はじめに
この章では、本資料の目的と使い方をわかりやすく説明します。中途入社や中途退職があると、源泉徴収票の発行や年末調整、確定申告など、税に関する手続きが分かりにくくなりがちです。本資料は、そうした疑問を解消するために作成しました。
目的
本資料は、源泉徴収票の役割や発行義務、転職時の提出方法、紛失時の対応、会社側の実務ポイントまで、実務で押さえておきたい点を順に示します。初めて手続きをする方でも理解できるよう、専門用語は最小限にし、具体例を交えて説明します。
対象読者
・転職や退職を控えている従業員
・中途採用担当や人事担当者
・源泉徴収票の取り扱いに不安がある方
使い方
各章は独立して読めますが、まず第2章で源泉徴収票の基本を押さすと全体がつかみやすくなります。必要に応じて該当章を読み進めてください。ご不明点があれば、後半のよくある質問もご活用ください。
源泉徴収票とは何か
概要
源泉徴収票は、会社が従業員に交付する税金関係の書類です。その年の1月1日から退職日までに支払われた給与や賞与、そして源泉徴収された所得税の金額を記載します。会社が発行する義務があります。
書かれている主な項目
- 支払金額(給与・賞与の合計)
- 源泉徴収された所得税額
- 社会保険料などの控除額
- 退職金がある場合は退職所得の欄
給与所得と退職所得の違い
通常の給与や賞与に対する「給与所得の源泉徴収票」と、退職金に対する「退職所得の源泉徴収票」があります。退職金が支払われたときは退職所得の票が別に交付されます。
使い道と注意点
年末調整や確定申告、転職先への提出などに使います。内容に誤りがないか、受け取ったら必ず確認し、紛失しないよう大切に保管してください。
退職者への源泉徴収票の発行義務とタイミング
法的根拠と交付期限
会社は退職した従業員に対して、退職日から1カ月以内に源泉徴収票を発行・交付する義務があります(所得税法第226条)。この書類は、その年の給与と源泉徴収された税額を示す重要書類です。退職者が年末調整や確定申告を行う際に必要になります。
交付方法
交付方法は主に次の3つです。
– 本人への直接手渡し
– 郵送
– 同意があればPDFなどの電子データでの交付
会社は退職者の希望や連絡先を確認して、確実に届く方法を選びます。
交付しない場合のリスク
会社が交付を怠ると過料や罰則が科される可能性があります。退職者も交付を受けられないと年末調整や確定申告で困るため、早めに会社に請求してください。
実務上の注意点
- 住所や連絡先が変わっていないか確認する。
- 郵送の場合は発送記録を残す。
- 記載ミスがあれば速やかに再発行を依頼する。
よくあるケース
- 年末に退職した場合は、年内の所得が確定しているため交付が早く必要になります。
- 海外転居時は電子交付の同意を得ると受け取りやすくなります。
必要があれば、交付を請求する文例や会社向けの案内文も作成します。
転職時・中途入社時の年末調整と源泉徴収票の提出
概要
年の途中で転職や中途入社をしたら、前職の源泉徴収票を新しい勤務先に提出します。新しい勤務先は、前職分を含めてその年の収入と既に差し引かれた税額を合算して年末調整を行います。
なぜ必要か
前職の給与と源泉徴収された税額が分からないと、年末調整で正しい税額を計算できません。前職の分を合算することで、過不足の税金が精算され、還付または追加納税が判明します。
提出の方法とタイミング
入社時の書類として求められることが多いです。会社によっては年末調整の案内と一緒に回収します。原本を求められる場合が多いので、届いた源泉徴収票はそのまま提出しましょう。提出方法は手渡し、郵送、スキャンしてメール(会社が許可する場合)などがあります。まずは人事・総務に確認してください。
複数回転職した場合
年内に複数社で働いた場合は、すべての勤務先からの源泉徴収票を提出します。例:A社で退職→B社に入社→さらにC社に移った場合、A・B両方の源泉徴収票をC社に出します。
提出が遅れた場合の対応
提出が遅れると新しい勤務先での年末調整が正確にできないことがあります。その場合は自分で確定申告を行って不足分を納めるか、還付を受けます。前職の源泉徴収票を紛失したら前職に再発行を依頼してください。
実務上の注意点
- コピーでよいか原本が必要かは会社ごとに違います。事前に確認しましょう。
- 海外転職や源泉徴収票が発行されない特殊な給与形態の場合は、人事に事情を説明して指示を仰いでください。
例を参考に早めに提出すると手続きがスムーズになります。
源泉徴収票がもらえない・紛失した場合の対応
はじめに
源泉徴収票が手元にないと年末調整や確定申告で不安になります。ここでは、会社から交付されない場合や紛失したときの具体的な対応を分かりやすく説明します。
前職に再発行を依頼する方法
- まず元の勤務先に連絡します。メールや書面で「源泉徴収票の再発行をお願いします」と伝え、氏名・在籍期間・郵送先を明記してください。電話での確認も行い、送付方法を指定すると安心です。
- 要望は丁寧に、再発行を依頼する旨を記録に残します(送信したメールやメモを保存)。
連絡が取れない・対応がない場合
前職と連絡が取れない場合や対応がない場合は税務署に相談してください。税務署は状況を聞いたうえで助言や手続きの案内をしてくれます。また、会社側に交付を求める法的義務があることを伝えると対応が早まることがあります。
紛失した場合に自分でできること
- 給与明細や振込履歴、雇用契約書を集めておきます。これらは所得を証明する参考資料になります。
- 転職先の人事に状況を説明すると、年末調整の方法を教えてもらえます。
記録と証拠の残し方
連絡のやり取りは必ず保存してください。メール、送付控え、受領確認があると後で手続きがスムーズです。
不交付・記載不備の扱い
源泉徴収票を交付しない、または記載に誤りがある場合、会社には交付義務があります。不交付や重大な記載不備は行政の指導や罰則の対象になり得ますので、必要なら税務署へ相談し、解決を図ってください。
年末調整と確定申告の違い(退職・転職後)
概要
退職や転職で年の途中に勤務先が変わると、年末調整と確定申告のどちらで税金を清算するかが変わります。ここでは代表的なケースと必要な手続きを分かりやすく説明します。
年末調整と確定申告の違い
年末調整は勤務先が従業員の代わりに税額を精算する手続きです。確定申告は個人が自分で所得や控除を申告して税額を確定します。年内に勤務先がなく年末調整を受けられない場合は自分で確定申告します。
ケース別の対応
- 退職後に年内に再就職がない場合:翌年に確定申告を行います(例:1月〜12月分の収入を申告)。
- 転職先で年末調整をしてもらえない場合:翌年、自分で確定申告してください。転職先が年末調整に対応しない理由は会社の都合や入社時期です。
- 年内に複数の会社で働いた場合:最後の勤務先だけで年末調整を受けられないことがあります。すべての源泉徴収票を集めて確定申告に備えてください。
必要書類と手続きの流れ
必要書類は源泉徴収票、マイナンバー、各種控除の証明(医療費領収書、生命保険料の控除証明など)です。手続きは税務署へ書面で提出するか、e-Taxで行います。一般に確定申告の期間は翌年冬〜春ですが、税務署の案内を確認してください。
注意点
源泉徴収票は退職した会社に発行を請求できます。紛失しないよう保管し、複数社分をまとめて提出してください。税額に不安があるときは税務相談窓口や税理士に相談をおすすめします。
会社側の実務的ポイント
交付の基本方針
退職者には源泉徴収票をできるだけ早く交付してください。退職後の手続きや転職先での年末調整に必要なため、スピードが大切です。紙交付が一般的ですが、従業員と合意があれば電子交付も可能です。
実務フロー(退職時)
1) 退職日が決まったら人事が発行準備を開始する。2) 支給済の給与・賞与と控除を最終確認する。3) 源泉徴収票を作成して本人に交付し、交付記録を保存する。
転職者への対応
転職者には前職の源泉徴収票が必要か必ず確認してください。提出がない場合は年末調整に影響しますので、早めに案内します。前職からの再発行依頼があれば、速やかに対応するよう案内してください。
必要書類チェックリスト
- 源泉徴収票
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 保険料控除申告書
- 基礎控除申告書
上記が揃っているか入社時・退職時に確認してください。
紛失・再発行の対応
紛失の連絡を受けたら本人確認の上、写しを再発行します。原本に不備がある場合は訂正し、訂正の経緯を記録してください。
記録と問い合わせ対応
交付日や送付方法、問い合わせ履歴は保存しておきます。従業員からの質問には丁寧に対応し、必要なら税務署の指示を案内してください。
源泉徴収票の種類と記載内容
源泉徴収票の種類
- 給与所得の源泉徴収票:毎月の給与や賞与について発行されます。年末調整や確定申告で使います。
- 退職所得の源泉徴収票:退職金等を支払った際に交付されます。年末調整には含めません。
給与所得の主な記載項目
- 支払金額:その年に支払われた総額(給与・賞与の合計)を示します。
- 所得控除の額の合計:社会保険料や生命保険料控除など、差し引かれた控除の合計です。
- 源泉徴収税額:実際に天引きされた所得税の合計額です。
- 支払者・受給者の情報:会社名や氏名、所在地などが記載されます。
退職所得の主な記載項目
- 支払金額(退職金):支給された退職金の額です。
- 所得税額:退職金に対して源泉徴収された税額を示します。
記載の見方と使い方
- 年末調整:給与用は年末調整の基礎資料になります。
- 確定申告:転職や副収入がある場合は、源泉徴収票を添付して申告します。
- 例:転職したら前職の給与用源泉徴収票を次の会社へ提出します。
注意点
- 退職金は年末調整に含めないことを確認してください。
- 記載に誤りがあれば、勤務先に訂正を依頼してください。
よくある質問・注意点
よくある質問
Q1: 源泉徴収票が手元になくても年末調整できますか?
A1: 基本はできません。年末調整には前勤務先の源泉徴収票が必要になります。受け取れない場合は、自分で確定申告をして税金を精算してください。
Q2: 紛失したときはどうすればよいですか?
A2: 前の勤務先に再発行を依頼してください。連絡がつかない場合は税務署に相談し、必要な手続きを確認しましょう。
Q3: 退職後に住所が変わった場合は?
A3: 速やかに前の勤務先に新住所を知らせ、郵送先を正確にしておきます。届かないと年末調整や確定申告に支障が出ます。
Q4: 転職先にはいつ渡す?
A4: 入社時や年末調整の案内が来たらすぐに提出してください。早めに出すと手続きがスムーズです。
Q5: 税務署に提出することはありますか?
A5: 確定申告の際に源泉徴収票を添付・提示する場合があります。大切に保管してください。
注意点
- 会社は源泉徴収票を発行する義務があります。届かないときは早めに問い合わせてください。
- 年の途中で複数の勤務先がある場合、すべての源泉徴収票が必要です。
- 記載に誤りがあれば、前勤務先に訂正を依頼してください。
- 電子的交付に対応している会社もあります。方法を事前に確認しましょう。
まとめ
要点
退職したら原則1か月以内に前職から源泉徴収票を受け取り、転職先へ提出してください。源泉徴収票がないと年末調整で前年分の所得・控除が正しく反映されず、自分で確定申告をする必要が出ることがあります。
具体的な行動
- 受け取り:退職後すぐに前職に連絡し、発行・送付を依頼します。届いたら内容(金額・扶養・社会保険等)を確認してください。
- 提出:転職先があれば早めに渡してください。年末調整の資料として使われます。
- 紛失・未発行時:再発行を依頼し、それでも入手できない場合は税務署や転職先に相談してください。簡単な控えでも手続きの助けになります。
普段から給与明細や源泉徴収票のコピーを保管すると安心です。短い手続きで済むことが多いので、早めに動くことをおすすめします。


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