はじめに
本記事の目的
本記事は、懲戒解雇を受けた場合の給与の扱いについて、分かりやすく整理することを目的としています。法律用語をできるだけ噛み砕き、実務で気をつけたい点を具体例で補足します。
対象となる方
- 懲戒解雇を受けた、またはその可能性がある労働者
- 人事・総務担当者や中小企業の経営者
この記事で分かること
- 懲戒解雇後に会社が給与を支払う義務の有無
- 未払い給与の支払期限や請求方法
- 損害賠償請求と給与の相殺ができるかどうか
- 解雇予告手当の支払い要否
- トラブルを防ぐための実務上の注意点や相談窓口
読み方のアドバイス
各章で具体例を提示します。まずは第2章から順に読み進めると理解が深まります。法律の解釈に迷った場合は、労働相談窓口や弁護士に相談することをおすすめします。
懲戒解雇と給与の基本的な関係
概要
懲戒解雇を受けても、それまで働いた分の給与(賃金)は必ず支払われます。労働基準法は賃金全額払いの原則(第24条)を定めており、解雇の種類にかかわらず対価は支払われます。
支払期限のルール
通常は就業規則や労使の取り決めどおりの支払日に支払えば問題ありません。ただし従業員が請求した場合は、懲戒解雇日から7日以内に支払う必要があります(労基法23条)。
控除や差引の扱い
会社は法定控除(社会保険料、源泉徴収など)や従業員の同意がある場合を除き、勝手に賃金を差し引けません。懲戒の名目で賃金を全額取り上げることは原則認められません。
遅延や未払いがある場合
支払いが遅れれば割増賃金の請求など労働基準監督署への相談や労働審判の対象になります。従業員は未払い分を請求できます。
実務上の注意点
最終給与の計算は明確にし、明細を出すことをおすすめします。問題が起きたら書面で記録を残し、必要なら労基署や専門家に相談してください。
給与と損害賠償請求・相殺の可否
概要
会社に損害が生じた場合でも、原則として給与から勝手に天引き(相殺)することはできません。給与は生活の基盤であり、法律上も保護されています。
相殺が認められない理由
給与は労働の対価であり、会社が一方的に差し引くと生活が立ち行かなくなるためです。たとえ横領や故意の過失で損害が出た場合でも、直接差し引くことは原則として禁止されています。
例外:従業員の自由意思による同意
ただし、従業員が明確に自由意思で書面などにより同意した場合は、給与からの差し引きが可能になります。同意は強制や脅しがないことが重要です。
実務上の注意点
- 同意を取る場合は書面で金額、期間、理由を明示すること。
- 過去の未払い賃金や最低賃金を下回らないことを確認する。
従業員側の対処
会社が不当な天引きを行ったら、まず労働基準監督署や弁護士に相談してください。証拠(給与明細や同意書)を保存すると解決が早まります。
企業側の手順
損害賠償を請求する場合は、まずは話し合い・損害算定・書面合意を経て、同意が得られなければ法的手続きを検討してください。裁判での回収や保全処分などが必要になります。
具体例
横領で50万円の損害が出ても、従業員が給与差引に同意しない限り、会社は給与から直接差し引けません。会社は請求訴訟を起こすか、示談で合意を目指します。
解雇予告手当の支払い
概要
労働基準法第20条では、解雇する場合は原則として少なくとも30日前に予告するか、30日分の平均賃金を支払う必要があります。懲戒解雇でも即日解雇にする場合は、この解雇予告手当の支払い義務が生じます。
いつ手当が必要か
- 会社が30日以上前に解雇を予告しない場合は手当が必要です。即日解雇のときは原則として支払います。
- 労働者に「責めに帰すべき重大な理由」があり、労基署が認定すれば、予告や手当の不要が認められる場合があります。たとえば、業務上の横領や暴力行為など信頼関係が著しく破壊されたケースです。
手当の計算例
解雇予告手当は平均賃金の30日分です。たとえば月給30万円の人の平均賃金を1日当たり1万円とすれば、手当は30万円になります。日給制や変動する賃金も平均で計算します。
支払いの方法・タイミング
解雇日またはそれ以前に一括で支払うのが基本です。給与と区別して明細を出すと誤解が生じにくくなります。
労使それぞれの対応
- 労働者:解雇理由や手当の不支払いが疑われるときは、まず会社に書面で確認し、労基署や労働相談へ相談してください。必要なら労働審判や弁護士に相談することをおすすめします。
- 会社:即時解雇する場合は証拠を残し、手当を支払うか労基署の判断を求める手続きを検討してください。証拠不十分だと後で争いになります。
実務上の注意点
解雇の正当性と手当の支払いは別問題です。解雇が正当でも解雇予告手当の支払いを怠ると違法となることがあります。疑問がある場合は専門家に相談してください。
懲戒解雇時の注意点とトラブル回避
はじめに
懲戒解雇は会社側にも従業員側にも重大な影響を与えます。証拠や手続きに不備があると不当解雇と認定される可能性が高いため、慎重に進める必要があります。
証拠収集のポイント
- 事実を時系列で整理します。日付・場所・関係者を明確にします。
- メールや勤怠記録、監視カメラ映像など客観的な記録を保存します。
- 証人の証言は書面で残すと有効です。口頭だけで済ませないでください。
(例)無断欠勤なら勤怠打刻、上司への連絡履歴、注意記録を揃えます。
手続き上の注意点
- 就業規則の懲戒条項に基づくことを確認します。
- 弁明の機会(弁明聴取)を必ず与え、内容と結果を文書で記録します。
- 解雇理由や日付を明記した書面を交付します。
労使コミュニケーション
- 冷静で丁寧な説明を心がけます。感情的にならず事実を示します。
- 従業員からの説明や反論も記録します。早めに対話を図ることで紛争を防げます。
事前対応と予防策
- 就業規則を実態に合わせて整備し定期的に周知します。
- 軽微な違反には注意・指導・戒告の段階を設けます。
- 教育や研修でルール理解を深めます。
トラブルが発生したときの対応
- 労務担当や法務、外部の弁護士に速やかに相談します。
- 訴訟リスクを抑えるため証拠と手続きの記録を整理します。
- 必要に応じて話し合いや調停で解決を図ることも検討します。
関連するその他の事項
退職金の扱い
懲戒解雇では退職金が不支給または減額されることがあります。多くの場合は就業規則や退職金規程に基づいて判断します。例えば「重大な背信行為があれば支給しない」と規定されているなら会社は不支給を主張します。ただし、規程が不明確だったり運用が一貫しない場合は、裁判や労働紛争で支給が認められることもあります。
有給休暇の扱い
有給休暇の消化や未消化分の取り扱いは就業規則や会社の慣行によります。退職前に消化を進める、あるいは会社の規定で清算があるか確認してください。証拠として休暇申請の記録やメールを残すと安心です。
減給処分との違い
減給処分は懲戒の一種ですが、法律上の上限や手続きが定められています。懲戒解雇は雇用関係を解除する重い処分であり、性質や扱いを区別して考える必要があります。
実務上の注意点
就業規則や労働契約書をまず確認してください。処分に納得できないときは、会社に説明を求め、記録を残しましょう。必要なら労働相談窓口や弁護士に相談して対応を検討してください。
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