はじめに
概要
本資料は、離職票に記載される日数の計算方法と記載ルールをわかりやすくまとめた実務ガイドです。離職票では「賃金支払基礎日数」と「基礎日数」という異なる日数項目が用いられます。本書はそれぞれの定義・計算方法、給与体系による違い、失業手当の受給要件との関係、端数処理など実務でよく直面する点を網羅します。
読者対象
本書は企業の人事・給与担当者向けに作成しました。初めて離職票を作成する方から、日数計算で迷う経験者まで役立つ内容です。労務管理の基礎知識があれば理解しやすくしています。
本書の使い方
各章は独立して参照できますが、初めは第2章〜第4章を順に読むと基本がつかめます。具体例や計算例は第7章にまとめていますので、実務での適用時に参照してください。
本書の目的と注意点
正確な日数記載は失業手当や雇用保険の手続きに直結します。本書は実務上のポイントを示しますが、個別の判断が必要な場合は、管轄のハローワークや社会保険労務士に確認してください。
離職票に記載される日数の基本概念
概要
離職票(離職証明書)には、9欄「賃金支払基礎日数」と11欄「基礎日数」という二つの日数が記載されます。名前は似ていますが、計算に使う期間や意味が異なります。
賃金支払基礎日数とは
賃金支払基礎日数は、離職前の賃金を日割りで算出するために使う“賃金が支払われた日数”です。給与の支払形態や締め・支払日によって変わります。例えば、月給制で月末締め・当月支払いなら1か月分を30日や31日で計算することが多く、日雇いや日給者は実際に支給された日数がそのまま反映されます。
基礎日数とは
基礎日数は、主に失業給付の給付日数や加入期間の判定に用いる“基準となる日数”です。被保険者期間や雇用保険の算定ルールに基づき、賃金支払基礎日数とは別の期間や扱いでカウントされることがあります。
両者が異なる主な理由
- 給与の締め・支払タイミング:給料の反映期間がずれると賃金支払基礎日数に影響します。
- 支給の有無:休業や欠勤で賃金が支払われなかった日があると差が生じます。
- 労働形態:日給・時給・月給で取り扱いが変わります。
確認方法と注意点
離職票の数字は賃金台帳や出勤記録から算出されます。疑問があれば会社の総務やハローワークに確認してください。どちらの日数も失業給付の額や期間に影響するため、早めに確認することをおすすめします。
被保険者期間と賃金支払基礎日数の関係
概要
被保険者期間は、離職日から1か月ごとに区切った期間で、各月の賃金支払の基礎となる日数(賃金支払基礎日数)を基に数えます。1か月内に基礎日数が11日以上ある月を「算定対象月」とし、その数を合計して被保険者期間を判定します。基本手当の受給には原則として12か月以上の被保険者期間が必要です。
基本ルール
- 離職日を起点に1か月ごとにさかのぼって月を区切ります。
- 各月における賃金支払基礎日数が11日以上なら、その月を1か月分としてカウントします。
具体例
- 例1:毎月ほぼフルタイムで働き、各月の基礎日数が20日なら、連続した12か月で被保険者期間は12か月になります。
- 例2:入社初月に10日しか働かなかった場合、その月はカウントされません。次の月から11日以上あればカウントします。
注意点
賃金支払基礎日数の数え方は給与体系や休暇の扱いで変わることがあります。自己判断せず、賃金台帳や会社の総務に確認してください。
チェックポイント
- 離職日を基準に月区切りを確認する
- 各月の賃金支払基礎日数が11日以上かを確認する
- 不明点は賃金台帳やハローワークで相談する
離職票作成時の日数記載ルール
記載の基本ルール
離職票には「実際に賃金が支払われた日数」を記載します。完全な月でない場合や20日未満であっても、そのまま記載して差し支えありません。給与計算の実態を正確に反映させることが目的です。
よくあるケースと記載方法
- 月給制で欠勤がある場合:会社がその欠勤を減額しているなら、減額後に支払われた日数を記載します。有給扱いで全額支給なら、その月は満たされた日数を記載します。
- 日給・時給の場合:実際に支払った日数(出勤日数)をそのまま記載します。例:10日分支払ったら「10日」。
- 無給休職や無給の欠勤:賃金が支払われていなければ支払日数は「0日」と記載します。部分的に支払われた場合は支払われた日数のみ記載します。
- 退職月・中途退職:退職月は最終的に支払われた賃金の日数を記載します。後で精算が入り別途支払いがある場合は、実際に支払われた日時点の記録に基づきます。
実務上の注意点
- 賃金台帳や給与明細と照合して記載してください。記録があれば後で確認を求められたときに説明が楽になります。
- 給与体系によって見え方が異なるため、給与担当者は計算根拠を明確に残してください。
不明点があれば人事・給与担当に確認し、賃金支払の実態に沿って正確に記載してください。
給与体系による日数計算の違い
概要
給与体系によって賃金支払基礎日数の数え方が変わります。まずは各体系ごとの基本ルールを分かりやすく示します。就業規則や賃金規程で定めている取り扱いが優先されます。
日給月給制(デイワージ)
日給月給制では「実労働日数」をそのまま賃金支払基礎日数とします。つまり、就業日ごとに支払われる日数を数え、欠勤日があればその分を差し引きます。
例:所定労働日数20日の月に、欠勤3日→賃金支払基礎日数=17日。
月給制(固定給)の扱い
月給制でも企業によって扱いが分かれます。就業規則で欠勤が発生した場合に日割りで控除する規程があれば、所定日数から欠勤日数を差し引きます。規程で「全額支給」と定める場合は、所定日数そのままとなります。
時給・パートの場合
時給制では原則として「実労働時間」を基に日数換算します。日単位での集計を行うことが多く、1日の所定労働時間(例:8時間)で割って日数に換算します。
例:月80時間勤務、1日8時間換算→80÷8=10日。
具体的判断のポイント
- まず就業規則・賃金規程を確認してください。
- 欠勤控除の有無と計算方法(時間換算か日割りか)を確認します。
- 会社の例外規定(有給扱い・全額支給など)があればそれに従います。
注意点
使用者側の規定で扱いが異なるため、経理・人事と連携して正確に算出してください。
失業手当受給と日数の関連性
日数要件の概要
基本手当(失業手当)は、離職前の賃金を基に金額を計算します。計算に使う賃金は、原則として「賃金支払基礎日数」が11日以上ある直近6ヵ月間の賃金額を基にします。給付を受けるには、この日数要件を満たす必要があります。
賃金支払基礎日数とは
賃金支払基礎日数は、給与がどの範囲の労働日数に対応しているかを表します。月ごとの出勤日数や欠勤、休暇などにより変わります。例えば、月の半分だけしか支払対象がなければ支払基礎日数は少なくなります。
給付額と日数の関係
賃金支払基礎日数が11日未満の月は、基本手当の計算に含められない可能性があります。したがって、給与が不規則だったり短時間勤務が多い場合、給付額や受給資格に影響します。月ごとの賃金が計算対象から外れると、平均賃金が下がり、結果として基本手当が少なくなることがあります。
確認と対応ポイント
- 離職票の支払基礎日数欄を必ず確認してください。\n- 賃金台帳や給与明細で、各月の支払基礎日数と賃金額を照合してください。\n- 不明な点はハローワークで確認すると安心です。必要なら事業主へ訂正を依頼できます。
簡単なイメージ例
直近6ヵ月のうち、支払基礎日数が11日以上の月が4月分しかない場合、計算に使える月が不足し、給付額や受給可否に影響します。逆に毎月基準を満たしていれば、直近6ヵ月の賃金で適切に算定されます。
不明点があればハローワークへ相談してください。
具体的な計算例
前提条件
- 賃金締日:毎月20日
- 支払日:当月28日
- 退職日:令和7年9月30日
- 欠勤:9月26日〜9月30日(5日間)
計算の考え方
賃金締日が20日の場合、支払対象の期間は毎月21日〜翌月20日で区切られます。したがって9月の区切りは「8月21日〜9月20日」と「9月21日〜10月20日」です。退職日は9月30日なので、最終の在籍期間は9月21日〜9月30日(10日間)になります。
計算例の内訳
- 8月21日〜9月20日:通常どおり勤務しているため、賃金支払基礎日数は20日と数えます。
- 9月21日〜9月30日:在籍日数は10日ですが、9月26日〜30日の欠勤5日間があるため、実際の基礎日数は10日−5日=5日となります。
確認ポイント(注意点)
- 欠勤が有給扱いか無給扱いかで基礎日数の扱いが変わります。有給なら基礎日数に含まれます。無給なら除外されます。
- 会社の給与規定や就業規則で日数の取り扱いが異なる場合がありますので、最終的には賃金台帳や就業規則で確認してください。
離職票申請に必要な賃金台帳
提出が求められる賃金台帳
離職票を申請する際は、離職日から遡って「11日以上出勤した月」を対象に、6か月分の賃金台帳を提出します。これは離職証明書の賃金・出勤実績を裏付けるためです。月ごとの労働日数が11日未満の月は原則カウントしませんので、条件を満たす6か月を遡って探します。
記載すべき主な項目
- 被保険者氏名・雇用形態
- 支払年月日と支給額(基本給・各種手当)
- 控除額(社会保険料・源泉徴収など)
- その月の出勤日数・労働時間
これらが正確でないと離職票の賃金算定に影響します。
用意の手順
- 離職日を基準に該当月を確認します。2. 各月の賃金台帳を抜き出します。3. 合計額や日数に誤りがないか照合します。4. コピーを取り、原本は会社で保管します。
よくある注意点
- 欄の空白や合計の不一致を避けてください。- 休業や長期欠勤がある月は日数が11日未満になりやすいので注意します。- ハローワークの求めに応じて追加資料を求められることがあります。
具体例
離職日が8月20日で、8月〜3月のうち出勤日が11日以上の月が6か月分あれば、その6か月の台帳を提出します。足りない場合はさらに遡って補います。
端数処理と月割りの考慮
月割りの基本
複数月分の手当(例:6ヶ月分の定期代)は、合計額を対象月数で割り、各月に均等配分します。割り切れないときの端数は処理ルールを決めておくと安心です。
端数の処理方法(具体例)
- 例:6ヶ月定期代36,005円 → 36,005÷6=6,000余り5円。
- 実務では各月6,000円を計上し、残りの5円を最終月にまとめて加算します。これが一般的な扱いです。
複数の手当がある場合の注意点
各手当ごとに月割りし、それぞれの端数を最終月に繰り入れるのがわかりやすいです。まとめて丸めると説明が難しくなるため、項目別に処理すると賃金台帳と照合しやすくなります。
離職時の考慮点と実務のコツ
離職日が途中の月は、当該月へ按分した額を記載します。計算ルールは就業規則や賃金台帳に明記し、従業員と共有してください。記録を残すと後の照会で説明が楽になります。


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