はじめに
本記事では「損害賠償を伴う誓約書の法的効力と実務」について、実務で使える知識を分かりやすくまとめます。誓約書はトラブルを未然に防ぐ道具ですが、内容次第では期待した効力を発揮しないことがあります。本章では記事の目的、対象読者、読み方を簡潔にお伝えします。
この記事の目的
- 誓約書に書くべき基本事項と注意点を具体例で示します。
- 損害賠償条項がどのように効力を持つか、実際の請求手続きまでを解説します。
対象読者
企業の担当者、個人事業主、イベント主催者、契約書を作る立場の方に向けています。法律の専門家でなくても理解できるように平易に説明します。
読み方のコツ
各章は独立して読めますが、特に「法的効力」と「請求の手続き」は順に読むと理解しやすいです。テンプレートは参考例ですから、そのまま使う前に内容を自社・自分の状況に合わせて見直してください。必要な場合は専門家に相談してください。
誓約書とは何か?その基本的な役割
定義と目的
誓約書は、当事者の一方が特定の行為や義務を果たすと文書で約束するものです。口頭の約束に比べて記録が残り、後で認識の齟齬が生じにくくなります。主な目的はトラブルの予防と責任の明確化です。
使われる場面(具体例)
- 雇用現場:守秘義務や競業避止の約束。問題が起きたときの対応を明確にします。
- 業務委託:作業範囲や納期、費用負担を約束する場合。
- 施設利用:設備の損壊や持ち出し禁止を誓う場面。
署名・押印の意味
署名や押印があると、誓約者の意思が明確になります。証拠としての信頼性が高まり、後で「知らなかった」と主張されにくくなります。ただし、署名だけで全ての争いが自動的に解決するわけではありません。
誓約書が果たす主な役割
- 事実の記録化:約束内容を具体的に残します。
- 予防効果:曖昧さを減らし、トラブルを未然に防ぎます。
- 責任の所在明示:誰が何をするかを明確にします。
- 証拠力の補強:紛争時に有用な資料になります。
簡単な注意点
文面は具体的に書くと効果が高まります。頻繁に使う言葉は定義しておくと誤解が生じにくくなります。必要に応じて日付や証人を付けると安心です。
誓約書の法的効力と損害賠償との関係
誓約書に法的拘束力はあるのか
誓約書は、当事者が合意して署名すれば契約と同じく法的な効力を持ちます。口約束より証拠性が高く、内容が合理的であれば裁判所でも尊重されます。とはいえ、内容が極端に一方に不利で公序良俗や法令に反する場合は無効になることがあります。
証拠としての役割
誓約書は「こうする」と書かれた証拠です。違反があれば、誓約書をもとに事実関係や約束の内容を示せます。ただし、違反の有無・損害の発生・因果関係は別途立証が必要です。
損害賠償請求が認められる条件
損害賠償を請求するには主に三つが必要です。①誓約違反があること、②相手方に損害が発生したこと、③違反と損害に因果関係があること。これらを具体的な証拠で示す必要があります。
具体例:退職時の誓約・秘密保持
例として、元従業員が顧客名簿を持ち出し取引先に接触して売上が下がった場合、誓約書や秘密保持契約に基づき損害賠償を求められます。また、違約金を定めておけば実際の損害の立証が困難なときに効果的です。
裁判での扱いと注意点
裁判所は誓約書の内容、合理性、実際の損害を総合して判断します。損害額の算定や因果関係が争点になりやすいので、日頃から証拠を残すこと、過度に重い義務は避けることが重要です。
損害賠償条項の意味と必要性
損害賠償条項とは
損害賠償条項は、契約や誓約に違反した場合に発生する金銭的な負担について、あらかじめ取り決める項目です。言葉にすると簡単ですが、実際には「どのような損害を」「誰が」「どの範囲で」負うのかを明確にします。
なぜ必要か
契約当事者がお互いの期待を守るために役立ちます。民法第415条が債務不履行の賠償を認め、民法第709条が故意・過失による損害賠償を定める背景があり、条項を置くことで紛争時に請求範囲や計算方法が明確になります。例えば、秘密情報の漏洩で取引先を失った場合、実際に生じた損害を請求しやすくなります。
違約金との違い
違約金はあらかじめ定めた一定額の支払いです。損害賠償は実際に発生した損害の額に基づきます。両者を併記することもできますが、重複請求や過大な金額は無効となる可能性があるため注意が必要です。
実務上のポイント
・請求対象(直接損害、間接損害など)を具体的にする。
・算定方法(実費、逸失利益の計算基準)を明記する。
・上限額や免責事由を設けてリスク配分を明確にする。
・証拠の保存や損害発生時の通知義務を定めると実効性が高まります。
実際に損害賠償請求ができるケースと手続き
どんなときに請求できるか
誓約書や契約に違反して実際に損害が生じたときに請求できます。例:納期遅延で取引先に損失が出た、機密情報が漏れて業務に支障が出た、無断のキャンセルで費用が発生した等です。被害と契約違反の因果関係を示せることが重要です。
請求書(損害賠償請求書)の作り方
書面には次を明確に記載します。①損害発生の事実と日時、②賠償請求の意思、③損害の金額の内訳(領収書や見積もりを添付)、④請求者と相手の氏名・住所、⑤請求日と支払期限。わかりやすく箇条書きにすると受け手も理解しやすいです。
送付方法と証拠保全
内容証明郵便で送れば送付事実を証明できます。着払いや配達証明を併用すると確実です。まずは請求書を送り、相手の対応を待って交渉します。
その後の手続き
交渉で解決しなければ、支払督促や少額訴訟、通常訴訟へ進みます。金額が明確で早期解決を望む場合は支払督促が有効です。訴訟に備え、契約書、メール、領収書などを整理しておきます。
証拠と注意点
損害金額は立証責任があります。曖昧な請求は認められにくいので、具体的な計算や根拠資料をそろえてください。相手の過失や因果関係を示す証拠も重要です。場合によっては弁護士に相談すると手続きがスムーズになります。
損害賠償条項・誓約書の記載例(テンプレート)
1) 契約書内の損害賠償条項(例)
第○条(損害賠償)
1. 当事者の一方が本契約に違反し、相手方に損害を与えた場合、違反当事者は直接かつ通常の損害を賠償する責任を負う。
2. 本契約に基づく損害賠償の上限は、相手方が直近6か月に支払った対価の総額を超えないものとする。
3. 天災地変その他不可抗力による履行遅延・不履行については、当該当事者は責任を負わないものとする。ただし、当該事象発生後速やかに相手方に通知し、合理的な代替措置を講じるものとする。
2) 誓約書(個人向け)テンプレート(例)
私は以下の事項を遵守し、違反により発生した直接的な損害を賠償することを誓約します。
・守秘義務を遵守すること。
・指定場所・時間のルールを守ること。
違反があった場合、実際に発生した損害額を支払います。
署名:__ 日付:_年_月日
3) 各項目のポイント
・賠償範囲は「直接かつ通常の損害」に限定すると過大請求を避けやすい。
・上限を設けると予見性が高まるが、重要契約では高めに設定する。
・不可抗力は具体例(地震、洪水、戦争など)を挙げると運用しやすい。
4) カスタマイズのヒント
・金額を明示するか算出方法(例:直近6か月の対価)を入れる。
・報告・通知の期限を定める(例:発生後14日以内)。
・反社会的勢力排除や機密保持など個別条項と合わせる。
5) 使用時の注意点
・曖昧な表現は避け、具体的な数値や期限を入れてください。
・重大な契約では専門家の確認をおすすめします。
誓約書で損害賠償請求を有効にするための注意点
1) 誓約内容は具体的に書く
曖昧な表現は避け、誰が何をいつまでに行うかを明記します。例:『AはBに対し、工事完了日から30日以内に引き渡す』のように期限や行為を特定します。
2) 違反時のペナルティを明示する
違反時に請求できる損害の種類(直接損害・間接損害)や算定方法を示します。具体例:遅延1日につき○○円、実費+合理的な費用等。計算式を載せると証明が楽になります。
3) 合意意思の明確化(署名・押印・日付)
当事者全員の署名・押印と日付を必ず入れます。必要なら立会人または証人の署名も求めます。電子署名を使う場合は、方式と有効性を明記してください。
4) 証拠の保存と記録管理
損害額を証明するため、領収書、写真、作業記録、メールやチャットのログを保存します。保存期間と保管方法(紙・電子)も書いておくと安心です。
5) 損害賠償額の上限と範囲設定
上限を定めることでリスクをコントロールできます。対象外項目(間接的損失や逸失利益の除外など)も明記しましょう。例:賠償額は契約総額の××%を上限とする。
6) 通知方法と請求の手続き
違反があった場合の通知方法(書面、メール、配達証明)と請求の期限・手順を定めます。期日内に通知しないと請求が難しくなることがあります。
7) 証明しやすい運用を心がける
日報や写真を定期的に撮る、重要連絡は書面で行うなど、普段から証拠化する習慣をつけましょう。裁判で争う場合の負担が軽くなります。
8) チェックリスト(実務的ポイント)
- 誰が・何を・いつまでに
- ペナルティの算定方法
- 署名・押印・日付の有無
- 証拠の保存方法と期間
- 賠償額の上限と対象範囲
- 通知方法と請求手順
これらを押さえると、誓約書の効力を高め、後の争いを減らせます。必要に応じて専門家に確認を取り、実務で使いやすい文面に調整してください。
まとめ:損害賠償付き誓約書の実務ポイント
- はじめに
誓約書に損害賠償条項を入れると、違反時に請求しやすくなります。ただし、条項の書き方や証拠保全が重要です。ここでは実務で押さえるべき点を分かりやすく整理します。
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要点チェックリスト
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具体性を持たせる:何を禁止するか、違反した場合の損害の算定方法(例:実費+逸失利益の算出式)を明記します。
- 期間と範囲:適用期間、対象行為、免責事項をはっきりさせます。
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証拠の確保:メール、写真、契約書、領収書などを保存します。
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実務フロー(代表例)
1) 誓約書作成(テンプレート活用、専門家チェック)
2) 相手に交付・署名取得
3) 違反発生→損害額の算定
4) 損害賠償請求書を作成し内容証明で送付
5) 必要時に交渉・訴訟へ進める
- 文書作成のコツと注意点
・曖昧な表現を避け、具体例を盛り込みます。例:禁止行為の日時や方法を例示。
・過大な違約金は無効となる場合があるため、合理性を持たせます。
- 専門家に相談するタイミング
初回作成時と、実際に請求する前に弁護士や司法書士に確認すると安心です。証拠の評価や請求額の合理性を判断してもらえます。
この章を参考に、誓約書を実務で使いやすく整備してください。


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