はじめに
目的
この記事は、有給休暇の消化期限や失効ルールについて、実務に役立つポイントをやさしく整理することを目的としています。制度の基本から実務上よくある場面まで、具体例を交えて分かりやすく説明します。
この記事でわかること
- 有給の有効期限(付与日からの扱い)
- 繰り越し可能な日数の上限
- どの順番で休暇を消化するかの扱い
- 年5日の取得義務の仕組み
- 退職時の有給の扱い
- 期限を短くしたり延ばしたりできるか
- 有給の管理方法と注意点
読者の想定
企業の人事担当者、管理職、働く方すべてを想定しています。法律用語は最小限にし、具体的な事例で理解を助けます。
有給休暇の消化期限は「付与日から2年」
基本ルール
有給休暇は、付与された日から2年間が消化期限です。2年が経過すると、使用しなかった日数は時効により自動的に消滅します(労働基準法115条)。会社が消滅を防ぐ義務を負うわけではなく、個人で期限を意識する必要があります。
具体例
例えば、2024年4月1日に有給が付与された場合、その有効期限は2026年3月31日までです。2026年4月1日になると未使用分は消滅します。付与は1回ごとにカウントするため、複数回付与された分はそれぞれ別に2年で期限が切れます。
注意点と実務上のポイント
- 付与日を正確に把握してください。就業規則や給与明細、勤怠システムで確認できます。
- まとまった日数を残していると消滅リスクが高まります。計画的に利用しましょう。
- 退職時の扱いや繰り越しのルールは別章で詳しく説明します。必要な手続きは早めに確認してください。
繰り越しできるのは「最大20日」まで
繰り越しとは
有給休暇の繰り越しとは、付与された年に使い切れなかった日数を翌年以降に持ち越すことです。毎年の付与日から2年で消滅する仕組みと関係して動きます。
上限20日の意味
翌年に持ち越せる有給は「最大20日」までです。つまり、ある年度末に未消化の有給が20日を超える場合、超えた分は繰り越されず消滅します。会社により取り扱いが異なることは少ないため、まずこの上限を基本と考えてください。
消滅の順序と具体例
有給の消滅は古いものから順に行われます。例:前年に15日残り、今年新たに20日付与された場合、合計35日を一時的に保有できます。ただし、保有している日数のうち、2年以上経過した古い日から順に消滅します。つまり、時間が経つと前年分の古い日が先に失われる可能性があります。
実務上の注意点
- 年度末の残日数を把握して、20日を超えないように計画的に取得しましょう。
- 記録(勤怠システムや書面)で付与日と残日数を確認してください。
- 会社の就業規則で独自のルールがある場合はそちらも確認します。
有給休暇の消化順序
基本的な考え方
有給は通常、消滅期限が近いものから先に使うのが合理的です。付与日ごとに「いつまでに使わないと消えてしまうか」が決まるため、消滅リスクが高いものを優先します。具体例:前年分の繰り越し5日が今夏に期限を迎える場合、その5日を先に使うと無駄が減ります。
会社ごとのルールを確認する
ただし、会社の就業規則や労使協定で別の順序を定めていることがあります。企業によっては当年分を先に消化する、もしくは指定の手続きで順序を固定する場合があるため、まず就業規則や人事担当に確認してください。
実務上の扱いと申請方法
多くの会社は休暇申請画面で「どの有給を使うか」を自動で判断しますが、手動で指定できることもあります。申請時に希望があれば具体的に伝えると、消化順序を調整してもらえます。
注意点
- 繰り越し分の消滅日を確認する
- 就業規則の優先順位を把握する
- 申請書やシステムで指定できるか確認する
これらを確認するだけで、有給を無駄にせず計画的に使えます。
年5日の有給取得義務
概要
2019年4月の法改正で、年10日以上の有給が付与される労働者は、雇用者に対して1年に5日以上の有給取得を確保する義務が課されました。違反すると企業に最大30万円の罰金が科される可能性があります。
適用される人
- 年間の有給付与日数が10日以上の労働者が対象です。パートやアルバイトも、付与日数が10日以上であれば対象になります。
いつまでに消化するか(基準日)
有給は「付与日」を基準に1年以内に5日を消化させる必要があります。例:付与日が4月1日の場合はその翌年の4月1日までに5日間を取得させます。
企業の義務と具体的対応
- 対象者を把握し、取得状況を管理します。
- 労働者の希望を尊重しつつ、計画的に日を割り当てます。企業側が指定することも認められます。
- 取得させるための相談や案内を行い、記録を残します。
従業員へのポイント
- 早めに希望日を申し出ると調整が楽になります。
- まとまった休みが取りにくい場合は、連続でなく分散して使う方法もあります。
注意点
- 有給が10日未満の労働者には適用されません。
- 企業が取得を怠った場合、行政の指導や罰則の対象になります。記録を残して対応することが重要です。
退職時の有給消化
権利と原則
退職時には、残っている有給休暇を使う権利があります。会社が「引継ぎが終わらない」などの理由で一方的に消化を拒むことは認められません。どうしても調整が必要な場合は、会社と話し合って代替案を作ってください。
退職日をまたぐ有給の取り扱い
有給は退職日を超えて取得できません。例:退職日が3月31日なら、4月1日以降に有給を入れることはできません。ただし、退職日前に申請を出していれば、退職日までの残日数は消化できます。
未消化の有給の買取り
原則として、有給の買取りは認められていません。ただし、退職時に企業側が例外的に買い取る場合があります。その場合は会社との合意が必要です。買い取り金額や手続きは就業規則や個別契約で確認してください。
実務的な手順と注意点
- 早めに申請し、メールや書面で記録を残す。
- 引継ぎ計画を作成して提出すると話がスムーズです。
- 会社が拒む場合は就業規則を確認し、労働基準監督署に相談する選択肢もあります。
具体例:退職日が6月30日で残有給が5日あるなら、6月26日〜30日に申請すれば消化できます。企業が買い取りを提案したら、条件を文書で確認しましょう。
有給消化期限を短縮・延長できるか?
法律のルール
労働基準法では、有給休暇の消滅時効は「付与日から2年」と定められています。会社がこの期間を短くすることは許されません。つまり、2年未満で有給が消えてしまう扱いにすることは違法です。
延長は可能か
会社が付与日からの消滅期間を2年より長く設定することは可能です。就業規則や労使協定で明記すれば、例えば3年や無期限に近い運用にすることもできます。ただし実務上は手続きや管理の負担が増すため、多くの企業は法定どおり2年で運用します。
企業が延長する際の注意点
・就業規則に明確に記載すること
・従業員への周知と記録管理を徹底すること
・退職時や異動時の扱いを決めておくこと
これらを怠るとトラブルになりやすいです。
従業員ができること
就業規則を確認し、付与日や消化状況を把握してください。期限が近い有給は早めに申請して消化するか、人事に延長の有無を確認しましょう。違法に短縮されている疑いがあれば、労働基準監督署などに相談することをおすすめします。
有給休暇の管理方法・注意点
管理の目的
有給の残日数と消化期限を正しく把握し、従業員が権利を失わないようにすることが目的です。企業側は労務リスクを減らせますし、従業員は安心して休めます。
管理方法(基本)
- 勤怠管理システムを導入し、付与日・残日数・消化期限を自動で表示します。例:付与日から2年で時効になる日を通知する。
- 小規模事業ではスプレッドシートを使い、月次で更新・確認します。
勤怠システムのポイント
- 有給の付与履歴と消化履歴を一元管理すること。
- 自動通知機能を設定し、消化期限が近い場合に本人と管理者へアラートを送る。
日々の運用と注意点
- 年間計画を立て、繁忙期は早めに調整します。具体例:上司と月初に取得予定を共有する。
- 退職予定者の残日数は早めに精算の相談をする。
- 年5日の取得義務に対応しつつ、計画的に消化する。
トラブル時の対応
- 消化漏れが見つかったら速やかに報告し、時効前に取得または買い取りの検討を行います。
- 記録は保存期間を決め、証拠として残すことが重要です。


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