はじめに
退職の意思を伝えるときに「退職願」「退職届」は必要か、会社に提出しなければならないのか——こうした疑問を持つ方は多いです。本記事は、法的な側面と実務上の注意点を分かりやすく解説します。
まず本章では、なぜこのテーマが大事なのかを整理します。口頭で退職を伝えるケースや、書面を出さずに進めるケースもありますが、書面の有無で手続きやトラブルの発生しやすさが変わります。例えば、退職日や有給の扱いで認識のズレが起きると、後で取り戻すのが大変になることがあります。
以降の章では次の点を詳しく扱います。
- 退職願と退職届の違い(第2章)
- 法的な提出義務の有無(第3章)
- 提出しなかった場合のリスク(第4章)
- 会社都合退職の対応(第5章)
- 就業規則の確認の重要性(第6章)
読者の立場(正社員・契約社員・パート・アルバイト)に応じた実務的な注意点も盛り込みます。これから順に見ていきましょう。
退職願と退職届の違い
はじめに
退職の意思を伝える書類には主に「退職願」と「退職届」があります。見た目が似ていても扱いが異なるため、目的に合わせて使い分けることが大切です。
退職願とは
退職願は会社に退職を願い出る書類です。会社の承諾を得て退職が成立する「合意解約」の申し込みに当たります。たとえば、まず上司に相談してから正式に退職日を決めたい場合に使います。会社側と話し合いで条件を調整できます。
退職届とは
退職届は一方的に退職の意思を示す書類です。原則として会社の承諾を必要とせず、提出時点で効力が生じます。取り下げが難しいため、即日退職や最終決断を示す際に用います。
主な違い(ポイント)
- 承諾の有無:退職願は承諾が必要、退職届は不要
- 効力のタイミング:退職願は合意成立で効力、退職届は提出で効力
- 撤回の可否:退職願は話し合いで撤回可、退職届は原則不可
実例と注意点
例)円満に辞めたい場合は退職願で相談して決めると良いです。急な事情でどうしても退職を決めるときは退職届を使う場面があります。どちらを出す場合も、提出前に上司と口頭で相談し、書面のコピーを保管してください。
法的な提出義務の有無
正社員(無期雇用)の場合
民法第627条1項により、正社員(無期雇用)はいつでも退職を申し出られ、原則として2週間後に退職が成立します。退職願や退職届を出すこと自体は法的義務ではありません。口頭での申し出でも法的には足りますが、多くの企業は書面を求めて証拠にしています。
契約社員・パート・アルバイトの場合
契約期間が定められている場合は、基本的に契約期間満了が原則です。期間中に退職するには、契約や就業規則で定めた手続きや、雇用期間に関する条項を確認してください。固定期間の契約では、事前に合意や必要な通知期間が求められることがあります。
書面提出の実務的意義とポイント
書面は退職の意思をはっきり残す証拠になります。口頭で伝えても不安なときは、退職届やメールで意思を書面化し、控えを保管してください。上司や人事に事前に相談し、引き継ぎや最終出勤日の調整を行うとスムーズです。
提出しなかった場合のリスク
口頭だけだと起きやすいトラブル
口頭で退職の意思を伝えることは法的に無効ではありませんが、後で「言った・言わない」の争いになります。たとえば上司に直接伝えたが、上司が人事へ報告していない、あるいは記録が残らない場合、会社側が退職を認めない主張をすることがあります。
具体的に起こる影響
- 退職日や最終出勤日の認定が不明確になり、給与や残業代、賞与の支払いで争いが生じる可能性があります。
- 有給休暇の扱いや未払いの手当、社会保険や雇用保険の手続き、離職票の発行時期に影響が出ます。
- 会社が意思表示を否定すると、解決に時間がかかり精神的負担や金銭的損失が増えます。
実務的に避ける方法(具体例)
- 退職届を作成して手渡すか、退職の意思を明記したメールを送信し、送信済みの控えを保管します。
- 重要な場合は内容証明郵便を使うと証拠が残せます。証人として同席してもらうのも有効です。
- 人事担当と上司の両方に伝え、受領の確認(受領印や返信メール)を必ず取得してください。
これらを行うことで、言った・言わないの争いを未然に防ぎ、スムーズに退職手続きを進めやすくなります。
会社都合退職の場合の対応
- はじめに
会社の倒産、解雇、退職勧奨など会社側の事情で退職する場合(会社都合退職)は、原則として退職願や退職届を自ら提出する必要はありません。会社が解雇や合意で退職手続きを進めるからです。
- 会社から提出を求められたときの対応
会社から書面の提出を求められたら、必ず「会社都合退職である旨」を明記してください。記載例は次の通りです。
記載例:
「私は、20XX年X月X日付で会社都合により退職いたします。」
日付、氏名を忘れずに書き、押印または署名をしてください。会社が用意した書式があれば写しを取って保管します。
- その後の手続きと注意点
離職票の受取りや失業保険の手続きに影響します。会社都合か自己都合かで給付開始時期や給付日数が変わるため、会社都合であることを明確にしておくと有利です。退職金や未払賃金の扱いも確認してください。
- トラブルへの備え
会社と意見が分かれるときは、労働基準監督署やハローワーク、労働組合、弁護士に相談してください。書面は必ずコピーを残し、メールや記録でやり取りを保管します。
就業規則の確認の重要性
就業規則は最初に確認するべき書類です
退職に関する細かい手続きや必要書類、提出先、提出期限などは就業規則に書かれていることが多いです。まず就業規則を確認し、自社のルールに従って手続きを進めることが肝心です。
確認すべき具体項目
- 提出書類と形式(退職願/退職届、フォーマットの有無)
- 提出期限や申告期間(例:退職の◯日前)
- 申請経路(直属の上司→人事など)
- 有給休暇や退職金の取り扱い
- 会社側の手続き(最終給与、雇用保険手続きの窓口)
実務的な確認方法
イントラや配布された冊子でまず探します。見つからないときは人事窓口に問い合わせて、該当条項の写しをもらいましょう。規則に明確な期限があれば、そのとおりに日程を調整してください。口頭での確認だけでなく、メールなど書面で記録を残すと安心です。
注意点
規則に記載がない場合は社内の慣行や労働法の一般ルールが適用されます。不明点があれば早めに人事や外部の相談窓口に相談しましょう。
まとめ
退職願や退職届は法的に必須ではないことが多いです。ただ、トラブルを防ぎ円満に辞めるために、書面での提出をおすすめします。正社員は原則として事前に意思表示すれば退職できます(一般に2週間前が目安)。契約社員・パート・アルバイトは契約期間の確認が大切で、期間内に辞める場合は契約内容に従って手続きを進めてください。
口頭で退職の意思を伝えても有効ですが、書面やメールで記録を残すと安心です。会社側から退職届などの提出を求められたときは、記載内容に注意して署名・捺印を行い、受領証をもらうなど証拠を残してください。会社都合の退職では会社が手続きを行う場合が多く、本人の提出は不要なことがありますが、求められれば冷静に対応しましょう。
最後に、就業規則や雇用契約書を確認し、不明点は人事担当や労働相談窓口に相談してください。書面を用意し、やさしく丁寧に意思を伝えることで、トラブルを避けて気持ちよく退職できます。


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