はじめに
目的
この章では、源泉徴収票の摘要欄(備考欄)についての全体像を分かりやすく説明します。摘要欄が何のためにあるのか、どの程度の情報を書けばよいのかを明確にします。
読者対象
会社の人事・経理担当者、個人事業主、税務の初学者など、源泉徴収票を扱う人が対象です。税務署の専門家でなくても理解できるように書いています。
本書の構成と読み方
全5章で構成します。第2章で摘要欄の基本、 第3章で記載が必要な具体例、 第4章で記載時の注意点、 第5章でまとめを扱います。まずはこの章で目的と全体の流れをつかんでください。
本章で得られること
摘要欄の役割と使いどころを把握できます。以降の章を読み進める際の地図としてお使いください。
源泉徴収票の摘要欄について
概要
源泉徴収票の摘要欄は、通常の欄に書ききれない特記事項を補足するための欄です。給与や賞与の金額・税額を示す欄とは別に設けられており、受給者や支払者に関する補足情報を記載します。
何を書く欄か
摘要欄には、たとえば以下のような事項を記載します。
– 給与の一部が非課税である旨の注記(通勤手当の非課税分など)
– 年の途中で支払先が変わった場合の事情(支払者変更の説明など)
– 退職金や賞与に関する特記事項の簡潔な説明
具体例:通勤手当のうち月2万円まで非課税の場合は「通勤手当一部非課税(月2万円まで)」と記載します。
文字数と行数の制限
摘要欄は最大で300文字まで、1行あたり25文字で最大3行の入力が基本です。超過すると電子申告やシステム処理でエラーになるおそれがあります。短く簡潔に記載することを心がけてください。
実務上の注意点
記載は簡潔にし、重複や不要な情報は避けます。必要なら社内で定型文を決めて統一すると、記載漏れや誤解を防げます。電子申告時の仕様に合わせて文字数を確認してください。
摘要欄に記載が必要な主なケース
1) 前職の給与を年末調整に含めた場合
- 記載する項目:前職の給与支払者の住所・名称、退職年月日、給与額、所得税額、社会保険料額。
- 理由と具体例:年の途中で転職し、前職の源泉徴収票を手元に入れて年末調整で合算する場合、税額計算の根拠を明示する必要があります。例:前職の給与が300万円、所得税が5万円、社会保険料が30万円なら、それぞれを摘要欄に記載します。
- 複数の前職がある場合:前職ごとに上記の情報を分けて記載してください。雇用主名が長い場合は略称と正式名称を併記すると分かりやすくなります。
2) 令和6年の定額減税が適用された場合
- 記載する項目:年末調整で控除した年調減税額と、控除しきれなかった金額。
- 理由と具体例:給与控除などで減税を全額使い切れないと一部が残る場合があります。たとえば減税総額が2万円で年末調整で1万5千円しか控除できなかったときは、摘要欄に「年調減税控除 15,000円、未控除 5,000円」と記載します。
- 実務のコツ:金額は源泉徴収票や年調計算書の数値と一致させてください。疑問があれば税務担当者に確認すると安心です。
摘要欄記載時の注意点
文字数制限(300文字)
摘要欄は300文字以内で記載してください。長くなると切れてしまう恐れがあるため、伝えたい事柄を優先順位で絞り込み、簡潔に記載します。
記載内容の優先順位
重要な事項(例:災害による猶予の有無、特別な控除の適用、法令に基づく扱い)は先に書きます。具体的な日付や申請番号がある場合は末尾に短く付け加えてください。
災害による猶予を受けた場合の記載例
災害で源泉徴収の猶予を受けた際は、その旨を必ず明記します。例:「源泉徴収猶予(災害)令和5年6月申請」通常の年末調整で不要な記載も、特定の例外に該当する場合のみ記載します。
訂正・差し替えの扱い
誤記があれば速やかに訂正し、従業員に説明してください。訂正後は新しい源泉徴収票を発行し、古いものは回収しておきます。
保存と従業員への通知
摘要欄の記載は従業員の税務処理に影響します。記載内容は控えとして保存し、必要時に提出できるようにします。
記載のコツ(具体例)
・簡潔に:要点のみを書く。
・標準表現を使う:分かりやすい語で統一する。
・日付を明記:いつの扱いか分かるようにする。
まとめ
源泉徴収票の摘要欄は、日常的に使う欄ではなく、特別な事情がある場合に限定して記入します。たとえば、年の途中で転職して前職の給与を合算する場合や、定額減税や復興特別所得税など税額に関わる特記事項を明記するときに使います。
記載する際は次の点に注意してください。
- 必要な情報を簡潔に書く:誰の何の情報か、金額や対象期間を短く明記します(例:「前職給与 H31.4〜R2.3 300万円」)。
- 文字数制限を守る:スペースが限られるため、略語を使っても意味が通じるように気をつけます。説明が長いと別途書類で補足します。
- 正確性を優先する:誤記は後の年末調整や確定申告で手間が増えます。わからなければ勤務先の経理や税理士に確認してください。
最後に、源泉徴収票は税務上重要な書類です。受け取ったら中身を確認し、摘要欄の記載内容は控えとして保管しておくことをおすすめします。


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