はじめに
目的
本資料は、懲戒解雇が発生した際に企業の人事担当者が行うべきハローワークへの届出手続きや必要書類、失業保険との関係を分かりやすく整理したものです。実務で迷わないよう、具体例や注意点も盛り込みます。
対象読者
人事・総務担当者、経営者、また懲戒解雇に関わる労務管理を担当する方を想定しています。労働者側が読みたい場合にも基本的な手続きの流れが分かります。
この資料で扱うこと
- 懲戒解雇と通常解雇の違い(例:横領や重大な服務規程違反など)
- ハローワークへの届出方法と必要書類
- 離職票や離職証明書の記載ポイント
- 失業保険の給付に与える影響と従業員への説明方法
- 手続きの実務上の注意点(証拠の保管や社内手続きの整備など)
読み方のポイント
まず第2章で届出の全体像を把握し、各章で具体的な書類や記載例を確認してください。実務でよくあるトラブルは章末の注意点で触れます。必要に応じて社内の法務や社会保険労務士に相談してください。
懲戒解雇とハローワークへの届出手続き
懲戒解雇は企業が重大な規律違反を理由に即時に雇用を終了する処分です。処分時は、解雇理由と処分日を明記した書面(懲戒解雇通知書)を必ず交付します。書面には事実関係を具体的に記載し、従業員に説明することが重要です。
主な手続きとポイント
- 懲戒解雇通知書の作成
- いつ、どのような行為があったかを具体的に書きます(例:業務上の横領、重大な秘密漏洩、故意の長期欠勤など)。
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就業規則の該当条項や調査報告を合わせて示すと分かりやすくなります。
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証拠と記録の整理
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事情聴取の記録、証拠書類、本人からの回答を保存します。後日の説明や行政対応で必要になります。
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ハローワークへの届出
- 離職に関する書類(離職証明書など)には懲戒解雇であることを正確に記載します。ハローワークは雇用保険給付の判断に利用します。
- 必要に応じ、就業規則や調査書を添えて説明できるように準備します。
実務上の注意
- 書面交付と説明を怠ると争いの原因になります。文書は明確にし、従業員に手渡して説明してください。
- 個人情報は適切に扱い、関係書類は一定期間保管します。
- 判断に迷う場合は、社内の人事担当や社会保険労務士へ相談してください。
企業がハローワークへ提出すべき書類
提出が必要な主な書類
- 雇用保険被保険者資格喪失届:退職者の資格喪失を届け出る書類です。提出期限は退職日の翌日の翌日から10日以内です。
- 離職証明書(離職票):従業員が希望する場合に交付します。離職理由や最終出勤日などを記載します。
- 添付資料(必要に応じて):就業規則の該当条項、懲戒処分の通知書や調査報告書、給与台帳やタイムカードの写しなど、事実を裏付ける書類です。
記載・添付のポイント
- 退職理由は具体的に記載します。懲戒解雇ならどのような行為であるか、いつ発覚したかを明確にします。
- 給付制限の該当性がある場合は、その根拠となる証拠(始末書、減給決定書など)を添付します。
- 最終出勤日と解雇日を誤りなく記入し、給与の支払状況も明記します。
実務上の注意
- 離職票は従業員の求めに応じて交付します。交付前に内容を企業側で確認し、誤記がないようにします。
- 懲戒事実に争いが予想される場合は、調査書類を整え、必要なら専門家に相談してください。
- 提出期限を守ることが重要です。期限を過ぎると行政対応や従業員とのトラブルに発展する恐れがあります。
具体例
- 横領で懲戒解雇:調査報告書、始末書、処分通知書を添付します。
- 繰り返す無断欠勤:出勤簿や警告書を添付して事実を示します。
離職票・離職証明書の記載内容と証明資料
概要
離職証明書には離職理由を正確に「懲戒解雇(重責解雇)」と記載し、決定に至った事実と証拠を添付します。不正確な記載は法的リスクを招くため、事実に基づいて簡潔に記載してください。
記載すべき主な項目
- 離職の事由:明確に「懲戒解雇(重責解雇)」と記載
- 離職日:解雇の効力が発生した日
- 懲戒の種類と理由:具体的な事実(いつ・どのような行為があったか)を簡潔に
- 調査の有無と手続きを簡単に記載(聴取を行ったか等)
- 会社の就業規則の該当条項(条番号)
- 処分を決定した日時と決定者
添付すべき証明資料(例)
- 就業規則の該当条文の写し
- 懲戒処分決定書や議事録
- 警告文、始末書、口頭注意の記録
- 調査報告書や聴取メモ
- 電子メール、ログ、出退勤記録、映像記録などの証拠
- 被害の証拠(損害額の算定書等)
- 証人の陳述書や署名入りの確認書
記載時の注意点
- 事実を簡潔・客観的に書く。感情的な表現は避ける。
- 根拠のない推測や断定は書かない。証拠がない場合は「調査中」等とする。
- 添付資料は目録を付け、写しを保存する。
- 不正確な記載は労働審判や損害賠償請求の原因になります。判断に迷う場合は労務担当や顧問弁護士に相談してください。
記載例(簡潔)
- 離職理由:懲戒解雇(サービス利用者への金銭横領)
- 事実概要:2025年3月〜2025年5月にかけて、顧客金銭を無断で転用した旨の社内調査報告あり(証拠:銀行振替記録、調査報告書)
- 添付資料:調査報告書、振替記録、就業規則第◯条
解雇予告と除外認定
解雇予告の原則
使用者は解雇の30日前に予告するか、30日分の平均賃金を支払う必要があります。懲戒解雇であっても原則は同じです。例えば、突然の懲戒を理由に即日解雇する場合でも、予告か手当のどちらかを用意します。
除外認定とは何か
労働者に重大な責任がある場合(”労働者の責に帰すべき事由”)は、労働基準監督署に「解雇予告除外認定」を申請すれば、予告や手当を不要とする扱いを受けられます。典型例は窃盗、重大な暴力、業務上の重大な背信行為などです。
申請手続きと必要書類
除外認定は使用者が監督署に申請します。申請時は事実関係を示す資料が必要です(就業規則、懲戒決定書、調査報告書、出勤記録、証言、警察資料など)。監督署は事情を調べ、除外の可否を判断します。認定が得られれば予告なしに解雇できます。
実務上の注意点
除外認定は自動的に下りるものではありません。証拠が不十分だと認定されず、後で未払い予告手当の支払いや労働紛争のリスクがあります。調査と記録を丁寧に残し、必要なら弁護士や社労士に相談してください。
失業保険(雇用保険)との関係
概要
懲戒解雇でも、原則として失業保険(基本手当)の受給資格はあります。ただし、企業側の重い違反(例:横領や重大な安全違反など)で解雇された場合は給付が一定期間遅れることがあります。
給付制限(いわゆる「重責解雇」の扱い)
ハローワークは、解雇理由が本人の重大な過失に当たると判断すると、基本手当の受給を3か月程度遅らせる「給付制限」を設けることがあります。具体例としては、業務上の重大な横領・故意の情報漏えい・重大な暴力行為などが挙げられます。
ハローワークの判断と会社都合認定
一方で、解雇の背景に会社側の不適切な対応や理由の不明確さがあると、ハローワークが「会社都合」として扱う場合もあります。ハローワークは提出書類や事情聴取を基に総合的に判断します。
手続き上の注意点
離職票や解雇理由を示す書類は正確に提出してください。本人は事情説明や証拠を用意すると良いです。給付制限に納得できないときは、まずハローワークに相談し、必要なら労働相談窓口や専門家に相談してください。
受給までの流れ(簡潔)
離職票を受け取る → ハローワークで受給手続き → ハローワークの判断で給付制限が付くか確認 → 支給開始。
ハローワークでの届出手続きの流れ
提出期限と準備
企業は退職日から10日以内に必要書類をハローワークへ提出します。離職票には懲戒解雇であることとその理由を具体的に記載し、就業規則の該当箇所や調査結果、出勤簿、始末書などの証拠を添付します。例:遅刻や職務怠慢の記録、懲戒委員会の議事録などです。
事業所側の手順
担当者が書類をまとめ、コピーを保管した上で窓口へ提出します。書類不備がないかを事前に確認すると手続きがスムーズです。窓口で控えの受領印をもらってください。
ハローワークの処理
ハローワークは受理後に事情確認を行い、必要なら追加資料や説明を求めます。事実確認が済めば離職理由の認定や除外認定の判断につなげます。
従業員の手続き
従業員は離職票を持参してハローワークで失業給付の申請を行います。受給の可否や給付開始日はハローワークの案内に従ってください。
実務上の注意点
書類は日付や署名を明確にし、コピーを必ず保管します。追加問い合わせには速やかに対応すると手続きが遅れません。疑問点は早めにハローワークに相談してください。
懲戒解雇届出時の注意点
記載の正確性と法的リスク
離職理由を誤って記載すると、労働審判や訴訟で不利になります。虚偽記載は信用失墜だけでなく、訂正命令や損害賠償につながる可能性があります。具体例:窃盗と記すなら、防犯カメラや在庫管理記録で裏付けを残してください。
証拠の整理と保存
懲戒処分の前後や調査過程の書類を順序立てて保存します。出勤記録、警告書、面談記録、メールや証言などを日付順に整理すると説明が簡単になります。
解雇予告除外認定のタイミング
除外認定を取る場合は、解雇予告の対象期間に入る前に手続きを行うか、少なくとも届出時に明確にしておく必要があります。タイミングを誤ると予告手当等の支払い義務が生じます。
従業員対応と個人情報の配慮
事情聴取は公平に行い、本人に弁明の機会を与えます。個人情報は必要最小限に留め、関係者以外には開示しないでください。
失業保険・再就職への影響
懲戒解雇が離職理由に記載されると、給付制限や再就職活動への影響が出ることがあります。企業は正確に記載する一方で、不当な扱いとならないよう配慮してください。
実務チェックリスト
- 離職票・離職証明書の記載内容を再確認
- 関連証拠を添付または保存
- 解雇予告除外の有無を確認
- 本人に弁明機会を付与
- 弁護士や社会保険労務士へ相談
まとめ
本書で扱ったポイントを分かりやすく整理します。
- 正確な書類作成が最優先です。
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雇用保険関連書類(離職票や離職証明書)は事実に基づき正しく記載してください。誤記は追加確認や手続き遅延の原因になります。
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懲戒解雇の理由を示す証拠を必ず用意してください。
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具体例:始末書、注意・警告書、調査記録、映像やログなどの客観資料。
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記録の保存と速やかな届出
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解雇通知書や調査メモは保存し、ハローワークへは速やかに届出を行います。
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不備があるとリスクが高まります。
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追加確認や労使トラブル、最悪の場合は法的紛争に発展する恐れがあります。ここでの対応は企業の信用にも関わります。
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実務上の簡単なチェックリスト
1) 書類の記載内容を二重に確認
2) 必要な証拠を添付
3) ハローワーク提出期限を守る
4) 社内で説明できるよう記録を整理
5) 不安な点は社労士や弁護士に相談
最後に一言。手続きは事実と証拠に基づき、丁寧に進めることが何より大切です。迅速かつ慎重に対応してください。


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