はじめに
調査の背景
本調査は、源泉徴収票の未提出に関する法的リスクや実務上の影響を分かりやすく整理したものです。源泉徴収票は給与や報酬の税務処理で重要な書類です。未提出がもたらす問題を、企業側・従業員側の両面から丁寧に説明します。
本書の目的
・源泉徴収票の重要性を理解する
・未提出による法的・経済的なリスクを把握する
・問題が生じたときの対応策を知る
対象読者
人事・総務担当者、経理担当者、被雇用者やフリーランスの方など、源泉徴収票に関わるすべての方を想定しています。
読み方の案内
各章で具体例や実務上の注意点を示します。わからない用語は極力避け、必要な場合は具体的な事例で補足します。
源泉徴収票とは何か、そしてなぜ重要なのか
概要
源泉徴収票は、会社が従業員に支払った給与から天引きした所得税の額などを記載した法定書類です。会社は年に一度、従業員に交付し税務署にも報告します。受け取ることが法律で定められた権利であり、確認義務もあります。
主な記載内容（具体例で説明）
- 支払金額：年間の給与総額。たとえば「年収400万円」のように記載されます。
- 源泉徴収税額：会社が差し引いて国に納めた税金の合計。
- 社会保険料や各種控除：医療費控除や扶養控除など年末調整に関わる項目。
なぜ重要か
年末調整や確定申告で税額を確定する際、源泉徴収票が必須の証拠になります。金融機関での手続きや住宅ローンの審査でも提出を求められることがあります。正確な税負担を把握し、過不足を調整するために必要です。
受け取ったら行うこと
まず記載内容を確認してください。金額や氏名、勤務先の名称に誤りがあれば速やかに会社の総務や人事に連絡し、訂正を依頼します。紛失しないよう保管し、年末調整や確定申告の際に提出してください。
企業側が源泉徴収票を発行しない場合の法的罰則
法的根拠と罰則内容
所得税法242条に基づき、企業が源泉徴収票を交付しない場合は刑事罰の対象となります。具体的には1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。源泉徴収票に虚偽の内容を記載して交付した場合も同様の罰則が適用され、重大な違反行為です。
よくある具体例
- 退職した社員に源泉徴収票を発行しない。→発行義務違反に該当します。
- 支払額や控除額を偽って記載して交付する。→虚偽記載で刑事罰の対象になります。
どのような場合に問題になるか
発行を怠る行為は意図的でも単純ミスでも処罰対象になり得ます。税務調査で発覚すると、罰則だけでなく企業の信用失墜や追加的な税務指導を受ける可能性があります。
企業が取るべき対応（予防策）
- 交付期限を明確にして担当者を決め、業務フローを整備します。
- 発行前に金額や氏名などを必ず確認します。実務ではチェックリストを使うと有効です。
- ミスが見つかったら速やかに訂正し、受給者と税務署に連絡します。
- 不明点は顧問税理士や税務署に相談してください。
これらの対策でリスクを大きく減らせます。源泉徴収票は従業員の権利に関わる書類のため、丁寧な対応が重要です。
従業員が源泉徴収票を提出しない場合のリスク
概要
従業員が他社から受け取った源泉徴収票を勤務先に提出しないと、年末調整で正しい税額が算出できません。結果として過度な所得税を納める可能性があります。
主なリスク
- 税負担が増える：控除や合算が行われず、本来より多く税金を取られます。
- 還付が遅れる・手間が増える：過払い分を取り戻すために自ら確定申告する必要が出ます。
- 給与計算の誤り：勤務先の事務作業が増え、訂正や再計算が発生します。
具体例
例えばアルバイトを2か所で掛け持ちしている場合、主たる勤務先にもう一方の源泉徴収票を出さないと年末調整で合算されません。したがって、二つ目の収入分に対して源泉徴収された税がそのまま過大となり得ます。
実務上の負担
提出が遅れると、勤務先は年末調整の期日内に正確な処理ができず、従業員も税務署へ行って手続きを行う時間と手間が増えます。早めの提出を心がけると負担を避けられます。
脱税行為とみなされるケース
意図的な非提出は脱税になる
故意に源泉徴収票の提出や発行を怠る行為は、税務上の申告を免れようとする意思があるとみなされ、脱税として扱われます。単なる書類の不備や手続きの遅れと異なり、隠蔽や虚偽の申告を伴う場合に特に問題になります。
具体例
- 従業員が給料の一部を申告しないよう雇用者に依頼し、源泉徴収票を受け取らない場合
- 企業が支払った報酬の一部を意図的に記載せず、源泉徴収票を発行しない場合
- 金額を改ざんして少なく記載する、あるいは関連帳簿を破棄するケース
これらはいずれも所得を隠す行為に当たります。
想定される罰則
脱税と認定されると、追徴課税（不足分の税＋延滞税や加算税）に加え、刑事罰の対象となることがあります。所得税法では「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が規定されています。脱税の規模や悪質性が大きい場合、より重い刑罰や高額な罰金が科されることがあります。
会社・個人の責任
雇用主は源泉徴収票を正しく発行する義務がありますが、従業員も自己の所得を適正に申告する責任があります。故意の隠蔽があれば、会社の代表者や関係者、申告した当事者それぞれが法的責任を負う可能性があります。
（この章ではまとめは設けません）
税務署による発見と調査の仕組み
照合の流れ
税務署は企業が提出する支払調書や給与支払報告書と、個人の確定申告や年末調整のデータを照合します。企業側の報告と個人の申告に差があれば、自動でフラグが立ち問い合わせや調査の対象になります。
複数収入源のチェック
副業や兼業がある場合、A社・B社からの支払額を合算してチェックします。例えば企業が報告した給与が500万円、本人の申告が300万円といった矛盾があると検出されます。
自動検出システム
電子化されたデータを使い、照合作業はほぼ自動で行われます。手作業での見落としが減り、隠蔽は難しくなりました。
調査に進む基準
差額が大きい、同じデータで複数年の不整合がある、故意と思われる操作がある場合は税務署が聞き取りや税務調査を行います。税務署はまず書面で説明を求め、必要があれば訪問調査に進みます。
会社・個人が取るべき準備
給与明細や源泉徴収票、契約書などの証拠書類を整理しておきます。問い合わせが来たら誠実に対応し、事実関係を早めに示すと誤解を避けやすくなります。
年末調整が行われない場合の影響
概要
年末調整を会社が行わないと、従業員は翌年の確定申告で税金の精算を行う必要があります。年末調整は給与所得者の税金を会社が年内に整理する仕組みで、これがないと個人で手続きを進めることになります。
従業員への具体的影響
- 還付を受けるには確定申告が必要です。年末調整で本来戻るはずの税金は自分で請求します。例：生命保険料控除や配偶者控除の申告漏れがある場合、申告で取り戻せます。
- 会社が源泉徴収票を発行しないと、正確な申告が難しくなります。給与明細や支払記録を保管していないと計算に齟齬が出ます。
税務署からの照会の可能性
税務署は申告内容と税務情報を照合します。不一致があると照会や追加調査を受けやすく、説明を求められます。説明が不十分だと追加納税や延滞税が発生する場合があります。
実務上の注意点（簡単な手順）
- まず会社に源泉徴収票の発行を依頼してください。2. 手元にない場合は給与明細や振込記録を集め、申告書に添付して確定申告を行います。3. 不明点は税務署に相談することをおすすめします。
年末調整がないと手続きが煩雑になり、税務上の確認が増えます。早めの対応で負担を減らしましょう。
企業側の行政指導と罰則の段階性
概要
雇用主は源泉徴収と年末調整の手続きを行う義務があります。手続きの不備が見つかると、税務署は段階的に対応します。ここでは典型的な流れを分かりやすく説明します。
第1段階：口頭・書面による指導
まずは軽い不備として扱い、税務署が口頭や文書で注意し、期限を指定して是正を求めます。例：源泉徴収票を従業員に未交付の場合、交付を促す文書が届きます。
第2段階：改善命令・報告要求
同じ問題が繰り返される、あるいは提出期限を守らないと、正式な改善命令や是正報告の提出を求められます。ここで具体的な改善策や再発防止策の提示を求められることが多いです。
第3段階：罰則の検討・過料請求
指導に従わない、または重大な不備がある場合、所得税法に基づく罰則や過料が検討されます。意図的に手続きを怠ったと判断されれば、行政処分が現実味を帯びます。
第4段階：刑事告発や重い法的措置
悪質で故意の脱税や証拠隠滅がある場合、税務署は刑事手続きに移行することがあります。例えば、虚偽の帳簿作成や重要な提出物の破棄などが該当します。
実務上の注意点
・指導を受けたら速やかに対応し、記録を残してください。
・従業員への説明と再発防止の社内整備を行ってください。
・不明点は税務署に相談すると解決が早くなります。
企業は早めの対応で大きなトラブルを防げます。丁寧に対応することが大切です。
悪質なケースの重罰
法的な罰則（所得税法240条）
源泉徴収した所得税を納めない場合、税法は重い罰則を定めています。故意に納付を免れさせたと認められれば、10年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金が科されることがあります。刑事罰が付くため、企業だけでなく経営者個人も処罰対象になります。
典型的な悪質ケース
- 給与から天引きした税金を私的に流用する
- 納付時期を繰り延べて資金繰りに使う
- 帳簿を改ざんして税務当局の確認を逃れる
これらは意図的な不正として重く扱われます。再発や組織的な隠匿があるとさらに厳罰になります。
企業と経営者への影響
刑事罰に加え、社会的信用の失墜や取引停止、金融機関からの融資引き上げで事業継続が困難になります。役員の刑事責任や罰金は会社財務にも直結し、最悪の場合は倒産の原因になります。
防止と対応のポイント
- 源泉税は速やかに納付する仕組みを作る
- 経理の内部統制と外部監査を強化する
- 問題が発覚したら税務署に相談し、誠実に対応する
早期の是正と協力的な対応が、刑事手続きや処分の軽減につながります。
従業員の立場でできること
不正を疑う場合は証拠を残しつつ、まずは総務や経理に相談してください。改善が見られないなら税務署や労働基準監督署に相談する方法もあります。従業員の安全と権利を守る行動が重要です。
支払調書との関連性と提出期限
支払調書は、報酬や料金、配当などを支払った事実を税務署に報告するための書類です。個人事業主やフリーランス、報酬を受け取る人にとって重要な書類で、源泉徴収票と役割が似ていますが、対象や提出先が異なります。
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何が書かれるか：支払金額や支払先の氏名・住所、源泉徴収した税額などです。たとえば、制作費を支払った会社は、受け取ったフリーランスごとに支払調書を作成します。
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源泉徴収票との違い：源泉徴収票は給与所得者向けが中心ですが、支払調書は外注や報酬など幅広い支払いに使います。両者が重なる場合もありますが、用途で見分けます。
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提出期限：支払調書の提出期限は翌年1月31日です。税務署への提出は期限厳守が求められます。
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罰則：提出を怠ったり虚偽の記載をしたりすると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。企業は作成と提出を確実に行い、受け取る側も内容を確認して保管してください。
実務上の注意点：発行が遅れたら支払者に問い合わせ、記載に誤りがあれば早めに訂正を依頼します。証拠として支払い記録や契約書を保存しておくと安心です。
従業員が取るべき対処法
退職後1か月以上たっても源泉徴収票が届かない場合の具体的な手順を、やさしく段階的に説明します。状況に応じて進めてください。
1. まず会社に確認
電話やメールで人事・経理担当に早めに連絡し、発行の有無や発送時期を確認します。担当者名と日時をメモしてください。
2. 書面で請求（証拠を残す）
口頭で済ませず、メールか書面で発行を求めます。可能なら内容証明郵便を使い、控えを保管してください。文面に「いつまでに送付してほしいか」と理由も書くと良いです。
3. 記録をきちんと残す
やり取りの履歴、返信の有無、郵便の控えなどを保存します。後で税務署や第三者に説明する際の重要な証拠になります。
4. 税務署への届出
それでも届かない場合は、税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出します。届出書には会社名、退職日、会社に発行を求めた経緯を記載します。税務署は会社に発行を促したり調査したりできます。
5. 税務署での相談時の準備物
提出した届出書の控え、会社とのやり取りの記録、身分証明書、離職票や雇用期間がわかる書類を持参してください。税務署は受理後の手続きや、確定申告の方法を教えてくれます。
6. その後の対応（届いた場合・届かない場合）
会社から源泉徴収票が届いたら大切に保管し、確定申告や転職先への提出に使います。届かないまま確定申告をする必要があるときは、税務署に相談して給与額の確認方法や代替書類を案内してもらってください。
7. 相談窓口の活用
長引く場合は、税務署のほかに、労働基準監督署や弁護士、無料の労働相談窓口に相談すると解決が早まることがあります。証拠をそろえて相談してください。
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