はじめに
本資料の目的
本資料は、退職日を決める際に社会保険料や税金、失業給付などの負担や受取額にどのような影響が出るかを分かりやすく解説します。特に月末退職と月中退職の違い、ボーナスや年度末・年末の時期的メリット、そして2025年4月以降の雇用保険制度改正の影響に焦点を当てます。
読者に向けて
退職を予定している方、転職を考えている方、家計管理をしたい方に役立ちます。退職日の選び方で数万円以上の差が生じるケースがあるため、各制度の仕組みを理解し最適なタイミングを検討してください。
本書の構成と読み方
各章で制度の基本ルール、月単位で決まる仕組み、月末退職のメリット、給付金を最大化するポイント、年齢や家族構成別のおすすめ、最終チェックリスト、具体的シミュレーション例を順に解説します。まずは第2章で退職日を決める基本ルールを確認してください。
退職日を決めるときに知っておきたい基本ルール
なぜ退職日が重要か
退職日は、社会保険、国民健康保険、税金、失業給付などの扱いを左右します。たった1日違うだけで負担が変わることがあるため、軽く考えずに決めましょう。
1)月単位で考えること
保険料や税の扱いは多くが「月単位」で決まります。月の途中で辞めると、その月は会社の保険の対象外になるケースや、逆に全額負担になるケースがあります。具体例:月末退職なら翌月から国保に切替え、会社の社会保険料負担が終わります。
2)給与・有給・源泉徴収の扱い
給与は日割り計算でも、有給消化で全額支給されるかが変わります。年末調整や源泉徴収票の発行タイミングも確認してください。
3)失業給付を見据える
雇用保険の受給開始時期は退職日と離職票の発行時期で左右されます。給付額算定の基礎となる賃金の期間も意識しましょう。
4)書類・手続きのポイント
退職証明、離職票、保険資格喪失届など、必要書類の発行タイミングを事前に確認します。退職日決定後は、転職先や市区町村への連絡を忘れないでください。
実務的なアドバイス
・可能なら月末退職を検討する。保険や税の手続きがシンプルになります。
・有給消化で給与を確保するか、退職金や次の収入とのバランスを考える。
・不安がある場合は人事や市区町村の窓口に相談する。
これらの基本ルールを押さえると、退職日をより賢く決められます。
社会保険料・国民健康保険料が「月単位」で決まる理由
月単位の仕組みとは
社会保険(健康保険・厚生年金)は給料を基に「1か月単位」で保険料が決まります。つまり月の途中で退職しても、その月は1か月分の扱いになることが多いです。保険の資格喪失日は通常、退職日の翌日となりますが、保険料の計算は1か月単位のため差額は発生しにくいです。
国民健康保険も同様に月単位
会社をやめて国民健康保険に切り替える場合、多くの自治体は月単位で保険料を請求します。たとえば月額が2万円なら、月の途中で退職してもその月は2万円を支払う必要が出ます。
実例で考える
例:月の保険料が2万円の場合
– 3月10日に退職 → 3月分として2万円負担
– 3月31日に退職 → 3月分として2万円負担
差はほとんどありません。年金の加入記録も月単位で処理されます。
注意点と対策
- 退職日の翌日からは別の保険(国保や扶養)への切替が必要です。手続きは早めに行ってください。
- 保険料負担を抑えたい場合は、可能なら月末退職を検討すると分かりやすいです。
退職日を「月末」に設定することで得られるメリット
保険料の無駄を防げる
健康保険や厚生年金などの社会保険は月単位で扱われます。月の途中で退職すると、その月は1日でも在籍していれば「その月分」がかかるため、月末に退職するほうが無駄な保険料を支払わずに済みます。
国民健康保険の切替で1ヶ月分を節約できる
会社を月末に退職すると、翌月から国民健康保険に加入するのが一般的です。月の途中に退職すると国保の適用開始が早まり、余分に1ヶ月分の保険料が発生するケースがあります。目安として約3万円程度の節約になる場合もあります(自治体や世帯状況で変わります)。
給与・賞与・手続きがスムーズ
給与の締め日や賞与支給と合致させれば、未払いの清算や賞与受け取りのトラブルを避けやすくなります。雇用保険の離職票や年金手帳などの事務手続きも整理され、会社側との調整が楽になります。
引継ぎ・職場の混乱を避けられる
月末に区切ることで業務の区分がはっきりします。引継ぎ計画が立てやすく、残された同僚への負担を減らせます。
実行時のチェックポイント
・給与の締め日と支払日を確認する
・賞与支給日を確認する(該当年度がある場合)
・雇用保険・離職票の発送時期を確認する
・転職先の雇用開始日と調整する
これらを確認すれば、月末退職での金銭的・手続き上のメリットを最大化できます。
雇用保険(失業給付)・傷病手当金の最大化ポイント
雇用保険(失業給付)の基本と受給開始
雇用保険の受給は、加入期間や離職理由で変わります。注意点は給付の『開始時期』で、退職日後にハローワークで手続きをして受給が始まります。2025年4月以降、自己都合退職の給付制限は2か月から1か月に短縮されました。書類(離職票、雇用保険被保険者証、身分証明、預金通帳)は退職前に準備するとスムーズです。
給付額・タイミングに影響する要素
給付額は退職前の給与水準で決まります。賞与支給日や年度末・年末の退職は、手元資金や給付のタイミングに影響します。たとえば賞与を受け取ってから退職すれば一時的な所得が確保でき、申請準備にも余裕が生まれます。会社の支給規定を確認してください。
傷病手当金のポイント
傷病手当金は健康保険(会社の被保険者)が支給する制度です。退職により被保険者資格を失うと支給されなくなる場合があります。任意継続被保険者に加入すれば継続して受給できるケースもありますが、国民健康保険へ切り替えると原則対象外です。現在受給中なら退職時の保険継続手続きを必ず確認してください。
実務的な最大化チェックリスト
- 退職前に離職票と雇用保険被保険者証の発行を依頼する
- ハローワークでの申請に必要な書類を揃える
- 賞与支給日や有給消化の扱いを会社に確認する
- 健康保険の継続方法(任意継続か国保か)を検討する
- 病気があれば医師の診断書や支給状況を事前に相談する
これらを確認すれば、受給開始の遅れや給付減少を避けやすくなります。
年齢・転職先・家族構成によるおすすめ退職日
年齢別の注意点
- 60歳前後/65歳前後は年金受給開始と雇用保険の給付が重なる可能性があります。年金を受け取り始める時期が近いと、失業給付の受給条件や金額に影響することがあるため、事前にハローワークや年金事務所で確認してください。
転職先が決まっている場合
- 入社日が決まっているなら、その前日に退職するのが基本です。社会保険(健康保険・厚生年金)は原則として勤務先で月単位で変わるため、月末退職で手続きがまとまりやすいです。入社日と退職日が同月内だと保険切替の手続きが複雑になることがあります。
転職先が決まっていない場合
- すぐに次の職が見つかる見込みがないなら月末退職が無難です。雇用保険・健康保険の空白期間を最小化できます。短期で再就職する予定なら、月の半ばでも柔軟に考えてよいです。
家族の扶養(配偶者・子ども)がいる場合
- 扶養に入っている家族がいると、あなたの健康保険の喪失は家族の保険状況に影響します。配偶者の扶養に入れるか、国民健康保険に切り替えるかで費用が変わります。扶養を維持したい場合は、退職日と扶養手続きのタイミングを合わせてください。
実例でのおすすめ退職日
- 60歳で年金受給開始が近い人:年金開始日前後の重複を避けるため、ハローワークと相談のうえ退職月を決める。
- 転職先未定で扶養を残したい人:月末退職で保険の空白を防ぐ。
- 新しい職場の入社日が月初の人:前月末の退職が最も手続きが楽です。
必要なら、あなたの年齢・家族状況・入社予定日を教えてください。具体的におすすめの退職日を一緒に考えます。
退職日を決める際の最終チェックリスト
退職日を決めるときは、月末退職が有利なケースが多いです。以下の項目を順にチェックして、抜けがないようにしてください。
1) 会社の就業規則・退職手続き
- 退職届の提出期限、引継ぎ日数、年休消化のルールを確認してください。人事に書面で確認して保存しましょう。
2) 給与・ボーナスの締め日・支給日
- 締め日と支給日で受け取れる給与や賞与が変わります。支給対象月を照合してから退職日を決めてください。
3) 健康保険の資格喪失・取得日
- 資格は原則月単位で変わります。資格喪失日と国民健康保険の加入日を確認し、空白期間が出ないよう手続きを準備してください。
4) 年金(厚生年金・国民年金)の扱い
- 脱退や加入のタイミングを年金手帳や年金事務所で確認すると安心です。
5) 雇用保険(離職票・失業給付)
- 離職票の発行時期、申請に必要な書類を確認してください。2025年4月以降の制度改正に伴う手続き変更にも注意しましょう。
6) 転職先の入社日・社会保険加入日
- 入社日が重なると保険や給与に影響します。転職先と調整し、加入日を確認してください。
7) 扶養や家族の保険
- 配偶者や家族の扶養資格が変わる場合、手続きのタイミングを把握しておきましょう。
8) 傷病手当金や休職中の扱い
- 病気がある場合は傷病手当金の受給条件や手続き時期を医師と会社に確認してください。
9) 必要書類の確保と保管
- 離職票、源泉徴収票、雇用契約書などを受け取り、電子・紙で保管してください。
上記をチェックしたら優先順位を決め、関係部署や転職先と調整してください。必要なら社労士やハローワークに相談すると安心です。
具体的なシミュレーション例と注意点
退職日による手取り差は、実際に数値を当てはめるとわかりやすくなります。以下は単純化した例と、現実にシミュレーションする際の手順・注意点です。
シミュレーションの前提(仮定)
- 月給(総支給): 300,000円
- 社会保険(本人負担): 12%(仮定)
- 税金(所得税+住民税の目安): 10%(仮定)
具体例(仮定計算)
- A. 月末退職(満額支給)
- 手取り ≒ 300,000 − 36,000(社保) − 30,000(税) = 234,000円
- B. 月中(15日)退職(半月分を支給と仮定)
- 手取り ≒ 150,000 − 18,000(社保) − 15,000(税) = 117,000円
- 差額の目安: 約117,000円(この例は仮定で、実際は会社規定や保険の扱いで変わります)
シミュレーションの進め方
- 手元の給与明細で総支給額と保険料率を確認する
- 退職日を変えて日割り計算する(会社の計算方法を確認)
- 健康保険や雇用保険の取り扱い(任意継続か国保か、失業給付の条件)を入力するシミュレータを使う
注意点
- 上の数字はあくまで例です。社会保険や税額は個人ごとに異なります
- 有給消化や退職金、賞与の有無で差は大きく変わります
- 失業給付や傷病手当金の要件は退職日で左右されます。手当の発生条件を確認してください
- 会社との関係や転職タイミング、家計計画も重要です。単純な金額差だけで判断せず、社内の担当窓口や社労士に相談することをおすすめします
実際にはオンラインの「社会保険料シミュレーション」などを使い、複数のパターンで試してから最終判断してください。
第9章: まとめ・最新動向
退職日は基本的に「月末」にすることで社会保険や税、失業給付などで有利になることが多いです。月単位で制度が動くため、日付の差で数万円以上の差が生じることもあります。自分の年齢・家族構成・転職先の入社日などを考慮し、章7のチェックリストや章8のシミュレーションを使って具体的な金額を確認してください。
制度面の最新動向として、2025年4月以降に雇用保険の給付制限が短縮されるなどの改正があります。該当する人は給付開始時期や条件が変わる可能性があるため、退職前にハローワークや社会保険労務士に相談して最新の影響を確認してください。
最終的には「損得」と「生活の安心」の両方を天秤にかけて判断します。具体的な行動としては、①社会保険・給与明細で保険適用月を確認、②ハローワークで失業給付の受給条件を相談、③転職先と入社日の調整、④市区町村で国民健康保険・税の見積もりを取る、の順で進めると安心です。
不確かな点があれば、早めに専門窓口へ相談し、最適な退職日を選びましょう。


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