はじめに
本書の目的
本書は、退職代行サービス業界の元祖とされる「EXIT」について、創業背景から現在の業界状況までをわかりやすく整理することを目的としています。EXITの事業構造や法的課題、類似サービスとの違い、内定辞退代行の先駆け「リクセル」、後発の「モームリ」との関係、そして2025年のモームリ家宅捜索が業界に与えた影響までを丁寧に解説します。
読者対象
- 退職代行サービスに関心がある方
- 人事や労務に携わる方
- 業界の変遷を知りたい一般読者
本書の構成と読み方
全8章で構成し、まず第1章で本書の全体像を示します。第2章以降で創業背景やビジネスモデル、過去の類似サービス、主要企業の動向、そして業界への影響を順に解説します。専門用語はできるだけ避け、具体例を交えて丁寧に説明しますので、初めての方でも読み進めやすくなっています。
退職代行サービスの起源とEXITの創業背景
創業のきっかけ
退職代行の元祖はEXITで、2017年初頭に日本で初めての退職代行サービスとして創業されました。創業者は岡崎氏と新野氏の共同創業で、小学校の同級生という強い信頼関係が土台になっています。二人は働き方や職場での悩みが増える一方、社内で退職を伝えづらい人が多いことに気づき、第三者が橋渡しする仕組みを作ろうと考えました。
初期のサービスモデル
EXITは当初、依頼者が会社に行けないことを伝えるだけのシンプルなモデルを採用しました。具体的には、依頼者の代わりに「本日は出社できない」「退職の意思がある」と会社に伝える役割に限定しました。こうすることで、法律に触れるリスクを避けつつ、依頼者の精神的負担を軽くしました。
法的リスクの回避と配慮
退職に関する手続きや交渉を代行すると、弁護士法などの法的問題が生じるおそれがあります。EXITは初期段階でその点を慎重に検討し、直接の交渉や書類作成など法的業務に踏み込まない線引きをしました。結果として多くの人が安全に利用できる入口として機能しました。
当時の反響とその後の展開
創業当初は賛否両論がありましたが、実際に助かったという声が集まり、認知度が高まりました。その後、サービス内容の拡張や提携によって、より幅広いニーズに応えるようになっていきます。EXITの登場は、退職をめぐる選択肢を増やし、後続サービスの誕生にもつながりました。
EXITのビジネスモデルと法的課題の解決
ビジネスモデルの発案
EXITはまず市場のニーズと労働者の立場を調査しました。多くの相談者が「直接言いにくい」「手続きが分からない」と感じており、そこにサービス価値があると判断しました。料金は明瞭に設定し、代行の手順を分かりやすく示すことで利用者の不安を減らしました。
法的課題の認識
弁護士法の下で、代理交渉は弁護士の独占業務です。本人の代わりに条件交渉を行えば違法に当たる恐れがありました。EXITはこの点を早期に認識し、法的リスクを避ける方針を取りました。
サービス設計の工夫
EXITは「依頼者の退職意思を伝えるだけ」というモデルに切り替えました。具体的には、依頼者からの委任を受けて、退職の意思表示(退職日や必要書類の確認)を電話や書面で雇用主に伝達します。交渉や条件変更の提案は行わず、必要があれば即座に弁護士へ案内します。
運用上の配慮と例
記録を残すため通話録音やメール送信を徹底し、依頼者に送付した確認書を保存します。例えば有給消化の扱いで企業側と話が必要な場合、退出時点では交渉をせず、弁護士紹介のフローに移すことで法的線引きを守ります。
利用者への注意点
本サービスは意思伝達を主目的とします。条件交渉や複雑な紛争解決を望む場合は、専門の弁護士に相談するよう説明を徹底しています。これにより現行の法的基準に合致した運用を実現しました。
EXIT以前に存在した退職関連サービス
概要
EXITの創業以前、退職連絡を代行するサービスは主に電話代行会社が担っていました。彼らは謝罪代行を得意とし、依頼者になりすまして職場へ連絡する方法で対応していました。
具体的な方法
多くの場合、依頼者の親や親戚を装って電話をかけ、退職の意思や事情を伝えました。たとえば「体調不良で出社できない」といった理由を伝え、そのまま退職の手続きを促すような流れです。対面ではなく電話で済ませられるため、依頼者の直接的な接触を避けられます。
料金と利用者層
料金はおおむね10万円前後が相場でした。料金には電話連絡の代行だけでなく、場合によってはその後の調整やフォローも含まれることがありました。主に職場との直接対話を避けたい若年層や人間関係に疲れた人が利用していました。
メリットと注意点
メリットは、依頼者が精神的な負担を軽くできる点です。電話で済ませるため時間も短く、即時対応が可能でした。一方で、倫理や法的な問題、雇用契約上の手続きが適切に行われないリスクが残りました。電話でのやり取りだけでは書面での退職手続きや引き継ぎに不備が出ることがあります。
社会的な位置づけ
ニッチな需要に応えた結果、電話代行会社は“元祖退職代行”とも言えます。直接会社と顔を合わせたくない人々の受け皿となり、後の退職代行サービスの前段階としての役割を果たしました。
内定辞退代行の元祖「リクセル」
背景
退職代行が話題になった時期に、リクセルは内定辞退に特化した代行サービスをいち早く提供しました。就活生や転職希望者が増える中、内定辞退の連絡に悩む人が多く、ニーズに応えて生まれたサービスです。
サービス内容
リクセルは企業への辞退連絡を代行します。電話やメールでのやり取り、辞退理由の伝え方の調整、担当者への配慮ある表現の作成などを行います。企業側とのトラブルを避ける配慮を重視しており、当事者が直接対応しなくても済む仕組みです。
実績と強み
業界実績No.1とされ、1,000人以上の辞退支援実績を持ちます。多くの事例で得たテンプレートと対応ノウハウにより、短期間で丁寧に連絡を済ませられます。秘密厳守で進め、当人の今後のキャリアに影響が出ないよう配慮します。
利用の流れ
- 問い合わせとヒアリング
- 代行連絡の内容確認
- 企業への連絡実施
- 完了報告と書面保存
通常は数日内に対応します。
注意点
費用や対応範囲は事業者ごとに異なります。内定先との今後の関係や法的な書類が必要かは事前に確認してください。早めに相談すると安心です。
モームリの台頭とEXITの現在の状況
背景
退職代行「モームリ」は2022年3月にサービスを開始しました。EXITより後発ながら、短期間で業界のトップに上り詰めています。EXITは創業当初、業界を代表する存在でしたが、現在はモームリの優位が目立ちます。
成長の要因
モームリは分かりやすい料金表示や申し込みのしやすさ、SNSや動画を使った情報発信で利用者に届きやすくしました。実際の利用者の声や口コミが広がり、新規顧客を獲得する好循環が生まれています。また、迅速な対応やオペレーションの効率化、弁護士や社労士など専門家との連携を強めた点も信頼を高めました。具体例として、申し込みから手続き開始までの導線を短くして離脱を防ぐ工夫があります。
EXITの対応と現状
EXITは代表として築いたブランド力とノウハウを持ちますが、モームリの勢いに対して市場シェアを奪われています。これに対しEXITは、サービスの品質向上や差別化策に取り組んでいます。たとえば顧客対応の強化、企業向けサポートの拡充、他のキャリア支援サービスとの連携などで独自性を出そうとしています。
今後の見通し
現時点ではモームリが優勢ですが、市場は利用者のニーズや法制度の変化で変わり得ます。両社ともにサービスの信頼性と透明性を高める努力を続ける必要があります。利用者は各社の料金や対応、専門家の関与などを比較して選ぶことが重要です。
2025年10月のモームリ家宅捜索と業界への影響
捜索の概要
2025年10月22日、モームリを運営するアルバトロスが弁護士法違反の疑いで警視庁の家宅捜索を受けました。報道を受け、利用者や企業の関心が一気に高まりました。
EXITへの影響
EXIT代表の新野氏は問い合わせが3倍以上に増えたと説明しました。対応のため、特別価格でのサービス提供を決定し、問い合わせの優先処理を行いました。
業界全体への波及
一社の捜索は業界への信頼に影響を与えます。利用者は法令順守や安全性をより重視するようになり、他の退職代行業者にも問い合わせが集中しました。
ユーザーの不安と選択
相談者は「違法性の有無」や「プライバシー保護」を懸念します。具体例として、労働者が即日で辞めたい場合、法的に問題のない手続きを提供する業者を選ぶ傾向が強まりました。
EXITの対応と注意点
EXITは弁護士連携や本人確認の強化、料金表示の明確化を進めています。業界全体も同様の対応を求められますが、短期的な混乱を避けるため、冷静な情報収集と法的助言の活用が重要です。
EXIT代表の業界への思い
代表のコメント
EXIT代表の新野氏は、モームリの弁護士法違反疑惑により、同様のサービスの継続は難しいと考えています。業界全体が疑いの目で見られる状況を遺憾に思うと述べ、利用者の信頼が最優先だと強調しています。
EXITの姿勢
EXITは創業以来、弁護士法の遵守を徹底してきました。弁護士との連携体制を整え、社内研修や業務フローの明確化など具体的な対策を行っています。利用者への説明を丁寧に行い、安心して利用できる環境作りに努めています。
今後の展望
業界が信頼を回復するためには透明性の向上と明確なルール作りが必要です。新野氏は、EXITとして法令順守を続けながら、業界の健全化に貢献したいとの思いを改めて示しました。


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