はじめに
目的
この記事は、有給休暇を消化している期間中の「雇用・在籍の扱い」について、実務で困らないように分かりやすく説明することを目的としています。法律用語を並べるだけでなく、実際の職場で起きやすい場面を例にして解説します。
読んでほしい人
- 退職前に有給を使おうと考えている人
- 会社の対応がよく分からず不安な人
- 派遣社員やパートで働く人も含め、在籍の扱いを確認したい人
本記事の構成
全9章で、基本的な権利と義務、転職や副業の注意点、履歴書の書き方、そして退職時のトラブル対応まで順を追って説明します。各章は短く実務に使いやすい形にしています。章末にまとめはありませんので、必要な章だけを読み返して使ってください。
読み方のポイント
具体例を交えて説明しますので、自分の状況に当てはめて読み進めてください。専門的な判断が必要な場合は、労働相談窓口や弁護士に相談することをおすすめします。
有給消化中の「在籍扱い」とは
定義と基本
有給休暇を取得している期間でも、社員は会社に在籍している扱いになります。出勤していなくても雇用関係は継続し、契約上は引き続き社員です。
最終出勤日と退職日の違い
退職日は会社に在籍している最後の日です。最終出勤日より退職日が後になることが多く、有給を使えば最終出勤日から退職日までを休み扱いにできます。
給与・保険の扱い
有給消化中も給与は通常通り支払われます。社会保険・雇用保険の加入状態も継続するため、保険料や給付の条件に影響しません。
具体例
最終出勤日が9月15日、退職日が9月30日で、有給が15日ある場合、9月16日以降を有給消化にして9月30日に退職できます。
注意点
有給の取得は会社の規定や申請手続きに従います。企業によっては調整や承認が必要です。退職前に手続き方法を確認してください。
有給休暇消化中の権利と義務
給与・社会保険の扱い
有給休暇を取得しても給与は通常通り支払われ、雇用保険や健康保険、厚生年金などの社会保険も継続します。たとえば月給制の社員が有給で1週間休んでも、給与が減らず保険も止まりません。
賞与(ボーナス)の扱い
賞与支給日が有給期間中にあっても、基本的に賞与の対象になります。会社の支給ルールや計算方法により扱いが異なる場合があるので、就業規則や人事に確認してください。
副業・他社での就業について
労働基準法は原則として複数企業での就業を禁止していませんが、会社の就業規則で副業を制限する場合があります。有給消化中に他社で働く予定があるときは、事前に規則を確認し、必要なら申請や届出を行ってください。例:Aさんは就業規則で副業届が必要だったため、休暇開始前に届け出を出しました。
会社への配慮と禁止行為
有給は法的な権利ですが、勤務先の信頼を損なう行為(同業他社で機密情報に触れるなど)は避けるべきです。明らかに会社の利益を害する場合、就業規則に基づく処分の対象になり得ます。
手続きと相談のすすめ
不安があれば、人事や労働組合に相談してください。書面での確認や、必要な届け出を残すことで後のトラブルを防げます。
有給消化中の転職活動・入社について
在籍扱いのまま有給を消化している間は、法的には前職の社員です。つまり、同時に別の会社で正式に働き始めると二重就労の状態になり、就業規則や雇用契約の「副業禁止」規定に抵触する可能性があります。
・在籍扱いが意味すること
前職に在籍しているため、給与や社会保険の扱い、就業規則の適用は基本的に前職側が続きます。会社の許可なく同時に入社すると懲戒の対象になることがあります。
・転職活動中の注意点
面接や選考は問題ありませんが、入社の意思表示や出社開始日は慎重に決めてください。内定が出たら就業開始日をいつにするか、必ず確認しましょう。
・入社日の決め方の実務的なコツ
多くの場合、トラブル回避のため新しい会社の入社日を前職の退職日(有給終了日)以降に設定します。例:前職の最終出社が3月末で有給消化が4月いっぱいなら、新会社の入社日は5月1日以降にするのが無難です。前職と新職の両社が書面や口頭で許可すれば例外的に早めることも可能ですが、承諾を文書で残すと安心です。
・実務上の連絡と手続き
新しい勤務先には入社可能日を正直に伝え、必要なら入社日調整の相談をしてください。前職には退職手続きや有給消化期間の扱いを再確認し、保険や年金の手続き時期も見通しておくと安心です。
派遣社員やパート・アルバイトの場合
概要
派遣社員やパート・アルバイトも、条件を満たせば有給休暇を取得できます。ただし雇用形態や契約形態により取り扱いが変わるため、就業規則や契約書を必ず確認してください。
有給取得の基本条件
- 継続勤務が6か月以上であること
- 出勤率(所定労働日数の8割以上)が基準を満たすこと(勤務日数に応じて日数が比例付与されます)
具体例:週3日勤務の方は、所定日数に応じた付与日数になります。
派遣社員特有の注意点
- 同じ派遣会社に在籍し続けている場合、派遣先が変わっても継続勤務と見なされることがあります。ただし、派遣先との契約が切れて派遣会社を退職した場合は有給を使えないケースがあります。
- 派遣先を途中で変更する際は、派遣会社に有給の残日数や取得手続きを確認してください。
パート・アルバイトの扱い
- 労働日数や時間に応じて有給日数が按分されます。短時間勤務でも条件を満たせば取得可能です。
- 給与の支払いや有給の取得方法は会社ごとに違うため、事前にルールを確認してください。
手続きと確認ポイント
- 契約書と就業規則の有給に関する箇所を確認する。2. 派遣なら派遣会社、人なら労務担当に問い合わせる。3. 申請は書面やメールで残すと後で説明しやすいです。
具体例
- 例1:派遣会社Aに2年在籍、派遣先が変わってもAに在籍し続ける場合は有給を消化できる見込みです。
- 例2:派遣契約満了で派遣会社を退職する場合は、残日数の買い取り(退職時の精算)や未消化の扱いを確認してください。
必要な確認や相談先を明記し、早めに手続きを進めることをおすすめします。
履歴書の記載方法
基本の書き方
有給消化中は在籍が続いているため、勤務期間欄には「在籍中(退職予定日:YYYY年MM月DD日)」または「現在に至る(退職予定日:YYYY年MM月DD日)」と記載します。最終出勤日ではなく、会社に届け出た正式な退職日(雇用契約上の退職日)を記入すると正確です。
具体例
- 勤務期間:2018年4月〜在籍中(退職予定日:2025年11月30日)
- 入社可能日:2025年12月1日(退職日翌日)
職務経歴書や応募書類での補足
職務経歴書には「有給消化中のため現職での最終出社は○月○日、雇用契約上の退職日は△月△日」と短く注記すると分かりやすく伝わります。引継ぎ状況や入社可能時期も簡潔に書くと採用担当者が判断しやすくなります。
注意点
退職予定日は会社の記録と一致させ、虚偽の記載は避けてください。面接で在籍状況や入社可能日を聞かれたら、現在在籍中であることと、具体的な入社可能日をはっきり伝えましょう。
退職時の有給消化を拒否された場合
概要
退職時の有給休暇は、原則として雇用期間中であれば会社は消化を拒めません。退職の理由(自己都合・会社都合)に関係なく、時季変更権は退職直前には通常行使できません。会社が認めない場合でも対応策があります。
まず確認すること
- 残日数を確かめる(就業規則や給与明細、出勤記録で確認)。
- 申請方法と提出先を明確にする(口頭だけでなく書面やメールで申請する)。
拒否されたときの対応
- 書面で再度申し入れする(「●月●日から●日まで有給消化を希望します」等)。
- 回答がない、または拒否されたら労働基準監督署や労働相談窓口に相談する。退職日に有給が残る場合、未消化分は金銭で清算されることが多いので、賃金として請求できます。
証拠を残す
申請した日時ややり取りのメール、上司の応答を保存してください。退職届や雇用契約、給与明細も役立ちます。
外部相談先
労働基準監督署、労働相談センター、弁護士や労働組合に相談してください。まずは相談窓口に相談して状況に合った助言を得ると安心です。
有給休暇が残ったまま退職した場合
概要
有給休暇は在籍している間に取得できる権利です。退職日を過ぎると原則として消滅します。未消化分を会社が買い取る義務は基本的にありません。
退職後の扱い
退職日以降は有給の取得対象にならないため、残日数は消滅します。会社によっては独自の取り決めで買い取りや清算を行うことがありますが、法的な義務とは別です。
退職前の対応(おすすめの手順)
- 残日数を勤怠明細や就業規則で確認する
- 退職意思を伝える前に、消化計画を立てて上司と相談する
- 取得申請は書面やメールで記録を残す
- 最終出勤日と有給消化の組み合わせを調整する
会社が消化を認めない場合
まず理由を確認し、就業規則を確認してください。交渉で解決しない場合は労働基準監督署などに相談できます。ただし、退職後に遡って有給を請求するのは難しいケースが多いです。
注意点
就業規則や雇用契約で特別な取り決めがある場合があります。転職や退職のスケジュールは有給消化を最優先に計画してください。したがって、退職前にしっかり消化することが重要です。
実務上の注意点・まとめ
有給消化中は「在籍扱い」です。社会保険・雇用保険・給与・賞与などは在籍者基準で処理されます。実務では制度と運用の違いが問題になるため、事前の確認と記録が大切です。
まず会社のルールを確認
- 就業規則や就業規程で有給中の副業・転職活動に関する規定を確認します。転職先の就業条件も確認してください。
実務上の手順(例)
- 有給申請は書面かメールで行い、受領の証拠を残します。
- 引継ぎ資料と業務の担当者を早めに決めると混乱が少なくなります。
- 給与や保険の処理について人事に確認し、疑問点は文書で受け取ります。
注意点とトラブル回避
- 副業をする場合は会社が認めるかを必ず確認してください。無断で行うと懲戒の対象になることがあります。
- 転職先の入社日と有給消化終了日を重ねる場合、在籍証明や給与処理の整合性をチェックします。
- 有給消化を拒否されたときは、記録をとり労働基準監督署や労働相談窓口に相談する準備をします。
短いチェックリスト
- 有給申請の証拠を残す
- 引継ぎと担当者を決める
- 人事へ給与・保険の処理を確認
- 副業や転職先の規則を確認
円満退職のポイントは早めの連絡と丁寧な引継ぎです。制度と実務を正しく理解して進めてください。


コメント