はじめに
概要
本記事は、中小企業の経営者や人事・労務担当者向けに、就業規則における「解雇」に関する実務の考え方と書き方を丁寧に解説します。労働基準法や労働契約法との関係を踏まえ、実務で使える具体例を示します。
本記事の目的
解雇は従業員の生活に重大な影響を与えるため、慎重に取り扱う必要があります。ここでは「いつ解雇が認められるか」「就業規則にはどう書くか」「トラブルを避けるために何を準備するか」を分かりやすく示します。
対象と構成
主に中小企業の実務担当者を想定しています。第2章で解雇の位置づけ、第3章で普通解雇の具体例と書き方、第4章で懲戒解雇の考え方と条文例を扱います。実務上よくある事例(無断欠勤、業務上の著しい不適格、経営上の人員整理)を取り上げます。
注意点
就業規則の作成は会社の実情に合わせる必要があります。実例を参考にしつつ、必要に応じて社労士や弁護士に相談することをお勧めします。
第1章 就業規則における「解雇」の位置づけ
解雇規定がなぜ必要か
労働基準法第89条により、常時10人以上の事業場では解雇に関する事項を就業規則に必ず記載する必要があります。就業規則は労使のルールブックであり、解雇の理由や手続きが明確でないと労使間のトラブルにつながります。
解雇の三つの類型と特徴
- 普通解雇:業務上の必要や能力不足などで雇用を継続できない場合に行います。客観的な合理性が求められます。
- 懲戒解雇:サービス違反や重大な規律違反など罰則として行います。厳格な手続きと理由の明示が必要です。
- 整理解雇:経営上の事情によりやむを得ず行うものです。解雇回避努力や順序、基準の公正さが重視されます。
就業規則に書くときのポイント
具体的な事由を列挙し、手続き(警告、事情聴取、通知期日など)を定めます。あいまいな表現は避け、事実に基づく説明例を添えると実務で役立ちます。
曖昧になりやすい表現の改善例
「重大な背信行為」→「横領、故意の情報漏えい等、具体的行為を列挙」など、例示を加えて具体化してください。
第2章 普通解雇の考え方と就業規則の記載例
普通解雇とは
普通解雇は、従業員本人の事情に基づく解雇です。典型例は能力不足、勤務態度の問題、私傷病による長期の就業不能などです。会社は最終手段として解雇を選ぶため、改善のための指導や機会を設けたことを明示してください。
具体例(分かりやすく)
- 能力不足:業務習得が著しく遅れ、定めた業務基準に達しない場合
- 勤務態度不良:遅刻・無断欠勤の常習、業務命令の重大な違反
- 私傷病:治療により長期的に業務遂行が困難で、合理的配置転換が不可能な場合
就業規則の記載例
1) 普通解雇の要件
「従業員が業務上通常期待される能力・態度を著しく欠き、合理的な改善指導および相応の猶予期間を経ても改善が見られないときは、普通解雇とする場合がある。」
2) 手続きの明記
「解雇に先立ち、文書による改善指示、面談記録、改善期間(例:3か月)および評価結果を保存し、これらに基づき最終判断を行う。」
実務上の注意点
解雇の有効性は、客観的合理性と社会通念上の相当性に左右されます。労働基準法の解雇制限に該当しないこと、30日前の予告または予告手当の支払いを行うことも必要です。運用実績として日々の指導記録や評価書を残し、一貫した運用を心がけてください。
第3章 懲戒解雇の考え方と就業規則の書き方
概要
懲戒解雇は最も重い懲戒処分であり、従業員に重大な不利益を与えます。裁判所は有効性の判断を厳しく行うため、就業規則の明確な記載と慎重な運用が必要です。
懲戒解雇を認める基準(考え方)
- 重大性:会社の信用を著しく損なう行為(例:横領、暴力、重大な機密漏えい)
- 悪質性・反復性:一度のミスでも悪質なら対象、軽微な行為の反復も問題
- 業務への影響:業務継続に著しい支障を来すかどうか
- 改善可能性:更生の見込みがあるかを検討
裁判所は「社会通念上相当か」を見ます。手続きや事情審査の不備で無効とされるリスクがあります。
就業規則の書き方(実務ポイント)
- 懲戒解雇事由を具体例を交えて列挙する(抽象的すぎない)
- 懲戒の種類と態様(譴責→減給→出勤停止→懲戒解雇)を示す
- 手続きの明記:事実調査、弁明の機会、関係者聴取、決定機関(懲戒委員会等)
- 退職金不支給の取扱いを明示(該当する具体事由を併記)
実務上の運用注意点
- 事実確認を丁寧に行い、記録を残す
- 弁明の機会は必ず与える(口頭・書面)
- 同種事案での過去対応を参照し、一貫性を保つ
- 懲戒委員会など第三者的な審査を設けると合理性が高まる
就業規則文例(簡易)
- 懲戒解雇の事由:横領、業務上の重大な背信、暴力行為、重大な機密漏えい等
- 手続:会社は事実調査を行い、当該従業員に弁明の機会を与えた上で、懲戒委員会の審議に基づき決定する。
- 退職金:前項に該当するときは退職金を支給しない。
運用と記載は慎重を要します。必要があれば社内規程や労務専門家と相談して個別対応を検討してください。


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