はじめに
本書の目的
本書は、辞表・退職届・退職願の違いと使い方をわかりやすく整理することを目的としています。退職時に必要な意思表示の種類や書き方、提出のタイミングやマナーを実務的に解説します。専門的な言葉は最小限に抑え、具体例を交えて説明します。
対象読者
- 転職や退職を考えている一般社員
- 役員や管理職で辞任を検討している方
- 人事担当者や上司で手続きに不安がある方
本書で学べること
- 辞表・退職届・退職願それぞれの意味と特色
- どの立場・場面でどれを使うかの判断基準
- 書き方のポイントと提出時のマナー
- 実務上よくあるトラブル例と対処法
ご利用上の注意
会社の就業規則や雇用契約が優先されます。本書は一般的な解説ですので、個別の法的判断が必要な場合は専門家へご相談ください。
以降の章で、各書類の定義・特徴・実例を順に詳しく解説していきます。
辞表・退職届・退職願は何が違う?まずは結論から
要点(結論)
退職時に使う書類は主に3種類です。退職願は会社に「お願い」する文書、退職届は会社に「通知」する文書、辞表は役員や公務員が使う正式な辞任表明です。性質(お願いか通知か)、出す人の立場(一般社員か役員・公務員か)、提出のタイミング(合意前か合意後か)で使い分けます。
短い比較(イメージ)
- 退職願:相談のために出す。例)「退職を認めてください」
- 退職届:決定を伝えるために出す。例)「○月○日付で退職します」
- 辞表:取締役や公務員が職を辞する際に使う正式書類。
実務上の流れ例
一般社員はまず退職願で上司に相談し、会社と合意したら退職届を提出する流れが多いです。一方、役員や公務員は辞表で手続きを行います。
注意点
退職日や署名・日付、引き継ぎについて明確に書いてください。就業規則や労働契約で提出方法や期限が定められていることがあるので確認しましょう。
「退職願」とは?意味・特徴・使う場面
意味
退職願は「退職したいのでどうか認めてください」と会社にお願いする書類です。まだ退職が確定していない段階で提出し、会社と話し合いを始めるきっかけになります。
特徴
- 「お願い」の形で書くため表現が柔らかいです。礼儀を重んじる場面で適します。
- 会社が承諾する前であれば撤回できるのが一般的です。つまり一方的な効力は弱めです。
- 一般社員も管理職も使えますが、役職や社内慣習に応じて書き方や提出先を調整してください。
使う場面(具体例)
- まだ引継ぎや退職日調整が終わっていないときに提出し、上司と相談したい場合
- 家庭の事情や健康上の理由で退職を考えており、まずは了解を得たいとき
- 転職先との日程調整中で、確定前に上司へ意向を示すとき
書き方のポイント
- 宛先(社長や部署長)、日付、氏名、退職希望日、簡単な理由を記載します。
- 先に口頭で相談しておくとトラブルを避けやすいです。
退職願はあくまで「話し合いの出発点」です。円満に退職するための礼儀として活用してください。
「退職届」とは?意味・特徴・使う場面
意味
退職届は「退職します」という意思を会社に正式に届ける書類です。通常、退職の条件(退職日や引継ぎ方法など)が会社側と合意済みの状態で提出します。提出・受理後は原則として撤回できません。
特徴
- 決定的な表現を使い、効力が強い書類です。雇用契約の終了を行うための正式な通知になります。
- 一般従業員が用いる標準的な形式で、会社に提出して受理されることで手続きが進みます。
- 書式は会社ごとに指定があることが多いですが、シンプルな文面でも問題ありません(氏名・退職日・捺印など)。
使う場面
- 上司や人事と退職日や引継ぎ内容を確認し、条件が確定したときに提出します。
- 退職願で承諾を得た後、正式な手続きとして提出するケースが一般的です。
- 会社側にすでに承認を得ているため、手続きの開始を明確にしたいときに使います。
提出時の注意点
- 受理されると撤回は原則できないため、提出前に必ず条件を確認してください。
- 口頭での合意だけでなく、メールや書面での確認を残すと安心です。
- 管理職や役員は辞表を使う場合があり、扱いが異なることに留意してください。
「辞表」とは?意味・特徴・使う場面
意味
辞表は、社長・取締役・役員、公務員などがその役職や地位を辞する意思を正式に伝える書類です。一般社員の退職手続きで使う「退職届」や「退職願」とは目的が異なります。役職そのものを辞める点に重点があります。
主な特徴
- 宛先は会社の最高経営層や取締役会、あるいは任命権者などです。
- 形式は非常に改まっており、署名・押印・提出日を明記します。
- 役員の場合は、辞表の提出だけで効力が発生せず、取締役会の承認や株主総会の手続きが必要になることがあります。
使う場面(具体例)
- 代表取締役が辞任する際に提出する。
- 取締役や執行役員が職務を辞する意思を示すとき。
- 公務員が上級職を辞する場合にも用いられます。
書き方のポイント
- 題名に「辞表」と明記する。
- 宛先(○○取締役会御中など)と氏名、提出日、辞する役職と辞意の簡潔な文言を入れる。
- 引継ぎや退任日を明示すると手続きが進めやすくなります。
提出後の扱いと注意点
- 法的効果は役職や会社の規程によって異なります。提出=即時辞任とは限りません。
- 経営上の影響が大きいため、事前に関係者と調整しておくことをおすすめします。
例文(簡潔)
拝啓 私事により、令和○年○月○日をもって代表取締役を辞表いたします。令和○年○月○日 氏名
以上を踏まえ、辞表は「役職を辞するための正式な申述書」です。一般社員は原則使わず、提出後の手続きや承認関係を確認して進めてください。
「辞職」と「退職」の違いと、辞表・退職届の関係
意味の違い
辞職は「特定の地位や役職をやめること」を指します。退職は「会社や職場から離れること」を意味します。つまり、辞職は役職に対する行為で、退職は雇用関係そのものに対する行為です。
文書(辞表・退職届)の関係
- 辞表:役職者(課長・部長・役員など)が役職を辞めるときに提出する文書です。役職辞任の理由や意向を書き、通常は上司や会社の代表に提出します。
- 退職届:会社を辞める意思を正式に示す文書です。一般社員が退職する際に使うのが一般的です。
具体例で分かりやすく
- 部長が「役職を降り、会社も辞める」場合は辞表を出し、その後退職届を出すことがあります。
- 一般社員が転職で会社を辞める場合は退職届を出します。
手続き上のポイント
- 提出先は会社の慣習に従ってください。上司・人事・代表の誰に出すか事前に確認します。
- 効力発生日は会社と話し合って決めるのが普通です。双方で合意を得ることをおすすめします。
注意点
- 書面は礼儀正しく簡潔に書き、控えを残してください。トラブルを避けるため、人事と記録を合わせておくと安心です。
辞表・退職届・退職願の「違い」を一覧で比較
比較表(簡潔)
| 項目 | 退職願 | 退職届 | 辞表 |
|---|---|---|---|
| 意味・目的 | 退職の「お願い」や相談。合意前の申請 | 退職の「確定通知」。会社に退職を伝える文書 | 役職(社長、取締役、公務員など)からの辞任表明 |
| 効力・撤回 | 基本的に撤回しやすい(承諾前) | 受理後は原則撤回不可 | 重要な地位の辞任を示す。撤回は難しい場合が多い |
| 主な提出者 | 一般社員 | 一般社員 | 役員や公務員、上級職の人 |
| 提出先 | 人事・上司(相談の段階) | 人事・総務(正式な届出) | 会社の代表者(社長など)や人事 |
| 書式 | 自由だが丁寧に書く | 署名押印を求められることが多い | 署名押印、場合によっては取締役会の手続きが必要 |
| タイミング・例 | 退職意思を伝えたい時の相談 | 退職日を確定して届け出る時 | 代表職や役職を辞する場合に提出 |
| 注意点 | 口頭で相談してから書面にするのが安全 | 会社で受理の手続きが完了すると法的に扱われることがある | 就業規則や法的手続きを確認することが重要 |
具体例でイメージ
- 退職願:上司にまず相談し、正式な承諾を待ちながら提出します。
- 退職届:退職日が決まり、会社に正式に通知します。受理後は撤回が難しいです。
- 辞表:取締役や班長以上の役職を辞めるときに提出します。場合によっては株主総会や取締役会の承認が要ります。
書くときのポイント
- 日付・署名は必ず記入してください。簡単な礼儀と記録のためです。
- まずは口頭で相談することで誤解を防げます。
以上を見比べて、自分の立場と目的に合った書類を選んでください。


コメント