はじめに
本記事の目的
この章では、企業や給与支払者が従業員や退職者に対して源泉徴収票を交付する義務について、分かりやすく説明します。法律上の根拠や交付のタイミング、違反時の対応などを具体例を交えて解説します。
なぜ重要か
源泉徴収票は年末調整や確定申告、住宅ローン手続きなどで必要になります。例えば、転職先での年末調整や税務署への申告時に正しい金額を示すために必須です。
誰に向けているか
人事・経理担当者、個人事業主、従業員、退職者、転職者など、源泉徴収票の受け取り・交付に関わるすべての方へ役立ちます。
本記事の構成
第2章以降で、交付義務の根拠、交付時期、方法(電子化を含む)、罰則、退職者対応、不交付の例、そして記載項目について順に解説します。必要な箇所だけ読むこともできます。
源泉徴収票の交付義務は法律で定められている
概要
源泉徴収票は、従業員が1年間に受け取った給与総額や、給与から差し引かれた所得税(源泉徴収税額)を記載した法定書類です。税務署や従業員が年末調整や確定申告で使います。
法的根拠と義務の内容
所得税法第226条で、給与を支払う者(会社や事業主)は源泉徴収票を作成し、交付する義務が定められています。会社は自ら作成して従業員に渡さなければなりません。
対象となる人
正社員・契約社員・アルバイト・パートタイマーなど、給与を受け取るすべての人が対象です。退職した人にも、在職期間の分について交付する必要があります。具体例:3月に退職した社員にも、その年1月〜3月分の源泉徴収票を渡します。
請求の有無について
従業員が請求するかどうかは関係ありません。請求がなくても会社側の義務は発生します。会社は交付を怠らないよう、手続きを整えておくことが大切です。
ポイント(簡潔に)
- 作成・交付は会社の法的義務
- 対象は給与を受ける全員(退職者含む)
- 従業員の請求がなくても交付する必要がある
次章で交付のタイミングや具体的な渡し方について詳しく説明します。
交付のタイミングと対象
年末調整後
会社は年末調整の計算が終わったら、在職中の従業員に翌年1月31日までに源泉徴収票を交付します。たとえば、2024年分の計算が終われば、2025年1月31日までに渡します。期限を守ることで従業員が確定申告や各種手続きに使えます。
退職時
退職者には、退職後1か月以内に源泉徴収票を交付する義務があります。退職日が4月10日なら、5月10日までに交付する必要があります。退職後すぐに必要になる場合が多いため、早めの準備が重要です。
転職と年内の取扱い
退職して年内に別の会社に入社した場合、前職の源泉徴収票は新しい勤務先での年末調整に必要です。前職が交付を怠ると、年末調整ができず従業員に不便が生じます。
従業員からの依頼時
従業員が紛失や再発行を希望した場合、会社は応じる必要があります。再発行が必要な理由を確認し、速やかに対応してください。
交付の対象となる人
給与や賞与を受けた従業員や退職者が対象です。アルバイトやパートも原則対象になりますので、雇用形態に関わらず確認してください。
交付方法と電子化
概要
源泉徴収票は原則として書面で交付します。ただし、従業員の同意があれば電子データでの交付も認められます。ここでは具体的な方法と注意点を分かりやすく説明します。
書面での交付(原則)
直接手渡しや郵送で渡すのが一般的です。受け取りの記録を残すとトラブルを防げます。たとえば手渡しなら受領印やサイン、郵送なら配達記録やコピーを保管してください。
電子交付の条件
従業員の同意を得ることが必須です。口頭より書面やメールでの同意を明確に残すと安心です。電子データはPDFなど読みやすい形式にすると良いです。ファイルに改ざん防止の措置(パスワードや電子署名)を講じ、受領を確認できる仕組みを整えてください。
具体的な交付方法例
- 直接手渡し:出勤時に手渡してサインをもらう。
- 郵送:簡易書留や配達記録郵便を利用して証拠を残す。
- 電子:本人同意のもと、添付PDFをメール送信、または社内ポータルに限定公開してダウンロードさせる。
連絡先不明の場合の対応
連絡先が不明な場合は、事前に最終確認を行ってください。住所不明で郵送できないときは、退職手続きの記録や最後に得た連絡情報を保存し、改めて連絡先確認の努力を示すことが重要です。
電子化での注意点
電子交付でも保存義務は変わりません。税務調査に備えて適切に保存・管理し、従業員が必要に応じて印刷できることを確認してください。
交付義務違反時の罰則
概要
会社が源泉徴収票の交付を怠ったり、虚偽の内容で交付したりすると、所得税法第242条により刑罰の対象になります。罰則は「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。さらに税務署からの指導や是正勧告の対象にもなります。
刑事罰の内容と対象
未交付や虚偽交付は個人だけでなく法人の代表者や担当者にも適用され得ます。たとえば、従業員に源泉徴収票を渡さず正しい所得状況がわからないまま確定申告を妨げた場合、刑事処分の対象となることがあります。
税務署による行政対応
税務調査で指摘されると、是正勧告や再発防止の指導を受けます。過去の申告漏れが見つかれば追徴課税や加算税の対象になる可能性があります。事実関係の確認により、書類提出や説明を求められます。
実務上の注意点
・交付期限や記載内容をチェックし、発行記録を保存する
・退職者や転職者への送付忘れを防ぐ仕組みを作る
・誤りが見つかった場合は速やかに訂正と受領者への連絡をする
これらを徹底すると、罰則リスクを大きく減らせます。
退職者や転職者への対応
概要
退職者には退職後1か月以内に源泉徴収票を交付する義務があります。転職先に提出するためにも、早めに受け取ることが大切です。
交付期限と手続き
雇用主は退職日から1か月以内に交付します。退職者は会社に送付先(住所やメールアドレス)を伝えておくと受け取りがスムーズです。電子交付に同意している場合は、電子で受け取れます。
転職時の扱い
年の途中で転職した場合、前職の源泉徴収票は転職先に提出します。転職先は前職の支払金額や源泉徴収税額を合算して年末調整を行います。
交付が遅れたり届かない場合の対応
交付が遅れる、またはもらえない場合は、まず前職の総務や担当者に連絡して再発行を依頼してください。交渉が難しいときは税務署に相談できます。労働基準監督署は労働関係の助言も行います。特に会社が倒産した場合は税務署で手続きの助言を受けましょう。
再発行や副本の扱い
紛失した場合は前職に再発行を依頼します。会社が協力しない場合は税務署に相談し、必要に応じて源泉徴収票に代わる書類で年末調整や確定申告する方法を案内してもらえます。
注意点
退職時に住所変更を伝え忘れると交付が遅れるため、退職前に連絡先を確認してください。書類は年末調整や確定申告で重要なので、大切に保管してください。
源泉徴収票が不要なケース
概要
源泉徴収票は会社が給与から天引きした所得税を証明する書類です。給与所得者向けのため、業務委託やフリーランスの方には原則不要です。
業務委託・フリーランスの場合
クラウドソーシングや請負契約で働く個人事業主は、雇用関係にないため源泉徴収票を受け取りません。支払側は支払調書や領収書で支払額を示すことが多いです。例:個人でWeb制作を請け負う場合、発注者から源泉徴収票は来ません。
日雇いや一時的な報酬
日雇いやアルバイトでも雇用契約があれば源泉徴収票が必要です。雇用でない一回限りの報酬は源泉徴収票の対象外になることが多いです。
注意点
支払側が報酬に対して源泉徴収をした場合でも、源泉徴収票は給与に限られるため支払調書などを確認してください。確定申告の際は支払調書や領収書を保管し、必要書類を自分で準備しましょう。
源泉徴収票の主な記載内容
支払金額(給与・賞与の総額)
年間に支払われた給与や賞与の総額が記載されます。たとえば、月給が300,000円でボーナスが500,000円なら年間支払金額は3,600,000円+500,000円で4,100,000円と表示されます。確定申告や年末調整で基準になる金額です。
所得控除額
配偶者控除や扶養控除、基礎控除など、課税対象となる所得から差し引かれる控除額が書かれます。控除の内容が間違っていると課税額に影響するため、家族構成や申告内容と照らし合わせて確認してください。
社会保険料控除額
健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料など、会社が給与から差し引いて納付した社会保険料の合計です。これも所得税の計算で差し引かれます。
源泉徴収税額
1年間に給与から天引きされた所得税の合計です。この金額が確定申告時に精算され、不足があれば追加納付、過払いがあれば還付されます。
支払者情報と受給者情報
支払者(会社)の名称・所在地・整理番号、受給者(従業員)の氏名・住所・マイナンバー欄の有無などが記載されます。記載内容に誤りがあれば、早めに人事・経理担当に連絡して修正してもらいましょう。
チェックのポイント(簡単な例)
- 支払金額が給与明細の合計と一致するか確認する
- 扶養控除などの入力内容が最新か確認する
- 社会保険料の金額が給与明細と合っているか確認する
誤りを見つけたら、交付元に訂正を依頼してください。訂正した源泉徴収票は確定申告や次の年の手続きで必要になります。
源泉徴収票 渡す義務まとめ
要点
- 法的根拠:所得税法第226条に基づき、会社は従業員や退職者に源泉徴収票を交付する義務があります。
- 交付期限:在職者は翌年1月31日まで、退職者は退職後1か月以内です。
- 罰則:交付義務違反は1年以下の懲役または50万円以下の罰金などがあります。
会社が行うこと
会社は該当者に対して期限内に発行し、記載事項の誤りがあれば速やかに訂正・再交付します。電子交付は本人の同意があれば可能です。業務委託など給与所得に当たらない契約先には原則不要です。
実務の例と注意点
- 例1:12月31日時点で在職の社員→翌年1月31日までに交付。
- 例2:2月10日に退職した社員→3月10日までに交付。
書面での受領確認や、電子交付の同意記録を残すとトラブルを防げます。
不明点があれば、具体的な状況を教えてください。詳細にお手伝いします。


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