はじめに
本資料は、退職代行サービスの利用状況を多角的に整理したものです。利用者数の推移、企業側の経験率、年代別・業種別・企業規模別の傾向、利用者の将来意向、そして企業への影響までを含めて扱います。読者が現状を把握し、職場や人事の対策を考えるための基礎資料としてお使いいただけます。
ポイントの一例として、2024年度の利用者数は21,104人に達しました。若年層を中心に利用が急速に広がっている点が特に特徴です。例えば、就職して間もない新入社員が早期に退職代行を利用するケースや、複数回転職を経験した人が選ぶケースが増えています。
本章では資料の目的と構成を簡潔に示します。各章で実際のデータや傾向、具体例を挙げながら分かりやすく解説しますので、必要な章だけを読み進めても全体を把握できる構成にしています。
退職代行サービスの利用者数は急速に増加している
現状の数字
2024年度だけで21,104人が退職代行サービスを利用しました。前年度と比べて大幅に増加しており、退職代行が一部の人々にとって身近な選択肢になっていることが分かります。
増加の背景
主な要因は次の通りです。職場の人間関係や長時間労働による心理的負担の増大、退職手続きを代行してほしいというニーズの高まり、SNSやウェブ広告での認知拡大です。例えば、連絡が取りにくい上司がいる場合や、体調不良で直接のやり取りが困難な場合に利用が増えています。
利用者のメリットと注意点
メリットは精神的負担の軽減と手続きの確実性です。注意点は、サービス内容や料金、法的代理の有無を事前に確認することです。弁護士が関与しない場合、会社との交渉に限界がある点に留意してください。必要に応じて労働相談窓口や弁護士に相談することをおすすめします。
企業側の経験率から見た利用の広がり
調査結果の要点
企業側の調査では、退職代行を利用して退職した社員がいる企業の割合が、2019年以前の15.7%から2024年上半期には23.2%に上昇しています。割合は確実に増え、企業側でも「他社で退職代行が使われる」事象が身近になっています。
年次の変化
短期間での上昇は、個人が代行サービスに頼ることへの抵抗感が薄れたことを示します。企業は従来の退職対応では対応しきれない場面に直面する機会が増えています。
企業規模別の実態
大企業では18.4%、中小企業でも8.3%が退職代行業者からの連絡経験があると報告されます。大企業は従業員数が多いため件数が目立ちますが、中小企業でも一定の割合で発生しており、規模を問わず影響が及んでいます。
企業側の対応と備え
企業は受けた連絡内容に応じて対応フローを整備する必要があります。具体例として、社内の労務窓口を明確化する、退職手続きの案内文を事前に用意する、外部弁護士や労務士と連携するなどが挙げられます。これによりトラブルの早期解決と企業側の負担軽減が期待できます。
現場への示唆
退職代行の経験率が高まる中、企業は労務管理の見直しやコミュニケーション改善に取り組む必要があります。早めに対応策を講じれば、残る従業員の不安を和らげ、離職の連鎖を防ぐ助けになります。
転職者における退職代行の利用率
概要
2024年の調査では、直近1年間に転職した人の16.6%が退職代行サービスを利用しています。言い換えれば、約6人に1人がこのサービスを使って退職手続きを行った計算です。
利用する人の特徴
- 仕事の引き継ぎや手続きに時間を割けない人
- 上司や同僚との対人関係が原因で精神的負担を抱えている人
- 退職を急ぐ人(入社日が近い、トラブルで早期離職したい等)
利用する主な理由(具体例)
- ハラスメントがあり直接交渉が難しいため第三者に依頼する。
- 転職先の入社日が迫っており、最後のやり取りを簡略化したい。
- 退職に伴う長期の手続きを避けて早く次の職場に移りたい。
転職活動への影響
退職代行を利用すると精神的負担は軽くなり、転職活動に集中しやすくなります。一方で、前職との関係が希薄になり、場合によっては推薦や書類の確認が得にくくなることがあります。
利用時の注意点
- 代行業者の実績や費用、対応範囲を事前に確認してください。
- 違法な行為を依頼しないこと(例:虚偽の説明や強引な押し切り)。
- 重要な書類や退職日などは自身で記録しておくと安心です。
(途中の章ではまとめを設けません)
年代別の利用状況
利用者の年齢分布
- 利用者に占める割合は20代が60.8%、30代が26.9%、50代が6.4%、60代以上が2.8%です。20代の利用率は18.6%と、同年代全体に占める利用の割合も高くなっています。
若年層に集中する背景
若年層、特に20代が多い理由は分かりやすいです。入社間もない段階での人間関係の悩みや労働条件の不一致に直面すると、退職の手続きを自分で進める負担を避けるために代行を選びやすくなります。たとえば新卒で入社して数か月で退職を決めた場合、会社と直接やり取りする心理的負担が大きくなります。
中高年にも広がる傾向
50代・60代以上の利用は割合としては低めですが、決してゼロではありません。長年勤めた職場でのトラブルや、早期退職の調整、円満退社が難しいケースで代行を使う方がいます。このことは退職代行が年齢を問わず選択肢として受け入れられている証拠でもあります。
企業と個人への示唆
企業は年代別の退職理由を把握し、若年層には相談窓口やメンター制度を整備すると効果的です。個人は退職手続きや法的な権利を事前に確認し、必要なら専門家に相談することをおすすめします。
新卒社員による退職代行の利用パターン
概要
2024年度の新卒社員による退職代行利用者は1,814名で全体の8.6%を占めます。利用は5月のGW明けにピーク(298名)、次いで4月(254名)、6月(251名)と続き、入社直後の離職が深刻な課題であることを示しています。
主な傾向
- 利用が集中する時期は入社直後の1〜3カ月です。多くは初めての勤務環境に適応できず退職を決めます。
- 5月に最も多い点は、長期休暇明けに現実とのギャップを強く感じる例が目立つためです。
背景にある理由(具体例を含む)
- 期待とのズレ:採用時の説明と実際の仕事内容が違い、早期に離職を考える人がいます。例:座学中心の研修を想定して入社したが、配属後は残業の多い現場業務が中心だった。
- 人間関係の悩み:上司や先輩との相性が合わず相談できない場合が多いです。
- 体調・メンタル不調:短期間で疲弊し、直接辞める意思を伝えにくく退職代行を選ぶ人がいます。
企業への示唆と対応例
- 入社前に現場の様子を見せる、具体的な業務例を示すなど情報の透明化を進めてください。
- 入社後は1カ月目を中心に週次面談を設け、早期に不安をキャッチしてください。
- メンター制度や相談窓口を整備し、匿名で相談できる場も用意すると効果的です。
退職代行を避けるための具体的施策(例)
- 入社前オリエンテーションで業務体験を実施する。
- 初月は勤務時間や負担を調整し、段階的に業務を増やす。
- 退職希望のサインを見逃さないためのチェックリストを作る。
- メンタルヘルス窓口と第三者相談を用意する。
これらの対策で入社直後の離職を減らし、退職代行を利用する新卒を減らすことが期待できます。
業種別の利用状況
各業種の利用割合
最新の集計では、各種商品小売業が30.0%で最も高く、次いで洗濯・理容・美容・浴場業が20.8%でした。詳しい調査では、洗濯・理容・美容・浴場業が33.3%、各種商品小売業26.7%、宿泊業23.5%、物品賃貸業22.2%と、特に対面サービスを提供する業種で利用が目立ちます。
BtoC業界での傾向
顧客と直接接する業種(いわゆるBtoC)で退職代行の利用が多くなっています。接客の負担、シフトの変動、クレーム対応などが理由として挙げられます。たとえば販売員や美容師、ホテルのフロントなど日常的に人と向き合う職種で起こりやすいです。
利用が多い背景(具体例)
- 接客中の精神的な負担が大きく、直接上司に言いにくい場合
- シフトが不規則で生活リズムが乱れる場合
- 契約形態が短期や非正規で、辞める時の手続きが複雑に感じられる場合
これらが重なると、第三者を介して手続きを進めたいと考える人が増えます。
企業が取るべき対策
- 初期教育とメンタルケアを充実させる(具体例:定期面談や相談窓口の設置)
- シフトや労働条件を見直し、安定感を高める
- 退職に関する手順を明文化して分かりやすく伝える
これらを実行すると、社員が相談しやすくなり、退職代行の利用を減らす効果が期待できます。
企業規模による利用の差
利用率の違い
大企業の退職代行利用率は15.7%、中小企業は6.5%と報告されています。数値だけを見ると大企業での利用が約2.4倍高く、利用者数の差が明確です。
大企業で利用が多い主な理由
- 母数が大きく、問題を抱える社員数も相対的に増えます。例えば社員が1000人の会社では少数の退職者でも絶対数が目立ちます。
- 福利厚生や退職手続きが整備されているため、外部に手続きを委ねやすいです。
- 人事が手続きの窓口となるため、第三者介入のニーズが出やすいです。
中小企業で利用が少ない理由
- 社員数が少なく、直接上司と話をつけることが多いです。身近な関係性が残るため、外部サービスに頼りにくいケースがあります。
- 手続きが簡素で、社内で解決する文化が根付いている場合があります。
実務上の注意点と具体例
大企業では退職代行を使うと書類手続きや窓口調整がスムーズになる反面、社内での情報共有が速く、影響が広がることもあります。一方、中小企業では、直接交渉で速やかに終わることが多いですが、感情的な軋轢が残ることもあります。利用を検討する際は、会社の規模と関係性を踏まえて選ぶことが大切です。
実際の利用経験と将来の利用意向
実際の利用率
調査では、退職代行サービスを実際に利用した人は全体で約2%にとどまります。20代に限ると約5%で、若年層の方が利用経験がやや多い傾向です。現時点では実利用は限定的です。
将来の利用意向
一方で「今後利用する可能性がある」と答えた人は69.0%にのぼり、約7割が利用に肯定的です。この差は、利用のハードルが高い一方でニーズ自体は広がっていることを示します。
背景と具体例
利用に前向きな理由は、職場での対面ストレスや手続きの煩雑さが多く挙げられます。例えば、パワハラを理由に自分で退職の意思を伝えにくい場合や、退職手続きの流れが分からず専門家に任せたい場合です。
利用の拡大が予想される理由
認知度の向上やサービスの多様化で、今後実利用も増える見込みです。したがって企業は、退職時の対応を明確にし相談窓口を整えるなど、従業員が安心して退職できる環境づくりが求められます。
退職代行利用による企業への影響
背景
退職代行を利用した社員の退職で、31.1%の企業が業務カバーのため従業員の残業を経験しています。社員の急な離職は想定外の負担を生みやすく、企業側の対応力が問われます。
業務負担の増加
業務を引き継げないまま離職すると、残った社員が作業を肩代わりします。これにより残業が増え、疲労やミスの発生、プロジェクト遅延につながることが多いです。
人事・組織への影響
人事部門は手続きや未処理業務の整理に時間を取られます。長期的には職場の士気低下やナレッジの喪失が起こりやすく、採用や教育の負担も増えます。
コスト面
残業代や臨時採用費、外部委託費など直接的なコストが発生します。短期的なカバーで済まない場合、長期的な採用コストが嵩むこともあります。
企業が取れる対策
- 早期相談窓口を整備し、退職の兆候を早めに把握する
- 業務の可視化と引継ぎテンプレを用意する
- クロストレーニングで複数人が対応できる体制を作る
- 臨時要員や外部パートナーの活用計画を立てる
- 退職プロセスや連絡ルールを明確にする
これらの対策で、急な退職による負担を軽減できます。企業は予防と迅速な対応を両立させることが重要です。


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