はじめに
本記事の目的
本記事は、就業規則における「例外」的な扱いについて、わかりやすく整理することを目的としています。法的な考え方と実務での具体例を結びつけ、現場で使える視点を示します。
対象読者
人事・総務担当者、経営者、労務の実務に関わる方を主な対象とします。法律の専門家でない方でも理解できる表現で説明します。
本記事の範囲と構成
適用除外や不利益変更の例外、副業制限の例外、退職金の扱いなど、実務で問題になりやすい項目を取り上げます。各章で法的根拠と運用上の注意点、具体例を示します。
読み方のポイント
条文だけでなく、現場での判断基準や書き方の工夫にも触れます。事例を通じて、自社の就業規則にどう反映すべきかイメージできるようにしています。
就業規則の基本と例外規定の必要性
就業規則の役割
就業規則は、労働時間・賃金・服務規律などを会社と従業員の間で明確にする社内ルールです。全ての従業員に適用されることが原則で、職場の秩序やトラブル防止に役立ちます。
原則と例外の所在
原則として平等に適用しますが、業務の性質や働き方の多様化により例外を置く必要が出てきます。例外は、個別の事情に応じて合理的な範囲で設定することが大切です。
例外を設ける具体例
- 管理監督者:始業・終業の規定を適用しない場合があります。
- 専門職・高度な裁量を持つ職種:時間管理より成果重視の待遇を設けることがあります。
- 短時間労働者・嘱託・在宅勤務者:労働時間や休暇の扱いを別に定めることがあります。
例外を設ける際のポイント
- 対象と範囲を明確にする
- 期間や見直し方法を定める
- 労使で説明・合意を図る
- 不合理な差別とならないよう公平性を保つ
具体的で書きやすいルールにして、従業員に分かりやすく伝えることが重要です。
労働基準法における適用除外の例
労働基準法第41条は、労働時間・休憩・休日などの規定について、一定の労働者を適用除外にできると定めています。ここでは、代表的な除外例をわかりやすく説明します。
主な適用除外の類型
- 管理監督者
- 会社の経営に関する重要な権限を持ち、勤務時間の裁量が大きい人を指します。例:部長や課長で人事や経営方針に関与する役職。
- 機密の事務従事者
- 企業の営業秘密や重要情報を扱う職務に就く人です。例:経営幹部の秘書や機密資料を扱う担当者。
- 監視的・断続的労働者
- 業務が断続的で、一般的な労働時間の区切りが当てはまりにくい人。例:夜間の警備員や交代で巡回する作業者。
- 特定の業種に属する労働者
- 業務の性質上、労働時間管理が通常と異なる場合があります。例:海上の乗組員や一部の運輸・漁業など。
効果と注意点
適用除外になると法定労働時間や休憩・休日の規定はその労働者に直接は適用されません。ただし、最低賃金や安全衛生など他の法規は別途適用されます。形式的な役職名のみで除外扱いにすると問題になりますので、実態で判断することが重要です。
就業規則の記載事項と特定労働者への例外適用
必須記載事項
就業規則には、労働時間、賃金、退職などの絶対的必要記載事項を必ず書く必要があります。これらは例外なく記載し、基本的な労働条件を明確にします。専門用語は避け、具体的に「始業・終業時刻」「賃金の計算方法」「退職事由」などを示すと分かりやすいです。
特定労働者への例外適用
パートタイムや短時間労働者など、就業形態が異なる従業員には、一般の就業規則をそのまま適用せず、適用除外を明記して別規則を用意できます。例えば、正社員用規則を基本にしつつ「パートタイム就業規則」を別に定め、適用範囲を明確にします。
別規則の作成と明記例
実務では次のような条文を置きます。
「本規則は正社員に適用する。パートタイム労働者については別に定める『パートタイム就業規則』を適用し、本規則は適用しない」
具体的には勤務時間・賃金計算・休暇の取り扱い・退職金の有無を別規則で定めます。
運用上の留意点
適用の範囲を曖昧にしないことが重要です。どの雇用形態の誰に適用するかを定義し、就業規則と別規則の整合性を取ってください。従業員への周知を行い、必要な手続きはしっかり実施します。法令の最低基準を下回らないよう留意し、合理的で不当な不利益とならないよう配慮してください。
副業・兼業制限の例外規定
原則と裁判例の考え方
勤務時間外の私生活利用は原則として自由です。裁判例はこの考えを基本にしつつ、企業の利益を著しく害する場合に限って例外的に副業・兼業を禁止できると示します。つまり、無制限な禁止は認められにくいです。
例外となり得る具体例
1) 本業の労務提供が不完全になる場合:深夜の副業で翌日の勤務に支障が出る、長時間労働で本業のパフォーマンスが低下するなど。例:深夜シフトの社員が終業後に長時間のアルバイトを続けて遅刻・欠勤が増えた場合。
2) 企業秘密漏洩のリスクがある場合:競合他社で同様の業務を行う、副業先で社内資料に触れる恐れがあるなど。例:製品開発担当が競合会社で業務に従事するケース。
3) 企業秩序や信用を乱す恐れがある場合:職場の規律を乱す、同僚との利益や顧客対応で対立が生じる場合。例:従業員が本業の顧客を副業先に誘導する。
就業規則に記載するときの留意点
・禁止範囲を具体的にする(職種・業務・競合の定義など)。
・申請・届出制度を設け、個別判断を行う。違反時の処分基準も明確にする。
・漠然とした全般禁止は無効になりやすいので、合理的かつ明確な理由を記載してください。
就業規則の不利益変更と例外
背景
原則として、就業規則で労働者に不利益を与える変更は労働者の同意が必要です。ただし、一定の要件を満たせば、同意なく変更できる場合があります(労働契約法10条の考え方)。
例外として認められる主な要件
- 事業運営上の必要性:経営悪化や業務再編など、変更がやむをえない事情があること。例:拠点統廃合で勤務時間を整理する場合。
- 変更後の合理性:変更内容が社会通念上合理的であること。たとえば、業務量に応じた配置換え。
- 不利益の程度:従前とのギャップが過度でないこと。給与や労働時間の大幅な切り下げは慎重です。
- 協議・説明状況:労働組合や労働者へ十分な説明や協議を行っていること。
具体例
- 給与の一部見直しを段階的に行い、猶予期間や補償措置を設けた場合は合理性が認められやすいです。
- 突発的な業績悪化で一時的に勤務形態を見直す場合も、必要性と合理性を示せば例外が認められることがあります。
手続き上のポイント
- 変更理由と影響を文書で示し、労働者に説明してください。労働組合があれば協議を重ねること。個別の事情がある場合は個別配慮や同意を得るとトラブルを避けられます。
留意点
- 不利益変更を強行すると労働紛争に発展しやすいです。できるだけ代替措置(減額幅を小さくする、補償を用意する等)を検討してください。
退職金の不支給等、特定事由に基づく例外
概要
退職金を全額不支給とするなどの例外は、就業規則に具体的で合理的な理由を書いている場合に限り認められる可能性があります。漠然とした文言だけでは認められにくい点に注意が必要です。
典型的な不支給事由と具体例
- 懲戒解雇や重大な背信行為(例:業務上の横領や重大な情報漏えい)→全額不支給が想定される。
- 故意または重大な過失による損害(例:故意に機器を破損)→一部または全額の減額。
- 退職時点での在職条件を満たさない場合(例:定められた勤続年数未満)→不支給規定。
運用上の注意点
- 不支給規定は具体的に書くこと。事例や判断基準を示すと紛争を避けやすくなります。
- 事実確認と聴取を行い、公正な手続きを踏むこと。書面で理由を示すと信頼性が高まります。
- 一律の不支給ではなく、程度に応じた減額を検討すると合理性が認められやすいです。
実務的な助言
就業規則に例外を設ける際は、労働者に分かりやすく示し、労働組合や専門家と相談して運用ルールを整えてください。裁判例は厳しく見ることが多く、具体化と適正手続きが重要です。
就業規則の例外規定を設ける際の注意点
例外規定を設ける際は、次の点に注意してください。
法令・判例の遵守
例外でも労働基準法などの法令や判例に反してはいけません。たとえば最低賃金や労働時間の基準を事実上無視する運用は認められません。疑問があれば社労士や弁護士に相談してください。
明確で合理的な根拠の記載
誰に、どのような条件で例外が適用されるのかを具体的に書きます。期間や対象、適用基準を明示し、個別判断の理由も記録しておくと説明しやすくなります。
労働者への周知と説明責任
書面や社内説明会で周知し、質問に答える場を設けます。重要な変更は同意取得や意見聴取の手続きを踏むと紛争防止になります。
乱用を防ぐ運用ルール
例外の運用は最小限にとどめ、承認フローや定期的なレビューを設けます。具体例として、管理職の時間外免除を恣意的に拡大しないための上長承認を設定します。
変更手続きと紛争対応
例外規定の変更は事前に通知し、合理的な猶予期間を設けます。トラブルが起きた場合の相談窓口や記録保存の仕組みを整えます。
定期的な見直し
運用状況や労働者の声を踏まえて定期的に見直します。適用実績を数値化すると判断がしやすくなります。


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