はじめに
ご挨拶
本ドキュメントは、労働基準法に関連する企業名公表制度について、分かりやすく整理したガイドです。特に2023年度の状況を踏まえ、制度の仕組みや影響、違反を防ぐための実務的な視点までを丁寧に解説します。
この文書の目的
本書は次の点を目的とします。
– 企業名公表制度の全体像を理解する
– 対象となる違反や基準の見方を知る
– 企業にとってのリスクと予防策を学ぶ
対象読者
労務担当者、経営者、社内で労働時間管理にかかわる方、また労働関連の制度を知りたい一般の方を想定しています。専門用語は最小限にし、実務で使える情報に重点を置きます。
本書の構成と読み方
第2章以降で36協定の意義、企業名公表の基準、実績データ、対策、情報の検索方法まで順に解説します。まず第2章で基礎を押さしてから、実務的な章を参照すると理解が深まります。
注意点
本書は一般的な解説を目的とします。具体的な対応や法的判断が必要な場合は、社内の専門部署や弁護士にご相談ください。
36協定とは何か
定義
36協定(さぶろくきょうてい)は、労働基準法第36条に基づく、使用者と労働者(または労働者の代表)との間で結ぶ協定です。企業が法定労働時間を超えて時間外や休日に労働させる場合に必要です。
必要な場面
通常の勤務時間を超えて残業や休日出勤をさせるときは、あらかじめ36協定を締結していなければなりません。未締結での残業は法違反となります。
主な内容
協定には、対象となる時間外労働の範囲や時間数、対象期間などを明記します。一般的には1か月・1年ごとの上限や、割増賃金の扱いについて記載します。
違反した場合の影響
36協定がないまま残業をさせると、企業は労働基準監督署からの指導や罰則の対象になります。労働者の健康や安全にも悪影響を与えます。
実務のポイント
労働者代表の選定は重要です。書面で作成し、労働基準監督署に届出する必要があります。協定は職場の実情に合わせて見直してください。
企業名公表制度の背景と目的
背景
2016年、過労死などを防ぐために厚生労働省は企業名公表の制度を強化しました。長時間労働や違法な時間外労働が社会問題化したことを受け、労働基準関係法令の運用を厳しくする必要が高まりました。具体的には是正勧告に従わない企業や悪質な違反を繰り返す企業が対象になりました。
目的
制度の主な目的は法令遵守の徹底と再発防止です。企業名の公表は罰金ではありませんが、社会的な信頼を損なう制裁として機能します。公表によって企業は自らの改善を促され、労働者や取引先が企業のコンプライアンス状況を確認しやすくなります。
公表の仕組みと閲覧
公表された情報は厚生労働省や各労働局の公式サイトに掲載され、誰でも閲覧できます。掲載内容は違反の概要や是正状況などで、具体例として「時間外労働の上限を超えた」「是正勧告に従わなかった」などが示されます。
社会的効果
企業名公表は内部統制やコンプライアンス強化のきっかけになります。取引先や求職者が情報を確認し、企業の対応が改善されることが期待されます。
企業名公表の対象と基準
概要
企業名公表はすべての違反企業に自動で行われるわけではありません。厚生労働省は一定の基準に該当する場合に限定して公表します。基準は違反の内容・重大性・是正の有無などを総合的に判断して決められます。
主な対象となる違反例
- 36協定を締結していないのに時間外労働をさせた場合
- 割増賃金を支払っていない場合(未払い賃金)
- 月100時間を超える違法な残業が常態化している場合
- 過労が原因で健康被害が生じ、是正措置を行っていない場合
公表判断で重視される点
- 違反の重大性:時間外時間数や健康被害の有無を重視します
- 再発・継続性:同様の違反が繰り返されているかどうか
- 是正措置の有無:指導後の速やかな改善がなされているか
- 影響の範囲:被害を受けた労働者の人数や期間
- 悪質性:故意や組織的な違反かどうか
短期の軽微なミスで迅速に是正された場合は公表を回避することが多いです。反対に、長期間の違法残業や未払賃金、健康被害に対する無対応などは、公表の対象になりやすい点をご理解ください。
企業名公表までの流れ
1. 違反の把握
労働基準監督署は定期調査や通報、労働者からの申告などで違反を把握します。例えば残業時間が法定の上限を超えている、36協定が未締結などです。
2. 是正勧告(指導)
違反が確認されると、監督署が企業に是正を求めます。具体的な改善点と期限を示し、記録に残します。企業は通常、この勧告に従って対応します。
3. 再調査と評価
期限後に監督署が再調査を行い、改善が不十分であれば追加の指導や強い措置を検討します。改善が確認されればそこで対応は終了します。
4. 悪質な場合の書類送検
是正に従わない、または悪質な違反があると判断されれば、書類送検されることがあります。書類送検は刑事手続きにつながる可能性があり、企業にとって重大です。
5. 公表の決定と公開
一定の基準(改善状況や再発の有無など)に該当すると、厚生労働省や労働局が企業名を公表します。公表は各機関のホームページで行われ、社会的な注目を集めます。
6. 公表後の対応
公表された企業は、速やかに原因を究明し再発防止策を示すことが重要です。無視すると社会的制裁や取引先からの信頼低下につながります。具体的な改善計画を示すことで信頼回復を図れます。
企業名公表の内容
- 基本情報
- 企業・事業場名称:公表されるのは法的名称や事業所名です。たとえば「株式会社A 東京支店」のように、どの部署・拠点が対象かが明確になります。
- 所在地:都道府県や市区町村まで記載されます。実際の住所や市区名があることで、関係者が特定しやすくなります。
-
公表日:いつ公表されたかが書かれます。
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違反法条項
-
違反した法律や条文(例:36協定に関する条項など)を明記します。どの規定に違反したのかを具体的に示します。
-
事案概要
- 何が問題だったかを分かりやすく説明します。長時間労働の実態、未提出・虚偽の36協定、労働時間管理の不備など、具体的な事実関係を簡潔にまとめます。
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例:残業時間が基準を超過していた、協定の記載が不十分だった、是正命令に従わなかった、など。
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その他の参考事項
- 行った是正措置や指導の内容、再発防止策の有無、労働局とのやり取りの状況を載せることがあります。改善の有無は外部にも評価されます。
-
企業側の反論やコメントが添えられる場合もあります。
-
書き方のポイント
- 読み手に分かりやすく、事実を簡潔に示すことが重視されます。専門用語は補足説明を加えると親切です。
2023年度の違反企業の実績データ
調査期間と件数
2023年9月1日から2024年8月31日までの調査で、労働法違反により送検された事業場は合計493件でした。うち労働基準法違反は86件にのぼります。
違反の内訳
最も多かったのは労働基準法第32条(時間外労働)違反で35件、労基法違反全体の約41%を占めました。その他にも賃金不払いや休日未付与など複数の違反が確認されています。
過去との比較
参考として令和3年度は392社が企業名公表され、その中には労働基準法違反にあたる企業が数十社含まれていました。件数・公表数とも増減がありますが、時間外労働に関する違反の割合が引き続き高い点が目立ちます。
解説と留意点
数字は違反の傾向を示します。特に時間外労働に関する違反が多いので、労働時間管理の見直しが重要です。企業は36協定の遵守や適正な記録管理を徹底する必要があります。公表実績は企業の信頼に直結するため、早めの対策が望まれます。
企業名公表による影響とリスク
概要
企業名公表は単なる行政処分を超えて、社会的信用や事業活動に幅広い影響をもたらします。ここでは主なリスクを分かりやすく説明します。
社会的信用の低下
公表により「違反企業」のレッテルが付きます。取引先や顧客は契約や発注を見直すことがあり、売上や取引量の減少につながります。
ブランドイメージと顧客離れ
消費者の信頼が損なわれるとブランド価値が下がり、競合に顧客を奪われやすくなります。回復には時間と費用がかかります。
採用活動と人材確保への影響
求職者は企業のコンプライアンス状況を重視します。公表で応募者数が減り、優秀な人材の採用が難しくなります。現従業員の離職や士気低下も生じやすいです。
取引先や資金調達への悪影響
取引先が信用リスクを懸念し取引条件を厳しくする場合があります。金融機関は融資や条件見直しを判断する材料にします。
法的・財務的な負担
改善措置や監査対応、訴訟リスクなどでコストが増えます。罰則以外に長期的な費用負担が発生します。
違反抑止と長期的なリスク
公表は違反抑止の効果を持ちますが、企業にとっては経営基盤を揺るがすリスクです。早期の是正と透明な情報開示が重要です。
36協定違反を防ぐための対策
基本の整備
- 36協定(時間外・休日労働に関する協定)を適切に締結・届出します。雇用契約や就業規則と整合させ、届出書類の写しを保存してください。
労働時間の管理と記録
- タイムカードや勤怠システムで出退勤を正確に記録します。手作業の修正は履歴を残す運用にします。
- 月単位で残業時間を集計し、上限に近づいたら通知する仕組みを作ります(アラート設定)。
割増賃金の支払い
- 時間外・深夜・休日労働の割増率を正しく設定し、給与計算で自動反映させます。誤算定があれば速やかに是正し、差額を支給します。
定期的な点検・内部監査
- 労働基準法や届出状況を年1回以上確認します。労務担当者と経営のチェックリストを作成してください。
従業員の健康管理
- 長時間労働者には面談や産業医面接を実施します。過重労働の兆候が出たら勤務調整や休養を促します。
教育と周知
- 管理職と従業員双方に向けた研修を定期実施します。具体例を用いてルールと手続きを周知します。
違反発生時の対応フロー
- 事実確認→是正計画作成→再発防止策→報告の流れを定めます。関係者の責任と期限を明記してください。
管理体制と外部支援
- 担当者を明確にし、必要に応じて社労士や産業医の助言を受けます。システム導入や運用で長期的な負担を軽減できます。
これらを実行すると、36協定違反のリスクを大幅に減らせます。運用状況は定期的に見直し、問題があれば速やかに改善してください。
情報の検索と確認方法
概要
厚生労働省および各労働局の公式サイトでは、労働基準関係法令違反の公表事案を検索できます。都道府県や事業者名で絞り込み、最新の情報を確認してください。
検索手順(簡単な流れ)
- 厚生労働省トップまたは各都道府県の労働局サイトへ移動します。
- 「労働基準関係法令違反の公表」などのページを探します。
- 都道府県、年度、企業名などで絞り込み検索を実行します。
- 該当する公表一覧からPDFや詳細ページを開きます。
確認ポイント
- 公表日、違反の種類、対象期間、事業所名、所在地を確認します。
- 同名企業があるため、所在地や代表者情報で照合してください。
- PDFや添付資料に事実関係が記載されているか確認します。
保存・照合・問い合わせ
- 必要な資料はPDF保存や印刷で保管します。
- 疑問があれば最寄りの労働局に問い合わせてください。公開情報は公式発表が一次情報です。
注意点
- 社名や表記ゆれに注意し、公開情報のみを根拠に断定しないでください。誤解を避けるため、公式資料を優先して確認してください。


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