はじめに
本記事の目的
本記事は、有給休暇の「消化」と「買取り」に関する税金の取り扱いをわかりやすく説明することを目的としています。退職時や在職中に起こりやすい疑問を整理し、実務で役立つポイントを具体例で示します。
読者対象
・有給が残っている社員・退職を控えた人
・副業をしながら有給を使う可能性のある人
・人事・総務担当者
本記事で扱う主な内容
- 有給消化中の給与と税金の基本
- 有給消化中に副業した場合の課税関係
- 有給買取りの課税区分と計算方法
- 社会保険や扶養・年収制限への影響
- 就業規則・法律上の注意点
読み方のアドバイス
まず自分のケース(在職か退職か、残日数、給与の支払い方法)を確認してください。例えば「退職時に残った10日分を会社が買い取る」場合と「在職中に有給を消化して給与が減る」場合で、税や保険の扱いが異なります。
注意事項
本記事は一般的な説明を行います。個別の税務判断や詳細計算は税理士や社労士に相談してください。
有給休暇の消化と税金の基本
概要
有給休暇を取得しても、給与は通常どおり支払われます。取得日も「出勤扱い」となり、税金や社会保険料はそのまま計算されます。特別な控除や優遇は基本的にありません。
給与の扱い
有給は給与の一部として扱います。月給制の人は、通常の給与明細に有給分が反映されます。日給や時給の人も、有給分は賃金として支給されます。
税金の扱い(所得税・住民税)
所得税・住民税は通常の給与と同じく源泉徴収や年末調整で精算します。税率や控除の扱いは普段の給与と変わりません。
社会保険料の扱い
健康保険・厚生年金・雇用保険の料算定も通常どおりです。有給分は報酬として扱われ、社会保険料の計算対象となります。
源泉徴収の区分(甲・乙)
扶養控除等申告書を提出しているかで源泉徴収の方法が変わります。主たる勤務先で申告書を出していれば「甲欄」で計算され、税額は少なくなりやすいです。提出がない場合は「乙欄」となり、税額は高めになります。
具体例
月給30万円の人が有給を取得しても、給与は30万円のままです。所得税や社会保険料も通常どおり差し引かれます。副業で別の収入がある人は、申告書の提出状況に注意してください。
注意点
年末調整や確定申告で最終的な税額が確定します。会社ごとの就業規則で手続きが異なることがあるため、不明点は人事や総務に確認してください。
有給休暇消化中に副業をした場合の税金
概要
有給休暇を使っている間に他社でアルバイトや副業をすると、その副業分の給与も年間の収入に合算され、所得税・住民税の計算に含まれます。扶養控除や課税対象かどうかは、合計の年間所得額で判断されます。
所得税・住民税への影響
- 年間の給与合計から各種控除(給与所得控除、基礎控除など)を差し引いた額で課税所得が決まります。副業分が増えると課税所得が大きくなります。
- たとえば、副業で年間50万円を得れば、その分は合算して税額に反映されます。
年末調整と確定申告
- 副業先で年末調整が行われない場合は、自分で確定申告が必要です。主な会社で年末調整を受けていても、副業分を申告しないと正しい税額になりません。
- 住民税は市区町村が所得を基に計算します。副業の所得を申告しないと後で追徴されることがあります。
注意点
- 給与明細や源泉徴収票は必ず保管してください。税額や扶養状況の判断に必要になります。
- 就業規則で副業が制限される場合もあるため、事前に確認すると安心です。
有給休暇の買取りと税金
原則と例外
有給休暇の買取りは原則として認められていません。ただし、退職時に残日数を消化できないなど特定の状況では会社が買取りを行うことがあります。買取りがあるかは就業規則や雇用契約で確認してください。
課税区分の違い
買取金は支給の性格により「給与所得」か「退職所得」に分かれます。通常は給与と同様に扱われ、給与所得として所得税・住民税が課税されます。退職時に退職金扱いで支払われる場合は退職所得となり、退職所得控除が適用され税負担が軽くなることがあります。
判断基準(簡単な目安)
支給のタイミングや名称、会社の取り扱いがポイントです。退職と同時にまとめて支払う場合は退職所得になりやすく、在職中に臨時的に払われると給与所得になることが多いです。
税・源泉徴収の扱い
通常は源泉徴収が行われます。給与所得なら毎月の給与と合算して課税され、退職所得なら退職金扱いの計算方法で源泉徴収されます。金額が大きいと社会保険料にも影響するため注意が必要です。
確認と対応
給与明細・退職時の説明書を必ず確認し、疑問があれば人事に問い合わせてください。必要なら税理士や年金相談窓口に相談すると安心です。
有給買取金の計算方法
計算の基本
有給買取金は、欠勤扱いにする場合の給与と同じ考え方で算出します。一般に次の方法が使われます。
– 平均賃金方式:直近数か月の支給額を対象期間の日数で割って1日当たりを算出します。
– 通常賃金方式:月給や日給を基に、所定労働日数で割って1日当たりを出します。
就業規則で明確に定めがあればその方法を優先します。定めがなければ、労働者に有利な計算方法が採られることが多いです。
平均賃金方式の具体例
例:直近3か月の支給合計が90万円、当該3か月の暦日数が92日だとします。
1日当たりの平均賃金=900,000円÷92日=約9,783円
有給残日数が5日なら、有給買取金=9,783円×5日=約48,915円
通常賃金方式の具体例
例:月給30万円、所定労働日数が20日だとします。
1日当たりの通常賃金=300,000円÷20日=15,000円
有給残日数が5日なら、有給買取金=15,000円×5日=75,000円
どの方法が使われるか
- 就業規則や労使協定で定めることが第一です。
- 定めがない場合、一般に労働者に有利な方が採られます。上の例なら通常賃金方式の方が高額なので、労働者に有利です。
注意点
- 計算に含める手当やボーナスの扱いは会社ごとに異なります。明確でないときは就業規則や人事担当に確認してください。
- 小数点以下の端数処理(切り捨て・切り上げ)が規程で決まっている場合があります。規程を確認すると良いです。
- 買取金額は給与扱いになるため、税や社会保険料の影響が出ます(次章以降で詳述します)。
社会保険料・雇用保険料との関係
基本的な考え方
有給消化中に支払われる給与(賃金)には、普段と同じように健康保険・厚生年金(以下、社会保険)と雇用保険の保険料がかかります。給与扱いの有給は給与月の報酬として計算されます。
有給消化中の扱い(例)
例:月給30万円の方が3月に有給を消化しても、保険料は通常通り給与に対して差し引かれます。会社が給与計算を行い、社会保険料・雇用保険料を控除します。
有給買取金の扱い
- 在職中に買取(支給日が在職期間内)の場合:社会保険・雇用保険ともに対象になります。会社は給与扱いとして計算し保険料を差し引きます。
- 退職後に支給される場合:多くは支給時点で被保険者でないため社会保険料は発生しません。ただし支給が“退職直前の賃金”にあたる扱いになると、支給時期や会社の処理によっては保険料の扱いが変わることがあります。
雇用保険の注意点
雇用保険は支払時点で被保険者かどうかで判断します。通常、退職後に支払われれば徴収されませんが、給与計算上は在職とみなされるケースもありますので確認が必要です。
実務上の確認ポイント
1) 支給日と退職日を確認する
2) 給与明細で保険料の有無を確認する
3) 不明点は総務・給与担当か年金事務所・ハローワークに問い合わせる
書類を残しておくと将来の誤解を防げます。
年収制限・扶養控除への影響
有給消化や買取で一時的に給与が増えると、年収の区切りを超えて扶養から外れることがあります。税制上の目安は年収103万円、社会保険の被扶養者認定ではおおむね130万円です。
- 具体例
- 普段の年収90万円に有給買取15万円が加わると105万円になり、103万円を超えて配偶者控除などの対象外になる可能性があります。
-
年収125万円の方が有給消化で10万円多く受け取ると135万円になり、被扶養者認定の上限130万円を超えてしまいます。
-
影響
- 税金面:配偶者控除が受けられなくなり、世帯全体の所得税・住民税が増える場合があります。
-
社会保険面:被扶養者でなくなると本人が健康保険や厚生年金の保険料を負担する必要が出ます。結果的に手取りが減ることもあります。
-
対策と注意点
- 支払月や年内の合計額を事前に確認してください。年の途中にまとまった支払いがあると、その年の年収見込みが急に変わります。
- 可能なら有給買取の支払を分割してもらう、または支払時期を調整してもらうよう会社と相談してください。
- 被扶養者認定は保険者や組合ごとに運用が異なります。疑問があれば勤務先の総務や健康保険組合に確認しましょう。
月ごとの加算で被扶養者認定に影響が出る場合があります。受け取る金額とタイミングに注意して、事前に相談・確認することをおすすめします。
法的・就業規則上の注意点
就業規則をまず確認しましょう
有給消化や買取については会社ごとにルールが決まっています。申請方法、承認のタイミング、買取の有無などを就業規則や労務規程で確認してください。わからなければ人事・総務に照会しましょう。
休暇取得の手続きと運用
多くの会社は申請→承認→記録の流れで運用します。業務都合で時季指定(会社が取得時期を指定)されることがあります。繁忙期の調整や連続取得の制限がある例もありますので、事前に調整しておくとトラブルが減ります。
退職時の未消化有給の扱い
退職時に未消化の有給を会社が買い取るかは企業の任意対応です。法律上、買取義務は一般にありません。申請や合意が必要になるため、退職前に買取の有無や計算方法を確認し、書面で残しておくと安心です。
副業・休暇中の就業に関する注意
休暇中の副業や他業務については就業規則や雇用契約で制限がある場合があります。副業禁止や届出義務があるときは事前に確認し、必要なら許可を得てください。
証拠を残し、問題があれば相談を
申請メールや承認記録、給与明細など証拠を残しておきます。会社と話がつかない場合は労働基準監督署や労働相談窓口に相談するとよいでしょう。
まとめ
有給休暇の取り扱いは、税金や社会保険の扱いが普段の給与と同様になる点が基本です。有給消化中の給与は課税・保険料対象ですし、有給買取りは在職中の支払いなら給与所得、退職時の支払いなら退職所得として扱われることが多いです。
ポイントを分かりやすくまとめます。
- 課税・保険:有給消化や買取りは原則として課税と社会保険料の対象です。
- 扶養・年収制限:年収の増減で扶養や各種年収条件に影響します。具体的なラインは制度ごとに異なります。
- 就業規則:会社によって買取りの可否や支払い方法が違います。事前に規則や書面で確認してください。
- 実務対応:支給時の源泉徴収額や保険料の扱いを給与明細で確認し、不明点は人事・経理や税理士に相談しましょう。
最終的には、個々の事例で扱いが変わるため、会社と事前に確認し、必要なら専門家に相談することが安心です。


コメント