はじめに
退職を申し出たのに会社が受け入れてくれない――そんな不安を抱える方は少なくありません。本書は、退職の意思が尊重されない場合にどう対処すべきかを分かりやすくまとめています。
背景
退職は労働者の重要な権利です。多くの場合、退職の手続きは書面や口頭で行われ、事実上成立しますが、引き継ぎや就業規則を理由に会社側が応じないことがあります。例えば「人手が足りない」「後任が見つからない」などの主張です。
目的
この章では、本調査の目的と全体の流れを示します。以降の章で、会社との話し合い方、証拠の残し方、労働基準監督署への相談方法、署で期待できる対応、その他利用できる相談窓口を順を追って解説します。
本書の構成
第2章:退職させてくれない場合の具体的対処法
第3章:労働基準監督署への相談について
第4章:労働基準監督署での解決方法
第5章:その他の相談窓口(弁護士、労働組合、無料相談など)
まずは落ち着いて、事実を記録することから始めましょう。
退職させてくれない場合の対処方法
退職の権利(民法627条)
労働者は民法627条により、原則として2週間の予告で退職できます。会社が「退職を認めない」と言っても、これを一方的に阻止することはできません。就業規則で長い予告期間を定めても、極端に自由を奪う内容は無効となることがあります。
段階的な対処法
- 直属の上司にまず相談
- 口頭で伝え、退職理由と希望日を明確にします。引き継ぎ案を示すと話し合いがスムーズになります。
- 人事・労務部門へ相談
- 書面(退職届)を渡して受領の確認を求めます。就業規則や労働契約書の写しを確認しましょう。
- 内容証明郵便で再提出
- 会社が口頭で拒否する場合、内容証明で退職意思と希望日を書面で送ります。これは証拠になります。
- 労働基準監督署へ相談
- 会社が不当な拘束や嫌がらせを続ける場合は相談してください。監督署は助言や調査を行います。
証拠の保存と注意点
メールややり取りの記録、退職届のコピー、面談の日時と要点を控えておきましょう。極端な拘束や暴力があれば、警察にも連絡してください。
労働基準監督署への相談について
概要
労働基準監督署(労基署)は、労働者の権利を守るために企業に対する指導や調査を行う行政機関です。違法な退職拒否や解雇の問題について調査し、必要に応じて事業所に改善を求める権限を持っています。相談は原則無料で、匿名でも受け付けてもらえます。
相談方法
- 電話相談:まずは最寄りの労基署に電話して状況を伝えます。簡単な説明で初動対応が得られます。
- メール・FAX:文書で整理して送ると事実関係が伝わりやすいです。
- 来署(対面):最も詳しくやり取りでき、現場に動いてもらいやすい方法です。実際の調査につながる確率が上がります。
来署の利点と注意点
来署すると、担当者と直接やり取りでき、証拠をその場で提示できます。相談は無料ですが、詳しい調査や是正指導には申告者の氏名や連絡先が必要になる場合があります。匿名相談は受け付けますが、調査の範囲に限りが出ることがあります。
相談前に準備するもの(チェックリスト)
- 入社日・退職希望日・退職の経緯を時系列でまとめたメモ
- 上司や人事とのやり取り(メール、メッセージ、書面)のコピー
- 就業規則や雇用契約書、給与明細などの書類
- 出勤記録やタイムカード、業務日誌
- 証人になれる同僚がいれば連絡先
相談時の伝え方と期待できる対応
相談は事実を中心に、時系列で冷静に伝えると理解してもらいやすいです。期待できる対応例としては、事業所への指導・調査の実施、是正勧告、必要に応じて関係機関への連携や法的措置の検討があります。担当者は対応の見通しや次の手順を教えてくれるので、不明点は遠慮なく確認してください。
労働基準監督署での解決方法
まずは相談を受け付けます
労働基準監督署に電話か窓口で相談します。受付の担当者が事実を聞き、必要な書類や次の手続きを案内します。個別の事情に応じて受理するかどうか判断します。
助言・指導と調査
違法性が疑われる場合、署はまず事業主に助言や指導を行います。必要があれば現場調査や書類調査で事実確認をします。改善を求める「是正勧告」が出ることがあります。法令違反が明らかであれば、検察へ送検する可能性もあります。
あっせん(紛争調整)について
紛争調整委員会によるあっせんでは、第三者が間に入り話し合いを進めます。あっせんは当事者双方の合意で解決を目指す手続きで、法的に強制する力はありませんが、解決に至ることが多いです。
用意する書類・証拠
雇用契約書、賃金台帳、出勤記録、メールやメモなどを用意してください。簡潔な経緯の時系列もあると話が早く進みます。
利用時のポイント
立証に役立つ記録を保存し、感情的にならず事実を整理して伝えてください。早めに相談することで状況の改善が期待できます。
その他の相談窓口
弁護士に相談
- 退職勧奨や解雇で法的対応が必要な場合、弁護士が適しています。労働問題に詳しい弁護士は、方針や証拠の集め方を具体的に示してくれます。
- 費用は相談料、着手金、成功報酬などがあります。無料相談や法テラスの費用援助を利用できる場合があります。
労働組合
- 職場に組合があれば、まず相談してください。団体交渉で会社と条件を決める力があります。
- 匿名相談や外部組合の紹介を受けられることもあります。
労働局(総合労働相談コーナー)
- 助言・指導や紛争調整委員会のあっせんを受けられます。手続きや必要書類、対応方針を具体的に案内します。
- 事実関係の確認や、どの機関に回すべきか判断してくれます。
民事上のトラブル
- 賃金以外の民事問題(損害賠償など)も総合労働相談コーナーに相談できます。あっせんの適否や裁判手続きの案内を受けられます。
相談前の準備と注意点
- 持参すると良いもの:雇用契約書、就業規則、給与明細、退職勧奨の記録(メールやメモ、録音の有無)
- 相談の流れ:事前予約→窓口で事情説明→助言→必要に応じてあっせんや弁護士の紹介
- 記録を残すと証拠になります。費用や対応期間は機関で異なるため、事前に電話やウェブで確認してください。


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