はじめに
退職手続きのために「出社」した場合、その扱いをどう判断するかは、職場でのトラブルを防ぐうえで大切です。本記事は、出社が労働時間として認められるか、賃金支払いの義務はあるかといった基本の考え方を、できるだけ分かりやすくまとめます。対象は従業員、管理職、人事・総務の担当者です。
まず、退職に伴う出社の具体例を挙げます。書類の提出、引き継ぎ作業、面談や面接、貸与物の返却などです。それぞれで「出勤扱い」になるかは状況で変わります。たとえば上司の指示で引き継ぎを行う場合は労働時間とみなされやすく、単に書類を窓口に置くだけなら労働時間に当たらないこともあります。
本章では、後続の章で扱う主な論点と進め方を示します。第2章では出勤扱いの基準、第3章では実務上の対応と注意点、第4章では裁量労働制など特殊な雇用形態の扱いを説明します。第5章は退職日と最終出勤日の違い、第6章は退職後の各種手続きと在籍管理、第7章では実務的なアドバイスとまとめです。
読み進めることで、出社の扱いを明確にし、無用な誤解や紛争を避ける実務のポイントがつかめます。
退職手続きで出社する場合の「出勤扱い」とは
概要
退職手続きのために会社が出社を命じた場合、その時間は原則として「出勤扱い(労働時間)」になります。手続き、備品返却、書類記入、引継ぎ、面談(退職面談含む)などは会社の指示に基づく業務とみなされ、賃金支払いの対象です。
具体例で分かる判断
- 会社から「最終日に9時に来て書類を記入してください」と指示があれば、その9時〜作業終了までが労働時間です。
- 備品を返すために数分だけ立ち寄るよう会社が求めた場合も、出社命令なら出勤扱いです。
- 一方、本人の希望で私的に来社し雑談や私物回収をするだけなら、会社の業務命令がないため出勤扱いになりません。
タイムカードや記録の取り扱い
タイムカードや勤怠システムで出勤が記録されると、会社はそれを労働時間として認識します。出勤扱いにするなら正確な始業・終業時刻を記録し、給与計算に反映してください。
賃金と時間管理のポイント
- 指示による出社は賃金支払い義務が生じます。法定労働時間外であれば時間外手当が必要になる場合があります。
- 退職日に複数の手続きが重なると通常の勤務時間を超えることがあるため、時間管理を明確にしてください。
- 会社側は出社の指示を文書やメールで残すと後のトラブルを防げます。
実務対応のポイントと注意点
概要
退職時の出社や手続きは、事前の説明と合意で多くの誤解を防げます。書面やメールで確認しておくと、後のトラブルが少なくなります。
事前説明と合意の仕方
- 出社の必要性を具体的に伝えます(例:引継ぎ、備品返却、退職手続き)。
- 出社する時間帯や所要時間を明確にします。短時間であれば○時間単位で案内すると分かりやすいです。
- 合意はメールや書面で残します。口頭だけだと後で認識のずれが生じやすいです。
タイムカードと賃金処理
- タイムカードに出社時間が打刻されていると、その時間分は原則として賃金支払いの対象になります。実務では勤怠担当が打刻内容を確認し、必要に応じて修正や確認を入れる運用が望ましいです。
- 例えば退職日直前に1時間だけ来社して打刻した場合、その1時間分は支払う必要があります。
休職中・有給消化中の特例
- 休職中は原則出社不要です。ただし会社の都合で出社を命じた場合は労働時間扱いとなり給与が発生します。
- 有給消化中は有給休暇の趣旨に注意します。会社が特別な業務を指示した場合は労働時間となることがあります。
その他の注意点
- リモート作業やメールによる引継ぎも労働時間に該当し得ます。作業内容と時間を記録してください。
- 備品返却や手続きだけで短時間で済む場合は、出社扱いにするかどうかを事前に合意しておくと良いです。
実務フロー例(簡潔)
- 出社の要否と時間を説明→2. メールで合意→3. 出社時は打刻・作業記録→4. 勤怠担当が確認して給与計算へ反映
上記を運用すると、退職時の出社に伴う賃金やトラブルを最小限にできます。ご不明な点があれば、具体例を教えていただければより詳しくご案内します。
裁量労働制・特別な雇用形態の場合
要点の整理
裁量労働制の社員が退職手続きだけのため短時間出社した場合、原則としてみなし労働時間(1日分)の賃金が発生します。裁量制は労働時間を実労働で管理しないため、出社の有無に関わらず所定の労働時間分が支払われる仕組みだからです。特別な雇用形態(固定給・管理職等)も契約内容で扱いが異なります。
事前説明と合意のポイント
手続きが「業務に該当しない事務手続き」と判断できるかは、事前説明と本人の合意が重要です。合理的な範囲で「単に書類受領・返却のみで業務を行わない」ことを説明し、書面やメールで同意を得ると対応しやすくなります。
具体例
・Aさん:10分間で書類に署名・退職証明を受け取り、事前に同意あり→賃金不発生の扱いとなる可能性あり。
・Bさん:引継ぎミーティングや業務処理を行った→みなし時間分の賃金が必要。
実務上の注意点
契約書や就業規則、労使協定と照らして判断してください。会社側の一方的な扱いは争いの種になりますので、記録を残し、必要なら労務の専門家に相談してください。
退職日・最終出勤日との関連
定義と基本
退職日は雇用契約が終了する日です。最終出勤日は実際に会社に出社(または業務を行う)した最後の日で、必ず一致しません。たとえば有給消化で出社しない期間があり、退職日まで在籍することがあります。
よくあるパターン
- 最終出勤日=退職日:通常のケースで、最終勤務日がそのまま雇用終了日になります。
- 最終出勤日<退職日:有給消化や在宅で出社しない日が残る場合です。給与や有給の清算が必要になります。
- 最終出勤日>退職日:あまりないですが、契約上の調整で発生することがあります。
「手続きのために出社した日」の扱い
手続きのためだけに出社した場合、その日の扱いは会社の規程や当事者の合意で決まります。実務では次を基準に判断します。
– 実務的な業務を行ったら出勤扱いになります。
– 単に書類にサインしたり備品を返却しただけなら、出勤扱いとしない会社もあります。
給与や社会保険、源泉徴収票の受け取りに影響しますので、事前に確認して書面で残すと安心です。
実務上の確認事項(簡潔チェックリスト)
- 退職日と最終出勤日を明確にする。
- 手続きで出社する日の扱いを書面で合意する。
- 給与・有給・社会保険の取り扱いを確認する。
- 備品返却とID停止の時期を決める。
- 手続きの記録(メール等)を残す。
以上の点を事前に整理しておくと、退職手続きがスムーズになります。疑問があれば人事に相談して合意を文書化してください。
退職後の各種手続きと在籍・出勤管理
退職日以降によくある手続き
退職後も残る手続きには、最終給与・源泉徴収票の受け取り、健康保険・厚生年金の籍の整理、雇用保険の離職票発行、貸与物の返却、年金記録の確認などがあります。各手続きは会社側と本人の双方が関与します。
「出社」と「出勤扱い」の違い
退職日を過ぎて事務処理のために出社しても、原則として労働基準上の出勤とは見なされません。出社して作業するなら、その日まで在籍として扱うよう退職日を調整するのが望ましいです。例えば、社印の押印や引継ぎで対面が必要なら、退職日をその当日に設定します。
在籍期間の調整方法と運用例
・退職日を手続き完了日まで延長する(給与・保険を継続)
・最終出勤日を設け、以降は有給や特別休暇を割り当てる
・手続きは代理や郵送、オンラインで完了できる場合は在籍延長を不要にする
書面で合意を取り、勤怠や給与処理に反映させます。
実務上の注意点
・貸与端末やアクセス権は手続き後速やかに無効化する
・離職票など重要書類は発行時期を確認し、送付方法を明確にする
・給与・社会保険の扱いは労務担当と確認する
これらを明確にしておくと、トラブルを避けられます。
実務上のアドバイス・まとめ
重要な判断基準
退職手続きのために出社する場合、会社が明確に「出社するよう指示した」なら出勤扱いになり、賃金支払いが必要です。本人の希望や都合で来社するだけなら非出勤扱いとなります。例:総務から「書類回収のために出社してください」と指示があれば出勤扱いです。
事前説明と確認の手順
口頭だけで済ませず、メールや文書で指示内容、日時、所要時間を伝えます。出社が出勤扱いか非出勤扱いかを明記し、本人の承諾を得て記録を残します。出社当日は出勤簿やタイムカードで出退勤を記録します。
特殊なケースの扱い
裁量労働制の場合は労働時間の算定方法を確認します。休職中や有給消化中は、出社指示の可否や賃金の扱いを個別に判断します。例:有給消化中に会社都合で出社を命じれば、別途手当や賃金調整が必要です。
就業規則と運用の整備
就業規則や社内規程で退職関連の出社ルールを定めます。具体的には出社の扱い、連絡方法、記録保存期間を規定すると誤解を減らせます。
実務チェックリスト
- 指示の書面化と本人承諾
- 出勤扱いの明示
- 出退勤の記録
- 裁量制・休職時の個別対応
- 規程の整備と周知
これらを整えると、トラブルを未然に防げます。


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