はじめに
本記事は、離職票の「賃金額A欄・B欄」の正しい記載方法と、通勤手当の取り扱いをやさしく丁寧に解説することを目的としています。離職票は失業保険の手続きで重要な書類です。記載の仕方一つで手当の額や手続きに影響が出ることがありますので、実務で書く方や受け取る方にとって役立つ内容を心がけました。
この記事で学べること
- 離職票の役割と全体像
- A欄・B欄の違いと記載のルール
- 賃金額に含めるべき項目(通勤手当を含む)
- 記載例と具体的な計算方法
- 賃金額が失業手当に与える影響と注意点
対象となる方
- 事業主や人事担当者で離職票を作成する方
- 離職票を受け取り、失業手当を申請する方
- 書き方に不安があり、基本を確認したい方
各章では具体例や図式を使い、専門用語はできるだけ減らして説明します。次章から順に読み進めると理解が深まります。
離職票とは何か?その役割
離職票の定義
離職票(離職証明書)は、退職した人が失業手当を申請するときにハローワークへ提出する書類です。雇用保険の受給に必要な公式書類で、退職日や賃金の記載が入ります。
いつ使うか
離職後、失業手当を受けたい場合に提出します。手続きの際に離職理由や賃金欄を確認され、支給可否や額の判断材料になります。
企業の記載義務と重要性
事業主は正確に記載する義務があります。賃金額の誤りは受給額や給付開始日に影響します。たとえば残業代を抜かすと受給額が下がることがあります。
ハローワークでの扱い
ハローワークは離職票を基に被保険者期間や賃金日額を計算します。不明点があれば企業と確認を求めることがあります。
ポイント(実例)
- 退職理由は受給手続きに直結します
- 賃金は賞与・手当の扱いで判断が変わります
正確な記載がスムーズな受給につながります。
賃金額A欄・B欄の意味と記載ルール
概要
A欄は労働時間の増減に関係なく毎月ほぼ定額で支払われる手当を記入します。例:住宅手当、家族手当、固定の役職手当、定期代(月額)などです。
B欄は労働時間や出勤日数に応じて変動する賃金を記入します。例:時給、日給、出勤日数に応じて支払う通勤手当、残業代などです。
判断のポイント
支払いが労働時間や出勤日数に比例するかどうかで区分します。比例するものはB欄、比例しないものはA欄に記入してください。部分的に固定と変動がある場合は、それぞれを分けて記入します。
具体例
- 住宅手当(月3万円)→ A欄
- 時給で働く労働者の基本賃金→ B欄
- 通勤手当:定期券代を月払いしている場合はA欄、日ごとの実費精算ならB欄
記載上の注意
- 一つの手当をまるごとAかBに決めるのではなく、性質に応じて分けて記載します。
- 書き方は明瞭にし、事業所内での運用ルールを統一しておくとトラブルが減ります。
記載例と具体的な計算方法
事例の前提
時給1500円、1日7時間勤務、週4日、4週勤務(=出勤16日)。通勤手当は出勤日ごとに支給(1日500円×16日)。毎月定額手当が2つ(5,000円、10,000円)。
計算手順(わかりやすく)
- 月間労働時間を求めます:7時間×16日=112時間
- 時給分を計算します:1500円×112時間=168,000円
- 通勤手当を計算します:500円×16日=8,000円
- B欄合計:時給分+通勤手当=168,000円+8,000円=176,000円
- A欄(定額手当):5,000円+10,000円=15,000円
記載ルールのポイント
- B欄には月ごとに変動する賃金をまとめます。上の例では時間給と出勤日数に応じた通勤手当をB欄に記載します。
- A欄には毎月定額で支給される手当を記載します。定期代(定額で支給される通勤手当)はA欄です。
注意点(簡単に)
出勤日数や時間が月によって変わる場合は、該当月の実績で再計算してください。欠勤や部分就労があると賃金額は変わりますので、その月の実数値を使って記載します。
賃金額に含めるべき項目
含める主な項目
離職票に記載する賃金には、通常の労働の対価として定期的に支払われるものを含めます。具体的には基本給、時間外手当(残業代)、深夜手当、休日手当、通勤手当、住宅手当、家族手当、役職手当、資格手当などです。通勤手当は税法上の扱い(非課税か課税か)にかかわらず、全額を賃金に含めます。
一時的・臨時的な支給は除外
賞与(ボーナス)、退職金、慶弔金や結婚祝金など臨時に支払われるものは、原則として賃金に含めません。これらは継続的な賃金と分類しにくいためです。ここで注意が必要なのは、手当の性質が毎月支払われるかどうかで判断する点です。
計算の実務ポイント(例付き)
・月給制の例:基本給250,000円+残業20,000円+通勤30,000円+住宅10,000円=賃金額310,000円
・時給制の例:時給900円×実働100時間=90,000円+通勤5,000円=95,000円
支払い実績がある期間の合計を基に記載します。
記録と確認
賃金台帳や給与明細で支給根拠を残しておくと、離職票作成時やハローワークでの確認がスムーズです。疑問があれば、社内の総務担当や社会保険労務士に相談してください。
月給制・日給制・時給制の場合の基礎日数と賃金額
A欄とB欄の使い分け
- 月給制・週給制はA欄に記載します。賃金支払の基礎日数は暦日数で計算します(その月の日数や対象期間の暦日数)。
- 日給制・時給制はB欄に記載します。賃金支払の基礎日数は実際に労働した日数を用います。
混在する場合の記載方法
月決め手当(固定の月給)と日給・時給の両方がある場合は、A欄とB欄に分けて記入します。最後にそれぞれの合計額を計欄に記載してください。
具体例で確認
1) 月給20万円(4月・30日)だけの場合:A欄に200,000円、基礎日数は30日。
2) 時給1,000円で20日勤務(1日実働):B欄に総額(例:日数×日給)を記載、基礎日数は20日。
3) 月給200,000円+日給5,000円×10日:A欄200,000円(基礎日数は暦日数)、B欄50,000円(基礎日数は10日)、計欄250,000円。
実務上の注意点
- A欄の基礎日数は休日を含む暦日数です。
- B欄は実際に支払われた日数・労働日数で判断します。
- 欠勤や無給期間がある場合は、どちらに該当するかで基礎日数が変わりますので注意してください。
離職票の賃金額が失業手当に与える影響
賃金日額の計算方法
離職票に記載された「賃金額」をもとに、失業手当の基準となる「賃金日額」を算出します。具体的には、直近6か月間(180日)に支払われた賃金の総額を180で割って求めます。ここで求めた賃金日額に、年齢に応じた給付率(おおむね50%〜80%)を掛けて「基本手当日額」が決まります。
具体例
例:直近6か月の賃金総額が900,000円の場合
– 賃金日額=900,000 ÷ 180 = 5,000円
– 給付率が60%なら、基本手当日額=5,000 × 0.60 = 3,000円
このように、離職票の金額が大きいほど、1日あたりの受給額も大きくなります。
注意点と影響のポイント
- 離職票の賃金額に誤りがあると給付額が変わります。記載内容は必ず確認してください。
- 給付率は年齢で変わるため、同じ賃金日額でも基本手当日額は異なります。
- 給付日数や支給開始日は賃金日額とは別の基準で決まります。離職理由や勤続年数も大切です。
離職票の金額は失業手当に直結します。早めに内容を確認し、不明点はハローワークで相談してください。
通勤手当の具体的な記載方法
概要
定期代をまとめて支給している場合は、その月割り額をA欄に記載します。出勤日ごとに実費を支給する場合は、該当期間の出勤日数に応じた合計額をB欄に記載します。課税・非課税を問わず、支給した全額を賃金額に含めます。
A欄(定期代を一括支給する場合)の書き方
- 支給額を期間で按分し、1か月あたりに直します。例:6カ月分の定期代12万円→月割り2万円をA欄へ記載します。
- 按分の基準(支給期間)をメモしておくと説明時に便利です。
B欄(出勤日ごとの実費支給)の書き方
- 対象期間の各出勤日の通勤費合計を算出します。例:1回300円×出勤20日=6,000円をB欄へ記載します。
- 月をまたぐ場合は、その期間に対応する合計を正確に記入します。
注意点
- 非課税の定期代でも賃金額に含めて記載します。
- 雇用保険の算定に使うため、支給根拠や計算方法を社内で明確に残してください。
- 給与台帳や支給明細と一致するよう確認してください。
注意点とトラブル回避
なぜ注意が必要か
離職票の賃金額A欄・B欄を誤ると、雇用保険の給付額や受給期間に影響するおそれがあります。迷ったときは早めにハローワークや専門家に確認してください。
記載上の基本ルール(ポイント)
- 賃金額は税金や社会保険料を差し引く前の総支給額で記載します。例:月給25万円+通勤手当1万円なら26万円を記入します。
- 計算期間(何月〜何月)を確認し、給与明細と突合することを優先してください。
よくある誤りと対処例
- 給与の「手取り」を記入してしまう:給与明細の総支給額を再確認してください。
- ボーナスや一時金の扱いで迷う:支給実績と計算期間を明示して専門機関に相談すると安心です。
- 単位の間違い(月額・日額・時給):欄の指示に合わせて記入し、メモを残してください。
トラブル回避の実務チェックリスト
- 給与明細3か月分と源泉徴収票を用意する。
- 総支給額が欄のルールに合っているか照合する。
- 計算期間と日数の整合性を確認する。
- 記載後は写真やコピーを保管する。
相談先と持参書類
- 相談先:最寄りのハローワーク、社会保険労務士(社労士)。
- 持参書類:給与明細、雇用契約書、源泉徴収票、離職票の写し。
早めに確認することで受給手続きの滞りを防げます。疑問があれば遠慮なく専門機関へ相談してください。
まとめ
離職票の賃金額A欄・B欄は、手当の支給方法や賃金形態に応じて分けて記載します。通勤手当は非課税かどうかだけで判断せず、支給方法や実態に応じて賃金に含めるかを確認してください。正しく記載することで、退職者が適切な失業手当を受け取れます。
主なポイント
- A欄とB欄は用途が違うため、どちらに記載するかを確認してから記入してください。
- 通勤手当は実際の支給方法(定期代の支給、日割り精算など)を確認して扱いを決めます。
- 月給・日給・時給それぞれで基礎日数や計算方法が変わるので、給与体系に合わせて計算してください。
- 記載ミスがあると失業手当に影響するため、給与担当者と退職者の双方で内容を確認しましょう。
記載時のチェックリスト
- 支給対象期間と支給日を照らし合わせたか
- 手当の支給方法(給与と一緒か別払いか)を確認したか
- 通勤手当の扱いを明確にしているか
- 退職者に離職票の写しを渡し、内容を確認してもらったか
最後に、不明点があればハローワークや社内の給与担当に相談してください。正確な記載が、退職後の安心につながります。


コメント