はじめに
この章では、本資料の目的と読み方を丁寧に説明します。主題は「懲戒解雇が助成金の受給に与える影響」です。事業主が懲戒解雇を行った場合、助成金の支給可否にどのような影響があるかをわかりやすく整理します。
目的と対象読者
目的は、懲戒解雇と助成金の関係を明確にし、実務での判断や対応の助けにすることです。対象は、人事・労務担当者、経営者、社労士など実務に関わる方です。専門用語は最小限にし、具体例を交えて説明します。
懲戒解雇と助成金の概略
懲戒解雇は通常の事業主都合退職と扱いが異なります。多くの助成金制度では「不支給要件」に懲戒解雇を直接記載していない場合があります。とはいえ、解雇の理由や手続きの適正さによっては、助成金が不支給になったり、申請が認められないリスクが生じます。例えば、懲戒の理由が不明確で手続きが不適正だと認められると、助成金の審査で不利に働くことがあります。
本資料の読み方
以降の章で、基本的な考え方、助成金ごとの関係ポイント、実務上の注意点、具体的な対応アクションを順に解説します。まずは全体像をつかみ、実務に役立ててください。
基本的な考え方
助成金の基本要件
多くの雇用関係助成金は「一定期間内に事業主都合の解雇がないこと」を支給要件にしています。趣旨は雇用の安定を図ることです。たとえば採用や教育の助成では、支給申請前後の数か月間に事業主都合での解雇があると不支給となる場合があります。
懲戒解雇の位置づけ
懲戒解雇は従業員の重大な規律違反に対する処分です。通常は事業主都合の退職とは区別され、自己都合や懲戒扱いとなることが多く、助成金の不支給要件に直接当てはまらない場合が多いです。ただし、懲戒の正当性が問われると取り扱いが変わります。
実務上の注意点
懲戒を行う際は理由と手続きを明確にし、記録を残してください。具体的には経緯を示す調査報告、対象者への説明、始末書や懲戒処分通知、社内規程の該当条項を揃えます。もし後に裁判や労働審判で懲戒が不当と判断されると、事業主都合解雇と見なされ助成金に影響します。したがって、慎重な証拠収集と社内手続きの遵守が重要です。
具体例での理解
例:従業員が横領を行い懲戒解雇したケース。適切に調査し書面で理由を残していれば、多くの助成金では不支給に当たりません。逆に口頭のみで処分した場合、後日不当と判断されるリスクがあります。
まずは懲戒の必要性を見極め、手続きを丁寧に進めることが助成金リスクの低減につながります。
懲戒解雇と助成金の関係ポイント
助成金要件と懲戒解雇の扱い
特定求職者雇用開発助成金などでは「前後6か月以内に事業主都合による解雇がないこと」が要件になることがあります。ここで注意する点は、懲戒解雇は通常の「事業主都合解雇」に含まれない扱いを受ける場合があることです。つまり、懲戒解雇そのものが直ちに不支給要件に該当するとは限りません。具体例:規則違反で懲戒解雇したケースは、要件上は除外されることがあります。
審査でのマイナス要因になり得る点
ただし、解雇という事実は審査でマイナス評価になることがあります。審査担当者は離職の経緯や再発防止策、社内ルールの運用状況を確認します。例えば、懲戒処分の理由が不明瞭だったり、手続きが不十分だと「整備不足」と判断され、助成金に不利に働く可能性があります。また、同一事業所で他の離職者が事業主都合に該当すると、まとめて不支給となるリスクもあります。
実務上のリスクと代替措置
安易に懲戒解雇を選ぶと将来の助成金申請に不利になります。まずは懲戒以外の選択肢を検討してください。例としては、注意・譴責、配置転換、出勤停止や減給(就業規則に基づく)、契約更新をしないといった措置です。それでも懲戒が必要な場合は、社内規程に基づく手続きを厳格に行い、事実関係の記録を残してください。
書類・証拠の整備と申請時の配慮
処分理由、調査記録、警告文書、就業規則の該当条項、関係者の陳述などを整備します。助成金申請時には、懲戒の理由と再発防止策を説明できる形で添付すると審査での理解が得やすくなります。可能であれば申請前に社労士など専門家に相談して、助成金要件との整合性を確認してください。
注意すべき実務上のポイント
以下は懲戒解雇を検討する際、実務で特に注意したいポイントを分かりやすくまとめたものです。
就業規則と手続きの明確化
懲戒事由や手続きを就業規則に具体的に定めます。どの行為が懲戒に該当するか、どのような手順で処分を決めるかを示しておくと後の争いを防げます。例:無断欠勤は何日で懲戒の対象か、注意→始末書→出勤命令の順を明記。
証拠の収集と保存
事実関係は時系列で記録します。出勤記録、メール履歴、注意・指導の記録、証人のメモなどを保存します。口頭だけで済ませず、書面やメールで確認する習慣を付けます。
手続きの進め方(実務フロー)
1) 事実確認→2) 本人への聴取(説明機会を与える)→3) 懲戒委員会等で判断→4) 処分通知。本人に説明機会を与えないと不利になります。
解雇以外の選択肢
無断欠勤などでは合意退職や配置転換、出勤命令といった選択肢が現実的です。合意退職では条件を明確にして合意書を作成すると助成金や紛争リスクの軽減につながります。
社内体制と教育
判断は人事だけでなく複数名で行い、法務や外部の専門家に相談します。管理職に証拠を残す方法や面談のルールを教育しておきます。
簡易チェックリスト
・就業規則に該当規定があるか
・証拠を時系列で保存しているか
・本人の弁明機会を記録しているか
・第三者の確認や専門家相談を行ったか
注意深く進めることで、助成金や後の紛争リスクを低くできます。
実務での対応アクション
はじめに
既に利用中または今後利用予定の助成金ごとに、不支給要件や「解雇」の定義を必ず確認してください。懲戒解雇の事案は助成金に影響する可能性が高いので、慎重に対応します。
1. 助成金別の事前確認
キャリアアップ助成金、雇用調整助成金、特定求職者雇用開発助成金など、各助成金の要件を個別に確認します。例えば、懲戒による離職が不支給要件に該当するかをチェックします。
2. 事実関係の記録化
懲戒理由、警告・指導の記録、面談の議事録、証拠(メールや勤務記録)を時系列で整理します。客観的な証拠を残すことで助成金担当窓口への説明がしやすくなります。
3. 事前相談の実施
ハローワークや労働局、社労士に事前相談します。申請中の助成金に懲戒解雇が影響するか、文書で確認を取ることを推奨します。
4. 申請手続き時の注意
申請前に懲戒処分の内容と時期を整理し、必要なら申請を一時保留します。虚偽や不十分な説明は不支給・返還のリスクを招きます。
5. 社内対応と再発防止
従業員への説明や就業規則の見直しを行い、今後の懲戒運用基準を明確にします。社内で統一した手続きを整備することで、助成金リスクを低減できます。


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