はじめに
退職後に会社から「離職票」が届かないと、不安や手続き上の困りごとが生じます。本書は、そんなときに知っておくべき法律上の扱いと具体的な対処法をやさしくまとめたガイドです。初めて手続きする方や、会社との対応に迷っている方を想定して書いています。
目的
- 離職票の意義と発行義務をわかりやすく説明します。
- 会社が離職票を渡さない場合の法的な位置づけや罰則、相談先を紹介します。
- 実際に離職票が届かないときの具体的な対処手順を示します。
この文書の構成
各章は順を追って読み進められるように作成しました。第2章からは離職票の基本、第6章では実際の対応方法、第9章では相談先について詳しく解説します。まずは全体の流れをつかんでください。
離職票とは何か
定義
離職票とは、退職した人が失業手当(雇用保険の給付)を受けるために必要な公的な書類です。会社が雇用保険に加入している場合、退職後にハローワーク(公共職業安定所)を通じて本人に届きます。
誰が発行するか
直接はハローワークが発行しますが、会社が退職者の情報をハローワークに提出して初めて発行されます。会社が手続きをしないと離職票は届きません。
何に使うか(具体例)
・ハローワークで失業給付の申請をするときに提出します。
・失業手当の給付開始時期や給付日額を決める基礎資料になります。
・住所変更や手続きで本人確認が必要な場面でも使います。
形と主な記載内容
離職票には、退職日、離職理由、雇用保険に加入していた期間や給与の記録などが記載されます。これらの情報で給付の可否や受給期間が判断されます。
注意点
・会社が雇用保険に加入していない場合は発行されません。
・内容に誤りがあると手続きが遅れるため、届いたらすぐに記載内容を確認してください。訂正が必要なときは会社かハローワークに相談します。
離職票を会社が渡さないのは違法
概要
退職者が離職票(雇用保険の手続きに必要な書類)の交付を請求したとき、会社は必ず発行して渡す義務があります。拒否することは違法です。離職後の失業給付や手続きに直結する重要書類なので、会社の対応は法令で明確に定められています。
法的根拠
- 雇用保険法第76条第3項、雇用保険法施行規則第7条:事業主は離職者について離職証明書をハローワークに提出する義務があります。
- 労働基準法第22条:雇用関係の終了について必要な書類を交付する義務の趣旨と合致します。
会社の具体的な義務
- 退職日の翌日から起算して10日以内に、会社はハローワークへ離職証明書を届け出ます。
- ハローワークで手続きが完了すると、離職票が作成され、退職者に交付されます。
例
例えば10月1日が退職日なら、会社は10月2日から10日以内に離職証明書を提出しなければなりません。期限を守らない、あるいは発行を拒むことは法令違反です。
次に取るべき行動(簡潔)
まずは会社に文書で請求し、応じない場合はハローワークへ相談してください。必要なら労働基準監督署などにも相談できます。
会社が離職票を渡さない場合の罰則
罰則の内容
会社が離職票の交付義務に違反した場合、雇用保険法により罰則が科されます。具体的には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される可能性があります(雇用保険法第83条4号等)。これは退職者の失業給付などの権利を守るために定められた措置です。
なぜ罰則があるのか
離職票は失業給付の申請に不可欠な書類です。会社が意図的に渡さないと、元従業員が公的支援を受けられなくなります。罰則はこうした不利益を防ぎ、事業者の適正な対応を促すために設けられています。
実際にどうなるか(具体例)
例えば、退職後に会社へ離職票を請求して無視された場合、元従業員は請求の記録(メールや内容証明)を残しておきます。これをもとにハローワークへ相談すると、行政が会社へ発行を求めたり、必要に応じて罰則の適用を検討したりします。起訴や刑罰は行政や司法の判断によります。
まず取るべき行動
- 書面やメールで離職票を請求し、控えを保管する。2. ハローワークに相談する(窓口で状況を説明)。3. 改善が見られなければ、情報を整理して所轄の労働関係機関へ報告する。これらの手順で権利を守りましょう。
離職票がもらえない主な原因
離職票が手元に届かない主な原因を、具体例を交えて分かりやすく説明します。
-
会社の手続き忘れ
会社がハローワークへの提出手続きを忘れることがあります。例:人事担当が多忙で離職手続きを後回しにした。 -
意図的な遅延や拒否
会社側がトラブルを理由に発行を遅らせたり、拒否したりする場合があります。例:未払いの給与トラブルを理由に対応を渋る。 -
退職時に「不要」と伝えてしまった
退職時に離職票が不要と伝えると会社が発行手続きをしないことがあります。しかし、後から発行を求めれば対応される場合が多いです。 -
会社と連絡が取れない・倒産している
連絡先が変わっていたり、会社が倒産して担当者が不在だったりすると発行が止まります。例:会社の登記が抹消されている。 -
退職者が発行を申請していない
従業員側が発行申請や依頼をしていないケースがあります。自分で確認・依頼していないと手続きが進まないことがあります。
まずは会社の担当者に確認し、連絡の記録を残すことをおすすめします。必要な手続きや次の対応は、別章で詳しく説明します。
離職票が届かない場合の具体的対処法
1)まずは会社に連絡する
電話で担当者や上司に状況を確認します。電話がつながらない場合はメールや社内チャットで催促してください。短い文面で要点を伝えると良いです。例:「離職票の送付状況を教えてください。いつ届く予定でしょうか。必要であれば発送の控えをお願いします。」
2)記録を残す
電話の日時、話した相手、内容をメモします。メールや送受信履歴は保存してください。後でハローワークや弁護士に相談する際に重要な証拠になります。
3)文書で催促する(必要なら内容証明)
口頭で解決しないときはメールに続けて書面で催促します。郵便の内容証明を使うと会社に強い意思を示せます。まずは普通郵便やメールで督促し、それでも無視される場合に内容証明を検討しましょう。
4)ハローワークに相談する
管轄のハローワークへ相談してください。ハローワークは会社へ発行依頼や指導・勧告ができます。会社が倒産や連絡不能の場合でも、状況を確認して離職票相当の書類を発行してくれることがあります。相談時は離職日、給与明細、雇用契約書、本人確認書類を持参するとスムーズです。
5)労働基準監督署や弁護士への相談
ハローワークでも解決しないときは労働基準監督署へ相談すると、事業所に対する指導が入る可能性があります。それでも応じない場合は弁護士に相談し、交渉や法的手続きを検討してください。
6)優先すべきポイント
・まずは冷静に会社へ確認する
・証拠を残す(メール、通話記録、給与明細)
・ハローワークに早めに相談する
これらを順に進めると、離職票が届かない問題を解決しやすくなります。
離職票が必要な理由・受け取らないとどうなるか
離職票が必要な理由・受け取らないとどうなるか
1) 離職票が必要な主な理由
- 失業保険(雇用保険の基本手当)を受給する際、ハローワークに提出する書類として必須です。離職日や離職理由が記載されており、給付の可否や受給開始日に直結します。
- 国民健康保険や国民年金への切り替え、保険料の軽減・免除申請など、退職を証明する場面で使います。
2) 受け取らない・遅れるとどうなるか
- 失業保険の申請ができず、給付を受けられません。生活費に大きな影響が出ます。
- 国民健康保険や年金の手続きが遅れ、保険料の負担や給付の開始に不利になります。
- 求職手当や公共の支援制度を受ける際に書類不足で手続きが滞ることがあります。
3) 具体例でイメージ
- 退職後、離職票がないためハローワークで手続きできず、給付開始が数週間〜数か月遅れるケースがあります。家計の負担が増えます。
4) 早めの対応が重要
- 離職票が届かない場合はまず会社に確認し、応答がないときはハローワークや労働基準監督署へ相談してください。手続きを放置すると生活への影響が大きくなります。
受け取りまでの通常日数と遅延の目安
通常の目安
一般的に、退職後10〜14日(約2週間)で離職票が届くことが多いです。会社が離職の手続きをすみやかに行い、郵送に通常の日数がかかるためです。会社の締め日や祝日が重なると若干遅れることがあります。
日数の具体例
- 例1:退職日が平日で会社が即手続き → 10日以内に到着することが多い
- 例2:退職日が金曜や連休直前 → 2週間以上かかる場合もある
2週間を超えたときにやること
- まず会社の総務・人事に電話やメールで確認してください。送付先住所や手続き状況を尋ねます。
- 会社側で未送付・手続き遅延が判明したら、ハローワークに相談して状況を伝えます。ハローワークから会社へ確認してくれる場合があります。
- 郵便事故の可能性もあるため、会社に追跡や再発行を依頼しましょう。
遅延の主な原因
- 会社の事務処理の遅れ
- 住所や書類の不備
- 郵便事情(休日や混雑)
- 会社側の対応不足
注意点
連絡しても応答がないときは、やり取りの記録(メールや通話メモ)を残し、ハローワークや労働相談窓口に相談してください。早めの確認が解決を早めます。
労働基準監督署(労基署)へ相談するメリット
労基署がしてくれること
労基署は会社の労働条件や法令順守について、指導や勧告を行います。離職票が発行されないとき、会社に対して法的な立場から働きかけてもらえる点が大きなメリットです。未払い残業や雇用契約違反がある場合は調査や是正命令につながることがあります。
相談のタイミング
まずハローワークに相談しても解決しない、会社が明確に拒否する、あるいは未払い賃金や長時間労働など別の違反も疑われる場合に、労基署へ相談するとよいです。
持参するもの(例)
・雇用契約書や就業規則の写し
・給与明細やタイムカードのコピー
・退職届や会社とのやり取り(メール等)
これらがあると調査がスムーズになります。
効果と限界
労基署は会社に指導や調査を行い、改善を促します。ただし、離職票の発行自体は雇用保険の手続きに関するため、労基署が直接すぐに発行させるケースは限られます。まずハローワークに相談し、それでも解決しない場合に労基署に相談する流れがおすすめです。
相談時の注意点
冷静に状況を整理し、証拠を持参してください。労基署は事実確認を重視しますので、日時ややり取りを記録しておくと有利になります。
参考:離職票が発行されない場合の流れ
1. 退職者が会社に離職票の発行を請求
まずは書面やメールで発行を正式に請求します。氏名、退職日、請求日を明記し、控えを残してください。内容証明郵便を使うと証拠になります。
2. 会社が発行義務(10日以内)を怠った場合は違法
事業主には原則として発行義務があります。請求後10日ほどで応じない場合は違法に当たる可能性があります。対応が遅れる理由を文書で求め、記録を残しましょう。
3. ハローワーク・労基署・弁護士など第三者へ相談
まずはハローワークに相談すると、失業給付の手続きや発行を促す助言が得られます。労働基準監督署は労働法違反の通報先です。必要なら弁護士に相談し、法的手段の可否を確認します。持参書類は請求書の控え、給与明細、雇用契約書などです。
4. 必要に応じて行政指導や法的措置
ハローワークや労基署が事業主へ行政指導を行う場合があります。それでも発行されないときは内容証明や支払督促、労働審判、訴訟といった法的手続きが選択肢になります。どの場合も証拠(やり取りの記録、郵便物の控え)を整えておくと手続きがスムーズです。
まとめ
離職票を会社が渡さないのは法律に関わる問題で、退職者には速やかに手続きを進める権利があります。離職票は雇用保険の給付や生活の安定に直結する書類です。受け取れないと失業給付が受けられず、生活に大きな影響が出ます。
まず会社へは書面やメールで請求し、やり取りの記録を残してください。相手が応じない場合は以下を検討してください。
- ハローワークに相談して給付手続きの案内を受ける
- 労働基準監督署に相談・届出を行う
- 労働組合や弁護士に相談し、解決を図る
記録を残し、公的機関を活用することで早期解決が期待できます。遠慮せず相談し、権利を行使してください。


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