はじめに
退職日を決めるのは、原則として労働者の権利です。民法や労働法上は、退職の意思表示から2週間で退職できますが、現実には就業規則や職場の引き継ぎを考慮して決める必要があります。
-
退職の基本ルール:口頭や書面で意思表示をすれば、原則として2週間後に退職可能です。会社が就業規則で申告期間を定めている場合は、そのルールに従うのが実務的です。
-
実務的な目安:多くの人は1〜3カ月前に上司に相談します。理由は引き継ぎや後任探し、社内手続き(有給の調整や健康保険の手続き)などです。転職先の入社日や有給消化の希望を踏まえて調整しましょう。
-
会社が決めるケース:会社都合退職や有期雇用契約の満了では、会社側が退職日を指定することがあります。こうした場合は雇用契約と就業規則を確認してください。
この章では、まず退職日を決める際の基本を整理します。以降の章で、具体的な決め方やトラブル回避のコツ、チェックポイント表を詳しく説明します。
退職日を自分で決められる範囲
法律上の基本
民法では、期間の定めがない雇用(普通の正社員など)は「退職の意思表示から2週間が経てば退職できる」と定められています。つまり、法律上は自分の意思で比較的短期間に退職日を決められます。
まずは就業規則を確認する
多くの会社は就業規則で「退職希望日の○カ月前までに申告」などのルールを定めています。会社のルールは社員に適用されるため、まず就業規則や雇用契約書を確認してください。就業規則の期日より前に申し出るのが基本です。
実務上の目安
法律上は2週間で退職できますが、引継ぎや社内調整を考えると、実務では1〜3カ月前に相談することが多く、トラブルを避けやすくなります。特に担当業務が複雑な場合や繁忙期は、余裕を持って日程を調整しましょう。
具体例
- 給与や賞与の締め日:賞与の対象から外れないために、賞与支給のタイミングを確認してから退職日を決める。
- 引継ぎ期間:後任が決まるまでに1カ月程度の引継ぎが必要な業務もある。
手続きと注意点
退職の意思は口頭でも可能ですが、書面で残すと後の誤解を防げます。申し出は直属の上司にまず相談し、就業規則に従って手続きを進めてください。円満に進めるために、会社側と柔軟に日程を調整する姿勢を持つとよいです。
会社が退職日を決めるケース
1) 会社都合退職(整理解雇・倒産など)
会社側が事業縮小や倒産で雇用を維持できない場合、会社が退職日を指定することがあります。例えば倒産手続きで雇用契約が終了する日や、整理解雇で事業所の閉鎖日が退職日になることが多いです。ただし、会社は一方的に不利益な日を押し付けられないルールがあります。解雇の理由や手続きが合理的かどうかが重要です。
2) 有期雇用(契約社員・派遣)の場合
契約期間が決まっている有期雇用では、契約満了日が退職日になります。例:3か月や1年の契約が終わる日です。原則として労働者側から一方的にその前に辞めることは難しく、契約上の取り決めや合意が必要になります。ただし、一定の事情があれば合意のうえで早期に退職できることもあります。
3) 懲戒や業務命令による退職日指定
重大な規律違反があれば懲戒解雇となり、会社が即日退職を命じるケースがあります。こうした場合でも、事実関係の確認や手続きの適正さが求められます。
注意点(押さえておくべきポイント)
- 契約書や就業規則で退職日のルールを確認してください。具体例が分かれば交渉しやすくなります。
- 会社の指定が不当だと感じたら、労働基準監督署や労働相談窓口、労働組合に相談しましょう。
- 有給休暇や給与の精算、社会保険の手続きも退職日に影響します。事前に確認してください。
行動のヒント:退職日をめぐる争いは感情的になりやすいです。事実関係と書類を揃え、冷静に話し合いか相談窓口を利用することをおすすめします。
円満に「自分で決める」ためのコツ
1. まず就業規則を確認する
退職の手続きや必要な期間が就業規則に書かれているかを最初に確認します。通知期間(例:1カ月前)がある場合は、それに合わせて希望日を決めます。規則に沿うとトラブルになりにくいです。
2. 希望日は自分で決める
「◯月◯日退職希望」と希望日を自分で決めます。業務状況や引き継ぎに余裕を持たせた日程にすると受け入れられやすいです。
3. 伝え方は対面で、相談の形で伝える
直属の上司に対面で相談する形で伝えるとスムーズです。「この日で辞めます」と断定するより、「◯月◯日を希望していますが、業務状況を踏まえてご相談させてください」という言い方が望ましいです。こうすると引き継ぎや評価面で揉めにくくなります。具体的な伝え方の例は下記を参照してください。
4. 引き継ぎ計画を用意する
退職希望日を伝える前に、誰に何を引き継ぐか、主要業務のリストと引き継ぎ案を用意します。小さなタスクまで書き出すと説得力が増します。引き継ぎ表やマニュアルを示せば、上司も安心して受け入れやすいです。
5. タイミングと配慮
繁忙期やプロジェクトの節目を避けられるなら配慮します。どうしてもその時期しか難しい事情がある場合は、その理由と代替案を用意して説明してください。
6. 使える言い回し(例)
- 「◯月◯日を希望しております。引き継ぎ案はこのように考えていますが、ご相談させてください。」
- 「業務に支障が出ないよう、残り期間でこの作業は完了させます。引き継ぎは◯さんにお願いする案です。」
7. 感謝と誠意を示す
退職の意向を伝える際は、これまでの経験や協力への感謝を伝えます。誠意ある対応は、評価や今後の関係にも良い影響を与えます。
以上のポイントを押さえれば、円満に「自分で決める」ことができる可能性が高まります。
損しにくい退職日の決め方
転職や退職を損なく進めるための具体的な考え方を、わかりやすく説明します。
転職先が決まっている場合
新しい会社の入社日の前日を退職日にすると、健康保険や厚生年金の継続がスムーズになりやすいです。たとえば入社が4月1日なら退職は3月31日とするのが基本です。社会保険の手続きや被保険者資格の移り変わりで自己負担が少なくなります。
転職先が未定の場合
月末退職が多くの人にとって有利です。在籍している月は会社が社会保険料の一部を負担するため、個人負担が抑えられます。例外もあるので給与明細や社内規定は確認してください。
有給休暇が残っている場合
退職日から逆算して有給を使えるように設定しましょう。有給消化で実働日を減らし、出社義務なしで給与を受け取れます。
決めるときの実務チェック
最終給与、賞与支給日、雇用保険の給付条件、保険証の返却や離職票の発行時期を確認してから日付を確定してください。これらを合わせると損しにくい退職日が見つかります。
退職日を決めるときのチェックポイント表
法律上の期限
- 期間の定めがない雇用:原則として「申し出から2週間後以降」で退職可能です。退職届を出す日と退職希望日を明確にします。
会社ルール(就業規則)
- 就業規則に「〇か月前申告」とある場合はその期限を満たす日を選びます。規則が優先されますので確認を忘れないでください。
社会保険・年金
- 転職あり:新しい会社の入社日前日を退職日にすると社会保険の継続手続きがスムーズです。
- 転職なし:月末退職が多くの場合で手続き上有利です。被保険者期間や年金の扱いを確認してください。
有給休暇の使い方
- 退職日までに消化できる有給日数を逆算して決めます。有給を残すと買い取りや消化の交渉が必要になります。
職場への配慮
- 繁忙期を避け、引き継ぎに必要な期間(資料作成・引継ぎ会・後任教育)を確保できる日を選びます。上司と早めに相談しましょう。
チェックリスト(使える簡易表)
- 法律:申し出日→退職希望日が2週間以上か?(はい/いいえ)
- 就業規則:所定の申告期間を満たしているか?(はい/いいえ)
- 社会保険:転職あり→入社日前日か?/転職なし→月末にできるか?
- 有給:退職日までに消化可能な有給日数を確保しているか?
- 引き継ぎ:引き継ぎ完了までの日数を確保できるか?
- 繁忙期:繁忙期を避けられているか?
上記を1つずつチェックして、必要なら上司や人事と調整してください。明確な日付での申請と記録を残すと後でトラブルになりにくいです。


コメント