はじめに
この章では、退職日に関する本書の目的と読み方をやさしく説明します。退職日は法律上の意味と実務上の扱いで混同されやすく、誤解からトラブルになることがあります。本書はその違いを分かりやすく整理し、退職の手続きをスムーズに進める手助けをします。
本書の目的
退職日とは何か、最終出社日との違い、会社にいつ伝えればよいかなど、実務でよく出る疑問に答えます。専門用語はなるべく避け、具体例を用いて説明します。
想定読者
退職を考えている方、あるいは人事や総務で対応する方を想定しています。法律の細かい条文よりも、実際の手続きで知っておきたい点を重視します。
読み方のポイント
各章は個別に読めますが、まずはこの「はじめに」で全体像をつかむと理解が早まります。困ったときは該当する章だけ読み返してください。
退職日の法律上の意味
概要
退職日とは、会社との雇用契約が法的に終了する日を指します。ここが基準日になり、賃金支払い義務や社会保険・雇用保険の資格に関する取り扱いが決まります。一方で「最終出社日」は実際に出勤した最後の日で、退職日とは異なる場合があります。
賃金支払義務の終了
雇用契約は退職日で終了しますから、原則としてその日をもって会社の賃金支払義務も終わります。例えば退職日が4月30日なら、その日までの労働に対する賃金を会社は支払う義務があります。給与の支払い日が退職日後になることはありますが、支払われるべき賃金の範囲は退職日までの労働分です。
社会保険・雇用保険の資格
退職日は社会保険や雇用保険の資格喪失の基準日になります。具体的には、雇用契約が終わった日を基準に保険の加入状態が変わります。会社の手続きや健康保険の切替えは、退職日を基準に進められる点を押さえてください。
最終出社日との違い(具体例)
例:最終出社日が4月15日で、その後に有給休暇を消化して4月30日を退職日とした場合。見かけ上は4月15日が最後に出勤した日ですが、契約上は4月30日まで在職です。給与・社会保険は在職扱いのまま処理されます。
実務上の注意点
退職日を確認するときは、雇用契約書や退職届の記載を必ず確認してください。退職日がいつになるかで保険の手続きや最終給与、年金・税務上の扱いに影響します。不明な点は総務や人事に早めに相談すると安心です。
退職日までの予告期間(何日前に言えばよいか)
法律上の基準
期間の定めがない雇用契約では、民法第627条により退職の意思表示をしてから2週間経過した時点で契約を終わらせられます。つまり、法律上は「2週間前に言えばよい」ことになります。具体例:4月1日に退職の意思を伝えれば、4月15日で契約終了可能です。
会社の就業規則の優先
多くの会社は就業規則や雇用契約で1か月前や2か月前の申し出を定めます。就業規則に定めがある場合は、実務上その規則に従うのが基本です。会社と話し合いで合意すれば、規則より短い期間でも受け入れてもらえることがあります。
実務上の対応と注意点
有給消化や引き継ぎのため、余裕をもって早めに伝えるとトラブルを避けられます。急な事情で早期退職を希望する場合は、上司や人事に理由を説明して相談してください。退職日や最終出社日は会社と調整して決めると円満です。
有期契約の場合の例外
原則
有期契約(契約期間が決まっている雇用)は、原則として契約満了まで続ける約束です。契約期間中に一方的に退職すると契約違反になる可能性がありますので、まず契約書の定めを確認してください。
中途退職が認められる場合(やむを得ない事由)
次のような事情があると、中途退職が認められることがあります。具体例で説明します。
– 会社側の重大な契約違反:賃金未払いが続く、労働条件が約束と大きく異なるなど。
– 健康上の理由:長期の病気や治療が必要で労働継続が困難な場合。
– 家族の介護・災害などの緊急事態:急な介護や災害で勤務継続が不可能な場合。
これらは状況次第で認められますので、証拠(診断書、やり取りの記録等)を残すことが重要です。
契約開始から1年以上経過している場合
ご提示の通り、契約開始から1年以上経過している場合は労働基準法上、いつでも退職できる扱いになります。退職の意思表示は書面で行い、相手に届いた日を記録しておくと安心です。
進め方と注意点
まずは上司や人事に事情を話して合意を目指してください。合意が得られない場合は、証拠を整えたうえで退職届を出します。会社から損害賠償を求められることがありますが、実務上は範囲が限定されることが多いです。必要なら労働相談窓口や弁護士に相談してください。
退職日と最終出社日の関係
まず、用語の違い
退職日は会社との雇用関係が正式に終わる日です。最終出社日(最終出社日)は会社に実際に出勤した最後の日を指します。最終出社日の翌日から退職日までが有給休暇の消化期間になることがあります。
有給消化がある場合の扱い
有給休暇をまとめて使うと、最終出社日と退職日の間も在職扱いになります。その期間も給与や有給の支給、健康保険・厚生年金の被保険資格は原則として継続します。例:7月20日が最終出社日で、有給を10日消化して退職日が7月30日なら、7月30日までは在職中です。
転職や失業給付のスケジュール
転職先の入社日や雇用保険の手続きは、原則として退職日を基準にします。失業給付(雇用保険)の受給手続きや受給開始日は退職日が基準になるため、離職票の発行時期やハローワークへの申請は退職日を念頭に準備してください。
実務で確認すべきこと
- 最終給与に有給分が含まれるか
- 健康保険証の返却時期と国民健康保険への切替手続き
- 離職票・源泉徴収票の受領時期
- 退職日と入社日の間に空白期間がある場合の給付や保険の扱い
会社ごとに運用が異なるため、書面やメールで退職日・有給消化の取り扱いを確認すると安心です。
会社が退職日を決めることの扱い
法律上の立場
会社が退職日を一方的に決めることを全面的に禁止する規定はありません。ただし、労働者の退職の自由を不当に制限する指定は違法となる可能性があります。民法の規定(通常、2週間程度で効力が生じる)や労働契約法の趣旨を踏まえ、本人の意思を尊重する必要があります。
一方的な指定が問題となる場合
例:労働者が退職希望日を示したにも関わらず、会社が長期間の延長を一方的に命じる場合や、退職を事実上認めないために賃金を不支給にする場合は問題です。業務引き継ぎを理由に過度に引き止めると違法と判断されることがあります。
実務上の判断基準
- 民法の2週間ルールは目安です。短期間での退職申し出は通常有効です。
- 就業規則で通知期間を定めている場合は、その規定を尊重します。就業規則と合意の両方を見ます。
- 引き継ぎの状況や業務上の影響も考慮して、本人と会社で話し合い合意を得るのが一般的です。
会社が指定する場合の注意点
会社が退職日を決める際は、合理的な理由と説明が必要です。賃金・有給休暇の清算や引き継ぎ方法を明示して円滑に進めるべきです。無理に延長したり、退職を拒む態度は避けてください。
従業員の対処法
会社の指定が不当に感じられるときは、まず話し合いで合意を目指してください。改善しない場合は労働組合や労基署、専門家に相談するのが安全です。


コメント