はじめに
本調査は、外国人労働者を雇用する際に企業が準備すべき就業規則について分かりやすくまとめたものです。ここでは、就業規則の作成方法、記載すべき具体事項、守るべき法的要件、実務上の注意点を順を追って説明します。目的は、外国人と日本人の双方にとって公平で分かりやすい職場ルールを整えることです。
外国人労働者を採用するときは、労働条件の明確化と在留資格の管理が特に重要になります。例えば、勤務時間や残業、休暇の扱いを具体例で示すと、誤解が減ります。また、母語や英語での説明、翻訳版の用意、必要時の通訳手配など、外国語対応も検討してください。
本稿は、企業が実務で直面しやすい場面を想定して解説します。たとえば、配属先が変わったときの手続きや、契約内容に変更が生じた場合の説明方法など、すぐに役立つ実例を交えます。最終的に、企業が安全で公平な労務管理を実現できるよう、基本的なポイントを押さえて進めていきます。
外国人雇用時の就業規則作成の基本原則
基本原則
外国人を理由に労働条件を不当に差別してはいけません。労働基準法第3条の趣旨に沿い、日本人と同等の能力や経験があれば同等の待遇を適用します。ただし、在留資格上の制限や言語の障害など、外国人特有の事情には配慮が必要です。
具体的な配慮事項
- 給与・労働時間・休暇:国籍で差を付けず同等の基準を適用します。例:同一職務なら同一賃金。
- 在留資格の確認:就業規則で就業可能範囲や手続きの注意点を明記します。例:外国人が従事できない業務についての注意。
- 言語対応:重要規程は母国語や平易な日本語で説明します。例:就業規則の主要項目を翻訳し説明会を開く。
実務上のポイント
- 個別の事情は柔軟に扱う:勤務時間調整や休暇対応などをケースごとに検討します。
- 労使で合意を取る:就業規則改定時は対象者に十分説明して理解を得ます。
- 記録を残す:説明資料や同意書を保存しておくと後のトラブルを防げます。
これらを踏まえ、公平性を保ちつつ実務上の配慮を取り入れた就業規則を作成してください。
就業規則作成の法的要件
作成義務と対象
常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則を作成する義務があります。外国人労働者の有無にかかわらず適用されます。就業規則は賃金、労働時間、休暇、懲戒などの基本事項を明確にします。
届出の手順
作成後は、労働者代表の意見を添えて労働基準監督署に届け出ます。労働者代表は選挙や互選で選び、意見書は簡単な書面で構いません。届出の際は作成日と労働者代表の署名を付けて提出します。
周知義務(労働基準法106条)と外国人への配慮
企業は就業規則の内容をすべての労働者に周知する義務があります(労働基準法106条)。外国人には理解不足でトラブルが生じやすいため、要点を翻訳した文書を配布したり、説明会を行ったりして丁寧に説明してください。例:日本語版のほか英語や母語の要約を渡し、説明会で質疑を受け付ける。
実務上の注意点
就業規則は常に最新の法令や実態に合わせて見直してください。就業規則を配布した記録(配布日、配布物、従業員の確認サイン)や翻訳の保存は、万一のトラブル時に役立ちます。就業規則と雇用契約の内容が矛盾しないように統一することも重要です。
外国人労働者向け就業規則に記載すべき事項
在留資格により就業できる業務や労働時間が異なります。就業規則では、その違いを踏まえて明確に定め、従業員に周知してください。
在留資格と業務の範囲
在留資格に合致する業務のみ従事できる旨を記載します。例:留学は原則として週28時間以内の就労、技能実習は実習計画に沿った業務のみ、など。入社時に在留カードの写しを取得し、業務適合性を確認する手順も記載するとよいです。
在留資格喪失・変更時の取扱い
在留資格を喪失したり業務変更が認められない場合の対応を定めます。例えば、一時的な勤務停止の期間、必要な手続きの案内、相当期間内に手続きが完了しないときの雇用契約解除の方針を明記します。解雇や処分に際しては説明と相談の機会を設けることが重要です。
労働時間・休暇の取扱い
在留資格による労働時間制限や深夜労働の可否を明示します。残業が発生する場合の手続きや、労働時間管理の方法(タイムカード、勤怠システム等)を具体的に記載してください。
労働条件通知書の交付
採用時には業務内容、賃金、労働時間、勤務地などを書面で通知する義務があります。就業規則と整合させ、外国人本人が理解できるよう説明する仕組みも設けてください。
昇給・昇進の基準
昇給や昇進の基準は公平であることを明記し、評価項目(業績、態度、習得技能など)を具体化します。説明責任を果たすため、評価の流れや再評価の手続きも記載するとよいです。
その他推奨事項
相談窓口や支援体制(言語支援、手続きの案内)、社会保険や健康管理に関する情報も就業規則に盛り込むと実務が円滑になります。
外国語対応の就業規則について
目的と背景
日本の法律では外国語での就業規則作成は義務ではありません。ただし実務上は、外国人労働者が内容を理解できるようにすることが重要です。理解不足でトラブルや誤解が生じやすいため、母国語ややさしい日本語での説明を準備します。
翻訳・作成のポイント
- 優先して翻訳する項目:賃金、労働時間、休暇、退職・解雇、服務規律、安全衛生。例:「残業は事前申請が必要です」など短く明確に。
- 翻訳者:専門用語が正確なプロ翻訳か、社内のバイリンガル担当者のチェックを受けます。
- やさしい日本語:長い文章を短くし、一文一意で書きます。例:「始業は午前9時です。遅れるときは連絡してください。」
説明の方法
- 書面配布(紙・PDF)と口頭説明を組み合わせます。動画や図を使うと理解が早まります。
- 入社時に説明会を行い、理解度を確認します。質問を受け付け、必要なら個別説明をします。
運用と記録
- 受領確認:配布物に署名や確認チェックをもらいます。記録を保存しておきます。
- 改定時:規則を変更したら速やかに多言語で通知します。
注意点
- 翻訳は原本の法的効力を自動的に与えません。紛争時は原文が優先される場合があるため、説明責任を十分に果たすことが大切です。必要なら専門家に相談します。
採用時の手続きと注意点
ハローワークへの届出
外国人を採用・離職した場合、ハローワークへ氏名・在留資格・在留期間等を届出する義務があります。例:採用後速やかに届け出を行い、雇用保険や求人情報との整合性を保ちます。
在留カードの確認
採用前に在留カードを必ず確認してください。カードで就労の可否・在留期間を確認し、コピーを保存します。例:定住者や技術・人文知識・国際業務など就労が認められる資格を確認します。
許可された職務範囲の順守
在留資格で許可されている職務以外に就かせると、不法就労助長のリスクがあります。業務を追加する場合は変更手続きや行政への相談を検討してください。
募集・採用時の差別禁止
国籍や人種を理由に募集で差別することは職業安定法で禁止されています。求人票や面接では業務能力や資格に基づいて判断してください。
離職時の手続き
退職・解雇時もハローワークへの届出が必要です。離職証明や雇用保険手続きなどを速やかに行い、従業員に必要な書類を渡します。
チェックリスト(簡易)
- 在留カードの有効性・就労可否の確認
- 在留期間のコピー保存
- ハローワークへの採用・離職届出
- 求人票の文言確認(国籍差別がないか)
- 業務内容が在留資格に合致しているか確認
上記を日常業務のフローに組み込むことで、法令違反のリスクを減らせます。必要な場合は労働局や専門家へ相談してください。
企業の労務管理責任
法的義務
外国人労働者にも日本人と同じく労働基準法などの保護が及びます。企業は労働時間・賃金・休暇・安全衛生の管理を適正に行う必要があります。例えば、残業代の支払いや就業規則の周知は必須です。
均等待遇と差別防止
国籍を理由に待遇を差別してはいけません。採用や昇進、配置転換などで合理的な理由なく不利益を与えないようにします。宗教や慣習に配慮する場合は、個別に相談して対応策を決めます。
言語・文化への配慮
就業規則や安全ルールは、分かりやすい日本語や母国語の説明を用意します。入社時のオリエンテーションや通訳の活用、職場内での確認を習慣にしてください。
違反時の責任と対応
違反があれば行政指導や罰則、損害賠償のリスクがあります。問題が見つかれば速やかに是正し、記録を残して再発防止策を実施します。
実務的なポイント
労働条件は書面で明示し、出勤記録や賃金台帳を正確に保管します。管理職に対する研修や、定期的な面談で早めに問題を把握することが重要です。


コメント