はじめに
はじめに
本記事は「懲戒解雇」と「損害賠償」について、実務で役立つポイントを平易にまとめた入門です。まず基本的な考え方を示し、会社側と従業員側それぞれの立場でどんな請求が起こり得るかを順を追って説明します。
本記事の目的
- 懲戒解雇の特徴を分かりやすく理解していただく
- 懲戒解雇と損害賠償の関係を整理する
- 実際の注意点や手続き上のポイントを提示する
誰に役立つか
- 人事担当者、管理職、労働者、労務担当の方
- 懲戒解雇に直面した方やその関係者
扱う内容の概略(章立て)
- はじめに(本章)
- 懲戒解雇とは:定義と典型例(例:横領、長時間無断欠勤、機密情報の漏洩)
- 懲戒解雇と損害賠償の関係:会社が請求できる場合と可否
- 逆に従業員が会社へ請求できる場合
- 実務上の注意点:証拠、手続き、就業規則の整備
- まとめと専門家相談のすすめ
読み方のポイント
事例を挙げて説明しますので、自分の状況に近い例を探しながらお読みください。法的判断が必要な場合は、専門家に相談することをおすすめします。
懲戒解雇とは
定義
懲戒解雇は、従業員が重大な規則違反や背信行為を行い、会社に著しい損害や危険を与えた場合に、会社が労働契約を即時に解除する最も重い懲戒処分です。通常の退職や普通解雇と異なり、予告なしでの即時解雇が認められる点が特徴です。
主な理由(具体例で説明)
- 横領・窃盗:会社の資金を私的に流用する行為。領収書を偽造する例など。
- 重大な情報漏洩:顧客情報や機密設計図を無断で外部に流す場合。
- 暴力行為:職場内での暴力や威嚇によって安全が害される場合。
- 業務命令の重大な違反:重大な安全指示を無視して事故を引き起こした場合。
懲戒解雇の特徴
- 即時解雇(予告不要)が可能です。退職金の減額や不支給が認められる場合が多いです。失業保険の受給に制限がかかることがあります。
- 会社側は懲戒事由の具体的事実や重大性を示す必要があります。軽微な違反では懲戒解雇は無効となる可能性があります。
判断のポイントと手続き
会社は事実確認を行い、必要に応じて懲戒委員会や本人への弁明機会を設けます。処分が重すぎると裁判で取り消されることがあるため、慎重な手続きが重要です。
簡単な注意点
懲戒解雇は従業員にとって重大な不利益を伴います。会社も従業員も、事実関係を丁寧に整理し記録を残すことが大切です。
懲戒解雇と損害賠償の関係
概要
懲戒解雇は雇用関係の終了を目的としますが、会社が被った損害が大きい場合は別途、民事で損害賠償を請求できます。情報漏洩や横領で金銭的損失が出たときは、解雇と同時でも後日でも賠償を求められます。
賠償請求が想定されるケース(具体例)
- 顧客情報を外部に漏らし、取引停止や信用低下で損害が出た
- 会社の金銭を横領し、実損が発生した
- 重要な機密データを消失させ、復旧費用や機会損失が生じた
賠償を認めるためのポイント
- 実際の損害額を立証する必要があります(領収書や調査報告など)
- 故意または重大な過失があったことの認定が重要です
- 就業規則や労働契約書に損害賠償に関する規定があれば、手続きが明確になりますが、条項だけで自動的に賠償が認められるわけではありません
時期と手続きの概要
民事訴訟で請求するか、示談で解決するかを選べます。会社側が証拠をそろえて金額を算定し、まずは示談で請求するのが実務上多いです。裁判に進めば、会社が損害と因果関係を立証する負担があります。
注意点
- 解雇の正当性と賠償請求は別の判断です。解雇が無効でも、会社が被った損害があれば賠償請求は理論上可能です
- 過大な請求は認められにくいため、証拠に基づく冷静な金額算定が必要です
以上の点を踏まえ、会社は証拠収集と手続きの慎重な進め方が求められます。
懲戒解雇された従業員が逆に会社へ損害賠償請求できる場合
概要
懲戒解雇が不当または違法と認められた場合、従業員は会社に対して損害賠償を請求できます。具体例を交えて、請求が認められる典型的な場合を説明します。
代表的なケースと具体例
- 手続き違反:十分な調査や本人聴取を行わず即座に解雇した場合。例えば上司の聞き取りもなく解雇通知だけで処分を行ったケースです。\
- 解雇理由が合理的でない場合:軽微なミスや単なる遅刻を理由に懲戒解雇とした場合は不相当と判断されることがあります。\
- 名誉毀損に当たる場合:虚偽の事実を公表して社会的評価を下げたと認められれば損害賠償が命じられます。
請求できる損害の中身
- 逸失賃金:解雇により得られなかった収入。\
- 慰謝料:精神的苦痛に対する賠償。\
- 未払賃金や退職金相当額:就業規則や契約に基づく支払い。
実務上の注意点
証拠(就業規則、やり取り、調査記録など)を集めることが重要です。まずは社内で異議申し立てを行い、それでも解決しない場合は労働審判や訴訟を検討します。期限や手続きに注意してください。
損害賠償請求の実務上の注意点
会社側が守るべきポイント
- 就業規則の明記:懲戒の種類や事由、処分手続きを明確に記載します。具体例:横領は懲戒解雇の対象と定め、事実確認の段階を定める。
- 重大性と手続きの適正:懲戒解雇は最終手段です。注意喚起や減給など段階的対応の記録を残します。
- 損害の立証:請求するなら、具体的な損害額と被告行為との因果関係を示す証拠が要ります。領収書、業務記録、監視映像などを保存してください。
- 時効と手続き:民法上の損害賠償請求は原則5年(ケースで変動)。早めに内部調査と法務相談を行います。
従業員側の注意点
- 解雇理由の検証:懲戒の理由や手続きが就業規則に沿っているか確認します。書面で通知されていない場合は不当解雇の主張材料になります。
- 証拠収集:業務メール、評価書、同僚証言などを保存してください。解雇後でも記録は重要です。
- 救済手段の検討:労働審判や裁判で復職や賠償を求めることができます。和解案や示談金の交渉も選択肢です。
公表時の注意(名誉毀損リスク)
- 社外向けの発表は事実確認と必要最小限の情報に留めます。罪状や個人の詳細を過度に公表すると名誉毀損に問われることがあります。
- 社内外への通知は法務と連携し、弁護士の確認を得ると安全です。
実務チェックリスト(短期)
- 就業規則の該当条項を確認
- 事実関係を文書で整理
- 証拠を保存・複製
- 法務または弁護士に相談
- 社外公表は慎重に、弁護士確認を得る
以上を踏まえ、冷静な事実確認と適切な手続きが、後の紛争を防ぎます。
まとめと実務アドバイス
要点の整理
懲戒解雇と損害賠償は別々に判断する必要があります。懲戒解雇は懲戒の手続きと相当性が問題になり、損害賠償は被った損害と加害行為の因果関係が問題になります。どちらの場合も就業規則や法令、手続きの厳守が不可欠です。
会社側への実務アドバイス
- 就業規則を具体化する:どの行為が懲戒の対象か、手続き(事実確認、弁明の機会、懲戒決定の記録)を明文化します。例:業務外での重大な横領や故意の情報漏えいなどを明記する。
- 証拠の確保と記録:メール、システムログ、監視映像、目撃者の陳述など客観的な記録を残します。証拠がなければ請求は認められにくいです。
- 損害の立証を行う:修理費や補填額など具体的な金額と因果関係を示します。金額の根拠を示す見積書や領収書を用意してください。
- 手続きの公正さを保つ:従業員に弁明の機会を与え、判断過程を文書化します。これで不当解雇を回避しやすくなります。
- 早期に専門家へ相談:労務や法務の専門家に相談し、リスクを評価します。
従業員側への実務アドバイス
- 証拠を保存する:自分の業務記録、メール、出勤簿、やりとりのスクリーンショットなどを保全します。第三者の証言が得られる場合は連絡先を控えておきます。
- 不服申立てを検討する:社内手続きで異議を申し立て、結果が納得できない場合は専門家に相談してください。
- 迅速に行動する:手続きや請求には期限があります。時間を空けずに証拠収集と相談を始めてください。
最後に(チェックリスト)
- 就業規則と実際の運用が一致しているか確認する
- 客観的証拠を優先して保存する
- 弁明機会と手続きの記録を必ず残す
- 金額や損害の根拠を具体化する
- 迷ったら早めに専門家に相談する
どちらの立場でも、証拠に基づく冷静な対応が最も重要です。早めの確認と記録で不要な紛争を避けましょう。


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