就業規則, 服務規律の違いや運用上の重要ポイントを詳しく解説

目次

はじめに

背景

企業が安定して事業を続けるためには、従業員の日常行動や職務上のルールを明確にする必要があります。就業規則や服務規律はその基礎を成す大切な文書です。本報告では両者の違いや、服務規律に何を盛り込むべきかを丁寧に整理します。

目的

本報告の目的は、経営者や人事担当者、労務管理に関わる方が、実務で使える視点を持てるようにすることです。法律用語を最小限にして、具体例を交えながら分かりやすく説明します。

対象読者

中小企業の経営者、人事担当者、労務相談に携わる士業の方々を想定しています。初めて就業規則や服務規律を整備する方にも読みやすい構成にしています。

本報告の構成

第2章から第6章で、定義・具体例・命令の限界・懲戒処分との関係・作成・運用時の注意点を順に解説します。実務で活用できる視点を重視しています。

就業規則と服務規律の定義と違い

就業規則とは

就業規則は、会社が従業員に対して適用する勤務ルールと労働条件を文書にしたものです。労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者がいる事業場では作成と届け出が必要です。記載は「絶対的必要記載事項」(賃金、労働時間、退職など)と「相対的必要記載事項」(賞与、表彰、制裁など)に分かれます。例:始業・終業時間や有給休暇の取り扱いを明記します。

服務規律とは

服務規律は、業務を円滑に進めるための具体的な行動規範や義務です。就業規則の一部として位置づけることが多く、単独で作成する義務は基本的にありません。例:勤務中の私語の制限、機器の利用ルール、身だしなみや遅刻の連絡方法などを細かく定めます。

主な違い(ポイント別)

  • 法的性格:就業規則は法で作成義務が生じる場合がある一方、服務規律は任意で詳細を定める手段です。
  • 範囲と抽象度:就業規則は労働条件など広く抽象的に規定し、服務規律は日常の具体的行動を定めます。
  • 運用方法:就業規則は届出や周知が必要で、服務規律は社内の細則として柔軟に改定できます。

具体例で比べる

  • 遅刻:就業規則は遅刻扱いの基準(何分から)を示し、服務規律は遅刻時の連絡方法や理由の提出手順を細かく定めます。
  • 懲戒:就業規則に懲戒の種類を記載し、服務規律で具体的な事例と対応手順を示すことが多いです。

服務規律で定めるべき内容と具体例

勤務態度

無断欠勤・無断離脱を禁止し、遅刻や早退は事前連絡や申請を求めます。例:休憩終了の10分以内に職場へ戻る、遅刻は始業前にメールと上司への電話で報告。ハラスメント行為は具体例(暴言、性的言動、SNSでの中傷)を挙げて禁止します。

職場秩序の遵守

業務妨害や誹謗中傷を禁じ、業務に支障を与える行為を明示します。来客対応や電話応対の手順、共有スペースの利用ルール(共同物の片付け、音量管理)を定めます。例:会議室は予約制、会議後は清掃をする。

企業施設の管理

社用物品や設備の私的利用禁止、無断持ち出しの禁止を規定します。喫煙は指定場所のみ許可、許可外の場所では罰則を設けます。入退室カードの扱いや鍵の管理方法も明記します。

業務外活動の留意点

秘密保持の範囲と具体例(顧客名や売上データの公開禁止)を示します。SNS投稿の注意点(業務に関する発言は上長確認を推奨)や副業の可否・届出手続きも規定します。

その他(勤怠・機密など)

タイムカードの打刻ルール、打刻漏れ時の対応方法、機密資料の持ち出し禁止やパスワード管理の基準を定めます。出張時の経費精算方法や服装・身だしなみ基準も具体例を挙げて書くと実務で運用しやすくなります。

会社が従業員に命令できる範囲の制限

基本原則

会社は業務の安全や公正なサービス提供に必要な範囲で指示できますが、従業員の私的領域を不当に制限してはなりません。命令は業務遂行に合理的に関連し、目的と手段の比例性が求められます。

個人的表現の扱い(例)

髪型・髪色、爪の長さ、メイクなどは原則として本人の自由です。顧客対応や衛生管理の観点で明確な必要性がある場合のみ、具体的で最小限の制限を設けます。例えば食品製造では長い爪禁止、接客では過度に派手な化粧を控えるなど合理的な根拠が必要です。

業務に直結する制限の範囲

勤務時間、業務手順、機密保持、安全衛生のためのルールは指示可能です。服装も職務上の識別や安全のために制限できますが、文化的背景や宗教の自由に配慮する必要があります。

運用上の注意点

ルールは明文化し、適用基準を示します。個別対応の余地を残し、合理性を説明できるようにします。違反時の対応も段階的にし、過度な処罰は避けます。従業員との対話を重ね、公正さを保つことが大切です。

懲戒処分と服務規律の関係

概要

服務規律違反に対して懲戒処分を行う場合は、会社が恣意的に罰するのを防ぐためにいくつかの条件を満たす必要があります。主な要件と具体例をわかりやすく説明します。

懲戒の主な要件

  1. 就業規則に懲戒事由が明記されている
  2. 何が懲戒の対象かを明確にします。例:重大な遅刻、横領、故意の業務妨害など。

  3. 処分が相当であること(比例原則)

  4. 行為の悪質性や頻度、被害の程度を考慮して処分を決めます。例:軽微な遅刻は始末書、横領は懲戒解雇。

  5. 処分内容が妥当であること

  6. 同種事案で過去の処分と大きく乖離しないようにします。公平性を保つためです。

  7. 過去の類似事例との整合性

  8. 前例に照らして不公平にならないよう確認します。

手続きと従業員の権利保護

  • 事実関係の調査、従業員への弁明機会(聴聞)、証拠の保存、書面での通知を行います。これにより権利救済と不当な懲戒の防止が図れます。

実務上の注意点

  • 判断は記録に残し、関係者の証言や資料を整えます。重大案件は社内だけで判断せず、労務の専門家に相談することを検討してください。

作成・運用時の注意点

設計時の基本方針

服務規律は会社の秩序を保つために定めますが、従業員の基本的権利や労働条件を侵してはいけません。具体的には就業規則や労働基準法と矛盾しないように設計してください。例:休憩や休日の扱いは法定基準に従う。

内容は明確かつ具体的に

曖昧な表現を避け、違反時の扱いも明示します。たとえば「遅刻」は何分から対象か、連絡方法は電話かメールかを明記します。具体例を示すことで誤解を減らせます。

プライバシーと合理性の確保

私生活に過度に踏み込む規定は避けてください。身だしなみやSNS利用などは業務に影響する範囲に限定し、理由を明示します。

周知と教育

作成後は全員に配布し、説明会や研修を行って理解を深めます。入社時の説明も忘れずに。

運用の公正さと記録管理

違反対応は一貫性を持って行い、判断理由や処分の記録を残します。これにより後の争いを防げます。

見直しと従業員の声

法改正や業務実態の変化に応じて定期的に見直します。従業員からの意見を受け付ける窓口を設けると実効性が上がります。

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