はじめに
退職にあたっては「退職届」と「退職願」という書類がよく出てきます。本記事は、その違いを分かりやすく整理し、適切な使い分けができるようにすることを目的としています。
本記事の目的
・退職届と退職願の基本的な意味をはっきりさせます。
・法的効力や撤回の可否、提出のタイミング、書き方、実務上の注意点まで網羅的に解説します。
想定する読者
・初めて退職手続きをする人
・会社から書類の提出を求められた人
・書き方や撤回の可否が気になる人
読み方のポイント
各章を順に読むと理解が深まります。章ごとに具体例や実務での注意点を示しますので、必要な部分だけ参照しても役立ちます。安心して読み進めてください。
退職届と退職願の基本的な違い
定義
退職届:労働者が会社に対して「退職する」と正式に通知する書類です。提出した時点で退職の意思が確定する扱いになり、原則として撤回できません。例:退職日を明記して提出し、会社側が受理した後に退職が確定します。
退職願:労働者が会社に対して「退職したい」と申し出る書類です。会社の承認を得て退職が成立します。承認前なら撤回や再検討が可能です。例:まず退職願を出して上司と話し合い、引き継ぎや退職日を調整します。
法的な扱いの違い
退職届は意思表示が強く、労働契約上の終了手続きが進みやすいです。ただし、労働基準法で定める手続きや就業規則に沿って扱われます。退職願は交渉のきっかけと考え、会社側の同意によって手続きが始まります。
実務上の違いと使い分けの目安
・すぐに退職の意思を確定させたいときは退職届を使います。急な転職や雇用条件の重大な変更がある場合に用いられます。
・まず相談したい、引き継ぎや待遇面で調整したいときは退職願を使います。撤回の余地が欲しい場合はこちらが向きます。
具体例:内定先の入社日が迫る場合は退職届、職場と話して条件が整えば辞めるか悩んでいるときは退職願、と使い分けます。
書面の有無と口頭の扱い
どちらも書面で残す方がトラブル防止になります。口頭での申し出は記録に残りにくく、後の誤解につながることがあります。
実務的には、迷ったら退職願を提出して上司と相談してから最終判断する方法が安全です。
法的効力と撤回の可否
退職願(申込みとしての性質)
退職願は「退職したい」という申込みです。民法の基本原則に沿い、会社が承諾するまでは申し込みを取り下げることが原則として可能です。つまり、提出後すぐに撤回したい場合は、会社がまだ承諾していなければ撤回できます。
具体例:1月10日に退職願を提出し、会社からまだ返答がない場合は、提出者が取り下げを申し出れば撤回できます。
ただし、会社側が承諾する行為(承諾書の交付、手続き開始、退職日の確定など)を行った後は、撤回が難しくなります。勤務引継ぎや後任手配が進んでいると、実務上の撤回は認められない場合が多い点に注意してください。
退職届(通知としての性質)
退職届は「退職を通知する」文書で、提出した時点で効力が発生すると扱われることが一般的です。提出後に会社が受理すると、撤回は原則としてできません。書面に退職日が記載されていると、その日をもって法的効果が生じます。
具体例:3月1日に退職届を提出して受理された場合、退職日は記載どおり有効となり、撤回は難しくなります。
実務上の注意と対処法
- 撤回を希望する場合は早めに口頭と書面で申し出し、会社の承諾を得ることを目指してください。書面での同意をもらうと後のトラブルを避けられます。
- 会社が既に業務上の変更や後任手配を行っている場合、撤回を認めないことが多い点を理解してください。
- 口頭でしかやり取りがないと、意思表示の争いになる可能性があります。重要なやり取りは記録に残しましょう。
- どうしても合意が得られない場合は、労働相談窓口や弁護士に相談する選択肢があります。
以上を踏まえ、まずは自分の意思をはっきりさせ、撤回する場合は速やかにかつ記録を残して会社と話すことをおすすめします。
提出のタイミングと目的の違い
概要
退職願と退職届は、提出のタイミングと目的が異なります。ここでは具体的な場面ごとに分けて、誰にいつ、何のために出すかを分かりやすく説明します。
退職願のタイミングと目的
- タイミング: 退職を上司にまず伝えたいときや、退職日や引き継ぎ方法について会社と相談したいときに提出します。
- 目的: まだ会社と交渉の余地があることを示し、柔軟に条件調整を進めるためです。例えば、希望する退職日を伝えて調整する、引き継ぎの期間を相談する、場合によっては引き止め対応を緩和する、といった使い方です。
退職届のタイミングと目的
- タイミング: 退職条件(退職日、引き継ぎ、最終出勤日など)が確定し、意思が固まった段階で提出します。会社と合意した後に正式書類として出すのが一般的です。
- 目的: 会社に対する正式な意思表示であり、手続き(給与精算、社会保険の処理、離職票発行など)を進めるために必要です。
実際の流れ(例)
- 口頭で退職の意向を上司に伝える。
- 退職願で相談・調整を行う。
- 会社と日程など合意に至ったら退職届を提出する。
注意点
- 就業規則や契約書で決められた所定の期間(退職予告)がある場合は、それを満たすように配慮してください。
- 退職願を出しても会社が受け入れない場合は、最終的に退職届で手続きを進める必要が生じることがあります。
以上を踏まえ、まずは上司と話し合い、合意が得られたら正式書類を整える流れをおすすめします。
書き方と文言の違い
- はじめに
退職願と退職届は文の役割が異なります。退職願は「お願い」を表すため柔らかい表現を使い、退職届は「決定」を伝えるため断定的な表現を使います。
- 基本的な書き方の違い
退職願:希望やお願いを書きます。例文は「私事ではございますが、○年○月○日をもって退職させていただきたく、ここにお願い申し上げます。」という形が一般的です。理由は簡潔に「一身上の都合により」とすることが多いです。
退職届:効力を持たせる文面です。例は「私、○○は○年○月○日をもって退職いたします。」と断定的に記載します。理由は省略して差し支えありません。
- 日付・宛先・署名の書き方
文頭に宛名(会社名・代表者名)、右上に日付、末尾に氏名と所属を記載します。押印が必要かは社内規程に従います。
- 文面の長さとトーン
退職願は丁寧で柔らかく、1〜2段落で簡潔にまとめます。退職届は短く明確にします。どちらも礼儀として感謝の一言を添えると印象がよくなります。
- 具体的なテンプレート
退職願(例)
私事ではございますが、○年○月○日をもって退職させていただきたく、ここにお願い申し上げます。
退職届(例)
私、○○は○年○月○日をもって退職いたします。
以上の違いを踏まえて、相手や状況に応じた文言を選んでください。
実務上の注意点と使い分け方
1) まず就業規則と慣例を確認する
会社によって「退職届」を提出する場面と「退職願」を受け付ける場面が異なります。就業規則や人事規程に書かれていることが多いので、最初に確認してください。口頭での慣例がある場合は、人事や先輩に軽く聞いておくと安心です。
2) 提出前の相談とタイミング
退職の意思が固まる前に退職届を出すと撤回が難しくなります。まず上司に口頭で相談し、人事に確認したうえで書面を用意すると安全です。急な事情で即日提出が必要な場合は、撤回の可否を事前に確認してください。
3) 書面の扱いと証拠の残し方
提出する書類には日付と自署を入れ、控えを必ず受け取ります。郵送する場合は配達記録や簡易書留を使うと証拠になります。口頭だけで終えると後で日時や内容で争いになる恐れがあります。
4) 使い分けの実務例
- 迷いがある/交渉中:退職願を使い、協議の余地を残す。
- 決意が固い/退職日を確定させる必要がある:退職届を提出する。
- 就業規則で指定がある場合:規程に従う。
5) そのほかの注意点
引き継ぎ計画や有給消化の希望は早めに伝えます。役所手続きや保険関係の締切も確認してください。万が一トラブルになったら、まずは社内で記録を整理し、人事と冷静に話し合う姿勢が大切です。
役職者の場合の「辞表」との違い
概要
辞表は主に取締役や執行役、部長クラスなどの役職者が用いる書類です。通常の従業員が使う退職届・退職願と用途や手続きが異なります。
辞表の性格と対象
辞表は職位そのものからの辞任を伝える文書で、会社の組織運営にかかわる影響が大きい点が特徴です。株主や取締役会の決議が必要になる場合があります。
法的・実務的な違い
退職届は労働契約の終了を通知する書類で、辞表は役職(役員職や管理職)の辞任を意味します。辞表は社内規程や会社法に基づく手続きが関わることが多く、承認や公告などの追加対応が必要になることがあります。
提出時の注意点
提出先は代表取締役や取締役会です。提出後も職務上の義務や引継ぎを果たす必要があります。印章の扱いや提出形式は会社ごとに定められているため、事前に確認してください。
書き方のポイント(例)
- 簡潔に「辞任の意思」を明記する
- 退任希望日を記す
- 役職名と氏名を明記
例:
「このたび、私○○は○○取締役を辞任いたしたく、ここに辞表を提出します。退任希望日:20XX年XX月XX日」
以上を踏まえ、辞表は影響範囲が広い点を意識して慎重に作成・提出してください。
まとめ
退職願と退職届の違いを簡潔にまとめます。
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意義の違い:退職願は退職の申し込み、退職届は退職の通知です。退職願は会社の承認前であれば撤回できますが、退職届は提出時点で原則として撤回できません。
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実務の流れ:まず退職願で意向を伝え、上司と話し合って退職日や引継ぎ、有給消化などの条件を固めます。合意が得られたら日付を入れた退職届を提出して正式に手続きを完了します。
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注意点:就業規則や雇用契約で手続きが定められている場合はそれに従ってください。会社側の対応によっては調整が必要になることがあるため、証拠として書面でやり取りを残すことをおすすめします。
この流れを基本にすれば、トラブルを避けて円滑に退職できます。退職の意思は早めに伝え、引継ぎや社内手続きを丁寧に進めてください。


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