はじめに
本章では、本記事の目的と読み方を丁寧にご案内します。退職代行サービスは近年利用が増えましたが、対応範囲や法的な問題には差があります。そこで本稿は、退職代行に関わる「非弁行為(非弁)」の問題点をわかりやすく整理します。
- 目的
- 退職代行の基本的な仕組みを理解すること
- 非弁行為が何を意味するかを知ること
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判例や具体例からリスクを把握し、安全に利用する方法を学ぶこと
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対象読者
- 退職を考えている方、依頼を検討中の方
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企業の人事担当者や家族でサポートする方
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本記事の構成(全7章)
- はじめに(本章)
- 退職代行サービスとは?基本的な仕組み
- 非弁行為とは何か?弁護士法第72条の解説
- 退職代行で非弁行為になる具体例
- 退職代行と判例・具体的な事例
- 弁護士・労働組合による退職代行の合法性
- 利用者が知っておくべきポイントと注意点
本記事は専門的な説明を避け、具体例を交えて丁寧に解説します。まずは次章で退職代行の仕組みから確認していきましょう。
退職代行サービスとは?基本的な仕組み
概要
退職代行サービスは、利用者に代わって会社へ「退職します」という意思を伝えるサービスです。言葉にするのがつらい、直接会うのが難しいといった事情で利用されます。代表的な形態は弁護士が行うもの、労働組合が行うもの、そして弁護士資格のない一般企業が行うものです。
主な役割とできること
- 退職の意思表示を会社へ伝える(電話やメールの代行)
- 退職届や文書を作成・送付するサポート
- 連絡窓口になって会社からの連絡を受け取る
例:出社せずに退職したい場合、代行業者が会社に「本人の意思で退職する」と伝えます。
原則できないこと
- 会社との交渉(未払賃金の請求、解雇無効の争いなど)
- 法的な代理行為や訴訟代行
これらは弁護士や労組でない一般企業型が行うと違法(非弁行為)になるおそれがあります。
利用前に確認すべき点
- 誰が対応するか(弁護士・労組・一般企業)
- 料金と返金条件
- やり取りの記録を残すか
- 個人情報の取り扱い
利用の際の注意点
まず自分の希望や状況を整理して、代行に明確に伝えてください。法的な争いになりそうなら、弁護士に相談することをお勧めします。
非弁行為とは何か?弁護士法第72条の解説
非弁行為の定義
非弁行為とは、弁護士の資格がない人が、報酬を得て法律に関する事務を行うことを指します。具体的には、相手方との交渉や契約書の作成、法的文書の代理提出などが該当します。
弁護士法第72条の趣旨
弁護士法第72条は、司法サービスの質を守り、利用者や相手方の利益を保護するために設けられています。無資格者が法的手続きを行うと、誤った助言や不利益な合意につながる恐れがあるため禁止されています。
具体例(退職代行の文脈で)
- 違法になりやすい例:未払賃金や残業代の請求を代わりに交渉する、退職に関する法的主張を行う、和解条件を提示して合意を取りまとめる。これらは非弁に該当する可能性が高いです。
- 合法になりやすい例:利用者の意思を伝える「連絡代行」や、会社へ退職の意思を伝えるだけの代行は、一般に問題になりにくいです。
罰則
第72条違反には、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。違反は事業者だけでなく、依頼者にも影響を及ぼす恐れがあります。
利用者が押さえておくべき点
サービス提供者がどこまで業務を行うかを契約書や案内で明確に確認してください。安心したい場合は、弁護士や労働組合に相談することを検討してください。
退職代行で非弁行為になる具体例
1) 合法とされる行為(使者的行為)
退職の意思を会社に伝えるだけ、退職届を会社へ渡す、電話やメールで「辞めます」と伝える行為は原則合法です。例えば、あなたの代わりに「退職します」と連絡するだけなら問題になりにくいです。
2) 非弁行為になりやすい具体例
- 退職日や有給の消化について会社と交渉する行為:非弁にあたる可能性が高いです。例)「有給を全て消化させてほしい」と代わりに交渉する。
- 未払い残業代や退職金の請求・額の交渉:明確に非弁行為です。金額や支払い方法を請求・交渉することは弁護士だけの業務です。
- 会社との和解や示談交渉、訴訟対応を行う:交渉全般は弁護士資格が必要です。
3) 退職届作成サポートはグレーゾーン
文面の雛形を渡す程度は問題になりにくいですが、会社に提出するために「こちらで作成して交渉します」といった行為は問題です。本人が署名・提出するかで判断が分かれます。
4) 利用者がとるべき実務的対策
- サービスに何をしてもらうかを事前に書面で確認する。
- 金銭請求や交渉は弁護士や労働組合に依頼する。
- 退職意思の伝達以外は自分で対応するか、専門家に相談する。
違法行為に巻き込まれないためにも、代行業者が具体的に何をするかを必ず確認してください。
退職代行と判例・具体的な事例
判例の状況
退職代行に関する確定的な判例はまだ多くありません。裁判所が退職代行そのものの合法性を一律に判断した例は少なく、個々の事案ごとに判断が分かれます。
業者の摘発例(概要)
行政や弁護士会が、非弁行為に当たるとして業者を摘発・指導した事例があります。具体的には、会社側との交渉や示談などを代理して行った場合に問題となりやすいです。摘発は業者側に向けられることが多く、運営方法によっては刑事・行政上の責任が問われます。
利用者の責任とリスク
利用者が直接罰せられるケースは稀です。ただし、退職時の対応によっては会社から損害賠償を求められるリスクがあります。たとえば、引継ぎを一切行わず業務に支障を来した場合や、会社の物品を返却しないといった場合です。これらは代理人の違法性とは別問題として裁判で扱われます。
引継ぎ拒否に関する損害賠償の事例
裁判例では、引継ぎを怠り会社に具体的な損害が生じたと認められると、賠償を命じられることがあります。ポイントは「損害の有無」と「因果関係(引継ぎの欠如が損害を直接生んだか)」です。退職代行を使ったかどうかは主要な争点にならないことが多いです。
実務上の注意点
- 可能であれば弁護士や労働組合が関与する事業者を選ぶ。
- 退職の意思表示は文書で残す。
- 会社の備品やデータは速やかに返却・削除する。
- やり取り(メール・LINE等)を保存する。
- 会社から請求や訴訟が来たら早めに弁護士に相談する。
これらを守ると、業者の合法性に関わらず利用者のリスクを小さくできます。
弁護士・労働組合による退職代行の合法性
概要
弁護士と労働組合が行う退職代行は、法的な裏付けがあり安全に利用できます。どちらも代理で交渉できますが、できることと役割が異なります。具体例を交えてわかりやすく説明します。
弁護士による退職代行
弁護士は法律専門職として、退職に関する法律相談や金銭交渉を含む手続きができます。例:未払い賃金や残業代の請求、退職金の交渉、契約書の確認、労働審判や訴訟での代理。守秘義務が強く、法的な文書作成や裁判対応も任せられます。費用は発生しますが、法的判断が必要なケースで安心です。
労働組合による退職代行
労働組合は団体交渉権を使い、雇用者と交渉できます。例:勤務条件の改善要求、未払い賃金や有休の消化交渉、和解の取りまとめ。組合は労働側の立場で事実に基づく交渉を行います。裁判での代理や法的判断が必要な場面では、弁護士と連携するのが一般的です。
利用時のポイント
・弁護士なら登録番号や事務所名を確認する。\n・労組なら団体の名称と組合員の扱いを確認する。\n・交渉範囲や費用を契約書で明示してもらう。\n・金銭請求をする場合は、弁護士対応があるか確認する。
安全に進めたいなら、弁護士または労働組合運営のサービスを選ぶとよいです。
利用者が知っておくべきポイントと注意点
概要
退職代行サービス利用には利便性がありますが、非弁行為のリスクある業者を使うと追加費用やトラブル、最悪は訴訟に発展する可能性があります。ここでは利用前に確認すべき点と注意点を具体的に示します。
業者選びのチェックリスト
- 業務範囲が明確か:退職の意思伝達のみか、交渉や金銭請求を含むかを確認します。交渉や支払い請求を行う業者は非弁行為の可能性があります。
- 運営主体:弁護士監修や弁護士法人、労働組合の運営を明示しているかを確認します。明確に記載がない場合は注意しましょう。
- 契約書と料金体系:書面で業務内容、料金、返金条件を必ず受け取ります。
- 連絡先と報告方法:誰がどのように会社と連絡するか、終了後の報告を約束するか確認します。
よくあるトラブルと対応
- 追加請求:最初の説明と異なる請求が来たら支払前に書面で説明を求めます。納得できなければ支払を保留し、消費生活センターや弁護士に相談します。
- 交渉が必要になった場合:未払い賃金や退職金の請求は弁護士か労働組合に依頼する方が安全です。
- 記録がない:LINEやメールでのやり取りは保存しておき、電話は日時と要点を記録します。
依頼前の具体的確認事項
- 「意思伝達のみ」か明言してもらう。交渉や金銭請求は行わないことを契約書に入れてもらうと安心です。
- 弁護士や労働組合名、担当者の連絡先を確認する。
- 返金ポリシーやトラブル時の対応窓口を確認する。
最後に
退職代行は便利ですが、業務範囲をきちんと確認すればトラブルを避けられます。交渉や金銭請求が関わる問題は専門家に相談するのが安全です。


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