はじめに
目的
本報告は「退職代行 海外」に関する調査結果を分かりやすくまとめることを目的としています。日本で急速に広がる退職代行サービスと、海外での普及状況の差を明らかにし、特に韓国や欧米での実態や法的サポートの違いを整理します。
背景
近年、日本では退職を代行するサービスが注目を集めています。職場の人間関係や手続きの負担から、利用を検討する人が増えました。本報告では、なぜ日本で普及したのか、海外ではどのような対応が取られているのかを比較します。
範囲と構成
本報告は全9章で構成します。第2章で日本の現状、第3章で各国の普及度の差、第4章で韓国の実態、第5章・第6章で北米・ヨーロッパの対応を扱います。第7章では他国の労務コンサル、第8章で普及しない理由、第9章で日本での社会的意義を論じます。
読者へのお願い
専門用語はできるだけ避け、具体例を交えて説明します。政策提言や結論は後章で丁寧に示しますので、順を追ってお読みください。
日本における退職代行サービスの現状と背景
概要
2017年に業界のパイオニア「EXIT」が登場して以来、退職代行サービスは急速に広まりました。2025年時点で100社以上が存在し、業務形態は「退職連絡のみ」「交渉や有給消化のサポート含む」など多様です。
登場と普及の経緯
導入当初は個人事業や小規模な業者が中心でしたが、メディア露出やSNSでの相談事例の増加を受けて利用が拡大しました。特に電話やメールで即日対応できる点が支持されました。
背景にある社会的要因
ブラック企業やパワハラ、長時間労働が問題となる中、直接上司に退職を伝えることに強い心理的抵抗を感じる人が増えています。若い世代を中心に、対面での対話を避けたいという傾向が利用拡大の大きな要因です。
利用者の特徴
主に20〜30代の労働者が多く、精神的負担を軽くしたい人が中心です。実例として、上司からの叱責や出社恐怖で出社できない人がサービスを使い、代行が会社に連絡して退職手続きを進めるケースがあります。
業界の現状と課題
事業者が急増したためサービス品質に差が出ています。法的に弁護士の業務に該当する交渉を行うと問題になるため、弁護士と連携している業者とそうでない業者で対応範囲が異なります。料金体系や成功事例の透明性も課題です。
法的・倫理的な論点
退職そのものは労働者の権利ですが、代行が企業側との複雑な交渉に踏み込む場合は弁護士法や債権関係の問題が生じます。サービスを選ぶ際は、弁護士連携の有無や実務対応範囲を確認することをおすすめします。
海外における退職代行の普及度の格差
概要
海外での退職代行サービスは国ごとに大きく差があります。日本で独特に発展した形態がベースとなり、韓国など一部のアジア諸国で似たサービスが広がりつつあります。一方、欧米ではほとんど見られません。
地域別の状況
- アジア(韓国): 韓国は日本に次いで退職代行の利用が広がっています。労働環境や転職市場の事情から専門業者が増え、電話や代行連絡を請け負う例が見られます。
- 欧米(米国・ヨーロッパ): 退職に関するサポートは弁護士や労働組合、キャリアコンサルタントが中心です。直接の代行業者はほとんど普及していません。
なぜ格差が生まれるのか(主な要因)
- 労働慣行の違い: 欧米では雇用慣行や退職ルールが異なり、個人が直接交渉する文化があります。
- 法制度と代替手段: 解雇や退職に関する法的保護や弁護士・組合の役割が強いため、代行サービスの需要が限定されます。
- 社会的な受容度: 代行を利用することへの心理的ハードルや情報の広がりに違いがあります。
具体例(簡潔に)
- 米国では「雇用随意(at-will)」の文化があり、退職は口頭やメールで済ませることが一般的です。弁護士は不当解雇や労働問題の時に関与します。
- 韓国では日本同様に、職場との直接交渉を避けるため代行を使うケースが増えています。
補足
現状では、日本が最も特色ある市場であり、日本以外で法人化して増えているのは韓国が中心です。今後の普及は各国の労働慣行や法制度に左右されます。
韓国における退職代行サービスの実態
概要
韓国では退職代行サービスはまだ広く普及していません。ただし、一部の若者を中心に需要が高まり、サービスが台頭してきています。上司に直接退職を伝えられない「怖さ」が背景にあります。
運営形態と提供内容
多くは労務法人や法律事務所が運営します。単に退職の意思を伝えるだけでなく、退職金や未払い賃金の回収など労務問題まで含めて対応するケースが多いです。
代表的な業者の運用例(Bye Bye)
最大手として知られる「Bye Bye」は、契約書や委任状を電子サインでやり取りした後、メールで退職の意思を会社へ伝える形式を取ります。電話での直接対応は行わない仕組みです。
料金と利用の実際
料金は日本円で約1万円程度と比較的低額です。利用者は手続きの手間や精神的負担を減らせますが、対面での交渉がないため、細かい交渉が必要なケースでは限界があります。
利用時の注意点
・委任範囲を明確にすること
・退職金や未払い金の回収は別途手続きが必要な場合があること
・メールでのやり取りが主なため、証拠の保全ややり取りの記録を残すこと
上記を踏まえ、自分の状況に合った業者を選ぶことが大切です。
アメリカ・北米における退職関連サービス
概要
アメリカでは日本で見かけるような“退職代行”の専門業者はほとんどありません。代わりに労働法に詳しい弁護士や職場カウンセラー、人材再配置(アウトプレースメント)サービスが退職や職場トラブルの相談先になります。
主な支援の種類
- 弁護士:解雇や不当労働、契約上の争いがある場合に法的助言や交渉を行います。訴訟や和解を視野に入れる対応が中心です。
- カウンセラー/キャリアコーチ:精神的ケアや退職後のキャリア設計を手伝います。退職の伝え方や転職準備に強みがあります。
- アウトプレースメント:企業が離職者に対して再就職支援を行う有料サービスです。履歴書作成や面接対策などを提供します。
普及しにくい理由
アメリカはジョブ型雇用が一般的で、雇用関係が比較的ドライです。雇用主と従業員の関係が契約ベースで明確なため、第三者に退職手続きを一手に委ねる需要が生まれにくいです。加えて、法的紛争に備えて弁護士を直接頼る文化が根付いています。
利用時のポイント
退職で法的問題が想定される場合は早めに労働弁護士へ相談してください。精神的負担が大きいときはカウンセラーやキャリアコーチを利用すると転職活動がスムーズになります。費用や役割を事前に確認し、期待する支援内容を明確に伝えるとよいです。
ヨーロッパにおける退職手続きと法的サポート
概要
イギリスをはじめヨーロッパ各国では、退職は書面での辞表提出や契約に定められた通知期間(ノーティス)によって進みます。日本で見られる「退職代行」という形態は基本的に普及していません。代わりに、労働法に基づく手続きや専門家の助言で問題を解決します。
主な流れと国ごとの特徴
- 英国:辞意を書面で伝え、契約に従い通常1〜3か月の通知期間を働きます。和解による早期退職合意(settlement agreement)も用いられます。
- ドイツ・フランス:労働契約と労働法が強く保護し、解雇手続きや退職条件の協議が重要です。労働組合が関与する例もあります。
法的サポートの利用方法
トラブルがある場合は労働法専門の弁護士、労働組合、または公的な労働監督機関に相談します。交渉や和解書作成、未払賃金の請求では専門家が書面作成や手続き代理を行います。
企業側の支援
多くの企業はキャリア相談(outplacement)やカウンセリングを提供し、退職の手続きと再就職支援を並行して行います。
実務上の注意点
- 契約の通知期間や違約金をまず確認してください。
- 証拠(メールや勤務記録)は保存しておくと交渉で有利です。
- 合意書に署名する前は専門家の確認を受けることをおすすめします。
韓国以外の国における労務コンサルサービス
概要
韓国以外の国でも「退職代行」とは別に、労務コンサルや労働法に基づく相談サービスが広くあります。これらは職場トラブルや未払賃金の回収、解雇手続きの助言など法的・実務的なサポートに特化しています。退職の代理で一方的に会社へ連絡するサービスとは性格が異なります。
主なサービス内容
- 労働契約の確認とリスク評価(契約書のチェック、解雇が合法かの判断)
- 未払賃金や残業代の請求手続きの支援
- 労使交渉の代理または同席(書面作成、面談同行など)
- 行政機関や裁判所への申立て支援(証拠整理、申請書作成)
国別の特徴
- アメリカ/カナダ:弁護士や労働専門のコンサルが個別訴訟や和解交渉を行います。集団訴訟の文化があり証拠収集を重視します。
- 欧州:労働組合や労務士が強く関与し、社会保障制度を踏まえた解決が多いです。調停や和解で終える例が多く見られます。
- オーストラリア/ニュージーランド:労働基準監督機関と連携した行政手続きが活用されます。
利用の流れ(簡潔)
- 初回相談で状況把握と証拠の確認
- 解決方針の提案(交渉・申請・訴訟の選択)
- 書面作成・交渉実行・必要時は行政・裁判手続きへ
利用時の注意点
- 弁護士資格の有無で業務範囲が変わります。法律相談が必要な場合は弁護士へ依頼してください。
- 費用体系(成功報酬・着手金)を事前に確認しましょう。
具体例
未払残業代の請求では、タイムカードやメールを証拠にして交渉し、労務コンサルが労働局への申告を代行することが多いです。裁判に移行する前に和解で解決するケースが多数あります。
海外で退職代行が普及しない理由
概要
海外で退職代行が広がらない理由は複数あります。ここでは文化・法制度・実務面の三つの観点から、具体例を挙げて説明します。
文化・雇用制度の違い
欧米や一部の先進国ではジョブ型(職務内容に基づく雇用)が主流で、雇用契約や退職手続きが明確です。口頭や書面で退職を伝えることが当たり前で、心理的負担が比較的小さい例が多いです。これにより第三者に依頼するニーズがそもそも生まれにくいです。
法制度と既存サポートの充実
労働法や労働組合、社内の人事部、弁護士やカウンセラーといった既存の支援体制が整備されています。労働問題は公的機関や専門家が対応することが一般的で、新しいサービス形態の余地が小さいです。
実務上の難しさ
国ごとに労働法や手続きが異なり、代理で退職を進める際の権限や責任が曖昧になります。たとえば代理人が契約解除の法的効力を持たない場合、手続きが無効になることがあります。この点が事業化の障壁になります。
以上の理由で、海外では退職代行が広まりにくいのです。
日本における退職代行の社会的意義
背景
英経済紙フィナンシャル・タイムズが指摘したように、日本で退職代行が注目を浴びた背景には、若者の働き方や企業文化への不満があります。職場の長時間労働やハラスメントが原因で、本人と会社の間に直接交渉が難しいケースが増えました。
社会的意義
- 労働者の権利保護:精神的に追い詰められた人が安全に退職できる手段を提供します。具体例として、上司との面談が困難な人が第三者を通じて手続きを進められます。
- シグナル効果:退職代行の利用増は企業に対する改善要求の現れです。企業は職場環境を見直すきっかけを得ます。
- 労働市場の流動化:辞めやすさが増すことで、適材適所の移動が促されます。若手の早期離職が必ずしも悪いわけではなく、合わない職場から脱却する手助けになります。
具体例
退職代行が介入することで、直接の対立を避けつつ郵送やメールで手続きが進み、給与や退職金の確認などを第三者が橋渡しするケースが増えています。
課題と展望
利用者のトラブル回避や法的整備が今後の課題です。企業側も受け止め方を変え、入社時の説明や退職手続きの透明化を図る必要があります。こうした変化が進めば、働きやすい職場作りにつながる可能性があります。


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