はじめに
背景
本調査は、給与が支払われていない場合における源泉徴収票(以下、源泉票)や税務処理の扱いをわかりやすく整理したものです。給与未払いは労働者の生活に直結する問題であり、税務上の扱いを正しく理解することが重要です。具体例を交えながら、実務で迷いやすい点を丁寧に解説します。
本調査の目的
・未払い給与がある場合の源泉票の取り扱いを明確にする
・年末調整や確定申告での正しい対応を示す
・会社倒産や残業代未払いなど典型的なケースごとの手続きと注意点を紹介する
想定読者
会社員、転職者、企業の人事・経理担当者、税務に不安がある方を想定しています。法律用語は最小限に留め、例を挙げて具体的に説明します。
注意事項
本稿は一般的な解説です。個別の事情で対応が変わる場合がありますので、必要に応じて専門家に相談してください。
本書の構成
全7章で、未払い給与の法的背景から各種税務手続き、実務上の重要ポイントまで順を追って説明します。
給与未払いは違法行為とその法的背景
給与の未払いは労働基準法に違反します。働いた分の賃金を受け取る権利は労働者にあり、会社は必ず支払う義務があります。ここでは、日常の具体例を交えながら法的背景をやさしく説明します。
未払いは違法であること
会社が給料を支払わない状態は違法です。例えば、締め日や支払日を過ぎても給与が振り込まれない場合、会社は賃金の支払い義務を果たしていません。企業側に正当な理由がない限り、労働者は未払い分を請求できます。
労働者の主な対応方法
まずは社内で支払日や金額を確認し、給与明細や出勤記録を保存してください。それでも支払われないときは、内容証明郵便で請求する、最寄りの労働局に相談する、裁判や労働審判で解決を図る、といった手段があります。労働局の相談は無料で、初動として有効です。
未払い給与の時効
未払い給与の請求権は原則として3年で時効になります。たとえば、ある月の給与が支払われるべき日から3年以内に請求しないと、権利を失う可能性があります。時効を止めるには、会社に請求書を送るなどの行動が有効です。
記録と早めの相談の重要性
給与明細、出勤簿、メールやメッセージ、振込の履歴を保管してください。証拠があれば解決が早くなります。問題が生じたら早めに労働局や弁護士へ相談しましょう。
年末調整時の給与計上方法の問題
概要
年末調整では、その年に支払った給与をもとに税額を調整します。会計上は年末に未払金として給与を計上する企業があり、支払時期と賃金の計上年がずれることがあります。このずれが年末調整での扱いの違いを生みます。
発生主義と支払主義の違い
会計は発生主義(費用を発生した期に計上)を採ることが多いです。一方、源泉徴収や年末調整は原則として支払った給与を基準に行います。つまり、会計で未払計上しても、税務上は支払った年に税処理することが基本です。
よくある具体例
例:12月分の給与を年内に未払計上し、翌年1月に支払う会社。会計では12月の費用にしますが、年末調整でその金額を含めると実際に従業員に支払われていないため、源泉徴収額や控除との整合が取れません。
実務上の対応手順
1) 支払時期を確認し、年末調整の対象額を支払ベースで確定します。
2) 会計処理と人事給与のタイミングを合わせ、社内で運用ルールを統一します。
3) 源泉徴収票には実際に支払った金額を記載します。未払分は翌年の給与として処理します。
4) 従業員に説明文を出し、誤解を防ぎます。
注意点
未払給与を年内に含めて年末調整すると過少・過大な税額が生じる恐れがあります。処理が複雑な場合は税理士や税務署に確認すると安心です。
前職の給与が未払いの場合の確定申告対応
前提と結論
転職後に前職からの給与が未払いで、前職が源泉徴収票を修正して未払い分を削除した場合、その新しい源泉徴収票を基に税務署と相談して確定申告できます。税務署は発行された源泉徴収票の記載を優先して取り扱います。
準備する書類(具体例)
- 新旧の源泉徴収票(会社が発行したもの)
- 給与明細や支払を求めたメールの写し
- 銀行口座の入出金明細(未払いがあれば証拠になります)
たとえば、会社が未払い分を源泉徴収票から削除した場合、税務署ではその削除後の金額を基に課税関係を確認します。
税務署での相談の流れ
- 書類を持って所轄の税務署に行きます。
- 窓口で状況を説明し、源泉徴収票を提示します。
- 税務署から確定申告の必要有無や記載方法の指示を受けます。
源泉徴収票がない・修正されない場合の対応
会社が協力しない場合でも、自分の記録で給与所得を申告できます。具体的には給与明細や請求記録を集め、給与所得として確定申告を行い、必要なら税務署で相談しながら書類を整えます。未払い給与を請求するには労働基準監督署などへ相談することもおすすめします。
受け取りが後になった場合
未払い分を後日受け取ったら、その年の所得として申告する必要があります。受領後に過去の申告を訂正する場合は修正申告を行います。
会社倒産時の未払い給与と源泉徴収票の対応
破産管財人の役割
会社が倒産すると、原則として破産管財人が財産の管理や債権(未払い給与を含む)の把握を行います。従業員の未払い給与は優先的に扱われることがありますが、全額支払われない場合もあります。たとえば、給与の一部だけが配当されることがあります。
従業員がとるべき行動
まず破産管財人の連絡先を確認し、未払い給与の請求を行ってください。請求には雇用契約書や給与明細、労働時間の記録などが役立ちます。書面で請求内容を残すと後で証拠になります。
源泉徴収票の未発行への対応
倒産で会社が源泉徴収票を発行できない場合、破産管財人が発行することがあります。発行されないときは、本人が給与の支払調書や銀行振込の記録を基に確定申告を行えます。税務署に相談すると具体的な方法を教えてくれます。
未払い給与を受け取った場合の税務処理
破産管財人から未払い給与を受け取ったときは、その金額が課税対象になります。源泉徴収票が後で発行されれば、それに基づいて確定申告をしてください。源泉票がない場合でも、自分で収入を申告する義務があります。
以上を踏まえ、まずは破産管財人へ連絡し、必要書類を揃えて請求と税務対応を進めてください。
残業代未払い分支給時の税務処理
概要
残業代などの未払いを後から支給すると、税務上の調整が必要になります。主に年末調整のやり直し、不足税額の納付、源泉徴収票の再発行、給与支払報告書の訂正が関わります。適切に手続きを行えば税トラブルを避けられます。
年末調整のやり直し
未払い分が支給された年に給与として計上し、年末調整をやり直します。会社は過不足を精算し、従業員に不足分の税額を負担させないよう配慮します。再計算で過不足が出れば還付か追徴が発生します。
不足税額の納付方法
源泉徴収税が不足する場合、会社が不足分を納付します。従業員側が確定申告を行うと過不足が清算されます。会社は源泉所得税の納付期限に注意してください。
源泉徴収票の再発行
支給後に源泉徴収額や給与総額が変わったら、源泉徴収票を再発行します。再発行を受けた従業員は確定申告や市区町村への手続きに使います。
給与支払報告書の訂正と再提出
年末調整後に支給があれば、給与支払報告書(特別徴収の対象は市区町村用)も訂正して再提出します。市区町村により手続きが異なるため、確認してください。
実務上の注意点
・支給時期と計上年度を正しく管理する。
・従業員に状況を丁寧に説明する。
・税理士や労務担当と連携して書類を整える。
具体例
例:12月分の残業代が未払いで翌年2月に支給された場合、会社は翌年の年末調整でその支給を含め再計算し、必要なら源泉徴収票・給与支払報告書を修正します。従業員は修正後の書類で確定申告・住民税の手続きを行います。
未払い給与がある場合の重要な対応ポイント
1. まず落ち着いて記録を残す
未払いが分かったら、給与明細、出勤簿、メールやメッセージ、通帳の入金履歴などを保存してください。時系列でメモを作ると後で説明が楽になります。
2. 会社への請求方法
まずは口頭で確認し、応答がない場合はメールや書面で請求します。送る際は内容証明郵便を検討してください。証拠が残ることで交渉が有利になります。
3. 税務上の注意点
税金は原則「支払われた時点」で課税されます。未払い給与が後日支給された場合、支給された年の給与として扱います。源泉徴収票が発行されないときは税務署に相談してください。
4. 相談先と役割
・労働基準監督署:未払いが労基法違反か確認し、是正を指導します。
・税務署:年末調整や確定申告の取り扱いを相談します。
・弁護士・社労士:交渉や法的手続きを依頼できます。無料相談窓口を利用するのも有効です。
5. 最終手段と手続き
長期間解決しない場合は労働審判や訴訟が選択肢です。行動は早めに取ることをお勧めします。具体的な手順や税務処理は専門家に確認してください。


コメント