はじめに
本書の目的
この章では、パートタイムで働く方が源泉徴収票について正しく理解できるよう、全体の案内をします。もらい方、見方、注意点まで順を追って説明しますので、給与や税金の手続きで困らないようにします。
対象読者
パートやアルバイトで働いている方、初めて税金周りの書類に触れる方、転職や年末調整で不安のある方に向けています。専門用語は少なめにし、具体例で補足します。
本書の構成(簡単な案内)
第2章以降で、源泉徴収票の受け取り方、主要な記載項目、必要となる場面、パート特有の注意点、発行されない場合の対処法、よくある疑問とその回答を順に解説します。気になる章をすぐ参照できるよう配慮しています。
パートでも源泉徴収票は必ずもらえる
基本の考え方
源泉徴収票は雇用形態にかかわらず、その年に給与の支払いがあった人に対して勤務先が発行する書類です。パートやアルバイトでも例外はありません。会社には発行の義務があり、受け取る権利があります。
発行の時期と流れ
一般的に年末調整を終えた後に発行され、1月末までに手渡されることが多いです。年末調整がない場合でも、その年に支払われた給与分については源泉徴収票が作られます。退職した場合は退職時に発行されることが一般的です。
複数の勤務先がある場合
年の途中で転職したり、掛け持ちしている場合は、それぞれの勤務先がその年に支払った給与分について源泉徴収票を発行します。確定申告や年末調整の際は、全ての源泉徴収票を揃えることが大切です。
具体例でイメージ
・1月から12月まで同じパート先で働いた場合:その会社から1枚の源泉徴収票が届きます。
・6月に退職した場合:退職時にその年の分の源泉徴収票を受け取ります。
・別の店で掛け持ちしている場合:双方から源泉徴収票を受け取ります。
もらえない場合は?
書類が届かないときは、まず勤務先に確認してください。発行漏れや送付ミスがあることもあります。再発行の手続きや対処法については第6章で詳しく説明します。
源泉徴収票の主な記載項目と見方
支払金額
支払金額はその年に支払われた給与の総額です。パートの年収に相当し、収入の壁(例:103万円、130万円など)を判断するときの基準になります。複数の職場がある場合は合算します。
給与所得控除後の金額
支払金額から給与所得控除を差し引いた金額です。課税対象の元になる額で、実際に税額を計算する際の基礎となります。控除額は年収に応じて決まります。
所得控除の額の合計額
ここには基礎控除、配偶者控除、社会保険料控除などが合計されます。たとえば社会保険料を支払っていればその分が控除され、課税額が下がります。
源泉徴収税額
1年間に天引きされた所得税の合計です。年末調整で還付が出ることや、確定申告で追加徴収されることがあります。源泉徴収税額だけで税の過不足は確定しない点に注意してください。
見方のポイント
- 収入の壁を確認する際は「支払金額」を基準にします。\n- 税金の還付可能性を知りたいときは「源泉徴収税額」と年末調整の結果を比べます。\n- 正確な課税所得を出すには「給与所得控除後の金額」から「所得控除の額の合計額」を引く必要があります。\n- 複数の勤務先や年の途中で退職・入社がある場合は合算や別途手続きが必要です。
源泉徴収票が必要になるケース
概要
パートで働く人が源泉徴収票を求められる主な場面を分かりやすく説明します。手続きや提出先ごとに、どのように使うかを具体例で示します。
確定申告が必要なとき
- 複数の勤務先があり合算して申告する場合:各社の源泉徴収票が必要です。
- 扶養控除等申告書を提出していない・誤っている:年末調整を受けていなければ自分で申告します。
- 年末調整を受けていない臨時収入がある場合:副収入分も含めて申告します。
転職・退職時の提出
- 転職先へ前職の源泉徴収票を提出することがあります。年の途中で転職したとき、所得を正しく把握するためです。
- 退職時に退職金や最終給与の確認用として求められることがあります。
各種手続きでの利用例
- 保育園・幼稚園の入園申込:収入証明として提出を求められます。
- 住宅ローン審査:収入を証明する書類として使われます。
- 扶養申請や市役所の各種給付申請:所得の確認に使います。
複数勤務先がある場合の注意
それぞれの勤務先から必ず受け取ってください。1社分だけでは正しい合算ができません。
受け取り時期と保管
年明けから順次交付されます。紛失すると再発行が必要になるので、大切に保管してください。
チェックリスト(簡単)
- 年度ごとに1枚ずつ受け取っているか
- 転職時に前職分を提出したか
- 保育園やローンなど手続きで提出が必要か確認したか
必要な場面を把握して、早めに準備しておくと安心です。
パート特有の注意点・収入の壁
- 概要
パート勤務では「壁」と呼ばれる年収ラインで税金や社会保険の扱いが変わります。特に意識すべきは年収103万円と130万円です。源泉徴収票の支払金額(年間の給与の目安)を確認して、どの壁にかかるかを判断します。
- 103万円の壁(所得税)
年収が103万円以下なら所得税がかからないと考えられます。源泉徴収票で支払金額が103万円を超えると、所得税の対象になる場合があるため、年末調整や確定申告で税金が発生する可能性を意識してください。
- 130万円の壁(社会保険・扶養)
年収が130万円を超えると配偶者の健康保険や年金の扶養から外れることが多く、自分で社会保険(健康保険・厚生年金)に加入し、保険料を負担する必要が出ます。保険料と所得税の両方で負担が増える点に注意してください。
- 複数の職場や年の途中で越える場合
複数で働くと合算されます。途中で収入が増えて壁を越えると、年末調整で過不足が生じたり、社会保険の加入判定が変わったりします。支払金額を定期的に確認し、変化があれば勤務先に相談しましょう。
- 実務的な対策例
1) 月ごとの勤務時間を調整して年収が壁を越えないようにする。 2) 増収が見込まれる月は事前に勤務先に相談し、年末調整や保険手続きの扱いを確認する。 3) 複数勤務の合算や賞与の有無を考慮して、源泉徴収票の支払金額を基準に計画を立てる。
具体例:時給1,000円で月85時間働くと年間約102万円。少し時間を増やすと103万円を超え、税の対象になる可能性があります。源泉徴収票を年内に確認して対策すると安心です。
発行されない場合の対処法・再発行依頼方法
概要
源泉徴収票は勤務先が発行する書類です。届かない・紛失した場合は、まず勤務先の人事・総務に再発行を依頼します。会社が応じない、あるいは倒産している場合は税務署などに相談できます。
再発行の手順(実務的な流れ)
- 発行が遅れているか確認
- 給与明細や年末調整の案内を確認し、発行時期(通常は年明け)を確認します。
- 担当者に連絡
- 人事・総務へ氏名・社員番号・発行年・紛失した旨を伝えます。メールや文書で残すと安心です。
- 必要情報を準備
- 氏名、生年月日、勤務期間、振込履歴や給与明細など代替資料を用意すると手続きが早まります。
- 再発行の受け取り
- 発行方法(郵送・手渡し・PDF)と受取予定日を確認してください。
会社が対応しない・倒産した場合
- まずは破産管財人や会社の代表者に連絡します。
- それでも取得できないときは税務署に相談してください。税務署は給与所得の証明方法や申告の助言をしてくれます。
- 振込記録や給与明細、雇用契約書は代替資料として使えます。
連絡例(簡単なメール文)
件名:源泉徴収票再発行のお願い(氏名)
本文:
お世話になります。○○(氏名)です。×年分の源泉徴収票を紛失しました。再発行をお願いできますでしょうか。社員番号:△△、勤務期間:□□□□です。可能な手続きと受取方法を教えてください。よろしくお願いいたします。
よくある疑問Q&A
Q1: パートでも源泉徴収票は必ずもらえますか?
A: はい。雇用形態に関係なく、給与や報酬がある場合は原則として発行されます。受け取ったら金額や差引税額を確認してください。例:年間働いた会社が1社でも発行されます。
Q2: 副業や掛け持ちをしているときはどうなりますか?
A: 勤務先ごとに源泉徴収票が発行されます。年末にそれぞれを合算して確定申告するか、勤務先の年末調整で処理されるか確認しましょう。例:A社とB社で働く場合、両方から受け取ります。
Q3: 源泉徴収票が手元にあると何に使えますか?
A: 所得証明、確定申告書作成、年末調整の資料、住宅ローンなどの審査書類に使えます。必要に応じてコピーを取って保管してください。
Q4: 受け取り時期はいつですか?
A: 多くの会社は翌年の1〜2月に配布します。退職時はその時点で発行されることが多いです。早めに職場に確認しましょう。
Q5: 源泉徴収票をなくした場合は?
A: 勤務先に再発行を依頼してください。会社は再発行に対応しますので、遠慮なく頼みましょう。
Q6: 給与から税金が引かれていない場合ももらえますか?
A: はい。税額がゼロでも所得の証明として源泉徴収票が発行されます。
Q7: 確定申告は必要ですか?
A: 勤務先がすべて年末調整を行っていれば不要なことが多いです。ただし、掛け持ちや副収入がある場合、または控除の申告がある場合は自分で申告が必要になります。まずは源泉徴収票を見て判断しましょう。
まとめ・パートの源泉徴収票の活用ポイント
大切な前提
パートでも必ず源泉徴収票を受け取れます。受け取ったらまず「支払金額」「源泉徴収税額」「社会保険料等の控除」などを確認してください。
日常でできること(チェックリスト)
- 支払金額:働いた総額が合っているか確認します。勤怠記録と照らし合わせると見落としが減ります。
- 源泉徴収税額:差し引かれている税金額を確認します。年末調整や確定申告で重要です。
- 控除項目:扶養や社会保険の記載が正しいか確認します。
具体的な活用場面
- 年末調整:勤務先で年末調整を受ける際に提出します。
- 確定申告:副収入がある・医療費控除を受けるときに必要です。
- 各種手続き:住民税や助成金の申請で収入証明として使えます。
保管と再発行への備え
1年ごとは大切に保管してください。紛失したら勤務先に再発行を依頼しましょう。再発行が遅れると申告に間に合わない恐れがあります。
収入の壁に注意
年間の収入が一定額を超えると、扶養や保険の取り扱いが変わります。働き方や収入見込みを把握して、必要なら勤務先や税務署に相談してください。
日々の給与明細と源泉徴収票を照らし合わせる習慣をつけると、税金や手続きで慌てずに済みます。大切に保管し、必要な場面で活用してください。


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