が少なくなります。
– 公平性の確保:同じ立場の社員に対して一貫した扱いができます。これにより職場の信頼が高まります。
– 管理の簡素化:上司や人事が判断に迷ったとき、就業規則に沿って対応できます。退職手続きや懲戒処分の基準があると速やかに決められます。
実務上のポイント(具体例)
- 労働時間:始業・終業時刻や休憩、残業の扱いを明記します。
- 休暇:年次有給や特別休暇の付与条件と手続きを書きます。
- 賃金:支払い日や計算方法、手当の支給条件を示します。
- 安全衛生:安全教育や体調不良時の対応方法を定めます。
運用の注意点
就業規則は作って終わりではありません。状況の変化に応じて見直し、社員に周知することが大切です。明確で具体的な記載を心がけると、日々の運用がスムーズになります。
法律上の義務と最低ライン
対象と義務
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の「作成」「労基署への届出」「従業員への周知」が義務です。アルバイトやパートも人数に含めます。義務を怠ると行政対応や労使トラブルのリスクが高まります。
就業規則の内容に関する最低ライン
就業規則の定めは、労働基準法などの労働関係法令を下回ってはなりません。賃金(最低賃金含む)、労働時間・休憩・休日、割増賃金、解雇・退職・休職に関する規定などは法律の基準以上である必要があります。法より不利な規定は効力が弱まったり無効になります。
作成・変更の手続き
就業規則は書面で作成し、作成または重要な変更を行う際は労働者代表の意見を聴取します。完成後は所轄の労働基準監督署へ届出します。変更は一方的に行わず、合理的な理由と適切な手続きを踏みます。
周知の方法
全従業員が内容を確認できるよう、書面交付や事務所での掲示、社内イントラへの掲載と受領確認などで確実に周知します。口頭だけでは後の争いで不十分になりやすいです。
違反した場合の影響と実務上の注意点
法律に反する規定は無効となり、労使紛争や行政指導を招きます。個別の労働契約で労働者に有利な条件がある場合はそちらが優先します。就業規則は具体的かつ分かりやすく記載し、変更時は説明と合意形成を大切にしてください。
必ず盛り込むべき主なルール
労働時間関係
始業・終業時刻は具体的に決めます。例:始業9:00、終業18:00。休憩時間の取り方も明記します(例:12:00〜13:00、60分)。法定労働時間を超える場合の扱いと割増賃金についても書きます。フレックスや裁量労働の導入は要件と手続き例を示します。
休日・休暇
所定休日と法定休日を区別して記載します。年次有給休暇の付与日数と取得方法、病気や育児のための特別休暇の扱い例を載せます。例:有給は入社6か月で10日付与、申請は2週間前まで。
賃金関係
賃金の決定方法(基本給・手当の内訳)、計算方法、支払方法(口座振込等)を明確にします。締日と支払日を定めます(例:月末締め、翌月25日支払)。時間外・深夜手当や欠勤控除の計算例を示します。昇給や賞与の取扱いも記載します。
交替制勤務の扱い
シフト作成の基準、交替手当、深夜勤務の扱いを明記します。勤務間インターバルや休息日数の配慮についても書きます。
退職・解雇
自己都合退職の手続きと予告期間(例:退職希望日の1か月前に申請)を示します。定年や再雇用の方針、解雇事由と手続き、懲戒処分の種類と手順を記載します。
明確にしておくポイント
・誰が判断・承認するかを明示する
・算定方法は具体例で示す
・従業員に分かりやすい届出方法を定める
これらを盛り込むと、従業員と会社の双方でルールが明確になります。
会社ごとのルールとして定める事項
就業規則には、会社ごとに必要な細かいルールを明文化しておくと安心です。ここでは代表的な項目と、書き方のポイントを具体例で説明します。
1. 服務規律
- 遅刻・欠勤時の連絡方法:連絡先(電話・メール・社内チャット)と連絡のタイミング(始業前○分以内)を明記します。例:始業30分前までに上司に電話で連絡する。
- 副業・兼業:許可制か届出制かを決め、許可基準(業務影響、競合禁止など)を示します。例:業務に支障が出る副業は原則不可。
- 守秘義務:守る範囲(顧客情報・技術情報)、在職中と退職後の扱いを明記します。
- ハラスメント禁止:セクハラ・パワハラ等の定義、相談窓口、調査と処分の流れを具体的に示します。
2. 評価・表彰・懲戒
- 表彰の基準:成果・態度・顧客評価など具体的な指標を示します。例:顧客満足度90%以上で表彰対象。
- 懲戒処分の種類と基準:注意、減給、出勤停止、解雇などを列挙し、該当する行為例と手続き(調査・弁明の機会)を明確にします。
3. 福利厚生・その他
- 各種手当:通勤手当、住宅手当、家族手当の支給条件と上限を記載します。
- 在宅勤務・テレワーク:対象者、申請方法、勤務時間管理、通信費や備品の負担について取り決めます。例:在宅勤務は上長承認が必要。
- 制服・備品の貸与と返却:貸与品の管理責任、紛失・破損時の対応、退職時の返却ルールを定めます。
どの項目も、具体的な基準と手続きを書くことが重要です。曖昧な表現を避け、実務で運用しやすい文言にすると社員の理解と納得が得られます。
ルール作りのポイント
全体の考え方
法令遵守を前提に、会社の実態と従業員の利便性を両立させます。読み手が一度で理解でき、運用担当が迷わず対応できることを重視します。
文言は簡潔で具体的に
抽象的な表現を避け、具体例で補います。例えば「遅刻は容認しない」ではなく「始業から10分を超える遅刻は遅刻扱い」といった明確な基準を示します。
実務に合わせる
規則は現場で実行可能でなければ意味がありません。申請方法や証明書類、担当者のフローまで定めておきます(例:有給は申請フォームで提出、上司は2営業日以内に承認)。
公平性と透明性を担保
同じ事象には同じ対応をする旨を明記し、判断基準も示します。裁量がある場合は、裁量の範囲と理由を記載します。
運用しやすさと見直しの仕組み
運用負担が大きすぎないようにし、運用開始後のレビュー時期(例:半年ごと)と担当者を決めます。変更時の周知方法もルール化します。
周知と教育
作成後は全従業員に説明会やFAQで周知し、質問窓口を設けます。具体例やケーススタディで理解を深めます。
チェックリスト(簡易)
・文言は具体的か ・運用フローが明確か ・公平な判断基準があるか ・見直しルールがあるか ・周知方法が整っているか


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