はじめに
本資料の目的
本資料は、「損害賠償請求書」について、初めての方でも分かりやすく理解し、実際に作成できるように案内することを目的としています。専門的な法律用語は最小限にし、具体例を交えて説明します。
対象読者
個人・事業者を問わず、事故や契約違反などで損害を被り、相手に賠償を求めたい方を想定しています。相手に文書で請求したいが、何を書けばよいか分からない方に役立ちます。
本章での内容
このはじめにでは、本資料の全体構成と進め方を示します。次章以降で、損害賠償請求書の定義、法的根拠、記載項目、ひな形、作成時の注意点、使われる場面、専門家への相談について順に詳しく説明します。実務で使える実例も掲載しますので、参照しながら進めてください。
損害賠償請求書とは何か
損害賠償請求書は、相手の不法行為や契約違反などで被った損害について、金銭での補償を正式に求めるための文書です。請求の意思をはっきり示し、後でトラブルになったときの証拠にもなります。
どんな場面で使うか
- 交通事故で車や身体に被害を受けたとき
- 契約が守られず損害が出たとき(納品遅延や不履行など)
- 名誉毀損やプライバシー侵害で精神的被害があるとき
- 労災や職場のトラブルで金銭補償が必要なとき
具体的な例を添えると相手に状況が伝わりやすくなります。
主な役割
- 請求の意思表示:損害と請求額を明確に伝えます。
- 証拠としての機能:後で示せる書面があることで交渉が進みやすくなります。
- 交渉の出発点:和解や支払いの話し合いを始めるための基礎になります。
気をつけるポイント(作成のイメージ)
- 事実関係を時系列で書く
- 損害の内訳と合計を示す(領収書や診断書を添付)
- 支払い期限と振込先、連絡先を明記する
- 送付は書留や内容証明で、控えを保管する
これらを押さえると、相手に誠実に請求する姿勢が伝わり、解決につながりやすくなります。
損害賠償請求の法的な根拠と成立要件
法的な根拠
損害賠償請求は主に二つの法的根拠に基づきます。
- 債務不履行:契約や約束に基づく義務を果たさなかった場合に発生します。例えば、納品が遅れて売上を逃した場合などです。
- 不法行為(民法709条):故意または過失で他人に損害を与えた場合に成り立ちます。交通事故や施設の安全管理の不備などが該当します。
成立要件(共通的なポイント)
損害賠償が認められるには、次の要点を満たす必要があります。
- 損害の発生:実際に損失や費用が生じていること。領収書や写真で示します。
- 相手の責任(違反や過失):契約違反や過失があったことを示す必要があります。契約書や状況の記録が有力です。
- 因果関係:相手の行為と損害との間に合理的なつながりがあること。出来事の経過や専門家の意見で示します。
特別な注意点
- 無過失責任や使用者責任など、故意・過失を問わない場合もあります(製造物責任など)。
- 請求側が立証責任を負います。証拠を早めに集め、日付や時系列を整理してください。
損害額の明確化のコツ
実費(修理費、医療費、領収書)、逸失利益(合理的な算定方法で計算)、慰謝料(状況に応じて)の順に整理すると説得力が増します。文書や写真、証人の陳述をそろえておくと実務で役立ちます。
損害賠償請求書に記載すべき基本項目
1. タイトルと作成日
・文書の上部に「損害賠償請求書」と明記し、作成日を記載します。日付は証拠になります。
2. 当事者の情報
・請求者(あなた)の氏名・住所・連絡先・押印(または署名)
・相手方の氏名(法人名)・住所・連絡先が分かる範囲で記載します。
3. 損害発生の事実(いつ・どこで・何が起きたか)
・発生日時、場所、出来事の具体的な経緯を時系列で簡潔に書きます。
・目撃者や現場写真の有無も添えておくと説得力が増します。
4. 賠償請求の意思表示
・「賠償を請求する」旨を明確に記載します。支払期限や分割払いの可否もここに示します。
5. 損害の金額と内訳
・請求する総額を明示し、項目ごとに内訳(修理費、治療費、休業損失など)と算出根拠を示します。
・領収書や見積書を番号付きで添付すると分かりやすいです。
6. 支払方法と期限
・振込先口座(銀行名・支店・口座番号・名義)や現金受領方法、支払期限を記載します。
7. 添付資料一覧
・証拠となる書類(写真、診断書、領収書、見積書、契約書など)を列挙して添付します。
8. 備考・連絡先
・交渉窓口や連絡優先時間など、連絡方法の希望を明記しておくと対応がスムーズです。
損害賠償請求書の具体例(ひな形)
以下は、交通事故を例にした損害賠償請求書のひな形と、その各部分の説明です。
ひな形(例)
令和〇年〇月〇日
(相手方)住所・氏名 様
(請求者)住所・氏名
令和〇年〇月〇日午前〇時頃、(場所)にて発生した交通事故により、私は頚椎捻挫および(骨折等)の傷害を受けました。これにより発生した損害は次のとおりです。
- 治療費:〇〇万円(領収書添付)
- 通院交通費:〇〇万円(交通費明細添付)
- 通院慰謝料:〇〇万円(通院日数:〇日)
- 休業損害:〇〇万円(給与明細添付)
- 物損:〇〇万円(修理見積書添付)
上記事故の原因は、貴殿の前方不注意によるものと認められます。つきましては、上記金額合計〇〇万円の支払いを請求いたします。
本書到達後2週間以内にご回答ください。期限までにご回答がない場合は、法的手続きへ移行します。
令和〇年〇月〇日
請求者住所・氏名
(添付書類)
・診断書、領収書、交通費明細、休業を証明する書類、修理見積書、事故状況写真等
各項目の説明
- 日付・宛名:受け取る相手が特定できるよう、正しい住所・氏名を記載します。
- 事故の概要:発生日時・場所・負傷状況を簡潔に記載します。事実関係を明確にするため重要です。
- 損害の明細:金額と根拠(領収書や明細)を付けます。金額は合計を明記します。
- 責任の根拠:相手の過失を簡潔に示します。言い切る表現は避けず、状況を記載します。
- 回答期限:通常1~2週間程度を設定します。期限を明確にすることで対応を促します。
- 添付書類:請求の裏付けになる書類を一覧にして添付します。
送付方法と注意点
- 内容証明郵便や簡易書留で送付すると記録が残ります。コピーを必ず保管してください。
- 金額は証拠に基づいて算出します。過大請求は相手との信頼関係を損ねる恐れがあります。
- 回答がない、または争いになる場合は、弁護士や交通事故に詳しい専門家へ相談してください。
以上を参考に、具体的な事実や証拠に合わせて内容を調整してください。
作成時の注意点
1. 記載内容の正確性
日付、氏名、住所、金額は誤りがあると請求の効力が弱まります。日付は西暦で記載し、金額は内訳(損害発生日時、単価、合計)を明記します。
2. 証拠書類の添付
診断書、領収書、修理見積、交通費明細などを必ず添えます。添付書類には通し番号を付け、本文で番号を参照すると読み手に親切です。
3. 内容証明郵便の利用
送付事実を証明するために内容証明郵便を使うと安心です。送付日や送達状況が争点になった場合に有利になります。
4. 消滅時効の中断
請求書の送付は時効中断の一手段です。相手に届いた記録を残すことで時効の進行を止める効果が期待できます。
5. 文面の書き方のポイント
感情的な表現は避け、事実と要求を簡潔に示します。期日(支払期限)と支払方法、連絡先を明確に記載してください。
6. 送付後の対応
送付後は記録を保存し、期限を過ぎても連絡がなければ督促や専門家への相談を検討します。証拠を整えておくことが重要です。
損害賠償請求書が使われる主な場面
損害賠償請求書は、被害を受けた側が相手に損害の補填を求めるときに使います。代表的な場面を具体的に説明します。
交通事故
人身や車両の損害が発生した場合です。治療費、休業補償、修理代、慰謝料などを請求します。添付する証拠は診断書、事故証明、修理見積、領収書などです。相手側の保険を利用する場合は保険会社名や担当者も明記します。
契約違反(債務不履行)
納期遅延や仕様違反などで損害が出た場合に使います。契約書の写し、やりとりの記録、被った金額の内訳を示します。逸失利益や代替手配にかかった費用も明確にします。
名誉毀損・誹謗中傷
SNSや掲示板での中傷に対して、投稿の削除と慰謝料を求めます。スクリーンショット、投稿日時、発信元の情報を保存して添付します。謝罪文の提出を請求することも多いです。
労働災害
業務上のけがや疾病で治療費や休業補償を請求するときに用います。診断書、就業記録、事故発生時の状況説明を添付し、労災保険との関係も明記します。
配偶者の不貞行為(不倫)
精神的苦痛に対する慰謝料請求で使います。写真やメッセージ、調査報告など不貞を示す証拠をまとめ、請求相手(配偶者・第三者)を特定して送ります。
その他の場面
製造物責任(欠陥商品の被害)、近隣トラブル、消費者被害など多岐に渡ります。被害の性質に応じて証拠や請求項目を変えて作成します。
注意点として、請求には時効や証拠の有無が影響します。冷静に事実を整理し、必要なら専門家に相談すると安心です。
専門家への相談のすすめ
なぜ早めに相談するか
損害賠償は金額や事実関係が複雑になりやすく、放置すると証拠が残らないことがあります。早めに専門家へ相談すると、証拠の保存方法や請求の方針を適切に決められます。時間の節約と請求成功の可能性が高まります。
どの専門家に相談するか
・弁護士:訴訟や示談交渉、法的根拠の精査が必要なときに最適です。\n・司法書士:簡易な登記や債務整理の手続きが中心のときに相談します。\n・消費者相談窓口や保険会社:事前の情報収集や手続き案内に役立ちます。
相談前に準備するもの
事故報告書、領収書、写真、メールやLINEの記録、診断書など証拠をまとめておきます。要点を箇条書きにすると相談がスムーズです。
費用と効果
相談料や着手金、成功報酬がかかる場合があります。費用対効果を確認し、見積もりを取って比較してください。
相談後の流れ
専門家は事実確認のうえ方針を提示します。その後、交渉、示談、訴訟と段階的に進めます。迷ったときは複数の専門家に意見を求めると安心です。
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