はじめに
本書の目的
本書は、有給休暇の「消化日数」や「消滅日数」の計算方法、給与計算、退職時の扱い、管理表やExcelでの自動計算方法、有給取得率の算出などを、具体的な手順と例で分かりやすく解説します。実務で使える計算手順を優先して説明します。
対象読者
人事・総務担当者、給与担当者、管理職、または自身の有給管理を正しく行いたい労働者を想定しています。専門用語は最小限にし、具体例で補います。
本書の構成と読み方
全7章で構成します。第2章以降は計算式や例を順に示します。まずは本章で全体像をつかんでください。各章は単独で参照できますので、関心のある項目から読み進めても問題ありません。
前提と注意点
計算の前提条件(所定労働日数や就業規則)で結果が変わります。ここで示す方法は一般的な考え方です。社内規定や給与ソフトの仕様を確認して運用してください。
有給休暇の消化日数・消滅日数の計算方法
計算の基本
有給休暇は「付与日から2年間」が有効期限です。付与された年ごとに残日数を管理し、取得日数を引いた残日数が翌年へ繰り越されます。消滅日数は、その繰越分のうち有効期限を過ぎた日数です。
ステップで見る計算方法
- 付与ごとに「付与日・付与日数」を記録します。
- 各年度での取得日数を差し引き、残日数を求めます(残日数=付与日数−取得日数)。
- 残日数は付与年ごとに保管し、2年後の期限切れの日付を過ぎた時点で消滅とします。
- ある日付での消滅日数は、当該日付時点で期限を過ぎている付与年の残日数の合計です。
具体例(分かりやすく)
- 1年目:付与10日、取得3日 → 残7日(A)
- 2年目:付与11日、取得5日 → 残6日(B)
翌年以降は、Aの7日とBの6日を別々に管理します。Aの付与日から2年を経過すると、その残7日は消滅します。例えば、Aの期限前にAのうち2日を使っていれば消滅は5日になります。
実務上の注意点
- 管理は付与年ごとに行ってください。合計日数だけで判断すると消滅を見落とします。
- 日付の計算は付与日を基準にします。シンプルにするため、付与日と有効期限をカレンダーで確認してください。
- 繰越と消滅が混在する場合は、先に期限の近い残日数から消化したと仮定して計算すると誤差を減らせます。
この方法で、繰越・取得・消滅の関係を正確に管理できます。
有給休暇の最低消化義務と按分計算
法的な背景
労働基準法では、年次有給休暇について労働者が年間5日以上取得することが事業主に義務付けられています。これは全従業員に対する最低ラインです。途中入社や長期勤務での扱いは別途計算します。
按分計算の基本式
途中入社などで1年に満たない期間に対しては、次の式で最低消化義務日数を求めます。
按分日数=(勤務月数 ÷ 12)× 5日
算出した日数は端数を切り上げて整数にします。つまり少しでも義務が発生するなら、その分は丸めて通知します。
勤務月数の考え方と具体例
勤務月数は実際に勤務した月数を基にします。たとえば
– 14か月勤務:14 ÷ 12 × 5 = 5.83… → 切り上げで6日
– 6か月勤務:6 ÷ 12 × 5 = 2.5 → 切り上げで3日
日割りや月の扱い(始めと終わりの端数をどう数えるか)は会社規定や就業規則に基づきます。明確に定めておくとトラブルを防げます。
告知と運用上の注意
按分で算出した最低消化日数は従業員に分かりやすく通知してください。書面やメールで日数と計算根拠を示すとよいです。加えて、年次有給は利用促進や計画的付与と関係するため、取得のしやすい運用を整えておくことをおすすめします。
有給休暇取得時の給与計算方法
概要
有給休暇の賃金は主に「通常賃金」「平均賃金」「標準報酬日額」のいずれかの方法で算定します。会社の規定や労使協定に基づき選び、支払います。各方法の意味と計算例を分かりやすく説明します。
通常賃金
普段支払っている日給・時給・基本給などを基に計算します。例えば日給が1万円なら、有給1日は1万円を支払います。休日手当や残業代は通常含めない場合が多いです。
平均賃金(計算方法と例)
直近3か月(原則)の賃金総額をその期間の日数で割って算出します。
例:3か月の賃金合計が90万円、期間の日数が90日なら平均賃金は1万円です。有給1日分はこの金額になります。会社によっては最低保障額として「直近3か月の賃金総額÷労働日数×0.6」を採用する場合があります。これは企業のルールなので就業規則で確認してください。
標準報酬日額
社会保険の標準報酬月額を30で割って算出します。標準報酬月額が30万円なら、標準報酬日額は1万円です。保険給付との整合性が必要な場合に使います。
実務上の注意点
端数処理(円未満の切り上げ・切り捨て)、税や社会保険の扱いは通常の賃金と同様です。どの算定方法を使うかは就業規則や労使協定で明確にし、従業員に周知してください。
退職時の有給消化と未消化分の扱い
概要
退職時には、残っている有給休暇を退職日までに消化することが原則可能です。会社は正当な理由がない限り一方的に取得を拒めません。取得が難しい場合は、未消化分を手当(買い取り)として支払う扱いが一般に認められます。
退職前の手続き
有給を消化したいときは、早めに上司や人事に申請します。口頭だけでなくメールや書面で記録を残すとトラブルが少ないです。会社側は業務調整のために日程変更を求めることがありますが、代替日を提示するなど協議します。
会社が拒める場合
業務に重大な支障が出る場合など、やむを得ない理由があると会社は取得を調整できます。ただし、単に都合が悪いという理由で全てを拒否することは難しいです。
未消化分の手当(買取り)の扱いと計算例
未消化分は給与として支払えます。計算は原則として1日あたりの賃金に未消化日数を掛けます。計算方法の詳細は就業規則や労使協定に従います。例:1日あたり1万円の賃金の場合、未消化12日分は1万円×12日=12万円を支給するイメージです。
支払い時期と注意点
未消化分は最終給与と一緒に支払うことが多いですが、就業規則で別途定める場合もあります。退職時には就業規則や賃金台帳を確認し、計算根拠を求めると安心です。申請や交渉は記録を残して丁寧に行ってください。
有給休暇管理のための自動計算ツール・Excel活用
管理表の基本設計
まず列を揃えます。主な列は「社員名」「入社日」「付与日」「付与日数」「取得日数」「繰越日数」「残日数」「消滅予定日(消滅日)」「備考」です。これで一覧性が高まり、個人ごとの消滅リスクを把握できます。
よく使うExcelの式(例)
- 残日数:=(付与日数)+(繰越日数)-(取得日数)
例:=D2+F2-E2 - 消滅日(付与日から2年で消滅する場合):=EDATE(C2,24)
例:=EDATE(C2,24) - 期限切れ判定(今日時点で消滅しているか):=IF(TODAY()>H2, “消滅”, “有効”)
自動化の工夫
- データ入力はドロップダウン(データ検証)で統一します。ミスを減らせます。
- 条件付き書式で消滅が近い行を色付けします(消滅予定日が30日以内など)。
- ピボットやフィルターで部署別・月別の取得状況を確認します。
複数付与や繰越の扱い
付与ごとに行を分け、付与日ごとの残数と消滅日を管理します。合計の残日数はSUMIFSで集計します。
例:=SUMIFS(残日数範囲, 社員範囲, “=山田太郎”)
簡単なVBA例(自動で消滅を更新)
Sub 更新消滅()
Dim i As Long
For i = 2 To Cells(Rows.Count, “A”).End(xlUp).Row
If Cells(i, “H”).Value < Date Then Cells(i, “G”).Value = 0
Next i
End Sub
運用のポイント
- 月次でデータを更新し、消滅対象を早めに通知します。従業員に見えるダッシュボードを用意すると取得促進につながります。
- 法改正や会社ルール(繰越上限など)に合わせて式を見直してください。
有給休暇取得率の計算方法
基本の計算式
有給取得率は次の式で求めます。
取得率(%)=取得した有給休暇日数 ÷ 付与された有給休暇日数 × 100
例:年間で16日付与され、うち10日取得した場合は、10 ÷ 16 × 100 = 62.5%です。
繰越日数を含める場合
前年度からの繰越を含めて正確に管理します。分母には「当年度付与日数+繰越日数」を入れ、分子には「当年度に実際に取得した日数(繰越分の取得を含む)」を入れます。
例:付与16日+繰越5日=21日。取得が合計13日なら、13 ÷ 21 × 100 = 約61.9%です。
時間単位取得の扱い
時間単位で取得している場合は、所定労働時間で日数に換算します(例:1日=8時間なら4時間は0.5日)。日数に換算してから上の式で計算します。
個人・部署・会社全体の算出
個人の取得率は個人ごとに計算します。部署や会社全体では、全員の取得日数合計 ÷ 全員の付与日数合計 × 100 で算出します。平均ではなく合計で出すと偏りを抑えられます。
注意点
- 消滅した未使用日数は分母には含まれるが分子には入りません。これが取得率を下げます。定期的に繰越と消滅をチェックしてください。
- ステークホルダーに提示する際は、集計期間と繰越の扱いを明記すると誤解を防げます。


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