はじめに
ごあいさつ
退職金は人生の重要な資金です。受け取り方や税金の扱いを誤ると、手元に残る金額が大きく変わります。本記事は、退職金の税務についてわかりやすく案内することを目的としています。
本記事の目的
退職金にかかる税金の基本、会社が行う源泉徴収、確定申告が必要になる場合、税務署での相談方法や準備書類、申告漏れやトラブル時の対応まで網羅的に解説します。専門用語はできるだけ避け、具体例を交えて説明します。
誰に向けた記事か
・これから退職する人
・退職金を受け取ったばかりの人
・税金の取り扱いに不安がある人
読み方のポイント
各章は独立して読めます。まずは「退職金の基礎」から読み進めると理解しやすいです。疑問があれば、税務署での相談方法の章を参考にしてください。
退職金の基礎と税金の扱い
退職金とは
退職金は勤務先が退職時に支払う一時金です。生活の区切りとして重要な収入で、税金の扱いが通常の給与と異なります。
課税される税目
退職金は原則として所得税(および復興特別所得税)と住民税の課税対象です。ただし、退職所得控除という優遇があり、一定額までは非課税になります。
退職所得控除(計算式)
- 勤続年数20年以下:40万円×勤続年数(ただし最低80万円)
- 勤続年数20年超:800万円+70万円×(勤続年数−20年)
課税退職所得金額の求め方
- 退職金から退職所得控除を引きます。これが残額です。
- 残額が0以下なら課税されません。
- 残額が正なら、その2分の1が課税退職所得金額です。
- この金額に所得税率等を乗じて税額を計算します。
具体例
- 勤続10年で退職金500万円:控除400万円→残額100万円→課税退職所得金額50万円。ここに税率を適用します。
- 勤続25年で退職金1,000万円:控除1,150万円→控除が上回るため課税なしです。
退職金は計算の仕組みを知ると納得しやすくなります。次章では会社が行う源泉徴収や申告書について説明します。
会社の源泉徴収と退職所得の受給に関する申告書
概要
退職金の税金は通常、会社が源泉徴収して納付します。ただし「退職所得の受給に関する申告書」を会社に出さないと、退職所得控除が考慮されず、一律20.42%で源泉徴収されます。その場合、後で確定申告して還付を受ける必要があります。
申告書の目的
この申告書は会社に「退職所得控除を反映して源泉徴収してください」と伝えるための書類です。提出すると、会社が源泉徴収税額を少なく計算します。
提出しない場合の影響
- 控除が適用されず税額が高くなる
- 会社は法定の税率(通常20.42%)で天引きする
- 過剰に徴収された分は確定申告で還付を請求する必要がある
いつ・どこに出すか
退職金支給前に、勤務先の総務や給与担当に提出します。会社によっては所定の様式を渡されます。
書き方と注意点
記入項目は氏名、住所、マイナンバー、退職日、支給予定の旨などが中心です。記載ミスがあると適用されないことがあるので、控えを取っておきましょう。
もし既に一律で徴収されたら
過剰に徴収されている場合は、翌年の確定申告で還付申請をします。会社や税務署に相談すると手続きの案内を受けられます。
確定申告が必要になるケース
概要
原則として退職金は会社が源泉徴収を行い確定申告は不要です。ただし次のような場合は申告が必要、あるいは申告した方が有利になります。
主なケースと具体例
1) 申告書を提出していない(会社が源泉徴収しない)
– 例:退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を会社に出していないと、会社は高い税率で源泉徴収します。この場合、自分で確定申告して過払い分の還付を受けられます。
2) 複数の会社から退職金を受け取ったとき
– 例:A社で退職金を受け取りB社でも受け取った場合、合算して税額を計算する必要があります。源泉徴収だけでは正しい税額にならないことがあります。
3) 障害者手帳や生活保護受給など特例があるとき
– 障害者に対する控除や生活保護との関係で税の扱いが変わる場合があります。該当する証明書を添えて申告します。
4) 年の途中で退職し年末調整がされていないとき
– 年末調整が未実施だと他の所得と合算した結果、申告が必要になることがあります。
5) 他の所得と合算して納税額が変わるとき
– 例:退職金に給与や不動産収入があると税率が変わり、追加納税や還付が発生する場合があります。
手続きのポイント
- 必要書類:退職金に関する源泉徴収票、本人確認書類、障害者手帳など特例証明書
- 提出方法:通常の確定申告書で申告。e-Taxを使うと手続きが楽です。
- 期限:翌年の確定申告期間に提出します。期限を過ぎた場合でも還付があるときは申告できます。
まずは源泉徴収票を確認し、該当するケースがあれば早めに申告準備を進めてください。
税務署での相談方法と無料相談窓口
税務署では退職金の税務相談を無料で受け付けています。受付時間は平日8:30~17:00で、電話相談と窓口相談の両方が利用可能です。国税庁のサイトで最寄りの税務署を検索できます。電話相談も無料ですが、通話料は自己負担になります。確定申告の時期には相談会が開かれ、混雑しますので早めに確認してください。
相談の種類と利用方法
- 窓口相談:書類を直接見せながら説明できます。事前に電話で予約するとスムーズです。混雑時は待ち時間が長くなることがあります。
- 電話相談:手軽に問い合わせできます。身の回りの書類を手元に用意してから電話すると話が早く進みます。
相談前に用意するもの(例)
- 身分証明書(運転免許証など)
- 源泉徴収票や退職金の支払明細
- 会社から受け取った「退職所得の受給に関する申告書」の控え
- 雇用契約書や退職理由が分かる書類(必要な場合)
- 質問したいポイントを箇条書きにしたメモ
例:「退職金300万円を受け取り、源泉徴収をされています。確定申告は必要ですか?」と具体的に伝えると回答が得やすいです。
相談の流れと注意点
- 受付で目的を伝え、予約番号や受付票を受け取ります。2. 税務職員に書類を提示して相談します。3. 必要なら後日回答や書類の確認が入ります。相談内容は原則非公開ですが、複雑な事例は税理士等を紹介されることがあります。
来署が難しい場合は電話相談を利用し、通話料を確かめてからかけてください。相談で示された指示は記録しておくと、あとで確認しやすくなります。
税務署相談の流れ・準備書類
来署の前に
電話やチャットで「退職金相談」と伝え、概要(支給額や源泉徴収の有無)を伝えると窓口で案内が早くなります。予約制の税務署もあるので、混雑を避けるために確認しておきましょう。
持参するとよい書類(具体例と理由)
- 退職金支給明細:支給額や控除の内訳を確認するため
- 源泉徴収票(退職時):税額や支払者情報の確認に必須
- 「退職所得の受給に関する申告書」の控え:提出済みかどうかの確認用
- 雇用契約書や離職票、就業規則の写し:勤続期間や退職理由の確認に役立ちます
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード等):身元確認のため
- 通帳の写しや印鑑:還付金の受取口座確認や手続きで必要な場合があります
原本と併せてコピーを用意すると職員が控えを取る際に便利です。
窓口での流れ
- 受付で趣旨を伝え、相談票に記入します。2. 指定の窓口で担当者と面談し、書類を提示して相談内容を説明します。3. 職員が計算や必要書類を案内します。必要なら改めて提出すべき書類の一覧を受け取ります。
所要時間は内容によりますが、簡単な相談で30分前後、複雑だと1時間以上かかることもあります。
書類が揃わない場合
足りない書類は勤務先に再発行を依頼するか、税務署で代替資料で対応できるか確認してください。急ぐ場合は事情を説明すると臨機応変に案内してくれます。
相談をスムーズにするコツ
- コピーを用意する、要点をメモにまとめる、窓口での質問を事前に箇条書きにする。これで短時間で正確に相談できます。
トラブル時・申告漏れ時の対応
1) まずやること
申告漏れや税額誤りに気づいたら、まず書類を整理してください。退職金の支払明細、源泉徴収票、勤め先とのやり取り(メールや支払調書)をそろえます。証拠がそろえば手続きがスムーズです。
2) 税務署へ相談する
早めに税務署に連絡し、事情を説明してください。税務署は修正申告や還付申告の方法、必要書類、提出先を案内してくれます。相談は無料です。
3) 具体的な手続き
- 自主的に間違いを申告する場合:修正申告または期限後申告で是正します。自主申告はペナルティが軽くなることが多いです。
- 過払いがある場合:還付申告で返金を求めます。
- 税務署が誤りを見つけた場合:更正決定が行われることがあります。
4) 罰則と利息について
過少申告や無申告には加算税や延滞税が課される場合があります。自主的に早めに申告すれば、加算税が軽減されることが多いので、早めの対応が重要です。
5) 専門家の活用
複雑なケースや大きな金額の場合は税理士に相談すると安心です。税理士が代理で修正申告や交渉をしてくれます。
早めに動けば手続きは十分に間に合います。疑問があれば税務署や信頼できる専門家に相談してください。
退職金の税金に関するよくある質問とまとめ
はじめに
退職金は税制上の優遇が大きく、通常は会社が源泉徴収して処理します。ここではよくある疑問に簡潔に答えます。具体例を交えて分かりやすく説明します。
よくある質問(FAQ)
Q1: 確定申告は必要ですか?
A: 退職金に関する申告書を会社に提出している場合は、原則として確定申告は不要です。提出していないと高率で源泉徴収されることがあり、その場合は還付申告が必要になることがあります。
Q2: 退職所得控除とは?
A: 勤続年数に応じて受けられる控除です。長く勤めるほど控除額が大きくなります。具体的な計算は年数によって変わるので、源泉徴収票で確認してください。
Q3: 複数社から退職金をもらったときは?
A: 年内に複数の退職金があると、会社での処理だけでは正しい税額にならない場合があります。そのときは確定申告が必要になることがあります。
Q4: 海外転居や非居住者になった場合は?
A: 税扱いが変わるので、税務署か専門家に早めに相談してください。
Q5: 申告漏れや過不足が見つかったら?
A: 税務署で修正申告や還付申告ができます。必要書類を持って相談窓口へ行きましょう。
相談時に持参すると良い書類(例)
源泉徴収票、退職金の明細、印鑑、本人確認書類(マイナンバーカード等)を用意してください。
最後に(まとめ)
退職金は優遇が大きく、多くの方は会社の処理で問題ありません。イレギュラーや不安がある場合は税務署の無料相談や税理士の活用を検討してください。早めの確認が安心に繋がります。


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