はじめに
概要
本記事は、就業規則における安全衛生規定の法的根拠、記載事項、実務上のポイント、そして今後の改正動向をやさしく解説します。人事労務担当者や経営者が、社内ルールを整備し運用する際の基礎知識と注意点をまとめています。
目的
読者が実務で使えるように、法律の要点を分かりやすく示します。具体例や運用上の留意点を挙げ、現場での対応に結びつけます。
対象読者
- 人事・総務・労務担当者
- 経営者や管理職
- 就業規則の見直しを検討する方
本章の位置づけと読み方
第1章では本書の狙いと全体構成を示します。以降の章で法的根拠、企業の責任、記載義務、管理規程との連携、改正情報、実務上のポイントを順に解説します。初めて学ぶ方は、第2章から順に読むことをおすすめしますが、関心のある章だけ参照しても理解できます。
本記事の使い方
各章は実務でそのまま使える視点で書いています。条文の引用は最小限にして、具体的な記載例や対応フローを優先します。必要に応じて社内の実情に合わせて調整してください。
就業規則と安全衛生規定の法的根拠
法的根拠の要点
就業規則は労働基準法第89条に基づき、常時10人以上の事業場で作成が義務付けられています。その中で「安全及び衛生に関する制度」は相対的必要記載事項です。労働安全衛生法や関係法令は、職場で働く人の安全と健康を守るための具体的な措置を求めています。
具体的に何を記すべきか(例)
- 安全衛生管理体制(安全管理者や衛生管理者の選任)
- 健康診断の実施方法とフォロー体制
- 職場環境の測定・管理(騒音や有害物質の測定)
- 災害時の対応・救護体制(避難訓練や通報手順)
- 労働者の安全教育や安全委員会の運用
実務上のポイント
就業規則には実際の対応方法を具体的に書き、従業員が分かるように配布・掲示します。記録の保存や定期的な見直しも重要です。業種や業務内容によって必要な記載内容は変わるため、職場の実情に合わせて規定を作成してください。
他法令との関係
就業規則は労働安全衛生法などとも整合させる必要があります。例えば健康診断の基準や有害業務の管理方法は別法令の基準に合わせて明文化してください。
労働安全衛生規則の概要と企業の責任
概要
労働安全衛生規則は、労働安全衛生法に基づき、厚生労働省が定める具体的な基準や手順です。職場での危険や健康障害を防ぐための最低限のルールを示します。
主な内容
- 安全衛生管理体制:安全管理者・衛生管理者・産業医の選任や役割分担
- 設備・有害物の規制:機械の防護、化学物質の取扱い方法など
- 教育・訓練:危険予知や作業手順の教育
- 健康管理:定期健康診断やストレス対応などの措置
- 災害対応:事故報告や緊急時の手順
企業の責任
事業者は規則に沿って、安全と健康を守る体制を整えます。具体的には担当者を選び、リスクを評価し、作業手順や教育計画を作成します。健康診断の実施やその結果に基づく措置、事故発生時の速やかな報告・対応も求められます。
実務上の注意点
- 書類化して記録を残すこと(教育履歴、点検記録など)
- 就業規則や安全衛生管理規程に反映すること
- 従業員の意見を取り入れて運用すること
- 定期的に見直して改善すること
これらを日常的に運用し、職場の安全と健康を守ることが企業の重要な責務です。
就業規則への安全衛生事項の記載義務と具体例
はじめに
安全衛生に関する事項は、事業場に該当する制度や担当がある場合、就業規則に記載する必要があります。ここでは記載の考え方と実務で使える具体例を示します。
記載義務の考え方
相対的必要記載事項のため、該当する制度や体制が存在する場合に限り、就業規則に明記します。誰が何をいつ行うかが分かるようにします。
主な記載項目と具体例
- 安全衛生委員会の設置・運営
- 例:「事業場で毎月1回安全衛生委員会を開催し、職場の安全・衛生事項を協議する。」
- 安全衛生教育の実施
- 例:「入社時および配置転換時に安全衛生教育を行う。」
- 健康診断・ストレスチェック
- 例:「年1回の定期健康診断を実施し、産業医による面談を行う。」
- 作業環境の測定・改善
- 例:「有害物質の濃度測定を年1回実施し、基準超過時は改善措置を行う。」
- 災害時の報告・復旧手順
- 例:「災害発生時は直ちに上長に報告し、所定の復旧手順に従う。」
- 衛生管理者・安全管理者の任命
- 例:「衛生管理者を選任し、職場の衛生管理を主導させる。」
条文例(簡易)
- 「当社は安全衛生委員会を設置し、委員会は毎月開催する。」
- 「産業医による定期健康相談を年数回実施する。」
運用上の注意
条文は実際の運用と一致させ、記録と周知を必ず行ってください。変更があれば速やかに就業規則を改定し、従業員へ周知します。
安全衛生管理規程と就業規則の連携
概要
多くの企業は就業規則に「安全衛生は安全衛生管理規程による」と簡潔に記載し、詳細は別規程で定めます。安全衛生管理規程は現場の具体的な運用ルールや手順を明確にし、就業規則は基本方針や従業員の義務を示します。
連携のポイント
- 役割分担を明確にする:就業規則で責任者の範囲を示し、規程で具体的な担当業務や手順を定めます。例:就業規則に「安全管理者を置く」と書き、規程で選任方法や権限を定める。
- 用語を統一する:同じ用語が異なる意味で使われないよう統一します。混乱を避けるため、定義を規程内にまとめると便利です。
記載例と運用例
- 就業規則:安全衛生に関する基本方針、従業員の協力義務、違反時の処分を記載。
- 規程:具体的な教育計画、点検・報告フロー、災害時の対応マニュアルを記載。現場でのチェックリストを添付すると運用しやすくなります。
整合性チェックの方法
- 定期レビュー:年1回以上、労働安全担当と人事で文言と運用を照合します。
- 実地検証:現場の担当者に規程を基に業務を確認してもらい、差異を是正します。
注意点
- 規定が矛盾すると運用が滞ります。変更時は就業規則と規程の両方を見直してください。
2025年法改正・最新動向
概要
2025年の改正では、化学物質管理の厳格化と健康管理措置の拡充により、事業者の義務範囲が広がりました。就業規則や安全衛生管理規程は新基準に合わせて見直す必要があります。
主な改正点(具体例)
- 化学物質管理者の選任:専門責任者を社内で選び、管理体制を明確化します。例:危険物の在庫管理やラベル確認の責任者を定める。
- リスクアセスメント強化:作業ごとの詳細な評価と記録を義務化。曝露評価や措置の履歴を残します。
- 健康診断の見直し:職種に応じた項目追加や頻度の見直し。結果に基づくフォローを強化します。
- 安全衛生教育の充実:年次・入社時の研修内容の拡大と記録保存を求めます。
企業が取るべき対応(実務的ステップ)
- 就業規則・管理規程の改定案を作成する。2. 化学物質管理者を選び職務を書面化。3. リスクアセスメントを実施し改善計画を作る。4. 健康診断項目とフォロー体制を見直す。5. 教育計画を更新し記録管理を徹底する。
注意点
改定は社内体制や現場の実態に合わせて段階的に進めてください。外部専門家の意見を活用すると効率的に整備できます。
実務での注意点と運用ポイント
改定時の手続き
就業規則や安全衛生規程を改定するときは、まず従業員代表の意見を聞きます。意見聴取の記録を残し、必要な届出(労働基準監督署への届出など)を忘れず行ってください。具体例:改定案と意見記録をセットで保管する。
体制と役割を明確にする
事業場の規模や業種に合わせて担当者と責任範囲を決めます。小規模なら兼務での担当者配置、大規模なら専門チームを設けます。役割を明示すると対応が速くなります。
実効性ある運用
安全衛生委員会は形式だけにせず、現場の課題を議題に上げます。議事録に対策と期限を明記し、担当者が実行・報告する仕組みを作ります。現場からのフィードバックを月次で集めると改善が進みます。
教育と定期見直し
法令改正や行政指導に合わせて定期的に規程を見直し、従業員教育を実施します。新規採用時と変更時に必ず説明会を行い、理解度チェックを設けると有効です。
記録と内部監査
事故・ヒヤリハットの記録、委員会議事録、教育記録を体系的に保存します。定期的な内部監査で運用状況を点検し、改善計画を立ててください。
実務で役立つ小技
チェックリスト、改定スケジュール、テンプレート(意見書・届出書)を用意すると負担が減ります。外部専門家の活用も検討してください。
まとめ・今後のポイント
要点の整理
- 企業は法令に沿った就業規則と安全衛生管理規程を整備し、全従業員が安全で健康に働ける環境を作る責務があります。
- 文書化したルールを現場運用に結びつけ、定期的に見直すことが持続的な効果につながります。
実務で優先すべき対応
- 年に一度以上、就業規則と安全衛生規程を点検する。変更があれば速やかに反映します。
- 労働者の意見を取り入れる仕組みを設ける(衛生委員会やアンケート等)。
- リスクアセスメントを実施し、改善策を具体的に実行する。教育・訓練を定期的に行います。
- 健康診断やストレスチェックの結果を活用し、フォロー体制を整備する。
簡潔なチェックリスト(実務用)
- 就業規則:安全衛生に関する項目の有無と最新化
- 責任体制:衛生管理責任者や担当者の明確化
- 運用手順:リスク対応や緊急時の手順書
- 記録管理:教育記録、点検・是正履歴、健康診断結果の保存
- 労働時間管理:長時間労働の把握と是正
長期的な視点と取り組み
- 法改正や行政通達を定期的に確認し、実務へ反映します。
- 安全文化を育てるために、現場での対話と教育に継続的に投資することが重要です。
- メンタルヘルスや多様な働き方への配慮も長期的な人材確保につながります。
まずは現状の文書と運用のギャップを把握し、優先事項から着実に改善してください。必要であれば、具体的なチェックリストや運用例の作成もお手伝いします。


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