第1章:はじめに
この章では、源泉徴収票の「丙欄」について学ぶ前の準備として、本記事の目的と読み方を丁寧に説明します。
本記事の目的
短期や日雇いの労働者と、その雇用主・事務担当者が知っておくべき税務の基本をわかりやすく整理します。特に「丙欄」が示す意味、適用される人、年末調整や確定申告の扱い、実務での注意点を中心に解説します。
想定する読者
- 日雇い・短期雇用で働く方
- アルバイトや派遣の事務を担当する方
- 源泉徴収票の扱いに不安がある個人事業主や給与計算担当者
本章の読み方のポイント
以降の章は実務でよくあるケースを例にして説明します。専門用語はできるだけ避け、必要な場合は具体例で補います。まずは全体像をつかんでください。次章から順に読み進めると理解が深まります。
源泉徴収票の「丙欄」とは何か
丙欄の簡単な説明
丙欄(へいらん)は、給与から税金を差し引くときの区分の一つで、日額表に基づいて税額を計算します。主に日雇いや雇用期間が短い(原則2か月以内)のパート・アルバイトなど、短期の労働に使われます。日ごとに支払う給与や短期契約での雇用に適用される点が特徴です。
どんな人が該当するか
- 日雇い労働者や日給で働く人
- 契約期間が2か月以内のアルバイト・パート
- その職場で扶養控除等の申告書を提出していない短期労働者
税の扱い(実務的なイメージ)
丙欄では1日ごとの給与額を基に税額を決めます。扶養などの個人事情を反映しない簡便な計算になるため、通常は多く差し引かれる場合があります。雇用期間が2か月を超えると、勤務状況に応じて甲欄や乙欄に区分が変わりますので、税額の計算方法も変わります。
具体例
- 例1: Aさんは日給で15日だけ働いた場合 → 丙欄で日額表により源泉徴収
- 例2: Bさんは2か月を超えて同じ職場で働いた場合 → 甲欄や乙欄へ切替え(雇用形態や申告の有無で決まる)
実務上の注意点
雇用する側は、勤務期間や給与の支払い形態を確認し、適切な欄で源泉徴収する必要があります。働く側は給与明細や源泉徴収票でどの区分が使われているかを確認すると、税の扱いが分かりやすくなります。
丙欄適用者の年末調整の原則と例外
原則
丙欄で源泉徴収される勤務は、短期・臨時的な労働が多いため、年末調整の対象になりません。年末調整は一年分の給与を通算して税額を精算するしくみですが、丙欄適用者は継続的な給与支払の前提を満たさないことが理由です。丙欄で差し引かれた所得税の過不足は、従業員自身が確定申告で精算します。
例外
勤務途中で区分が変わり、同じ年に甲欄や乙欄で扱われるようになった場合は例外です。その年の全ての給与を合算して年末調整を行います。具体例:年の前半は日雇い(丙欄)で働き、後半に継続雇用となって甲欄になったとき、後半の勤務先が年間の給与を合算して調整します。
実務上の注意点
- 源泉徴収票を必ず保管してください。年末調整や確定申告で必要です。
- 区分変更があれば速やかに新しい勤務先に知らせ、必要書類を提出してください。
- 年末調整が受けられない場合は、翌年に確定申告で過不足を精算します。
丙欄適用者の源泉徴収票の記載と受け取り
発行される理由
短期や日雇いの給与でも、支払者はその年に支払った額と源泉徴収した税額を記録し、源泉徴収票を発行します。両者ともに税金の証明になるため、必ず受け取ってください。例:夏季の派遣で数か月だけ働いた場合でも、勤務先は源泉徴収票を発行します。
記載される主な項目
- 支払金額(その年に支払われた給与の合計)
- 源泉徴収税額(差し引かれた所得税)
- 支払者の名称・所在地
- 受給者の氏名・住所
- 「年調未済」など年末調整の状況
これらは確定申告で税額を確認する際の根拠になります。
「年調未済」と表示されたときの対応
年末調整をしていない場合、源泉徴収票に「年調未済」と記載されることがあります。これは勤務先が年末調整を行っていないという意味です。この場合は翌年の確定申告で精算する必要が生じることがあります。まず源泉徴収票を受け取り、内容を確認してください。
受け取り時の確認ポイント
受け取ったら次を確認します。氏名・金額に誤りがないか、支払者情報が記載されているか、「年調未済」の有無です。誤りがあれば支払者に訂正を依頼しましょう。
確定申告での使い方
確定申告時に源泉徴収票を添付または提示して、年間の所得と既に納めた税額を申告します。源泉徴収票は税金の算出と還付請求の重要な書類です。必要に応じてコピーを保管しておいてください。
丙欄・甲欄・乙欄の違いと切り替え
基本の違い
- 甲欄:主たる給与所得者向けで、扶養控除等申告書を提出すると適用されます。年末調整の対象となり、源泉徴収額は比較的軽くなります。
- 乙欄:副業や扶養控除申告を出さない給与に使います。原則としてその支払者では年末調整しません。源泉徴収額は高めに見積もられます。
- 丙欄:日雇いや短期の単発労働向けで、扶養控除申告不要です。年末調整の対象外となる場合が多い扱いです。
切り替えがあった場合の扱い
- 年の途中で丙から甲や乙に変わったら、年間の給与を合算して年末調整や確定申告の必要性を判断します。例:1月〜3月に丙で働き、4月から甲で働いた場合、甲の勤務先で年末調整をする際に前年中の丙での支払額を合算します。
- 前の勤務先からの源泉徴収票を現在の勤務先に提出してください。提出がないと年末調整で控除が反映されず、あとで自分で確定申告が必要になることがあります。
手続きと実務上の注意
- 労働者側は、転職や働き方の変化があれば速やかに申告書や源泉徴収票を提出してください。主たる勤務先には扶養控除等申告書を必ず出します。
- 支払者(雇用主)は、源泉徴収票を正確に発行し、受け取った申告書に基づいて適切な欄で源泉徴収を行います。必要な情報がそろわない場合は労働者へ確認してください。
以上の点を押さえると、切り替えがあった年も税務処理をスムーズに進められます。
確定申告が必要なケース
概要
年末調整が行われていない丙欄適用者は、年間の収入や控除の状況によって確定申告が必要になります。確定申告をすることで過払いの税金が還付されることが多く、申告を検討してください。
還付が期待できる代表例
- 年間収入が103万円以下で源泉徴収されている場合:税額がゼロになるため還付を受けられることが多いです。具体例:年間給与80万円で源泉徴収された場合、申告で戻ります。
- 医療費や社会保険料を多く支払った場合:所得控除で課税所得が下がり還付につながります。
- 複数の短期・日雇いの勤務先があり、各社で源泉徴収を受けている場合:合算すると基礎控除内で税が戻ることがあります。
必要書類と手続きの流れ
- 源泉徴収票(勤務先から受け取る)
- 医療費の領収書、社会保険料の控除証明書など
- マイナンバー確認書類
申告は税務署窓口またはe-Taxで行えます。期限は通常、翌年の3月15日までです。
注意点
- 複数の収入があると追徴される場合があります。納税額を確認してから申告してください。
- 書類不備だと還付が遅れます。原本や証明書は大切に保管してください。
実務担当者が注意すべきポイント
はじめに
短期や日雇いの労働者に対する「丙欄」は年末調整の対象外になる点を、実務担当者が確実に伝え、処理を正しく行う必要があります。以下に具体的な注意点を整理します。
1) 労働者への説明
- 丙欄は年末調整を行わない旨を明確に伝えます。書面やメールでの案内は誤解を防ぎます。
- 支払金額や支払期間の記録方法を簡潔に伝えます(例:日付と金額を控える)。
2) 源泉徴収票作成時のチェックポイント
- 区分(甲・乙・丙)の誤表記を防ぐ。特に年度途中で区分が変わった場合は支払者側で合算して正しい金額を記載します。
- 摘要欄には「丙欄適用」や短期雇用の理由を簡潔に記載すると第三者にも分かりやすくなります。
- 支払金額、源泉徴収税額、支払日を照合して誤りがないか確認します。
3) 年度途中での切替・合算処理
- 同一年に複数の区分がある場合、支払者はそれぞれの支払分を合算して源泉徴収票を作成します。具体例:前半が甲、後半が丙でも年間の支払額と源泉税を合算して記載します。
4) 記録管理と保存期間
- 支払調書や計算根拠は法定保存期間に従って保存します。書類の整理を日常的に行えば年末の作業負担を減らせます。
5) 社内手続きの整備
- 入社時の区分判定フローを明確にし、給与担当者間で共有します。
- ミス防止のためチェックリストを用意すると実務が安定します。
まとめ:短期・日雇い労働者の税務管理のポイント
- 要点の整理
- 丙欄は短期・日雇い労働者向けの源泉徴収区分で、基本的に年末調整の対象になりません。雇用期間が短く、扶養控除等の申告がない場合に適用されます。
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ただし、同一年度内に継続して働き、他の勤務先と合算して年末調整を受ける必要が生じる場合や、扶養申告書を提出した場合は甲欄・乙欄へ切り替わることがあります。
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実務で確認すべき書類・情報
- 源泉徴収票:区分(丙・乙・甲)と支払金額を確認します。
- 雇用期間と勤務実態:短期かどうか、年間の合計労働日数・収入をチェックします。
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扶養控除等申告書の有無:提出があれば区分変更につながります。
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従業員への案内例(簡潔に)
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「今年は短期の勤務なので丙欄で源泉徴収しています。年末調整は原則できませんが、他の勤務先で合算して調整を受けられる場合があります。源泉徴収票は必ず保管してください。」
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実務上の注意点
- 支払側は雇用形態や申告書の提出状況を早めに確認して区分を判断してください。年の途中で状況が変わる場合は源泉徴収票の発行や説明を丁寧に行いましょう。
- 確定申告が必要なケース(複数の勤務先がある、年間の所得が一定額を超える等)は従業員に早めに知らせると親切です。
最後に、書類の確認と従業員への分かりやすい説明を習慣にすると、トラブルを防げます。


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