はじめに
本書は、源泉徴収票について基礎から実務で役立つポイントまでをわかりやすく解説することを目的としています。給与や報酬を受け取るときに関わる書類の一つである源泉徴収票は、年末調整や確定申告、各種手続きで重要な役割を果たします。日常的に給与を受け取る会社員はもちろん、人事・総務などの実務担当者にも役立つ内容です。
本書で扱うこと
- 源泉徴収票の基本的な意味と仕組み
- 年末調整との関係性
- 源泉徴収票に記載される主要な項目と見方
- 提出や保管が必要な場面、特殊な記載ケース
- 制度の歴史的な背景(簡潔に)
読み方のポイント
具体例を交えて丁寧に説明します。専門用語は最小限にし、実務でよくある疑問に答える形で進めます。初めて源泉徴収票を扱う方でも理解できるように配慮しました。疑問点があれば各章で確認してください。
源泉徴収票とは
定義と目的
源泉徴収票は、企業が従業員に支払った1年間(1月1日~12月31日)の給与や賞与、そこから差し引かれた所得税や各種控除を記載した公的な書類です。従業員の収入と納税の状況を証明する役割を持ちます。
発行者と交付時期
雇用主(会社や事業者)が発行します。通常は年末調整後に翌年1月末ごろまでに交付されます。退職時や給与支払いが終了した場合には、その都度交付されます。
記載内容の概要
主に支給総額、源泉徴収された所得税額、社会保険料や雇用保険の控除額、扶養親族の数などが書かれます。書類の種類は「給与所得」「退職所得」「公的年金等」の3種類があり、日常的に指すのは給与所得の源泉徴収票です。
なぜ重要か
ローン申請や確定申告、住民税の算定などで収入の証明として使えます。記載に誤りがあれば雇用主に訂正を依頼し、必要なら税務署へ相談してください。
保管と再発行
源泉徴収票は税務上重要なので、少なくとも5年間は保管してください。紛失した場合は勤務先に再発行を依頼し、それでも対応が難しいときは税務署へ相談します。
年末調整との関係性
年末調整とは
企業は毎月の給与や賞与から概算で所得税を源泉徴収し、従業員に代わって納めます。年末調整は、この概算(年間の源泉徴収合計)と実際に支払うべき1年分の所得税額を精算する手続きです。企業が従業員ごとに最終的な税額を算出します。
手続きの流れ
- 従業員は年末に扶養控除等申告書や保険料控除の証明書を提出します。具体例:生命保険料の控除証明書など。
- 企業が1年分の給与・控除を元に税額を再計算します。
- 過払いがあれば還付し、不足があれば追加で徴収します(12月の給与で調整するのが一般的です)。
源泉徴収票への反映
年末調整が終わると、企業はその年の確定した税額を源泉徴収票に記載して従業員に交付します。源泉徴収票の「源泉徴収税額」は年末調整後の最終値です。これにより確定申告が不要になる人も多くなります。
具体例
年の途中で転職した人は、最終勤務先で年末調整を受けるか、前職の源泉徴収票を添えて確定申告する必要があります。
源泉徴収票に記載される主要項目
支給額関連
- 支払金額:その年に会社が支払った給与や賞与の合計です。給料だけでなく通勤手当なども含まれます。たとえば月給と賞与を合わせた総額がここに記載されます。
- 給与所得控除後の金額:給与から給与所得控除を差し引いた後の金額で、課税対象となるおおよその所得を示します。簡単に言えば「実質の収入」です。
控除額関連
- 社会保険料の金額:健康保険、厚生年金、雇用保険など従業員が負担した保険料の合計です。年末調整で控除に使われます。
- 生命保険料控除額:生命保険に加入している場合に受けられる控除の額を示します。控除が反映されることで課税所得が低くなります。
- 地震保険料控除額:地震保険に支払った保険料に対する控除額です。
- 扶養控除等の額:扶養家族の人数や条件に応じた控除額が記載されます。扶養が多いほど控除額は増えます。
税額関連
- 源泉徴収税額:年末調整後に確定した所得税と、復興特別所得税(所得税額の2.1%)を合算した金額が示されます。年末調整をしていない場合は、給与から差し引かれた源泉所得税の総額が記載されます。
備考
- 各項目は会社ごとに表示の仕方が少し異なる場合があります。分からない点は人事・総務に確認してください。
源泉徴収票が必要な場面
以下では、源泉徴収票が具体的に必要となる代表的な場面をわかりやすく解説します。
確定申告時
給与以外に副業や一時的な収入がある場合、確定申告に源泉徴収票を添付します。たとえば医療費控除や住宅ローン控除の初年度など、申告書類と一緒に給与の支払額や源泉徴収税額を示す資料として使います。会社から受け取る原本またはコピーを準備してください。
ローン申し込み
住宅ローンや自動車ローンなどの審査で収入を証明する書類として求められます。金融機関によって必要年数は異なりますが、直近1〜2年分の提出を求められることが多いです。審査をスムーズに進めるために、発行日や名称がはっきりしたものを用意しましょう。
転職時
転職先の年末調整で前職の給与情報が必要になる場合に提出します。複数の勤務先がある場合は、それぞれの源泉徴収票を揃える必要があります。前職で受け取っていない、もしくは紛失した場合は前の勤務先に再発行を依頼してください。
各種手続き
社会福祉サービスの申請、保育園入所手続き、奨学金や補助金の申請など、収入の確認が必要な場面で提示を求められます。用途によって原本提示が必要なこともあるため、申請先の指示に従ってください。
発行・保管のポイント
源泉徴収票は年度ごとに発行されます。紛失した場合は発行元(勤務先)へ早めに連絡して再発行を依頼しましょう。重要な公的書類ですので、コピーを保管し、必要なときにすぐ出せる場所に置いておくことをおすすめします。
特別な記載ケース
前職の給与を含めて年末調整した場合
年の途中で転職し、前職分も今の勤務先で年末調整することがあります。その場合、源泉徴収票の摘要欄に前職の住所・名称・退職年月日・前職の給与額・前職の所得税額・前職の社会保険料額が記載されます。具体例:1月から6月までA社、7月からB社で働きB社がA社分を合算して調整する場合、A社の情報が明記されます。
前職の源泉徴収票の提出と確認
企業は正確な計算のため前職の源泉徴収票の提出を求めます。社員は前職の票を必ず提出し、記載漏れや金額の不一致がないか企業側で確認します。これにより過不足の税額を防げます。
年末調整をしていない従業員(「年調未済」)
会社が年末調整を行っていない場合、摘要欄に「年調未済」と記載されることがあります。これはその年の年末調整が未処理であることを示します。該当者は確定申告が必要になる場合があるため、会社からの案内に従ってください。
その他の特別な記載例
退職時の精算や給与の訂正、住宅ローン控除の初年度など、特別な事情があると摘要欄に一言付記されることがあります。記載内容に疑問があれば総務や税務担当へ相談してください。
歴史的背景
制度導入の背景(昭和15年)
昭和15年の税制改正で、所得税の源泉徴収制度が導入されました。当時は納税の手続きが個別かつ煩雑で、徴税の確実性を高める必要がありました。給与などから税を差し引く仕組みにすることで、納税を簡易にし、納税者の把握と税収の安定化を図りました。具体例としては、雇い主が毎月給与から所得税を差し引くことで、個人が毎年全額を納める負担を軽くしました。
戦後の変化と年末調整の採用
戦後の税制改革では、国民全員が確定申告を行うと大きな負担になることが問題視されました。そこで、給与所得者については雇用者が年末に一年分の税額を精算する「年末調整」を採用しました。年末調整により、扶養控除や保険料控除などを反映した最終的な税額を確定し、過不足を調整します。これにより、給与所得者の確定申告の必要が大幅に軽減されました。
現代への展開
その後、源泉徴収と年末調整は制度として定着し、雇用主が税務上の重要な役割を担う仕組みになりました。対象範囲や控除項目の見直し、事務手続きの簡素化が進み、例として賞与(ボーナス)からの源泉徴収の扱いや、年末調整での控除適用方法が整理されています。今日では、源泉徴収票の交付や年末調整の実務が、給与支払と税務処理の両面で欠かせない手続きとなっています。


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