はじめに
本資料の目的
本資料は、源泉徴収票の作成・発行に関する実務をわかりやすく解説することを目的としています。企業や個人事業主、経理担当者が従業員へ正しく交付できるよう、具体的な手順や注意点を丁寧にまとめました。
対象読者
- 経理・人事担当の方
- 小規模事業主や個人事業主
- 副業やアルバイトを雇用する方
慣れていない方でも実務で使えるよう、専門用語は最小限にして具体例を交えています。
この資料で学べること
- 発行に必要なデータの準備方法
- 発行の適切な時期や手続きの流れ
- 紙・電子の交付方法と選び方
- 作成方法(Excel、e-Tax、クラウド給与ソフト、アウトソーシング)
- 発行時のよくあるミスとその対処法
読み方のポイント
各章は実務の流れに沿って並べています。まず第2章で基礎を押さえ、第4章で具体的な作成手順を確認してください。必要に応じて、後半の章で注意点や受け取り方法を参照すると実務で使いやすくなります。
これから順に、現場で役立つ情報を丁寧に説明していきます。
源泉徴収票とは何か?
簡単な定義
源泉徴収票は、企業が1年間に支払った給与や賞与、その支払いの際に天引きした所得税の金額を記載した法定書類です。”源泉徴収”とは、給与からあらかじめ税金を差し引く仕組みを指します。従業員に交付され、税や手続きで証明書として使います。
記載されている主な項目
- 支払金額(給与・賞与の合計)
- 社会保険料や控除額(健康保険・年金など)
- 源泉徴収された所得税の金額
- 扶養親族の人数などの控除に関する情報
- 支払者(会社)と受給者(従業員)の氏名・住所など
なぜ重要か(利用例)
源泉徴収票は、確定申告での所得証明や、住宅ローン申し込み時の収入証明として使えます。転職時にも前職の所得を確認する書類になるため、大切に保管してください。
実際の見方(簡単な例)
例えば、総支給額が300万円で社会保険料が30万円、源泉徴収税額が15万円と記載されていれば、支払額と差し引かれた税の両方が一目で分かります。これにより、年末調整や確定申告で必要な数字を確認できます。
注意点
記載内容に誤りがある場合は会社に確認してください。紛失したときは再発行を依頼できます。正しい記載と保管が後の手続きで役に立ちます。
源泉徴収票はいつ、誰が発行する?
発行の時期
源泉徴収票は、年末調整が終わった後の12月から翌年1月ごろに発行されるのが一般的です。年末調整を行った従業員には、その結果を反映した源泉徴収票を渡します。退職者には、退職時にも発行が必要です。たとえば12月に退職した方には退職時に、年度途中で退職した方には退職時に発行します。
誰が発行するのか
給与や報酬を支払う事業者(会社や個人事業主)が発行します。事業者は在籍中の全従業員や、退職した従業員に対して源泉徴収票を交付する義務があります。従業員側は受け取ることで、確定申告や次の就職先への手続きに使えます。
交付方法(紙と電子)
原則は紙での交付です。通常は手渡しや郵送で交付します。本人が同意すれば、電子交付も可能です。電子交付する場合は、従業員の同意を得て、閲覧や保存ができる環境(例:専用のウェブページやメール)を整えてください。
実務上のポイント
- 退職時は必ず発行すること。給与の有無にかかわらず交付が必要です。
- 電子交付にするときは、同意の記録を残しておくと安心です。
- 発行者は必要な情報(支払金額、源泉徴収税額など)を正確に記載してください。
源泉徴収票の作成・発行手順
1) 準備する書類・データ
- 各従業員の源泉徴収簿(給与台帳)や給与支払記録
- マイナンバー(個人番号)※厳重に管理してください
- 住民票や扶養確認書類(必要に応じて)
2) 様式と作成手段
- 国税庁のPDF様式をダウンロードして手書き・印刷
- Excelテンプレートで一括作成(複数名のとき便利)
- クラウド給与計算ソフトやe-Taxソフトで自動作成・出力
具体例:従業員が多い事業所はクラウドを使うと誤記を減らせます。
3) 記入項目の主なポイント
- 支払金額(年間支給総額)
- 所得控除後の金額(社会保険料など差引後)
- 源泉徴収税額(実際に天引きした税額)
- 社会保険料等の金額、住所・氏名・個人番号
- 扶養親族の氏名・続柄・控除対象の有無
記入は正確に。特にマイナンバーと金額は照合を行ってください。
4) 作成から交付までの手順(例)
- 年度末までの給与データを確定する
- 様式に必要事項を記入またはソフトで出力する
- 誤りがないか担当者が確認する(チェックリストを使用)
- 印刷し、押印や署名が必要な場合は行う
- 翌年1月31日までに従業員へ交付する(手渡しまたは書留など)
5) 保管と提出
- 交付後、写しを法律で定められた期間保管してください(帳簿類の保存)。
- 提出先がある場合は期日を確認して提出します。
源泉徴収票を発行する際の注意点
フォーマットと計算式の確認
最新の法令に対応した様式を使ってください。特にExcelで作成する場合は、自動計算の数式が正しいか、案分や控除額の計算式に抜けがないかをチェックします。具体例:各月の支給額を合計するSUM、社会保険料の控除計算、源泉所得税の税率適用に誤りがないかを確認します。
マイナンバーの取り扱い
マイナンバーは厳重に管理します。原本やコピーの保管場所を限定し、アクセスできる担当者を明確にしてください。廃棄時はシュレッダー等で復元できない方法を用い、不要書類は最短で処分します。
退職者への発行
退職者にも必ず発行します。年の途中で退職した方でも例外ではありません。退職者の住所が変わっていることがあるので、送付前に確認してください。
配布と保管方法
従業員に手渡す場合は受領印や署名で受け取りを確認します。郵送は簡易書留など追跡可能な方法がおすすめです。電子交付を行う場合は、本人の同意とセキュリティ対策を整えてください。
訂正や再発行の対応
誤りが見つかったら速やかに訂正して再発行します。再発行の理由と日付を記録し、関係者に説明してください。税務署や年末調整に影響が出る場合は、所定の手続きを確認します。
源泉徴収票の発行をしない場合のリスク
法的なリスク
源泉徴収票の交付は法律で求められています。交付しないと、行政からの指導や過料、追徴課税の対象となる可能性があります。罰則がすぐに科されるわけではありませんが、対応を怠ると不利益が大きくなります。
従業員への影響
従業員は確定申告やローン申請、年末調整の確認に源泉徴収票を使います。交付がなければ従業員が不便を被り、会社への不満やトラブルにつながります。例えば住宅ローン審査で提出できないと審査に影響します。
税務調査での不利
税務署の調査時に書類の不備は指摘されやすく、調査が拡大する原因になります。結果として追徴税や加算税、延滞税が発生するリスクが高まります。
実務上の負担と信頼の失墜
交付漏れが判明すると、後から大量の書類を作成・送付する必要があります。時間とコストが増えるだけでなく、取引先や従業員からの信用を失うことがあります。
リスクを避ける具体策
・発行手順を明確にして担当者を決める
・年末調整後は早めに交付する
・万が一交付できない場合は、理由を書面で保存して速やかに対応する
税理士に相談すると適切な対応策が得られます。
源泉徴収票の受け取り方法(従業員側)
1. 直接受け取り(対面)
勤務先の人事・総務・経理担当者から手渡しで受け取る方法です。個人情報なので、担当者に本人確認を求められることがあります。例えば社員証や身分証明書を用意するとスムーズです。
2. 郵送で受け取る
会社が登録住所に郵送するケースです。転居があれば事前に住所変更を伝えておきましょう。届かない場合は速やかに担当部署へ連絡してください。
3. 電子的な受け取り
メール添付や社内ポータルでの配布、電子交付の仕組みがある会社もあります。電子ファイルは紛失しないようバックアップを取り、確定申告が必要なときは印刷して使えるようにしておくと安心です。
4. 紛失したときの再発行依頼
紛失したら速やかに人事・総務・経理へ再発行を依頼します。連絡方法はメール・電話・社内フォームなどが一般的です。本人確認や再送先の確認が行われます。
5. 受け取る際のチェックポイント
・氏名・マイナンバー(記載がある場合)・支払金額・源泉徴収額が正しいか
・扶養の記載や控除欄に誤りがないか
誤りを見つけたらその場で担当者に伝え、訂正を依頼しましょう。
源泉徴収票の作成方法まとめ
以下では、よく使われる4つの作成方法をわかりやすく整理します。用途や事業規模に合わせて選んでください。
1) エクセルで作成
- 必要事項を入力して印刷します(氏名、給与、控除、税額など)。
- メリット:初期費用が少なく手軽に始められます。
- 注意点:計算ミスが起きやすいので、関数や二重チェックで誤りを防いでください。
2) e-Taxソフトで電子作成・印刷
- 国税庁のソフトにデータ入力し、電子申告または様式を印刷します。
- メリット:電子申告で提出が簡単になり、帳票の様式が正確です。
- 注意点:操作に慣れるまで時間がかかる場合があります。
3) クラウド給与計算ソフト
- 従業員情報と支給額を登録すれば自動で計算し様式を出力します。
- メリット:自動化でミスを減らせます。複数名の管理に適しています。
- 注意点:月額費用やデータ移行の手間を確認してください。
4) 専門業者にアウトソーシング
- 社会保険労務士や給与代行業者に依頼します。
- メリット:専門家任せで手間がほとんどありません。法令対応も安心です。
- 注意点:費用がかかります。委託範囲を事前に明確にしましょう。
共通のポイント:最新様式を使う、数字は二重チェック、電子・紙のいずれでも控えを必ず保存してください。選んだ方法で定期的に見直すと安心です。
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