はじめに
退職日が大切な理由
退職日は単なる最終出勤日ではありません。社会保険や給与、ボーナス、次の職場への引継ぎなど生活やキャリアに直接影響します。たとえば、退職日によって健康保険の継続手続きや年金の扱いが変わり、給料の締め日によって手取り額が変わることがあります。
本書の目的
この章では、退職日の選び方の全体像をやさしく整理します。具体的なケースごとに有利な日や注意点を後の章で詳しく説明しますので、まずは全体像をつかんでください。
よくある選択肢とその特徴
- 転職先の入社日前日: 社会保険の切替がスムーズで、ブランクを最小限にできます。
- 月末: 給与や締めの都合で手取りが安定しやすいです。
- ボーナス支給後: ボーナスを受け取ってから退職すると金銭的な損が少ないです。
注意してほしい点
退職日は個人の事情で最適解が変わります。家族の扶養や住宅ローン、失業保険の給付開始時期なども関係します。職場への影響を考えすぎて自分の将来を犠牲にしないようにしてください。場合によっては、会社と話し合って柔軟に決めることが一番です。
次章からは、転職先が決まっている場合、まだ決まっていない場合など具体的なシチュエーションごとにおすすめの退職日とその理由を説明します。
転職先が決まっている場合
推奨退職日
次の会社の入社日の前日を退職日にするのが最もおすすめです。健康保険や厚生年金の資格が途切れずに引き継がれ、国民健康保険や国民年金を自分で支払う空白期間を避けられます。
社会保険・年金の扱い
会社を辞めた翌日から次の会社に入るまでの期間に保険・年金の空白があると、手続きや支払いの負担が増えます。前日退職なら保険資格の切替がスムーズで、医療費や年金記録の管理も楽です。
有給や最終給与の調整
有給消化を希望する場合は入社日の前日までに終えるよう会社と調整します。未消化の有給は買い上げられることが多いので、最終給与での清算方法を確認ください。
退職手続きと引継ぎのタイミング
退職届は就業規則に合わせて提出します。引継ぎは業務が滞らないよう具体的な資料や担当者を決め、必要なら最終週に集中して行います。
具体例
入社日が6月1日なら、退職日は5月31日。有給を3日使うなら5月28日退職扱いにするなど、日数を逆算して調整します。
転職先がまだ決まっていない場合
なぜ月末退職が有利か
転職先が決まっていない場合は、月末まで在籍してから退職することが基本的に有利です。社会保険(健康保険・厚生年金)は月末に在籍している人に対してその月分が会社負担となるため、月末まで働くと国民健康保険や国民年金を自分で払う期間を1か月分減らせる可能性があります。実質的に出費を抑えられる点がメリットです。
具体的な手続きと確認点
- 会社の給与締め日や社内規定を確認してください。給与計算や保険の適用日は会社ごとに異なります。
- 人事・総務に「保険の資格喪失日(退職日)」「離職票の発行時期」などを確認してください。書類の受け取り時期で手続きが変わることがあります。
- 市区町村で国民健康保険・国民年金の手続きをいつ行うか確認すると安心です。退職後すぐに加入手続きをする必要があるかどうかを事前に把握してください。
注意点と例外
- 会社側の処理ミスや締め日の違いで、意図した月の保険が適用されない場合があります。必ず口頭だけでなく文書やメールで確認してください。
- 退職後すぐに収入が途絶える場合、保険料や年金の支払い負担が重くなることがあります。貯金や生活費の見通しを立ててから判断してください。
すぐ退職せざるを得ない場合
急な事情で中途退職が避けられないときは、月の途中でもやむを得ません。事前に人事と調整し、保険や年金の切り替え時期、必要書類を確認しておくと手続きがスムーズになります。
お金の面で見たおすすめタイミング
ボーナス支給後に退職するメリット
多くの方がボーナス支給後に退職します。支給日まで在籍していれば、賞与を取り漏らす心配がありません。具体例:夏の賞与が6月に出る会社なら、6月支給を確認してから退職手続きを進めると安心です。
年度末(3月末)・年末(12月末)が人気の理由
年度の区切りは人事異動や採用が活発になります。次の職場探しでも求人が増える時期です。契約や予算の区切りが合いやすく、入社日を調整しやすい利点があります。
注意点(給与・保険・有休の扱い)
- 賞与の受給条件は就業規則に書かれています。支給日に在籍が必要か確認してください。
- 最終月の給与は日割り計算になる場合があります。家計を見て余裕を持った退職日にしましょう。
- 健康保険や厚生年金の切替え時期も把握してください。未加入期間を作らないよう手続きのタイミングを調整します。
具体的な進め方(チェックリスト)
- 賞与支給日と支給条件を確認
- 有休消化や最終出社日の調整を上司・人事と相談
- 転職先の入社日と重ならないよう調整
- 社会保険・雇用保険の手続きを確認
これらを順に確認すれば、お金の面で損をしにくい退職ができます。
実務的に気をつけたい点
まずは職場の状況を確認する
プロジェクトの区切りや繁忙期を避けると職場への影響が少なくなります。例:四半期決算や新製品リリースの直前は避ける。上長にざっくりした時期感を相談しておくと計画が立てやすくなります。
引き継ぎを計画的に進める
担当業務を洗い出し、優先順位を付けて一覧にします。引き継ぎ資料は実務手順、よくあるトラブルと対処、関係者の連絡先を含めると後任が動きやすくなります。口頭説明は短く要点を絞って行い、確認用のチェックリストを用意してください。
労務・手続きを早めに確認する
有給消化、健康保険・厚生年金の手続き、雇用保険の離職票など、社内手続きは会社によってタイミングが異なります。就業規則や人事窓口に早めに確認し、提出期限や必要書類を把握しておきます。
失業給付や退職金の条件を確認する
退職日や雇用形態によって受給開始時期や金額が変わります。受給開始の待機期間や自己都合と会社都合での違いをハローワークで確認してください。退職金は支給条件や勤続年数に左右されますので人事に確認します。
書類の整理と個人データの扱い
源泉徴収票や雇用契約書、業務に関する重要なメールは退職後も参照する可能性があります。個人情報や機密情報は社内ルールに従って処理し、私的に持ち出さないでください。
職場との関係を保つ工夫
引き継ぎ期間中は感謝の意を伝え、冷静に対応すると円満退職につながります。可能なら後任の教育やフォローを一定期間サポートすることを申し出ると印象が良くなります。
状況別ベスト退職日の整理
退職日は生活・手続き・気持ちの区切りを左右します。代表的な状況ごとに、ベストな退職日と注意点を分かりやすく整理します。
1. 転職先が決まっている場合:入社日前日
- 理由:社会保険や雇用保険の切り替えがスムーズになり、給与の二重発生や空白を避けやすいです。
- 注意点:入社日が有給消化や引継ぎと重ならないよう調整し、内定先にも退職日を必ず伝えます。
2. 転職先未定で自己保険(国民健康保険)に加入する場合:月末
- 理由:給与と社会保険の処理が月単位で行われるため、清算や手続きが簡単になります。
- 注意点:失業給付の申請など、離職日によって手続き期限が変わるためハローワークで確認してください。
3. ボーナスをできるだけ受け取りたい場合:ボーナス支給日のあと
- 理由:就業規則で「支給基準日に在籍していること」が条件の場合が多いためです。
- 注意点:支給基準日を社内規定で確認し、退職届の提出時期を合わせます。
4. 区切りよく辞めたい場合:期末(例:3月末、12月末)
- 理由:年度・四半期の区切りでプロジェクトや評価の区分が明確になり、引継ぎが整理しやすいです。
- 注意点:期末は繁忙期で引継ぎや手続きが遅れがちなため、余裕を持って計画してください。
どのケースでも、退職日は就業規則や労働契約、上司・人事との調整を優先して決めましょう。


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