はじめに
本書の目的
本書は、懲戒解雇について基礎から分かりやすく説明するための案内です。懲戒解雇とは何か、どのような場合に行われるか、関係機関との関係や手続きの流れを順を追って解説します。専門用語は最小限にし、具体例を交えて説明します。
懲戒解雇の位置づけ
懲戒解雇は、企業が従業員に対して行う最も重い処分の一つです。例えば、会社の金品を横領した場合や長期間の無断欠勤が続く場合など、重大な違反行為に対して用いられます。処分を受けると雇用関係が即座に終了するため、影響が大きいです。
この章を読むべき人
経営者や人事担当者、現場の管理職、また自身の身に降りかかる可能性を心配する従業員に向けて書いています。労働問題に初めて触れる方でも理解できるよう配慮しています。
本書の構成
第2章で懲戒解雇の定義、第3章で要件、第4章で労働基準監督署との関係、第5章で具体的な手続きの流れを説明します。具体例や注意点を交え、実務で役立つ情報を提供します。
懲戒解雇とは
定義
懲戒解雇は、従業員が重大な規律違反をした場合に企業が科す最も重い処分です。普通の解雇と異なり、処分の性質は懲罰的で、従業員に大きな不利益が生じます。
主な対象となる行為(具体例)
- 横領や業務上の金銭の不正利用(会社の金を私的に使う行為)
- 職場での暴力や重大なハラスメント(暴行や深刻なセクハラ)
- 機密情報の持ち出しや競業避止義務違反(社外へ重要情報を流す)
これらは一例です。行為の程度や背景で判断が変わります。
懲戒解雇の特徴と影響
- 退職金が支給されない場合が多いです。企業の就業規則に基づき処理します。
- 失業保険など公的給付に影響が出る可能性があります。受給の可否はケースによります。
- 履歴書や職歴に重大な傷が付くため、今後の就職に不利になることが多いです。
注意点と従業員の権利
- 会社は懲戒解雇をする前に、事実確認や証拠の収集を行うべきです。本人への聴取も重要です。
- 就業規則に懲戒事由や手続きが明示されているか確認してください。
- 不当と感じる場合は、まず会社に異議を申し立て、労働組合や労働相談窓口、弁護士に相談することをおすすめします。
懲戒解雇の要件
1. 就業規則に懲戒解雇の定めがあること
会社は懲戒解雇の規定を就業規則に明記し、従業員に周知している必要があります。口頭だけや暗黙の慣行だけでは不十分です。就業規則に基づき処分することで、後の争いを避けやすくなります。
2. 行為が懲戒事由に該当すること
従業員の行為が就業規則に定めた懲戒事由に当てはまるかを判断します。具体例としては、横領・重大な背信行為、機密情報の漏えい、長期の無断欠勤(例:2週間以上)などが挙げられます。ただし、単なる業務のミスや軽度の遅刻だけでは懲戒解雇に至らないことが多いです。
3. 処分が社会的に相当であること
懲戒解雇は最も重い処分です。行為の悪質性、被害の大きさ、本人の過去の勤務態度や反省の有無を総合して、解雇が相当かどうかを判断します。軽い違反なら減給や出勤停止など他の処分が先に検討されます。
4. 手続き・証拠の重要性
事実確認を丁寧に行い、必要な証拠をそろえます。本人に説明と弁明の機会を与えることも重要です。これらを欠くと、解雇が不当と判断されるリスクが高まります。
5. 具体例での判断
無断欠勤が2週間続いた場合、業務に支障が出るため懲戒解雇の対象となり得ます。一方、経済的理由や病気でやむを得ない事情がある場合は、まず事情を確認し、相当性を慎重に判断します。
労働基準監督署との関係
解雇予告除外認定とは
労働基準監督署に申請できる制度で、認定を受けると30日分の解雇予告や解雇予告手当を支払わずに即日解雇が可能になります。認定は例外扱いで、簡単には出ません。
申請と調査の流れ
会社が申請書と証拠を提出します。監督官は中立の立場で事実関係を調べ、当事者への聞き取りや資料確認を行います。調査には数週間かかることがあります。
認定の要件(具体例)
懲戒解雇に相当する重大な事実が必要です。例としては横領や窃盗、営業秘密の重大な漏洩、暴力行為や重大なハラスメントなどがあります。無断欠勤だけでは認定が難しい場合があります。
準備すべき証拠
出勤記録、監視映像、メールやチャットの記録、内部調査報告、第三者の証言などを用意してください。証拠の保存と整理が重要です。
申請後の注意点
監督官は中立なので双方の説明を重視します。認定が下りない場合は解雇予告手当の支払いが必要になることがあるため、慎重に進めてください。従業員は不服申立てや労働審判・訴訟を検討できます。
手続きの流れ
1. 事実関係の調査
まず何が起きたかを正確に調べます。関係者から聞き取り、出勤記録やメール、監視カメラなどの証拠を集めます。例:横領なら領収書や通帳の確認、遅刻の常習なら出退勤データを保存します。
2. 懲戒解雇の要件確認
会社の就業規則と社内ルールに照らして、懲戒解雇が妥当か判断します。過去の処分例と比較し、一貫性を保ちます。
3. 弁明の機会付与(聴聞)
従業員に事情説明の時間を与えます。口頭でも書面でも構いません。例えば1週間程度の期間を設け、本人の言い分や証拠を聴取します。
4. 通知書の作成
事実、理由、証拠、処分の根拠を明確に記載した通知書を作成します。感情的な表現は避け、事実を簡潔に示します。
5. 従業員への通知と記録
通知書を手渡しまたは配達記録が残る方法で交付します。交付日時や受領の有無を記録して保管します。
6. 失業保険・給与関係の処理
離職票や最終給与の計算を行います。懲戒解雇の場合は受給制限が生じることがあるため、社内で正確に処理します。
7. 不服がある場合の対応
従業員が不当と主張したら、まず労働基準監督署や労働相談窓口に相談できます。同署は労働基準法違反の是正にあたりますが、解雇の法的適否については裁判や労働審判が必要な場合があります。弁護士に相談すると手続きや証拠整理で助けになります。


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