はじめに
目的
本記事の目的は、退職前に有給休暇の消化を会社に拒否されたとき、法的にどう扱われるかを分かりやすく伝えることです。弁護士の解説を基に、基本ルール、会社側の言い分が通る場合・通らない場合、実際に取るべき対応を順序立てて説明します。
読者像
- 退職を予定しており有給を使いたい方
- 会社から有給の取得を断られた方
- 会社の対応が不当か判断に迷っている方
本記事で扱うこと(章立ての簡単な説明)
第2章:有給の法的な基本ルールをやさしく解説します。
第3章:会社が有給を拒否できるかどうかを、具体例で検討します。
第4章:退職時の有給は特に認められやすい理由を説明します。
第5章:拒否が違法やパワハラになる典型例を示します。
第6章:会社のよくある言い分を取り上げ、法的評価を行います。
注意事項
記載内容は一般論です。事情が個別に異なることが多いため、具体的な判断は弁護士や労働相談窓口にご相談ください。例:退職日直前に有給を申請して却下された場合など、状況により対応が変わります。
有給休暇・有給消化の法的な基本ルール
概要
有給休暇は労働基準法で労働者に保証された権利です。会社の好意ではなく、一定の条件を満たせば当然に付与されます。社員が有給をもらえるかどうかは会社の自由裁量ではありません。
付与の仕組み
通常、入社後6か月継続勤務し、出勤率が一定以上(例:8割程度)であれば最低日数の有給が発生します。その後は勤続年数に応じて付与日数が増えます。付与は法律のルールに基づき自動的に行われます。
取得日の決め方と会社の対応
取得日は原則として労働者が指定できます。会社は業務に支障がある特別な事情がある場合に限り、時季変更(取得日をずらす)を求められます。その際は具体的な理由を示し、代替の日を提案する必要があります。単に「忙しいからダメ」と告げるだけでは正当とは認められにくいです。
会社が拒否できる場合(例)
・業務上の継続的な支障が客観的に明らかな場合
・他の従業員の休暇と重なり、業務維持が不可能な場合
これらでも会社は代替案を提示する義務があります。
実務上の注意点
申請は書面やメールで記録を残しましょう。退職時の有給消化は扱いが特に重要です。困ったときは労働基準監督署や専門家に相談してください。
会社は有給休暇を拒否できるのか?
概要
会社は原則として有給休暇の取得を拒否できません。合理的な理由なく拒否すると労働基準法第39条違反になり、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)があり得ます。
時季変更権とは
会社には「時季変更権」が認められ、事業の正常な運営を妨げる場合に限り、取得日の変更を求められます。有給そのものを無条件で取り消す権利はありません。
認められる具体的事情(例)
- 代替要員の確保が事実上不可能で業務に重大な支障が出る場合
- 特殊技能を持つ従業員が長期連続で休むと業務継続に著しい影響が出る場合
- 他の従業員と取得が重なり、業務運営が成り立たない具体的事情がある場合
単に繁忙期だから、あるいは人手不足というだけでは不十分です。
会社の対応と従業員の対処法
会社は具体的事情を説明し、代替の取得日を提示する義務があります。従業員は記録(申請書やメール)を残し、説明が不十分なら労働基準監督署などに相談してください。争いを避けるため、まずは話し合いで日程調整を試みるとよいです。
退職時の有給消化は特に「拒否が難しい」
なぜ拒否が難しいのか
退職前の有給は労基法で保護される権利です。会社は業務の都合を理由に時季を変更できます(時季変更権)。ただし、この権利は合理的な範囲に限られます。退職直前の有給申請を一方的に拒むと、違法となる可能性が高いです。したがって、退職日までに希望日に取得させるのが原則です。
会社ができること・できないこと
・できること:業務上の明確かつ合理的な理由がある場合に限り、取得日を変更するよう求める。
・できないこと:就業規則で「退職時の有給禁止」と定め、一切取得させないこと。これは労基法に反し無効です。
未消化の有給と買い取り
退職日までに消化が物理的に不可能な日数については、買い取り(精算)する運用が認められます。ただし、消化可能な日をわざと与えず買い取りだけにするのは問題です。会社はまず取得させる努力を尽くす必要があります。
実務上の対応(社員側)
- 申請は書面やメールで記録を残す。日時と希望日を明確にする。
- 会社が拒否した場合は理由を聞き、代替日を提示してもらう。
- 不当だと感じたら、労働基準監督署や労働相談窓口に相談する。証拠(申請記録、やり取り)を用意しておくと有利です。
短く言うと、退職時の有給は会社が簡単には拒否できません。まずは記録を残し、冷静に交渉することが大切です。
有給休暇拒否が「違法」「パワハラ」になるケース
違法になるケース
正当な理由なく有給取得を拒むと、労働基準法違反になります。例えば、上司が「忙しいから無理」とだけ言って具体的な業務上の支障を示さない場合や、年5日の取得義務(2019年導入)を企業が守らない場合が該当します。違反が認められると事業主に罰則が科されることがあります。
パワハラに該当するケース
取得を妨げるために嫌がらせや不利益な扱いをする行為はパワハラになります。たとえば、有給を申請した社員に対して減給や配置転換、執拗な叱責を行うと、職場の優位性を利用したハラスメントと判断されやすいです。裁判では精神的苦痛を理由に慰謝料が認められた例もあります。
裁判例と実務上のポイント
裁判例は、具体的な妨害行為や上司の態度、会社の就業規則の運用実態を重視します。単に「業務が忙しい」というだけでは不十分で、代替要員の手配状況や業務調整の努力が問われます。
従業員が取るべき対応
申請や指示はメールなどで記録を残してください。会社の人事や労働基準監督署に相談し、必要なら弁護士に相談することを検討してください。証拠を揃えることが解決を早めます。
典型的な「違法またはグレー」な会社の言い分と法的評価
この章では会社がよく使う言い分を挙げ、それぞれをやさしく評価します。具体例と対応策も添えます。
「繁忙期だから全員ダメ」
説明:繁忙期を理由に一律で申請を却下します。例:年度末や決算月は全員不許可。
法的評価:一律の拒否は合理性が乏しいと判断されやすいです。業務に重大な支障が実際にある場合は拒否できる余地がありますが、会社は具体的根拠や代替案を示す必要があります。
対応策:希望日を複数提示し、業務の代替案(引き継ぎや交代)を提案して記録を残してください。
「代わりの人がいないから無理」
説明:代替要員不在を理由に断るケース。
法的評価:単に人数不足を挙げるだけでは不十分です。具体的な業務の不可欠性を説明する責任があります。
対応策:短期の休暇や時期変更で調整可能か話し合い、書面で理由を求めましょう。
「退職間際だから認めない/有給は会社のもの」
説明:退職時の消化を拒む、または有給を会社財産扱いする発言。
法的評価:有給は労働者の権利です。退職直前の消化は特に拒否が難しく、未消化分は賃金相当額の請求につながることがあります。
対応策:退職手続きと同時に有給の消化希望を文書で出し、拒否された場合は労基署や専門家へ相談してください。
相談窓口の活用:会社の説明が納得できないときは、労働基準監督署・労働相談センター・弁護士に相談しましょう。記録(申請書・メール・回答)は証拠になります。


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